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レン兄様に、クズ下衆アーサーに会うのが怖いかと聞かれたけど、怖くはないわ。
思い出しただけで怒りがふつふつと込み上げてくるけれどね。
せっかく貰った婚約指輪が嬉しくて、飛び跳ねたいくらい浮かれていた気持ちが、萎んじゃった感じでさらにムカつく。
「怖くはないわ。ただ・・・腹が立つのよ。レン兄様から指輪を嵌めてもらったから、まだ嬉しさの方が若干勝っているから黙っていられるけど・・・それがなかったら、大暴れしてたかも」
ふんっ!と鼻息荒くも文句を垂れる。
そんな私にレン兄様は目を丸くしたかと思うと、こらえきれないとばかりに噴出した。
何がおかしいのか目に涙まで溜めている。
「レン兄様?」
いまだ膝の上に座っている私は、そっと彼の涙を拭った。
「あぁ・・・アリス・・・アリスティア、愛している」
そう言いながら、顔中にキスしてくるレン兄様。思わず先ほどの濃厚なヤツを思い出し、顔に熱が上がる。
「僕は心配だったんだ。アリスティアはあの男が好きだっただろ?神殿で顔を合わせればその気持ちが甦るのではと・・・」
「それは無いわ。アリスティアの中ではもうの事は嫌悪対象だもの。それは私もよ」
「そうか・・・ほら、僕は容姿も特別良い訳ではないし、あいつは中身はゲスだけど、顔はいいだろ?」
「何を言っているの!?レン兄様は全てが私の好みドンピシャなのに!!」
「え?どん・・・ぴ・・?」
「兄様の顔も声も人と成りも、大好き!私の理想の中の理想なの!」
そうよ!顔だけアーサーなんて目じゃないくらい、レン兄様は素敵!可愛らしくて、かっこいいのよ!
「レン兄様が素敵なのだと分かっているのは、私だけでいいの!」
ライバルが出てきたら大変!私より綺麗で可愛い子にレン兄様が言い寄られて、心変わりされたら私、生きる屍になる自信があるわ!!
「私だって不安なんだもの・・・レン兄様が心変わりしてしまったら・・・」
一旦は背を向けてしまった世界。罪悪感がきえない。彼を好きになれば好きになるほど、不安が増す。

私がいない間に、恋人はいたのか・・・
好きな人はいたのか・・・
侯爵家の為に私と結婚するのではないか・・・

沢山、言葉をくれるレン兄様だけど、醜い独占欲でどうにかなりそうだ。
自分は日本で楽しく暮らしていたくせに、彼が幸せに暮らしていては駄目なの?
恋人は出来なかったけれど、仄かな恋心は抱いた事はあった。
自分は良くて、彼は駄目なの?

「ねぇ、アリス」
黙り込んだ私の頬を包んで目を合わせる。
「アリスはここを去った事に罪悪感を持っているようだけど、その必要はないんだ。あの時はアリスにはアリスの世界があって家族があっただろ?あの時の選択は間違ってはいない。ましてやアリスはまだ子供だったんだから」
何処までも優しく、愛おしさを滲ませる眼差しが堪らなく切ない。
「それに、あの時の様に不安定ではなく、完全にアリスティアと混じり合ったアリスと出会えた。今がとても幸せなんだ」

―――今が、幸せ・・・

「あぁ・・・そうね。私も、今が幸せ・・・」
レン兄様の言葉をなぞる様に口にすれば、すとんと気持ちが納まる。
「そうね。私は今、とても幸せなの。お父様とお母様とレン兄様と・・・・これから生きていける事が」

鏡を見なくても分かる。
きっと私は、堪らなく幸せな顔で笑っている。
そんな私にレン兄様がそっと顔を寄せてきて、私はゆっくりと目を閉じた。

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