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「アシアスから預かった二つの薬。鑑定終わったよ」
此処は、地下工房。ファラトゥール、アシアスとルイナの三人は、いつもの様に報告会を始める。
どんな状況でも明るさを失わないアシアスとルイナだったが、ここ数日は重苦しい雰囲気が漂っていた。
勿論、原因は信頼していた宮廷医長ゼノンの裏切り。
薬の鑑定はファラトゥールに任せ、ゼノンの後ろにいる貴族をアシアスは探っていた。
目星は付けていた。
筆頭として挙げられるのはバラン公爵あたりだろう。娘をしつこい位薦めてきていたからな。
どこか鬼気迫るような、追い詰められているかのような、危うい雰囲気だったアシアスを心配し、ルイナは秘かにファラトゥールに相談していた。
ルイナも確かにこの裏切りはショックだし腹が立つし、やるせない。
だが今は傍に兄とファラトゥールがいてくれることに、どこか安心感もある。
自分は楽観的なのだろうか・・・・とも思うが、これまでやられてきた事に対しての恨みつらみは、兄と同じくらいはもっていると思っていた。
果たして何をどう思って同じと言えるのか・・・・私とお兄様では背負うものが違いますものね・・・
だからこそ不安で、ファラトゥールにアシアスの事を話していた。あまりにも彼女を頼りすぎてしまっているのではと反省するルイナだったが、「頼れる人がいる時は遠慮なく頼れ」という彼女のひと言に救われ、兄を救ってほしいと心から願った。
重苦しい雰囲気の中、いつもと変わらない口調でファラトゥールは薬の成分がかかれた紙をテーブルに置いた。
「あなた達が盛られていた毒に関しては、私が解毒した時点でわかってた。遅効性のもので、じわじわと弱らせるタイプ。正直なとこ、この毒を検出できないと聞いた時点で、医者を疑ったくらいは、一般的よ。そして、この毒の前に使われていた物は、毒というか・・・・この毒の効果を補助するタイプのものね。毒に対する免疫力を下げるもの。毒を効きやすくするための薬ね。よくもまぁ、作ったものね。初めて見るわ」
「では・・・少なくとも、その薬が盛られる前から狙われていたと」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないし・・・その医者と誰が繋がっていて、どういう取引をしたかで大体はわかるんじゃない?」
「恐らくですが、黒幕はバラン公爵ではないかと思われます。俺にしつこく娘と結婚しろと迫ってくるし、裏では非合法な商いをし私腹を肥やしていて、王家よりも優雅な生活をしている」
アシアスの表情は徐々に険しくなっていく。
そんな彼を見て、ファラトゥールは「ねぇ、アシアス」と、穏やかな声で名を呼んだ。
ハッとしたように顔を上げた彼は、先程とはまるで正反対の情けなさそうに眉をハの字に下げた。
「アシアスの気持ちも、なんとなくだけどわかる。多分、怒りだけじゃなく、自分に対する情けなさとか甘さとか、相手に対する殺意だとか憎しみだとか・・・・喪失感だとか、色々入り混じって収集つかないんだと思う」
ギュッと唇を噛むアシアスの横にファラトゥールが移動し、彼を抱きしめた。
突然の事に身体を固くしたアシアスだったが、まるで子供をあやすようにポンポンと背中を叩かれると、体から余計な力が抜けていくのが分かり、初めて呼吸ができたかのような錯覚に陥る。
自分では自覚していなかったが、この裏切りにかなり追い詰められていた事を知る。
「ねぇ、私がいるんだよ?それにルイナも。なんでも一人で背負おうとしない」
「・・・・・・・」
「吐き出せ!ほらっ!」
力強い言葉とは真逆で、頭を撫でる手はとても優しくて、鼻の奥がツンとする。
ファラトゥールの肩で顔を隠したまま、アシアスはぽつりぽつりと、その胸の内を吐露しはじめた。
「・・・俺、悔しくて・・・ずっと疑いもしなかった・・・気付きもしなかった自分に、腹が立って・・・」
返事をする代わりに、優しく頭を撫でるファラトゥール。
「本当に、腹が立って・・・・あんな奴を信用して・・・憎くて憎くて・・・」
もっと言いたい事があるはずなのに、言葉が出てこない。最後には涙声になり、ファラトゥールの肩が熱く湿り始めた。
最近は体調が良好で、ファラトゥールに剣の稽古をつけてもらっている所為か、貧相だった体には筋肉が付きはじめ一回り大きくなった気がするほど。
これまでがあまりにも痩せすぎていたのだ。
だが、そんな体を丸め自分より小さなファラトゥールに体を預け、涙するアシアスはとても頼りなく見える。
そんな兄の背中を抱きしめるルイナ。頼りないかもしれないが、一人ではないのだと、自分もいるからと伝えたくて。
兄の背中を抱きしめ涙を流すルイナの頭も、ファラトゥールは優しく撫でる。
そして、彼等の気が済むまで話を聞き、その間ずっと抱きしめていた。
此処は、地下工房。ファラトゥール、アシアスとルイナの三人は、いつもの様に報告会を始める。
どんな状況でも明るさを失わないアシアスとルイナだったが、ここ数日は重苦しい雰囲気が漂っていた。
勿論、原因は信頼していた宮廷医長ゼノンの裏切り。
薬の鑑定はファラトゥールに任せ、ゼノンの後ろにいる貴族をアシアスは探っていた。
目星は付けていた。
筆頭として挙げられるのはバラン公爵あたりだろう。娘をしつこい位薦めてきていたからな。
どこか鬼気迫るような、追い詰められているかのような、危うい雰囲気だったアシアスを心配し、ルイナは秘かにファラトゥールに相談していた。
ルイナも確かにこの裏切りはショックだし腹が立つし、やるせない。
だが今は傍に兄とファラトゥールがいてくれることに、どこか安心感もある。
自分は楽観的なのだろうか・・・・とも思うが、これまでやられてきた事に対しての恨みつらみは、兄と同じくらいはもっていると思っていた。
果たして何をどう思って同じと言えるのか・・・・私とお兄様では背負うものが違いますものね・・・
だからこそ不安で、ファラトゥールにアシアスの事を話していた。あまりにも彼女を頼りすぎてしまっているのではと反省するルイナだったが、「頼れる人がいる時は遠慮なく頼れ」という彼女のひと言に救われ、兄を救ってほしいと心から願った。
重苦しい雰囲気の中、いつもと変わらない口調でファラトゥールは薬の成分がかかれた紙をテーブルに置いた。
「あなた達が盛られていた毒に関しては、私が解毒した時点でわかってた。遅効性のもので、じわじわと弱らせるタイプ。正直なとこ、この毒を検出できないと聞いた時点で、医者を疑ったくらいは、一般的よ。そして、この毒の前に使われていた物は、毒というか・・・・この毒の効果を補助するタイプのものね。毒に対する免疫力を下げるもの。毒を効きやすくするための薬ね。よくもまぁ、作ったものね。初めて見るわ」
「では・・・少なくとも、その薬が盛られる前から狙われていたと」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないし・・・その医者と誰が繋がっていて、どういう取引をしたかで大体はわかるんじゃない?」
「恐らくですが、黒幕はバラン公爵ではないかと思われます。俺にしつこく娘と結婚しろと迫ってくるし、裏では非合法な商いをし私腹を肥やしていて、王家よりも優雅な生活をしている」
アシアスの表情は徐々に険しくなっていく。
そんな彼を見て、ファラトゥールは「ねぇ、アシアス」と、穏やかな声で名を呼んだ。
ハッとしたように顔を上げた彼は、先程とはまるで正反対の情けなさそうに眉をハの字に下げた。
「アシアスの気持ちも、なんとなくだけどわかる。多分、怒りだけじゃなく、自分に対する情けなさとか甘さとか、相手に対する殺意だとか憎しみだとか・・・・喪失感だとか、色々入り混じって収集つかないんだと思う」
ギュッと唇を噛むアシアスの横にファラトゥールが移動し、彼を抱きしめた。
突然の事に身体を固くしたアシアスだったが、まるで子供をあやすようにポンポンと背中を叩かれると、体から余計な力が抜けていくのが分かり、初めて呼吸ができたかのような錯覚に陥る。
自分では自覚していなかったが、この裏切りにかなり追い詰められていた事を知る。
「ねぇ、私がいるんだよ?それにルイナも。なんでも一人で背負おうとしない」
「・・・・・・・」
「吐き出せ!ほらっ!」
力強い言葉とは真逆で、頭を撫でる手はとても優しくて、鼻の奥がツンとする。
ファラトゥールの肩で顔を隠したまま、アシアスはぽつりぽつりと、その胸の内を吐露しはじめた。
「・・・俺、悔しくて・・・ずっと疑いもしなかった・・・気付きもしなかった自分に、腹が立って・・・」
返事をする代わりに、優しく頭を撫でるファラトゥール。
「本当に、腹が立って・・・・あんな奴を信用して・・・憎くて憎くて・・・」
もっと言いたい事があるはずなのに、言葉が出てこない。最後には涙声になり、ファラトゥールの肩が熱く湿り始めた。
最近は体調が良好で、ファラトゥールに剣の稽古をつけてもらっている所為か、貧相だった体には筋肉が付きはじめ一回り大きくなった気がするほど。
これまでがあまりにも痩せすぎていたのだ。
だが、そんな体を丸め自分より小さなファラトゥールに体を預け、涙するアシアスはとても頼りなく見える。
そんな兄の背中を抱きしめるルイナ。頼りないかもしれないが、一人ではないのだと、自分もいるからと伝えたくて。
兄の背中を抱きしめ涙を流すルイナの頭も、ファラトゥールは優しく撫でる。
そして、彼等の気が済むまで話を聞き、その間ずっと抱きしめていた。
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