竜帝と番ではない妃

ひとみん

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いよいよ今日、レイの国、アーンバル帝国へ行く事になった。
この森から出た事が無いから、ドキドキが止まらない。

滞在先はレイのお城。日本風に言うなら旅館かホテルに泊まると思っていたから、レイからの提案にびっくり。
でも、正直テンションも上がった事はしょうがない。だって、リアルお城よ?どこぞのテーマパークとは違うのよ!
そんな私にルリ達はホッとしたように笑い、レイは何故か張り切っている。
「ところで帝国までは転移でいいの?」
この間ルリがフラグを立ててきたから、帝国にはすぐに着く事ができる。
「そうだな・・・本当は道中色んな所を見せてあげたかったんだけど、国をあけすぎたからね。なるべく早目に帰って来いと」
「そっか。仕方がないよね」
「父には既に連絡済みだ。エリ達の準備はできている?」
「いつでもいいよ」
「なら、行こうか」
そう言って差し出された手を握り、私達はアーンバル帝国へと転移した。


転移した先が、前帝が住まう敷地内。
美しい庭の中央にはひっそりと東屋があり、そこにフラグを立ててきたという。
これだけ遠い距離を転移したことがなかったから、めまいがしたりとか何かあるのかなって思ったけど、何の違和感もなく帝国に着いた。
そして目の前には、二人の男女が立っていた。

「父上!母上!」
そう言ってレイはその二人に抱き着いた。
父上と母上ってことは、前帝と八百屋の看板娘の前竜妃?
レイの年齢が三百歳と言っていたけど、ご両親はどう見ても三十代くらいにしか見えない。
まぁ、レイも二十代にしか見えないけど・・・・
前帝でもあるレイのお父様はレイとそっくりな顔立ちでとても美しい。黒髪に琥珀色の瞳。確か王族は黒龍と言っていた事を思い出した。
お母様は鮮やかな紅い髪に夏の森の様な濃い緑色の瞳。こちらは美しいと言うよりも、可愛らしい。
レイのお姉さんと言われても、通じると思う。
そんな彼等に対してのレイの表情は、正に子供のレイと同じ。

愛されているのね・・・・
竜人族は情に厚いと言ってたものね。

なんだか、懐かしくて羨ましい思いが胸に広がった。
優しい祖父母の顔が、神両親の顔が脳裏に浮かんで。

「レイ、無事で何よりだ」
「本当に、心配したわ」
二人は大切な息子の無事に安堵し、再会を喜び分かち合い、落ち着いた頃に一斉に私を見た。
そして何故か、私の前にきて跪き・・・・
「神の愛し子様。この度は我が息子をお助けいただき、感謝申し上げます」

え?・・・と、一瞬頭の中が真っ白になる。「お世話になりました」くらいのお礼は言われるとは思っても、まさか膝まで突いてとは思わない。
見るからに威厳臭バリバリのレイ父とレイ母。
心の中では「ひぃぃぃぃ!やめてよぉ!」と大騒ぎ。動揺しすぎて声には出なかったわ!

いつまでも頭を上げない二人に、焦りまくる私。
「い、いや、頭上げてください!レイを見つけたのはルリ達で、私は言われるままに治療しただけですから」
「いいえ、ルリ殿に聞きました。普通の治癒魔法では助からなかったと」
「わたくしからもお礼を言わせてください」
「いや・・・別に、私にできる事をしただけなので・・・・どうか、立ってください」
でないと、こっちが土下座しちゃいそうよ!だって、いかにも偉そうな人が膝を突いてるのよ?いや、実際偉い人なんだけど・・・
オロオロする私に助け舟を出してくれたのは、レイ。
「父上、母上。それくらいにしてくれるか?エリが困っている」
「あぁ、すまない。愛し子様に会えた事も嬉しくてね」
「しかも愛し子様が息子の大切な人だなんて・・・・」
二人は立ち上がり、うっとりとしたように私を見つめる。
「黒い髪に黒い瞳。お召し物まで黒とは・・・・」

お召し物って、そう大したものを着ているわけではないのよ。
だって、ドレスなんてものは当然持ってないし、人との付き合いが薄かった私は、よそ行きの服をほとんど持っていない。というか、持ってない・・・・

・・・そう、私が今着用しているのは、リクルートスーツ!!

やっぱ、無難なのはこれよね!悲しい事にお葬式でも大活躍だったわ・・・
思わずセルフ突っ込みしつつ、今更ながら変なとこは無いかチェックする。

唯一持っているスーツは、ひざ丈の黒のタックフレアスーツ。白のスキッパーカラーブラウスを合わせて、まぁ、どこにでもいる普通の格好だ。
ルリ達はひざ丈のキュロットを履いていたから、特別足は見せちゃいけないとかないみたいだったし、姉妹たちからも大丈夫と言われたので、本当に無難ないでたちなのよ。
だからそんな、恍惚とした目で見られるようなものでもないんだけど・・・・

困惑する私にレイが手を差し伸べ、優しく手を握る。
「父上、母上。そろそろ移動しましょう。これからの事も相談したいですし」
「あぁ、そうだな。では、愛し子様。改めまして・・・・・」
レイの両親は、今度は膝を突いてはいないが、深々と頭を下げた。

「アーンバル帝国へようこそ」
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