竜帝と番ではない妃

ひとみん

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『番』問題は、多種族で成り立っているキューオン王国で大きな問題となった。
色々な種族が集まっているのだから、いつかこれに限らず何かしらの問題が起きるだろうと予想はできていたのだ。
これまでも小さな問題は、そこかしこで起きてはいた。
本来であればこの『番』問題も、他の問題同様小さな事案として片付けられるはずだった。
だがしかし、その問題を起こした場所がまずかったのだ。

戦争で亡くなった者たちの魂を鎮魂するために設けられた、キューオン王国では神聖視されている「愛と平和の広場」で起きたのだから。

その広場はまさにこの国の象徴と言われており、初代国王が剣を突き立て国民に誓いを立てた場所だとも言われている。
そんな神聖な場所で、他人から見ればあっさりと妻と子を捨てたのだ。
この出来事は、竜人族との恋愛をタブー視するほどの嫌悪感と共に、瞬く間に国民へと広がっていった。
ことのほか騒動は大きくなり、これまでも他種族同士で起こす問題に頭を抱えていた為政者達は好機とばかりに、改革へと打って出たのだ。
多種族に配慮してなかなか制定出来なかった法律も、弱い立場の者に配慮したものを前面に出し、これまで我慢を強いられていた全ての事項を新たな法律へとこれでもかと盛り込んでいった。

これまではそれほど厳しくはなかった入国検査も、種族の証明を必ずさせる事を義務付け、現在住んでいる竜人族に対してもその身分を明確にさせる事にしたのだ。
竜人族だけではなく、キューオン王国に住む全ての国民にそれを徹底させた。
そしてようやく、この国に住み続けたいのならばと、明確な規律を設けたのだ。
まずは、結婚。竜人族に捨てられた可哀そうな母子をモデルに、一方的な離縁は・・・特に浮気に関しては養育費と慰謝料を求める事ができるとした。
そして、結婚は一夫一妻とする。浮気にも罰則を科す事にした。銀狼族はハーレムを築く種族であるため、若い娘達から訴えが頻繁に上がっていたのだ。
『ハーレム』だろうが『番』だろうが、結婚後であれば浮気だ。
色んな種族がいて色んな生態があるが、それに従えないのならこの国から出ていってくれてかまわないと、かなり厳しい言葉で国王は宣言。
異を唱えた者はごく少数で、大半は捨てられた母子に同情し、そしていいように弄ばれた娘たちを哀れみ、遅すぎる法律は制定されたのだった。

それから数十年後。竜人族の『番』騒動も落ち着いた頃、一人の竜人族の青年がキューオン王国を訪れた。
その容姿はりりしくも美しく、地元の女性達は一斉に色めき立った。
元々竜人族の容姿は端麗で、『番』騒動で一時は避けられがちだったが、他の種族からの人気は常に高かいのだ。
だが、当人達はあまり容姿に関して自覚はなく、群がってくる女性達に興味を示すこともない。
それだけ聞けば冷酷な種族に思われがちだが、愛する人ができればずぶずぶに溺愛し情にも厚く、いったん懐に入れた者をどこまでも大切にする。
だからこそ、『番』が現れたせいで妻と子を捨てたその事実は、アーンバル帝国でも衝撃的な事件として知れ渡る事となったのだ。
妻子を捨てた男は『番』と一緒にアーンバル帝国へと戻り結婚したが、幸せな結婚生活とはとてもではないが言えるものではなかった。
心から求め愛する人ではない。単に抗えない本能だけによって結ばれた関係。
女は性格が悪かった。我儘で傲慢で嫉妬深い。気に入らない者を平気で貶めるような悪女。
男は今でも捨てた妻と子を愛していた。だが、本能にはどうしても抗うことができない。
アーンバル帝国でさえ肩身の狭い思いをしている彼は「これは呪いだ」と悲しそうにいつも呟くという。
そんな彼らを見て『番』に憧れる者は誰一人としておらず、ましてや彼ら以降『番』が現れた竜人もいない。
男の『番』の性格の悪さも相まって、悲しい事に、次第に『呪い』として認識されても致し方がない状況となってしまったのだ。

『番』によって結ばれた夫婦を傍で見てきた青年は、捨てられた妻子が今どうしているのか気になりこの国を訪れていた。
何故なら、青年の兄が件の人なのだから。
兄の元家族の居場所はすぐに分かった。
今は再婚し幸せに暮らしている姿を見て、ホッと胸を撫でおろす。
竜人との間にできた子供の心配もしていたが、愛情深く育てられているようだった。

人と竜人では時の流れが違う。視線の先にいる元義姉は五十も過ぎているように見えた。
わかっていた事ではあるはずなのに、改めて種族の違いを目の当たりにした様な気がして、悲しい気持ちになってしまう。

そんな気持ちを抱きつつ、運命とは非情なもので彼もまた、人族の女性に恋をしてしまったのだった。
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