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8 多視点
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その日の夜は、ルリとスイが交代で黒龍の看病をすることになった。
「ルリ、スイ、無理しないでね。何かあったらすぐに起こしてね」
「わかりました。エリ様はゆっくりとお休みください」
「私も、もう少ししたら休ませていただきます」
「わかった。おやすみなさい」
「「はい。おやすみなさい」」
江里が自室に入っていったのを確認し、ルリとスイは黒龍に向かって声をかけた。
「起きているのでしょ?」
その一言に、黒龍はゆっくりと瞼を持ち上げ、琥珀色の美しい瞳を見せた。
「わたしは兎人族のルリといいます」
「わたしは妹のスイ。私達の話を聞いていたのならば、話は早いです。あなた様はレインベリィ・アーンバル竜帝陛下でよろしいですか」
黒龍はゆっくりとした動きで身体を持ち上げると、頷いた。
『そなたの言う通り、我はレインベリィ・アーンバル。アーンバル帝国の竜帝だ』
そう言うと、ゆっくりと頭を下げた。
『此度は我を助けてくれたこと、感謝してもしきれない。ありがとう』
流石に弱っているとはいえ最強の竜帝に頭を下げられ驚く姉妹。
「頭をお上げください。我々も考えがあってあなた様を助けただけ」
「我が主を悲しませないためにも、最悪の事態は避けたいですから」
『感謝する。我も最悪の事態は避けたいと思っている。此度の事は我の油断が招いたことでもあるからな』
「我が主は此度の襲撃の証拠を持っています。穏便に事を進めるのであれば、そちらに提出することも考えています」
竜帝レインベリィは頷くと、『感謝する』と軽く頭を下げた。
「それより、お身体の具合はいかがですか?」
『生命の実』を食べさせたとは言え、瀕死の状態だった。
一度食べたからと言って、全快するまでには至らないはずだ。
『あぁ、こうして身体を起こし話せるまでには回復したが、正直な所まだきつい。人型に戻れるほどの回復には、少し時間がかかるかもしれない』
「そうですか。ですが、あと数日、『生命の実』を食べれば問題なく人型に戻れるでしょう」
『『生命の実』だって!?』
レインベリィは驚きに目を見開く。
それも当然の事。一般的に『生命の実』は在るか無いかわからない、まさに伝説のようなものなのだから。
「えぇ。ここは世界樹のある結界内ですから」
いともあっさり種明かしするルリにレインベリィは信じられないものでも見るように瞬きを繰り返した。
「いずれ動けるようになればバレる事です。なら初めから面倒を起こされないよう、話しておいたほうがいいと判断しました」
「もし我が主と世界樹に害をなそうとするのなら、この世界は簡単に滅ぶ事でしょう」
誰に・・・とは言わないところに、レインベリィはうっすらと恐怖を感じた。
『そなたらの主と世界樹に害なすことは決してしないと、ここに誓おう』
「ありがとうございます」
「まぁ、この結界を出れば二度と辿り着けませんから、私どもとしては早くここから出て行ってほしいのが本音です」
『・・・・・・善処する・・・』
歓迎されていない事は、レインベリィも薄々は感じていた。
彼女らが主と仰いでいるのは、黒い髪のあの娘の事だろう。
三人顔を突き合わせ今後を相談している様は、まさに厄介な拾い物をしたという雰囲気が駄々洩れだったから。
「それと我が主の事は一切詮索しないでください」
『承知した』
「あと、一応アーンバル帝国に陛下が無事であることを連絡したいのですが、どなたに連絡すればいいですか?」
「今回の襲撃は帝国内に協力者がいたみたいですから」
『協力者?』
「えぇ。陛下を襲撃した銀狼族が言っていたのです。情報をつかんで待ち伏せしたと」
「どのような状況で陛下がどちらにお出かけになっていたかはわかりませんが、どれだけの人達がその情報を知っていたかですね。皆が皆知っていたのであれば、間者を絞ることは難しいですけれど」
姉妹の言葉に、考え込むように瞳を閉じるレインベリィ。
『俺が襲撃されたのは、青の泉の帰りだった・・・』
すっかり口調が素に戻っている。それだけ彼にとっては身近に裏切り者がいたという事が衝撃的だったのだろう。
「青の泉・・・という事は、ごくわずかな人数しか知らない事ですね」
ルリの問いに、レインベリィは力なく頷いた。
「ルリ、スイ、無理しないでね。何かあったらすぐに起こしてね」
「わかりました。エリ様はゆっくりとお休みください」
「私も、もう少ししたら休ませていただきます」
「わかった。おやすみなさい」
「「はい。おやすみなさい」」
江里が自室に入っていったのを確認し、ルリとスイは黒龍に向かって声をかけた。
「起きているのでしょ?」
その一言に、黒龍はゆっくりと瞼を持ち上げ、琥珀色の美しい瞳を見せた。
「わたしは兎人族のルリといいます」
「わたしは妹のスイ。私達の話を聞いていたのならば、話は早いです。あなた様はレインベリィ・アーンバル竜帝陛下でよろしいですか」
黒龍はゆっくりとした動きで身体を持ち上げると、頷いた。
『そなたの言う通り、我はレインベリィ・アーンバル。アーンバル帝国の竜帝だ』
そう言うと、ゆっくりと頭を下げた。
『此度は我を助けてくれたこと、感謝してもしきれない。ありがとう』
流石に弱っているとはいえ最強の竜帝に頭を下げられ驚く姉妹。
「頭をお上げください。我々も考えがあってあなた様を助けただけ」
「我が主を悲しませないためにも、最悪の事態は避けたいですから」
『感謝する。我も最悪の事態は避けたいと思っている。此度の事は我の油断が招いたことでもあるからな』
「我が主は此度の襲撃の証拠を持っています。穏便に事を進めるのであれば、そちらに提出することも考えています」
竜帝レインベリィは頷くと、『感謝する』と軽く頭を下げた。
「それより、お身体の具合はいかがですか?」
『生命の実』を食べさせたとは言え、瀕死の状態だった。
一度食べたからと言って、全快するまでには至らないはずだ。
『あぁ、こうして身体を起こし話せるまでには回復したが、正直な所まだきつい。人型に戻れるほどの回復には、少し時間がかかるかもしれない』
「そうですか。ですが、あと数日、『生命の実』を食べれば問題なく人型に戻れるでしょう」
『『生命の実』だって!?』
レインベリィは驚きに目を見開く。
それも当然の事。一般的に『生命の実』は在るか無いかわからない、まさに伝説のようなものなのだから。
「えぇ。ここは世界樹のある結界内ですから」
いともあっさり種明かしするルリにレインベリィは信じられないものでも見るように瞬きを繰り返した。
「いずれ動けるようになればバレる事です。なら初めから面倒を起こされないよう、話しておいたほうがいいと判断しました」
「もし我が主と世界樹に害をなそうとするのなら、この世界は簡単に滅ぶ事でしょう」
誰に・・・とは言わないところに、レインベリィはうっすらと恐怖を感じた。
『そなたらの主と世界樹に害なすことは決してしないと、ここに誓おう』
「ありがとうございます」
「まぁ、この結界を出れば二度と辿り着けませんから、私どもとしては早くここから出て行ってほしいのが本音です」
『・・・・・・善処する・・・』
歓迎されていない事は、レインベリィも薄々は感じていた。
彼女らが主と仰いでいるのは、黒い髪のあの娘の事だろう。
三人顔を突き合わせ今後を相談している様は、まさに厄介な拾い物をしたという雰囲気が駄々洩れだったから。
「それと我が主の事は一切詮索しないでください」
『承知した』
「あと、一応アーンバル帝国に陛下が無事であることを連絡したいのですが、どなたに連絡すればいいですか?」
「今回の襲撃は帝国内に協力者がいたみたいですから」
『協力者?』
「えぇ。陛下を襲撃した銀狼族が言っていたのです。情報をつかんで待ち伏せしたと」
「どのような状況で陛下がどちらにお出かけになっていたかはわかりませんが、どれだけの人達がその情報を知っていたかですね。皆が皆知っていたのであれば、間者を絞ることは難しいですけれど」
姉妹の言葉に、考え込むように瞳を閉じるレインベリィ。
『俺が襲撃されたのは、青の泉の帰りだった・・・』
すっかり口調が素に戻っている。それだけ彼にとっては身近に裏切り者がいたという事が衝撃的だったのだろう。
「青の泉・・・という事は、ごくわずかな人数しか知らない事ですね」
ルリの問いに、レインベリィは力なく頷いた。
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