27 / 32
27
しおりを挟む「エヴァンドール侯爵令嬢ともあろうお方が、此処まで押しかけてこられるとは驚きですわ」
「まぁ、わたくしは愛しいお方へ会いに来たまでですわ。何か問題でも?」
彼女等のバックには、凍てつくような猛吹雪が見えるのは、私だけだろうか・・・?
「愛しいお方とは、アリオスのことかしら?彼の件は宰相閣下より申し付けられているはずでは?『諦めよ』と」
「えぇ。ですが人を想う気持ちは誰にも侵されてはならないもの。例えそれが父であろうとも」
―――龍と虎が吹雪きをバックに、威嚇し合っている幻覚も見え始めたわ・・・
「まぁ、勝手に想う事は自由ですわね。その気持ちを相手に押しつけるのでなければ」
「押しつけ・・・いいえ、わたくしは、気持ちを伝えに来ただけですわ」
「貴女の伝え方と言うのは抱き着いて行うのですか。なりふり構っていられないようですわね」
「うっ・・・えぇ、そうですわ。小さい頃から彼の妃となる事を信じてこれまできたのですもの。使えるものは何だって使いますわ」
うわ・・・開き直ってる・・・・恋する女って、凄いわ・・・
「幼い頃から、ねぇ。それこそアリオスはちゃんと貴女に気持ちを伝えたはずだけど?『貴女の気持ちには応えられない』と。しかも貴女の言う幼い頃から」
「・・・・ですが、人の気持ちに絶対はありません。それに、私が想い続ける事は私の自由ですわ!」
「確かに、彼を想い続ける事は自由です。ですがそれは、誰にも迷惑をかけなければの話であって、誰かの心に傷をつくる様な事をしでかすのであれば見過ごすことはできません」
リズのその一言で、スカーレット嬢がぐっと唇を噛んだ。
その言葉でなんとなくだけど、想像ができた。
多分、アリオスとリズの大事な人が、彼女の嫉妬によって傷つけられたんだ・・・
「アリオスはサーラ様と結婚します。これは、アリオスが強く望んでいる事でもあります。そして、側室を取る事もありません。諦めてください」
一つ一つ確認するかのように紡ぐその言葉に温度はなく、もし自分に向かって言われたなら、間違いなく立ち直れなくなる位には威力がある。
スカーレット嬢は何処か泣きそうな表情になりながら、助けを求めるようにアリオスを見た。
それにつられ私もアリオスを見上げ、思わず驚きに「え?」と声を漏らしてしまった。
・・・・こいつ、なんも聞いてねぇ・・・・
私だけではなく、スカーレット嬢すら驚愕の表情だ。平静なのはリズのみ。心なしか勝ち誇った表情にすら見えるのは気のせいではないだろう。
美女達の口喧嘩なんて全く興味が無かったのか、彼が熱心に見ていたのは『私』だった・・・
だから見上げた途端、彼とバッチリ目が合い、そして勢いよく逸らされた。
その頬は心なしか朱に染まってて・・・
非常に気まずい・・・気まずいですよ!!
恐々とスカーレット嬢を見れば、もの凄く怖い表情で・・・例えるなら般若の様な顔で、睨まれた。
「ひっっ」
思わず小さな悲鳴があがり、アリオスにしがみ付いてしまった。
それも気に入らなかったのか、媚びを売っているように見えたのか、益々目が吊り上っていく。
百人中の一人・・・そう、私を嫌う一人が今出来上がってしまった瞬間だった。いや、アリオスに気のある貴族令嬢には全て嫌われているから、実のところ相当な人数だと思うけど・・・あまりそう言う人を増やしたくないのが正直なところなのに・・・・
こ・・こわい・・・こわい・・・こわい・・・美人、怖いっ!
涙目になりながらアリオスに身を寄せていけば、いつもは突進してくるように抱き着くのに、それとは違うどこかこう恐る恐るといった感じで・・・ふわっと私を抱きしめた。
そして宥めるように背中を優しく撫でてくれた。
―――その瞬間だった・・・私の心臓がいきなり大きく跳ねたのは。
え?えぇぇ??何?何なの!?
どくどくどくどく・・・・・・
心臓が壊れたかのように早鐘打ち始めて・・・息苦しくなる。ついでに顔も熱くなってきて・・・きっと私は真っ赤だ・・・
その抱きしめる腕だとか、背中を撫でる手の平だとか・・・異常なほどに意識してしまい、胸が苦しくなってくる。
彼の腕の中で固まったかのように、ぐるぐるしているとアリオスが徐に口を開いた。
「スカーレット嬢、私があなたを愛する事は無い。この先の近い未来も、遠い未来も。私の全てはサクラのものだ」
「アリオス様・・・」
スカーレット嬢は悔しそうに顔を歪めた。でも、そんな事はまるっと無視し、アリオスは続ける。
「昔の私は、愛する人を守る事すらできない子供だった。だが、今は違う。愛する我が妻、子供達を傷つけようとする者は、誰であろうと許さない」
彼の腕の中で、頬を寄せるその胸から響いてくる凛とした声を混乱したまま聞いていたが『妻』と言う単語に驚き彼を見上げた。
そして、またも驚きに目を見張る・・・
彼は綺麗だから出会った時からキラキラしていた。だけど、見上げたその表情はいつものキラキラ王子とは違い、少し眉根を寄せ凛々しくて悔しいくらいカッコ良くて、今まで以上にキラキラしていた。
やばい・・・なんか変なフィルターかかっちゃった!?これって、もしかして、アリオスに・・・?
認めたくない感情に、胸のあたりがギュッと締め付けられた。
急激な自分の気持ちの変化についていけなくて、呆然としてしまう。
だけど、心や感情は正直なもので、彼に触れられる事が心地良くて、安心できてそのまま身を任せたくなってしまう。
何なんだ?・・・こんなにも目に映る景色すら一瞬で色鮮やかに変わってしまうものなの?浮き立つような高揚感に理性が溶けていきそうになるものなの?
今だ睨んでくる美女の視線よりも、たった今自覚したばかりの自分の感情の方が恐ろしくて、私は小さく身を震わせた。
そしてその日を境に、私たちの間に流れる空気が微妙に変わっていった。
1
お気に入りに追加
709
あなたにおすすめの小説
ご落胤じゃありませんから!
実川えむ
恋愛
レイ・マイアール、十六歳。
黒い三つ編みの髪に、長い前髪。
その下には、黒ぶちのメガネと、それに隠れるようにあるのは、金色の瞳。
母さまが亡くなってから、母さまの親友のおじさんのところに世話になっているけれど。
最近急に、周りが騒々しくなってきた。
え? 父親が国王!? ありえないからっ!
*別名義で書いてた作品を、設定を変えて校正しなおしております。
*不定期更新
*カクヨム・魔法のiらんどでも掲載中
ひとりぼっちだった魔女の薬師は、壊れた騎士の腕の中で眠る
gacchi
恋愛
両親亡き後、薬師として店を続けていたルーラ。お忍びの貴族が店にやってきたと思ったら、突然担ぎ上げられ馬車で連れ出されてしまう。行き先は王城!?陛下のお妃さまって、なんの冗談ですか!助けてくれた王宮薬師のユキ様に弟子入りしたけど、修行が終わらないと店に帰れないなんて…噓でしょう?12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
気だるげ王子の微笑みが見たくて
うかかなむらる
恋愛
「見て、桜みたいなの付いてた。」
ほんの一瞬だけ、ふわっと笑った貴方の微笑みが、忘れられない。
イケメン気だるげ男子、佐和田怜に恋する、
さっぱりサバサバ系の代議員、瑞木紗華が紡ぐ、
甘くて切なくて、ちょっぴり気だるいお話。
ねぇ、笑ってよ、怜くん。
とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、
屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。
そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。
母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。
そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。
しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。
メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、
財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼!
学んだことを生かし、商会を設立。
孤児院から人材を引き取り育成もスタート。
出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。
そこに隣国の王子も参戦してきて?!
本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る
とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした
楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。
仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。
◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪
◇全三話予約投稿済みです
【完結】「幼馴染が皇子様になって迎えに来てくれた」
まほりろ
恋愛
腹違いの妹を長年に渡りいじめていた罪に問われた私は、第一王子に婚約破棄され、侯爵令嬢の身分を剥奪され、塔の最上階に閉じ込められていた。
私が腹違いの妹のマダリンをいじめたという事実はない。
私が断罪され兵士に取り押さえられたときマダリンは、第一王子のワルデマー殿下に抱きしめられにやにやと笑っていた。
私は妹にはめられたのだ。
牢屋の中で絶望していた私の前に現れたのは、幼い頃私に使えていた執事見習いのレイだった。
「迎えに来ましたよ、メリセントお嬢様」
そう言って、彼はニッコリとほほ笑んだ
※他のサイトにも投稿してます。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
【完結】私の婚約者は妹のおさがりです
葉桜鹿乃
恋愛
「もう要らないわ、お姉様にあげる」
サリバン辺境伯領の領主代行として領地に籠もりがちな私リリーに対し、王都の社交界で華々しく活動……悪く言えば男をとっかえひっかえ……していた妹ローズが、そう言って寄越したのは、それまで送ってきていたドレスでも宝飾品でもなく、私の初恋の方でした。
ローズのせいで広まっていたサリバン辺境伯家の悪評を止めるために、彼は敢えてローズに近付き一切身体を許さず私を待っていてくれていた。
そして彼の初恋も私で、私はクールな彼にいつのまにか溺愛されて……?
妹のおさがりばかりを貰っていた私は、初めて本でも家庭教師でも実権でもないものを、両親にねだる。
「お父様、お母様、私この方と婚約したいです」
リリーの大事なものを守る為に奮闘する侯爵家次男レイノルズと、領地を大事に思うリリー。そしてリリーと自分を比べ、態と奔放に振る舞い続けた妹ローズがハッピーエンドを目指す物語。
小説家になろう様でも別名義にて連載しています。
※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる