上 下
34 / 65

34

しおりを挟む

「ユーリ・・・ユーリ・・・会いたかった・・・・」

アルフォンスはようやく会えた有里を愛しそうに抱きしめ、まるでうわごとのように名を繰り返し、その首筋に顔を埋め大きく息を吸った。
「アル!良かった・・・・心配したよ・・・・」
それに答えるかのように抱きしめ返し、アルフォンスの頬に自分の頬を寄せた。
そして、「ん?」と眉を寄せる。
「・・・・アル・・・すごい熱!」
濡れた身体が冷たすぎて気付かなかったが、その頬は熱く、有里は熱を測る為にアルフォンスの額に自分の額を付けた。
そして、尋常じゃないその熱さに思わず叫んだ。
「フォランド!!すぐに陛下を運んで!!ラン!お湯の手配と侍医長を至急陛下の部屋へ!レスターさん、シェスさん!一旦私の護衛の任を解きます!陛下と宰相閣下達を部屋まで護衛して下さい!」
毒に侵された時の症状を双子侍女に聞いていたものの、実際に触れる焼けるような熱さに、血の気が引く。
この世界の医療レベルは有里のいた世界と比べ、当然ながら低い。
だからこそ焦る。
早く、早く休ませなくては!治療しなくては!と。そして、沸き上がる想い。

―――彼を失いたくない!

一気にまくしたて「侍従長!陛下をお願い!!」と手を伸ばすも、当のアルフォンスは有里を離そうとはしなかった。
「アル?早く治療しよう?辛いでしょ?」
優しく宥めるように、いまだ縋りつく様に抱きしめるその背を撫でた。
「・・・・離れたくない・・・・」
まるでダダをこねるようにポツリと呟き、抱きしめる腕に力を込めた。
吐息と一緒に吐き出された言葉は熱く、有里は一瞬戸惑う様に瞬きを繰り返し、次の瞬間まるで彼の熱が伝染したかのように頬を染めた。
熱によって身体が辛く甘えているだけなのだと、そう思っていてもこの様なスキンシップに慣れていない有里は、焦りと恥ずかしさで冷静ではいられない。
「早く休んで欲しいのに・・・・そんな事言われたら拒否できないじゃない」
ムッと唇を尖らせながら睨むも、アルフォンスから見れば可愛らしい以外の何ものでもない。
朦朧とした意識の中で、心に思った事が行動と言葉となり「可愛い」とうわ言の様に何度も呟きながら、抱きしめる腕に力が籠る。
「傍に、いてくれないのか?」
いまだ有里を離そうとしないアルフォンスに、早く治療してもらいたい有里は意を決したように、彼の熱い頬を両手で包み背伸びするようにしてその額に唇を寄せた。
「アルが完治するまで、ずっと傍に居るから。離れないから。部屋に行こう?」
まさか有里からの口付けがもらえるとは思わなかったアルフォンスは目を見開いた後、この発熱とは別の意味での熱い吐息を吐いた。
「完治するまでしか・・・いてくれないのか?」
「・・・そこら辺は、要相談で・・・・」
ちょっと不貞腐れたように返せば、ふっとアルフォンスが笑った。
「有里らし・・・い、な・・・」
そう言うと、ゆっくりと倒れ込んできた。
「アル!?」
有里に被さる様に倒れるアルフォンスをエルネストが、彼の重みで後ろにのけぞりそうな有里をフォランドが支えた。
「ベル・・・アルは大丈夫なの?」
「えぇ、大丈夫です。きっと貴女に会えた事で緊張が解けて気を失ってしまったのでしょう」
エルネストがアルフォンスを背に抱えると、レスターとシェスが護る様に立ち、さらにその周りをエイド達が護る様に囲んだ。
「先に行ってて。私は遅れていくから」
そう言いながらチラリとアーロンを見る有里に、フォランドは「わかりました」と頷いてアルフォンスに付き添う様に、その場を後にした。

その姿を見届け、くるりとアーロンへと振り返った。
「アーロン、お疲れ様」
「・・・ユーリ・・・ごめん・・・俺、・・・」
「アーロン、その先は言わなくてもいい事だよ。アーロンが謝ることじゃないんだから」
「だけど!アルに怪我を負わせちまった・・・」
「それは誰の所為でもないじゃない。アルをちゃんと連れ帰って来てくれたことに感謝こそすれ、責める人なんて誰もいないんだから」
いくら有里が言葉を尽くしても、アーロンの表情は晴れない。
そんな彼に有里は、パンッと軽く叩く様に頬を包み込んだ。
「アーロン!貴方はここでくよくよ落ち込んでる暇はないのよ!アルがああなんだから、防衛の指示は貴方が執らないといけないでしょ!?」
はっとしたように顔を上げるアーロンに有里は続ける。
「それに・・・貴方がそんなんじゃ、アルが責任感じちゃうでしょ?」
今だ納得していない表情のアーロンに、子供に言い聞かせるような口調になるのは仕方がない。
「もし、今回の立場が反対でアルをかばってアーロンが怪我をしていたら、きっとアルは今の貴方と同じように考えるよ。そんな姿を見てアーロンはどう感じる?」
「そんな事!俺が勝手にした事だし、それが俺の仕事だから・・・」
「立場がどうであれ、同じことなんだよ。アーロンがそうやってずっと気に病んでいると、その事に対しアルが責任を感じるんだよ?ただでさえ、この任務で怪我をした人達の事を、アルはきっと気にかけているだろうから・・・・」
アーロンは小さく頷く。
「アーロンはよくやったよ。あんなに弱ってる陛下をちゃんと連れ帰ったんだから」
「ユーリ・・・・」
「ありがとう」
にっこりとほほ笑みながらお礼を言えば、アーロンは今にも泣きそうにくしゃりと顔を歪め、笑う。
「アーロンってば酷い顔。さぁ、風邪引いちゃうから着替えよう!身体温めて。お腹もすいたでしょ?ゆっくり休んでからアルの部屋に来てね」
そう言いながら手を引いて歩こうとして、傍に立っている濡れ鼠の金髪美少女に気づいた。
「アーロン、彼女は?」
「あぁ、彼女は医療班のフィンレイだ。ここまでアルを診てくれてたんだ」
「まぁ、そうだったの?」
そう言うと有里は彼女の前に立ち「陛下を助けて下さってありがとう」と言いながら、ぺこりと頭を下げた。
「え?いや!あの!」
と焦るフィンレイにアーロンは「こういう奴だから気にしなくていいぞ」と肩を叩いた。
「雨に濡れて寒いでしょ?女性用も別に部屋を用意してあるので着替えて、ゆっくりしてくださいね」
「あ、ありがとう、ございます・・・」
正直なところ、有里には敵対心しか持っていない彼女。
だが、目の前の女性は当然フィンレイの心中など全く知らないのだから普通に接してくる。
女神の使徒なのに、偉そうなそぶりなど見せることなく何処にでも居る娘の様に普通に、拍子抜けしてしまうほど普通に話しかけてくる。
そんな彼女はアーロンの手を引っ張りながら控室へと連れて行こうとしいていた。
「フィンレイさんも、一緒に行きましょう?」
手招きする有里に、何だか毒気を抜かれた様に思わず「はい」と返事を返し、後を付いて行く。
そんな自分自身にフィンレイは、複雑な心境を持て余し始めていた。
一人で立っていることすら厳しかったアルフォンスは彼女を見た途端、自分の足で歩ける位・・・それが瞬間だけだったとしても、持ち直した。
先ほどまでのこの世の終わりの様な顔をしていたアーロンはといえば、今は有里と笑いながら話している。
それは一体どういう事なのか。
彼女に向ける、陛下のあの甘々しい言葉。抱きしめる腕。恋い焦がれるような眼差し。何もかもがフィンレイの欲したもの。
この城に着くまでの間に自分が得られるはずだったものだ。
何故、自分ではだめだったのか。何故、彼女でなければ駄目だったのか。
先ほどまで傍に居たのに。触れていたのに。常に視界の中に居たというのに。

何故、私ではないの?!全てに勝っているのは私!なのにっ!!

二人を見ながら、フィンレイは次第に苛立ちを募らせていく。
嫉妬と怒りが次第に膨らんでいき「何故?」という言葉だけがその身を侵していく。

何よりも、使徒様は陛下が心配ではないの?何故、陛下に付き添わないで此処にいるの?
おかしいわ!!私だったら片時も離れないのに!!
帰路の間の様に、ずっとずっと支えて・・・・

フィンレイは歩みを止め、抑えきれない思いが言葉となって漏れた。
「使徒様は・・・陛下が心配ではないのですか?」
その言葉に有里も足を止め、フィンレイの方へと振り向く。
「心配だよ。でも、今は陛下の顔を見たしお医者様に預けられたから、どちらかというと安心したかな?」
「え?あんなに・・・弱っていらっしゃるのに?」
「だって、命に別状はないんでしょ?アーロンをはじめとして、皆が護ってくれたんだもの。私はそんな皆さんにお礼が言いたい気分よ」
にっこりと笑う有里に、納得がいかないフィンレイは、更に言い募る。
「だからといって、あれだけ懇願されているのにお傍を離れるなんてっ!」
少し距離を置いていたリリが、殺気をもってフィンレイを睨み付けた。
それを有里は手で制し、小さく息を吐いた。
「私が傍に居る事で容態が直ぐにでも良くなるのであれば、今すぐにでも飛んでいくわ。でもね、今の私には何もできないの。お医者様にしか治療はできないのだから。ならば今私がやらなくてはいけない事は何か・・・」
有里の黒い瞳に真っ直ぐに見つめられ、フィンレイは知らず知らずに息を止める。
「命を懸けて任務を遂行し、命を懸けて陛下を護ってくれた騎士の皆さんに言葉をもって感謝と労わりを伝えねばならないのです。女神の使徒として、この城で暮らし生活を共にする者として」
凛とした声には強い意思が込められていて、フィンレイは初めて知る。
己の欲と傲慢さを。そして、初めから勝敗は決まっていたのだと。

そう。もし自分が彼女の立場なら、きっとずぶ濡れだろうと怪我をしていようと、そんな騎士達の事など放って置いて陛下の元を離れない。
あんなふうに恋われたら、周りなどどうでもいいと思うくらい傍に居る。

「陛下の看病はしますよ?傍に居るって約束したしね」
ふっと表情を和らげるその姿は、フィンレイですら美しいと感じるもの。

私は陛下が好きだった。今でも大好き。誰よりも、何よりも。
ただただ、彼が欲しくて自分には隣に並ぶだけの資格があるのだと思い込んで・・・・
だけど彼女には敵わない。目の当たりにする、考え方の違い・・・器の広さが違う。
悔しくて憎くて悲しいけど・・・・
馬鹿な私は何も気付いてなかったんだ。初めから、足元にも及んではいなかったのだと。

「さぁ、フィンレイさんも控室へ」
にっこり笑い近くに居た女官を呼ぶと、フィンレイを託した。

「ユーリが自ら『女神の使徒』を名乗るなんて、珍しいな」
アーロンは少し驚いたように有里の方へ振り向いた。
「役に立つんなら、なんだって利用するわよ。『女神の使徒』と言う肩書だってなんだって」
少し不服そうに唇を尖らす有里はアーロンを控室へ押し込みながら、顔を合わせる騎士達に声を掛けていく。
「お疲れ様」「ありがとう」と声を掛ければ、疲れ切った騎士達もまた笑顔を取り戻していく。
特別な事をしているわけではない。特別な事を言っているわけではない。

彼女だから・・・なのね・・・

アルフォンが遠征中、怪我で苦しい最中さなかでも崩すことのなかった表情を、唯一崩した相手は有里ただ一人。
フィンレイはいまだ痛む胸を抱えながら、前を行く女官の背だけを見つめ歩いた。
そんな彼女の視界の端に、誰かが駆け込んでくるのが見えたのと同時だった。
ホール全体に声が響き渡ったのは。


「誰か!!そいつを掴まえてくれ!!」



その時既に『男』は有里の目の前まで来ていた。
左手を有里に向かって伸ばし、右手には剣を持ち。

「ユーリ!!」
「ユーリ様!!」
アーロンとリリが叫び駆け寄ろうとする足が、ぴたりと止まった。

水を打ったような静けさ・・・とは、正にこの事を言うのだろうか。
その場に居たすべての人間が目と口を全開にして、固まった。


何故なら皆が目にしていたのは、有里が不審者を抑え込み、腕の関節を固めている姿だったから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されましたが、もふもふと一緒に領地拡大にいそしみます

百道みずほ
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢アリスは、一度も王子と対面することなく婚約破棄される。ショックと言えばショックだが、わたしは自由!とアリスはかえって喜んでいた。しかし状勢は変わり、お父さまが、領民が大ピンチに。アリスは守護神マカミ(真っ白で大きなもふもふ)と旅にでることにした。 ◇この作品はエブリスタでも公開しています。 ********** 舞台・登場人物の紹介(作者のため(;'∀')) 舞台はハトラウス王国ラッセル公爵領。海と山に囲まれ、川もあり、トラウデンという町は王都の台所と呼ばれている。近隣諸国との交易が盛んな土地で栄えているが、難点は王都から遠いところ。 主人公・公爵令嬢アリス・ラッセル 18歳 趣味は魔法修行と読書。 ただいまの愛読書は『エドワード王子の恋の物語~僕の運命の恋人は~』。ブロンド、オレンジ色の瞳。新領地の名前はマーウデン。 守護神マカミ 大きくて白くてふわふわ アリス付きのメイド ミス・ブラウン  執事 セバスチャン お父さま ハワード・ラッセル公爵イケオジ 茶色い目、茶髪 お母さま マーガレット・ラッセル 金髪青い目の美女 女神のごとく 弟 フィリップ・ラッセル イケメン候補10歳 魔法授与式受けたばかり薄茶色のふわふわの毛、青色の目 ラッセル領の教会・テンメル教会主 ハトラウス国・国王ロドニエル 派手好き 金茶色の髪 緑瞳 お后様オリヴィス 銀髪、菫色瞳 女神のごとく 曲がったことが嫌い 愛人リリアーヌ 黒髪 小動物系 派手好き 王子 アンソニー 銀髪 緑瞳 現婚約者 カトリーヌ 赤い髪、そばかす 赤色好き 派手好き 教皇さまグラツィオ 麻の白い着物 質素 教皇側近 ジロラウル  副教皇 リリアーヌの叔父、カトリーヌの父 派手好き 商工会議所代表 ウルマ、農協代表 サカゴク、新領地管理・2集落のリーダー・シタラとマイヤ 教会のテーマカラー・赤、青 シタラ、マイヤ、宿屋ガイソン、妻ナディ ・隣国 東のヘカサアイ王国 香辛料の国。唐辛子を使ったものが多い。砂漠と乾いた山々に覆われた地域。テーマカラー・ダークグリーン  王子 黒髪ロング 浅黒い肌 正装赤 妹 黒髪ロング 浅黒い肌 ・隣国 南のカルカペ王国 ・向かいの半島にある北の国ピュララティス王国 海の民・ラティファ(茶髪、青の瞳、活発、日焼け) 兄タウルス 日焼け筋肉質 ・大きな島の西の国シブラータ王国

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

奥様はエリート文官

神田柊子
恋愛
【2024/6/19:完結しました】 王太子の筆頭補佐官を務めていたアニエスは、待望の第一子を妊娠中の王太子妃の不安解消のために退官させられ、辺境伯との婚姻の王命を受ける。 辺境伯領では自由に領地経営ができるのではと考えたアニエスは、辺境伯に嫁ぐことにした。 初対面で迎えた結婚式、そして初夜。先に寝ている辺境伯フィリップを見て、アニエスは「これは『君を愛することはない』なのかしら?」と人気の恋愛小説を思い出す。 さらに、辺境伯領には問題も多く・・・。 見た目は可憐なバリキャリ奥様と、片思いをこじらせてきた騎士の旦那様。王命で結婚した夫婦の話。 ----- 西洋風異世界。転移・転生なし。 三人称。視点は予告なく変わります。 ----- ※R15は念のためです。 ※小説家になろう様にも掲載中。 【2024/6/10:HOTランキング女性向け1位にランクインしました!ありがとうございます】

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います

結城芙由奈 
恋愛
浮気ですか?どうぞご自由にして下さい。私はここを去りますので 結婚式の前日、政略結婚相手は言った。「お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。」そして迎えた驚くべき結婚式と驚愕の事実。いいでしょう、それほど不本意な結婚ならば離婚してあげましょう。その代わり・・後で後悔しても知りませんよ? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中

お飾り王妃の受難〜陛下からの溺愛?!ちょっと意味がわからないのですが〜

湊未来
恋愛
 王に見捨てられた王妃。それが、貴族社会の認識だった。  二脚並べられた玉座に座る王と王妃は、微笑み合う事も、会話を交わす事もなければ、目を合わす事すらしない。そんな二人の様子に王妃ティアナは、いつしか『お飾り王妃』と呼ばれるようになっていた。  そんな中、暗躍する貴族達。彼らの行動は徐々にエスカレートして行き、王妃が参加する夜会であろうとお構いなしに娘を王に、けしかける。  王の周りに沢山の美しい蝶が群がる様子を見つめ、ティアナは考えていた。 『よっしゃ‼︎ お飾り王妃なら、何したって良いわよね。だって、私の存在は空気みたいなものだから………』  1年後……  王宮で働く侍女達の間で囁かれるある噂。 『王妃の間には恋のキューピッドがいる』  王妃付き侍女の間に届けられる大量の手紙を前に侍女頭は頭を抱えていた。 「ティアナ様!この手紙の山どうするんですか⁈ 流石に、さばききれませんよ‼︎」 「まぁまぁ。そんなに怒らないの。皆様、色々とお悩みがあるようだし、昔も今も恋愛事は有益な情報を得る糧よ。あと、ここでは王妃ティアナではなく新人侍女ティナでしょ」 ……あら?   この筆跡、陛下のものではなくって?  まさかね……  一通の手紙から始まる恋物語。いや、違う……  お飾り王妃による無自覚プチざまぁが始まる。  愛しい王妃を前にすると無口になってしまう王と、お飾り王妃と勘違いしたティアナのすれ違いラブコメディ&ミステリー

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

処理中です...