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「俺達、婚約したんだ」
「今まで協力してくれて、ありがとう」
幸せを具現化したかのような二人に、「そう・・・よかったわね」としか言えなかった。
仲睦まじく去っていく後姿を見ながら、ガシガシと爪を噛む。
なんで?どうして?私達、うまくいっていたはずよね?
悲しみ妬み怒り・・・色んな感情が渦巻き、思わず「ぐぅぅ」と食いしばった歯の隙間から声が漏れた。
そして、もうすべてが終わってしまったという脱力感に、その場にしゃがみ込んでしまったのだった。
カレンとジョアンは仲の良い友人だった。
カレン・ルーミーは子爵令嬢、ジョアン・スペンサーは伯爵令嬢だ。
二人とも十七才で、通っている学園で二学年に進級し同じクラスになってから親しくなった。
誰が好きだとか誰と誰が婚約したとか、どこのカフェは人気があるなど、どこにでもいる可愛らしい女の子同士だった。
カレンは肩までの長さの茶色い髪に緑色の瞳をしていて、少し吊り上がったアーモンド型の目は活発で気の強そうな印象を受ける。
対してジョアンは流れるように腰まである銀髪に、虹色にきらめくオパールのような不思議な色合いの瞳。
カレンとは正反対の穏やかで誰もが見惚れるほどの美しい容姿をしていた。だが、中身はどこにでもいる女の子と同じ。
そんなジョアンには好きな人がいた。
同じ年で伯爵令息のセオドア・アンダーソン。
ジョアンは彼を幼いころから知ってはいるが、顔見知り程度だった。
だが、初めて会った日からジョアンは彼の事が好きで、二学年で同じクラスになった事により、互いの友人を交えてだが昼食を一緒にするくらいは距離を詰める事ができ、幸せな毎日を過ごしていた。
セオドアは金髪碧眼の見目麗しい容姿をしていて、女子からの人気がとても高い。
人気に拍車をかける原因の一つは、婚約者もおらず浮いた噂一つない事。
これと言って婚約する年齢は決まってはいないが、政略的な意味を持つ婚約は意外と低年齢の時にする事が多い。
そもそもアンダーソン家では政略結婚に重きを置くような家ではなく、現当主夫妻も恋愛結婚だった為かセオドアにもいい人ができてからでいいと、急かされる事は無いのだという。
基本、セオドアは誰にでも平等に接してはいるが、線引きはきちんとしていた。
ジョアンとセオドアが親しく呼び合っているのをカレンが気付き、自分の事も呼び捨てにしてほしいと言っていたが、きっぱり断っているくらいは、人を見ていた。
一方カレンはというと、彼女に近づいてくるのは皆ジョアン狙い。
初めはそれでもいいと思っていた。
ジョアン狙いの男は皆、高位貴族の子息で、誰か一人くらいは自分に興味を示してくれるのではと、そんな打算的な気持ちがあったから。
だが世の中そんなにうまくはいかないもので、誰もカレンには興味を示してはくれなかったのだ。
あんなに沢山の男がいるのに、なんで一人も私に興味を持ってくれないの?・・・まったくもって面白くないわ。
まるで引き立て役じゃない・・・・
自らジョアンの傍にいるという事など忘れたかのように、自分を悲劇のヒロインに仕立て上げていく。
自分がみじめで屈辱的な立場にいるのは、ジョアンの所為。次第に、彼女に対し醜い気持ちが膨れ上がっていくのが分かった。
そして、それは醜悪な思いに育っていく。
ジョアンの屈辱にゆがむ顔が見たい・・・
それならちょうどいい相手がいるじゃないか。
彼女がずっと片思いしているという、セオドア・アンダーソン伯爵令息が。
ジョアンは片思いだと思っているようだが、セオドアもジョアンの事が好きだ。
傍から見てもバレバレで初々しい二人だが、気付かないのは本人ばかり。
私がセオドア様を奪ったら、ジョアンはどんな顔をするのかしらね・・・・
友人であるはずの令嬢の美しい顔が、絶望に染まるさまを想像しほくそ笑むカレンは、さっそく行動を起こす。
二人の仲を取り持つ振りをしつつ、ジョアンとセオドアの間に自然を装い割って入るようになるのに、そう時間はかからなかった。
そしてカレンがセオドアを本気で愛するようになる事も。
だからこそ、カレンは決意する。
どんな手を使ってでも、彼を手に入れる!
いかにも友達の為と装い近づき、強引に事を進める。
「私がセオドア様との間を取り持ってあげるわ」
ジョアンがそれを望んでいない事はわかっている。
断ろうとする彼女の言葉など聞き流し、勝手に話を進めては強引に仲を取り持とうと割り込んだ。
「今度みんなで町に遊びに行く事になったわ!チャンスよ!」
そう言いながらもセオドアの傍を離れず、気が付けばカレンとセオドアと二人で話し込んだりなど・・・
とにかく、ジョアンとセオドアを二人きりにさせないよう、纏わりついた。
そして、天は我に味方したのだと、カレンは思った。
最高学年に進級する際に行われたクラス替え。
ジョアンとは離れ、セオドアと同じクラスになったから。
カレンは、本当はセオドアは女性に冷たい事を知っていた。
だが、ジョアンの友達というだけで言葉を返してくれるし、微笑みかけてもくれる。
同じクラスになったのだから、もっともっと仲良くしなくては・・・・カレンはまるで恋人気取りでセオドアに絡んでいく。
強く拒絶されないことを良いことに、どんどん勘違いもしていった。
そして、クラスメート達から、セオドアに好意を寄せている女子達から、一目置かれるようになり皆が聞いてくる。
「セオドア様と婚約なさるのですか?」と。
その問いにカレンははにかんだよう微笑み、答えるのだ。
「彼にすべて任せてますの」と。
セオドアとクラスが分かれ、言葉を交わすことも無くなり一人物思いに耽る事が多くなったジョアン。
窓の外を見つめながら溜息をつくジョアンは、誰が見ても美しい。
男女問わずクラスメイトはそんな彼女を見て、頬を染めている事を本人だけが知らない。
そんな彼女の頭の中を占めるのは、カレンの事。
ジョアンはカレンが自分とセオドアの仲を邪魔するなど、考えもしなかった。
カレンは意外とサバサバした性格だと思っていたので、当初は考えすぎだと思っていたのだ。
だが、いつもいいところで邪魔してくるカレンに対して認識を改めるのに、そう時間はかからなかった。
自分がセオドアを好きだと知っているのに、見せつけるように彼に近づくカレン。
頭をもたげる嫉妬心は自分の心の狭さからなのだと、自己嫌悪に陥っていた事は一度や二度ではなかった。
だけれど、次第に彼女の行動が大胆且つ、ジョアンを応援するように見せかけながら貶めるような事を言い始め、もしやカレンも彼の事が好きなのではと思うと、これまでの事が全て腑に落ちてしまったのだ。
何かにつけて私とセオドア様の間に割り込んで来たのは、彼を私から奪おうとしていたという事だったのね・・・・
そんな卑怯な手を使わずとも、他のやり方があったのではとジョアンは思う。決して綺麗ごとではなくて。
だからこそ、セオドアの事が好きなのかとカレンに問いただそうとしてもはぐらかされ、気付けばセオドアとの距離が随分と遠くなっていた事に気づく。
そうこうしているうちに最終学年を迎え、ジョアンはカレンとクラスが分かれたが、彼女はセオドアと同じクラスになったのだ。
別のクラスになった事により、当然セオドアとも顔を合わせる機会がめっきりと減り、反対にカレンと一緒にいる姿を見る事が多くなった。
時折カレンは、自慢するかのようにセオドアとの近況を報告しに来る。
「最近、セオドア様と行動することが多くなったのよ。あ、ちゃんとジョアンの事をアピールしているわよ」
「昨日、セオったら・・・あっ!違うのよ!彼がそう呼んでって言うから・・・ごめんね、気を悪くしたでしょ」
「ジョアン・・・ごめんね。私、セオを好きになってしまったの・・・私達を、許して・・・」
律儀にも残酷な報告をしてくるカレンに、ジョアンは張り付いたような笑みを浮かべやり過ごすしかなかった。
初めから彼女はセオドアを狙っていたのだと、今更ながら自分の間抜けさに後悔するも、すべては遅かった。
周りではカレンとセオドアが婚約間近ではないかという噂が流れていたから。
友達だと思っていた人からの裏切りに、鬱々とした日々を過ごしていたジョアン。そんなある日、同じクラスのメリア・サリバン伯爵令嬢に声をかけられたのだった。
「今まで協力してくれて、ありがとう」
幸せを具現化したかのような二人に、「そう・・・よかったわね」としか言えなかった。
仲睦まじく去っていく後姿を見ながら、ガシガシと爪を噛む。
なんで?どうして?私達、うまくいっていたはずよね?
悲しみ妬み怒り・・・色んな感情が渦巻き、思わず「ぐぅぅ」と食いしばった歯の隙間から声が漏れた。
そして、もうすべてが終わってしまったという脱力感に、その場にしゃがみ込んでしまったのだった。
カレンとジョアンは仲の良い友人だった。
カレン・ルーミーは子爵令嬢、ジョアン・スペンサーは伯爵令嬢だ。
二人とも十七才で、通っている学園で二学年に進級し同じクラスになってから親しくなった。
誰が好きだとか誰と誰が婚約したとか、どこのカフェは人気があるなど、どこにでもいる可愛らしい女の子同士だった。
カレンは肩までの長さの茶色い髪に緑色の瞳をしていて、少し吊り上がったアーモンド型の目は活発で気の強そうな印象を受ける。
対してジョアンは流れるように腰まである銀髪に、虹色にきらめくオパールのような不思議な色合いの瞳。
カレンとは正反対の穏やかで誰もが見惚れるほどの美しい容姿をしていた。だが、中身はどこにでもいる女の子と同じ。
そんなジョアンには好きな人がいた。
同じ年で伯爵令息のセオドア・アンダーソン。
ジョアンは彼を幼いころから知ってはいるが、顔見知り程度だった。
だが、初めて会った日からジョアンは彼の事が好きで、二学年で同じクラスになった事により、互いの友人を交えてだが昼食を一緒にするくらいは距離を詰める事ができ、幸せな毎日を過ごしていた。
セオドアは金髪碧眼の見目麗しい容姿をしていて、女子からの人気がとても高い。
人気に拍車をかける原因の一つは、婚約者もおらず浮いた噂一つない事。
これと言って婚約する年齢は決まってはいないが、政略的な意味を持つ婚約は意外と低年齢の時にする事が多い。
そもそもアンダーソン家では政略結婚に重きを置くような家ではなく、現当主夫妻も恋愛結婚だった為かセオドアにもいい人ができてからでいいと、急かされる事は無いのだという。
基本、セオドアは誰にでも平等に接してはいるが、線引きはきちんとしていた。
ジョアンとセオドアが親しく呼び合っているのをカレンが気付き、自分の事も呼び捨てにしてほしいと言っていたが、きっぱり断っているくらいは、人を見ていた。
一方カレンはというと、彼女に近づいてくるのは皆ジョアン狙い。
初めはそれでもいいと思っていた。
ジョアン狙いの男は皆、高位貴族の子息で、誰か一人くらいは自分に興味を示してくれるのではと、そんな打算的な気持ちがあったから。
だが世の中そんなにうまくはいかないもので、誰もカレンには興味を示してはくれなかったのだ。
あんなに沢山の男がいるのに、なんで一人も私に興味を持ってくれないの?・・・まったくもって面白くないわ。
まるで引き立て役じゃない・・・・
自らジョアンの傍にいるという事など忘れたかのように、自分を悲劇のヒロインに仕立て上げていく。
自分がみじめで屈辱的な立場にいるのは、ジョアンの所為。次第に、彼女に対し醜い気持ちが膨れ上がっていくのが分かった。
そして、それは醜悪な思いに育っていく。
ジョアンの屈辱にゆがむ顔が見たい・・・
それならちょうどいい相手がいるじゃないか。
彼女がずっと片思いしているという、セオドア・アンダーソン伯爵令息が。
ジョアンは片思いだと思っているようだが、セオドアもジョアンの事が好きだ。
傍から見てもバレバレで初々しい二人だが、気付かないのは本人ばかり。
私がセオドア様を奪ったら、ジョアンはどんな顔をするのかしらね・・・・
友人であるはずの令嬢の美しい顔が、絶望に染まるさまを想像しほくそ笑むカレンは、さっそく行動を起こす。
二人の仲を取り持つ振りをしつつ、ジョアンとセオドアの間に自然を装い割って入るようになるのに、そう時間はかからなかった。
そしてカレンがセオドアを本気で愛するようになる事も。
だからこそ、カレンは決意する。
どんな手を使ってでも、彼を手に入れる!
いかにも友達の為と装い近づき、強引に事を進める。
「私がセオドア様との間を取り持ってあげるわ」
ジョアンがそれを望んでいない事はわかっている。
断ろうとする彼女の言葉など聞き流し、勝手に話を進めては強引に仲を取り持とうと割り込んだ。
「今度みんなで町に遊びに行く事になったわ!チャンスよ!」
そう言いながらもセオドアの傍を離れず、気が付けばカレンとセオドアと二人で話し込んだりなど・・・
とにかく、ジョアンとセオドアを二人きりにさせないよう、纏わりついた。
そして、天は我に味方したのだと、カレンは思った。
最高学年に進級する際に行われたクラス替え。
ジョアンとは離れ、セオドアと同じクラスになったから。
カレンは、本当はセオドアは女性に冷たい事を知っていた。
だが、ジョアンの友達というだけで言葉を返してくれるし、微笑みかけてもくれる。
同じクラスになったのだから、もっともっと仲良くしなくては・・・・カレンはまるで恋人気取りでセオドアに絡んでいく。
強く拒絶されないことを良いことに、どんどん勘違いもしていった。
そして、クラスメート達から、セオドアに好意を寄せている女子達から、一目置かれるようになり皆が聞いてくる。
「セオドア様と婚約なさるのですか?」と。
その問いにカレンははにかんだよう微笑み、答えるのだ。
「彼にすべて任せてますの」と。
セオドアとクラスが分かれ、言葉を交わすことも無くなり一人物思いに耽る事が多くなったジョアン。
窓の外を見つめながら溜息をつくジョアンは、誰が見ても美しい。
男女問わずクラスメイトはそんな彼女を見て、頬を染めている事を本人だけが知らない。
そんな彼女の頭の中を占めるのは、カレンの事。
ジョアンはカレンが自分とセオドアの仲を邪魔するなど、考えもしなかった。
カレンは意外とサバサバした性格だと思っていたので、当初は考えすぎだと思っていたのだ。
だが、いつもいいところで邪魔してくるカレンに対して認識を改めるのに、そう時間はかからなかった。
自分がセオドアを好きだと知っているのに、見せつけるように彼に近づくカレン。
頭をもたげる嫉妬心は自分の心の狭さからなのだと、自己嫌悪に陥っていた事は一度や二度ではなかった。
だけれど、次第に彼女の行動が大胆且つ、ジョアンを応援するように見せかけながら貶めるような事を言い始め、もしやカレンも彼の事が好きなのではと思うと、これまでの事が全て腑に落ちてしまったのだ。
何かにつけて私とセオドア様の間に割り込んで来たのは、彼を私から奪おうとしていたという事だったのね・・・・
そんな卑怯な手を使わずとも、他のやり方があったのではとジョアンは思う。決して綺麗ごとではなくて。
だからこそ、セオドアの事が好きなのかとカレンに問いただそうとしてもはぐらかされ、気付けばセオドアとの距離が随分と遠くなっていた事に気づく。
そうこうしているうちに最終学年を迎え、ジョアンはカレンとクラスが分かれたが、彼女はセオドアと同じクラスになったのだ。
別のクラスになった事により、当然セオドアとも顔を合わせる機会がめっきりと減り、反対にカレンと一緒にいる姿を見る事が多くなった。
時折カレンは、自慢するかのようにセオドアとの近況を報告しに来る。
「最近、セオドア様と行動することが多くなったのよ。あ、ちゃんとジョアンの事をアピールしているわよ」
「昨日、セオったら・・・あっ!違うのよ!彼がそう呼んでって言うから・・・ごめんね、気を悪くしたでしょ」
「ジョアン・・・ごめんね。私、セオを好きになってしまったの・・・私達を、許して・・・」
律儀にも残酷な報告をしてくるカレンに、ジョアンは張り付いたような笑みを浮かべやり過ごすしかなかった。
初めから彼女はセオドアを狙っていたのだと、今更ながら自分の間抜けさに後悔するも、すべては遅かった。
周りではカレンとセオドアが婚約間近ではないかという噂が流れていたから。
友達だと思っていた人からの裏切りに、鬱々とした日々を過ごしていたジョアン。そんなある日、同じクラスのメリア・サリバン伯爵令嬢に声をかけられたのだった。
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