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伯爵家からの使者として侯爵家を訪れたのは、ペルソン家に長く仕え最も信頼をおいている執事のジャンだった。
頭髪は全て白く目尻の皺も結構深いものだが、その立ち振る舞いは洗練されており、恐らく年齢よりは若く見えているはずだ。
侯爵夫妻が現れるとジャンは、まずは夜遅くに訪問した事の謝罪を口に、深く腰を折った。
そして当主からの手紙を渡し、できる事なら早急に返事を貰いたい旨を伝える。
その場で内容を確認した夫妻は。すぐに返事をしたためると、口頭でも了承を伝えた。
ホッとしたジャンは侯爵夫妻に、当主からの言伝を伝えると返事をもらい颯爽と屋敷を後にした。
まるで小さな竜巻が通り過ぎた様な、そんな錯覚を覚えてしまう様な慌ただしさだった。
「これは、リアにとって嬉しい展開になるのかな?」
ハロルドが再度手紙に目を通しながら、首を傾げた。
手紙の内容は至極簡単で、出来るだけ早くに侯爵家を訪問したいと書かれていた。
「恐らくは。ただ、ペルソン伯爵家からどのような話が出たかによって、私達も考えないとね」
「事情があるにせよ、今日、婚約発表したばかりなのに・・・」
「あら、恋愛と言うものは、障害が大きければ大きいほど燃え上がるのものなのよ?」
そう言いながらサンドラは、ハロルドの頬にキスをした。
ポッと頬を染めるハロルドに、サンドラは益々笑みを深くする。
「私達だってそうだったでしょ?」
「いや、僕達には障害はなかったよ。障害と言うより、サンディーのアプローチに僕がタジタジだっただけだろ?」
「ふふふ・・・そうね。私の愛に中々応えてくれなかった貴方を落とすのに、心血を注いでいたからね」
「僕はサンディーが好きだったよ?まさか、サンディーが僕を好きになってくれるなんて思いもしなかったんだ。僕を好きになってくれたサンディーに、感謝しかないよ」
嬉しそうに、まるで尾っぽがあれば、はちぎれそうなくらい振っているのが想像できて、サンドラは堪らなくなりハロルドに抱き着いた。
「んもぉ!貴方のそう言う言葉が、仕草が大好きなのよ!」
使用人が居ようが居まいが関係なく、いつも通りひとしきりイチャイチャすると、二人は寝室へと消えていったのだった。
サンドラはメルロ国の第三王女として生を受けた。
王位継承は持っていたが早々に放棄し、母方のクレメント侯爵家の養女として入り婿をとって継ぐ事が決まっていたのだ。
上には兄が二人もいるのだから、自分が政治的駒としてどこかに嫁がされるよりは、大好きな祖父の元でいずれ迎える婿と共に侯爵家を盛り立てたいと、幼い頃から決めていた。
元々クレメント侯爵家はサンドラの母しか子供がおらず、娘の産んだ子供の一人を後継者にする約束で娘を王家に嫁がせていたのだ。
母親も美しい女性だったが、娘であるサンドラもまた、水色の髪に瑠璃色の瞳。透き通るような白い肌に、紅を差さずとも鮮やかで可憐な唇。
見るからに妖精の様な見た目なのだが、その性格は男勝りで舐めてかかると痛い目を見る事になる。
見た目に騙されて泣かされた(精神的に)男は数え切れぬほど。
その性格は母である王妃にそっくりで、父親である国王に似て今一つ押しが弱い兄二人とは正反対。
周りからは、サンドラが男だったならと、よく言われていた。
そんな事を周りから言われても、兄妹仲はすこぶる良く、幼い頃は妹に振り回されている兄達の姿を、周りの人達は皆微笑ましく見ていたのだと言う。
サンドラが学園に通い始めた時、タナビ国からの留学生としてハロルド・キャベル侯爵令息が同じクラスにやってきた。
彼の容姿は女子が浮足立つほど美しもので、カラスの濡れ羽色の様な黒髪。月を宿したかのような金色の瞳。
かと言って硬質なわけではなく、柔らかにほほ笑む瞳は男女を問わず惹きつけてやまないものがあった。
だがサンドラは違った。見目の良い男は見飽きていたし、必ずしも顔と性格が比例しない事もよく知っていたから。
興味もなかった事もあり、それほど気にも留めてはいなかったのだが、王女である彼女が友好国からの留学生の世話を任されるのは、ある意味当然の事。
ましてやキャベル侯爵家は、タナビ国では財務を担当している重要なポストについている家。
はぁ・・・面倒ね・・・
どちらかと言えば貴族的縛りが嫌いなサンドラは、他人からは「破天荒王女」と言われていた。
そんな彼女を慕う者もいれば、当然嫌う者もいる。
だが、隣国の大切なお客様をもてなすのも王族の務め。いつもの自分を殺して王女らしく彼を世話せねばなるまいと、にこやかな笑顔をハロルドに向けたのだった。
笑顔を向けられたハロルドはというと、サンドラの邪気のない妖精の様な美しさに既に心を奪われていた。
だが周りの者からは、彼女は難攻不落でどんなに高位の貴族でも、どんなに見目麗しい男でも彼女を魅了する事は出来なかったと聞いている。
自分とは、義務でしか付き合うことは無いのだろうと、ハロルドは思っていた。
でも、この国にいる間は彼女を独占できる事で、自分の気持ちを昇華させようとも思っていたのだ。
だが日を追うごとに彼女に魅かれていく自分を止めることができずに苦しんでいるハロルドに、信じられない事が起きた。
サンドラに、告白されたのだ。
卒業も間近で、卒業後は自国へと戻らなくてはいけないのだが、突然の僥倖にハロルドは困惑を隠せない。
自己評価の低いハロルド。こんな、どこにでもいる自分のどこに彼女が惹かれたのかすら分からず、及び腰でいた。
サンドラが彼に惹かれたのは、本当に些細な事だった。
それからは、ハロルドが気になって仕方がなく、気付けば彼が自国へ戻る半年前になっていた。
物腰柔らかで誰にでも優しく見えるが、きちんと線引きはされていてシビアな面を見せる時もある彼。
そんな彼も愛おしくてたまらないサンドラは、攻撃の手を緩める事無く必死に口説く。
そして彼が学園を卒業する二か月前に、サンドラはようやく彼を落したのだった。
頭髪は全て白く目尻の皺も結構深いものだが、その立ち振る舞いは洗練されており、恐らく年齢よりは若く見えているはずだ。
侯爵夫妻が現れるとジャンは、まずは夜遅くに訪問した事の謝罪を口に、深く腰を折った。
そして当主からの手紙を渡し、できる事なら早急に返事を貰いたい旨を伝える。
その場で内容を確認した夫妻は。すぐに返事をしたためると、口頭でも了承を伝えた。
ホッとしたジャンは侯爵夫妻に、当主からの言伝を伝えると返事をもらい颯爽と屋敷を後にした。
まるで小さな竜巻が通り過ぎた様な、そんな錯覚を覚えてしまう様な慌ただしさだった。
「これは、リアにとって嬉しい展開になるのかな?」
ハロルドが再度手紙に目を通しながら、首を傾げた。
手紙の内容は至極簡単で、出来るだけ早くに侯爵家を訪問したいと書かれていた。
「恐らくは。ただ、ペルソン伯爵家からどのような話が出たかによって、私達も考えないとね」
「事情があるにせよ、今日、婚約発表したばかりなのに・・・」
「あら、恋愛と言うものは、障害が大きければ大きいほど燃え上がるのものなのよ?」
そう言いながらサンドラは、ハロルドの頬にキスをした。
ポッと頬を染めるハロルドに、サンドラは益々笑みを深くする。
「私達だってそうだったでしょ?」
「いや、僕達には障害はなかったよ。障害と言うより、サンディーのアプローチに僕がタジタジだっただけだろ?」
「ふふふ・・・そうね。私の愛に中々応えてくれなかった貴方を落とすのに、心血を注いでいたからね」
「僕はサンディーが好きだったよ?まさか、サンディーが僕を好きになってくれるなんて思いもしなかったんだ。僕を好きになってくれたサンディーに、感謝しかないよ」
嬉しそうに、まるで尾っぽがあれば、はちぎれそうなくらい振っているのが想像できて、サンドラは堪らなくなりハロルドに抱き着いた。
「んもぉ!貴方のそう言う言葉が、仕草が大好きなのよ!」
使用人が居ようが居まいが関係なく、いつも通りひとしきりイチャイチャすると、二人は寝室へと消えていったのだった。
サンドラはメルロ国の第三王女として生を受けた。
王位継承は持っていたが早々に放棄し、母方のクレメント侯爵家の養女として入り婿をとって継ぐ事が決まっていたのだ。
上には兄が二人もいるのだから、自分が政治的駒としてどこかに嫁がされるよりは、大好きな祖父の元でいずれ迎える婿と共に侯爵家を盛り立てたいと、幼い頃から決めていた。
元々クレメント侯爵家はサンドラの母しか子供がおらず、娘の産んだ子供の一人を後継者にする約束で娘を王家に嫁がせていたのだ。
母親も美しい女性だったが、娘であるサンドラもまた、水色の髪に瑠璃色の瞳。透き通るような白い肌に、紅を差さずとも鮮やかで可憐な唇。
見るからに妖精の様な見た目なのだが、その性格は男勝りで舐めてかかると痛い目を見る事になる。
見た目に騙されて泣かされた(精神的に)男は数え切れぬほど。
その性格は母である王妃にそっくりで、父親である国王に似て今一つ押しが弱い兄二人とは正反対。
周りからは、サンドラが男だったならと、よく言われていた。
そんな事を周りから言われても、兄妹仲はすこぶる良く、幼い頃は妹に振り回されている兄達の姿を、周りの人達は皆微笑ましく見ていたのだと言う。
サンドラが学園に通い始めた時、タナビ国からの留学生としてハロルド・キャベル侯爵令息が同じクラスにやってきた。
彼の容姿は女子が浮足立つほど美しもので、カラスの濡れ羽色の様な黒髪。月を宿したかのような金色の瞳。
かと言って硬質なわけではなく、柔らかにほほ笑む瞳は男女を問わず惹きつけてやまないものがあった。
だがサンドラは違った。見目の良い男は見飽きていたし、必ずしも顔と性格が比例しない事もよく知っていたから。
興味もなかった事もあり、それほど気にも留めてはいなかったのだが、王女である彼女が友好国からの留学生の世話を任されるのは、ある意味当然の事。
ましてやキャベル侯爵家は、タナビ国では財務を担当している重要なポストについている家。
はぁ・・・面倒ね・・・
どちらかと言えば貴族的縛りが嫌いなサンドラは、他人からは「破天荒王女」と言われていた。
そんな彼女を慕う者もいれば、当然嫌う者もいる。
だが、隣国の大切なお客様をもてなすのも王族の務め。いつもの自分を殺して王女らしく彼を世話せねばなるまいと、にこやかな笑顔をハロルドに向けたのだった。
笑顔を向けられたハロルドはというと、サンドラの邪気のない妖精の様な美しさに既に心を奪われていた。
だが周りの者からは、彼女は難攻不落でどんなに高位の貴族でも、どんなに見目麗しい男でも彼女を魅了する事は出来なかったと聞いている。
自分とは、義務でしか付き合うことは無いのだろうと、ハロルドは思っていた。
でも、この国にいる間は彼女を独占できる事で、自分の気持ちを昇華させようとも思っていたのだ。
だが日を追うごとに彼女に魅かれていく自分を止めることができずに苦しんでいるハロルドに、信じられない事が起きた。
サンドラに、告白されたのだ。
卒業も間近で、卒業後は自国へと戻らなくてはいけないのだが、突然の僥倖にハロルドは困惑を隠せない。
自己評価の低いハロルド。こんな、どこにでもいる自分のどこに彼女が惹かれたのかすら分からず、及び腰でいた。
サンドラが彼に惹かれたのは、本当に些細な事だった。
それからは、ハロルドが気になって仕方がなく、気付けば彼が自国へ戻る半年前になっていた。
物腰柔らかで誰にでも優しく見えるが、きちんと線引きはされていてシビアな面を見せる時もある彼。
そんな彼も愛おしくてたまらないサンドラは、攻撃の手を緩める事無く必死に口説く。
そして彼が学園を卒業する二か月前に、サンドラはようやく彼を落したのだった。
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