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一章
60 ルミナス村の見学
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「アベバベバァァァ」
「あっ、もう少し静かにしてもらっていいかな」
ここはルミナス村の僕が管理する畑の近く。現在、その隣の区画を牧場用に開拓を進めているところだ。既にスライムたちによって整地されていたので、あとは囲いを作って厩舎を建てるぐらいで大枠は完成となる。
王宮から村長には既に連絡がいっているようで、ミルフィリッタ教会から離れた場所であるならということで神殿からも正式に許可を得ている。
「アベバベバァァァ」
「カメレオンフロッグ、彼らは何て言ってるのかな。あと、もう少し小声にしてくれって伝えて。ダークネスインビジブルを掛けてるけど声は聞こえちゃうんだからね」
『そうでやんすね……。あのツルのような草がとても気になる。是非とも試食させてもらいたいと言ってるでやんす』
ツルのような草。それは目の前で育っている新しいマメ科の植物であるピーナトゥのことだろう。二体ともヨダレを垂らしながらガン見している。
「あれは新しいマメ科の植物でまだ実がなってないんだけど」
いや、実になるまで待つ必要はないのか。彼らが欲しているのは実ではないのだから。
僕はピーナトゥを引き抜くと二頭の前に差し出した。フンフンフンと鼻先で匂いを堪能してから大きな舌で巻き取るようにしてゆっくりと咀嚼していく。
「アベバベバァァァ!」
「アベバベバァァァ!」
「あの、頼むからもう少し静かにしてもらえるかな」
もう一房手にとって渡すと今度はすぐに口にねじ込んでいった。バフォメットはかなり興奮しているように思える。
『こんな極上な植物に出会ったことがない。これを毎日食べられるのであれば何でも言うことを聞くって言ってるでやんす』
凄いな……。テイムの必要もなくピーナトゥで管理できそうなんだけど。
ピーナトゥにここまでの反応を示すとは思いもしなかった。彼らがそれで納得してここで過ごしてくれるのであれば僕としてもありがたい。囲いの中で育てる牧草代わりに、ピーナトゥを植えればいいのだ。少しコストは上がってしまうが、見返りとなるドラゴンステーキの売上を考えればどうってことはない。
「そんなことで良ければお安い御用だよ。他に必要な設備とかあるか聞いてもらってもいいか」
『そうっすね。平らな場所はあまり好ましくないらしいでやんす。岩を置いたり、高低差のある地形にしてもらいたいそうでやんす』
「そういうものなのか。わかった、あとで牧場工事の人に伝えておくよ。こっちに移動してからでも希望があれば何でも聞くから相談するように伝えといてくれるか」
『了解でやんす! あっ、仲間にお土産のピーナトゥを持ち帰りたいそうっすけどいいでやんすか?』
「問題ない。いくらでも持っていってくれ」
それだけピーナトゥがお気に入りということか。市場から仕入れておいて本当によかった。
すると僕が近くで見学していたからなのか、工事の様子を見に来ていた村長さんが近づいてきた。
「カメレオンフロッグ、バフォメットたちを連れて少しここから離れてくれ」
『任せるでやんす』
手を振りながらニコニコ顔の村長さんがやってくる。麦わら帽子がとてもよく似合っている。レティ用に作った日除け帽子だったけど、ルミナス村のご高齢軍団にも頼まれて追加で作ることになったのだ。
夏の日差しは強烈なので農家育ちの高齢者であってもかなり体力を奪われるそうなのだ。
「レンよ、急な話のようじゃったが神獣様から話は聞いておったのか?」
「私も昨日聞いたばかりでして、村長へのご連絡が遅れてしまいました」
「そうか、そうか。それにしても神獣様が王宮とも繋がりがあったとは驚いたのう」
「まったくです」
リタの評価が想像のかなり上の方まで突き抜けてしまっているが、本当のことを言う訳にもいかないので神獣様万能説で乗り切りたい。
「それで、その牧場で育てるというモンスターは大丈夫なのかのう。バフォメットと言ったかのう、大型のモンスターだと聞いたのじゃが暴れたりはせぬのか?」
見た目はとても厳ついモコモコではあるけど、お互いに話が通じる限り問題は起こりづらいだろう。
「ルミナス村には神獣様がいるので、暴れるということはないそうです」
「そうか、そうか。あと、話は聞いたぞ。聖女様はそのステーキとやらをご試食なさったのだとか。随分と美味しいと仰っておった」
「そ、そうでしたか。あっ、そういえば神獣様が用意してくれましたステーキがまだ残っております。お口に合うかどうか分かりませんが、村長にお届けいたします」
「ほう、そうか。まだ残っておったのか。牧場の土地貸出代は村の予算に組み込まれておるが、一応どんな味なのかは村の代表として知っておかねばならぬからのう」
僕としたことがいろいろあったとはいえ村長への忖度を失念していた。僕がルミナス村で平和にスローライフを送るためには村長を味方につけておかなければならない。
今年のお歳暮はグレードアップが必要かもしれないな。リタにお願いして村長夫妻のお召し物とブラドちゃんのお肉を準備しておこう。
「あっ、もう少し静かにしてもらっていいかな」
ここはルミナス村の僕が管理する畑の近く。現在、その隣の区画を牧場用に開拓を進めているところだ。既にスライムたちによって整地されていたので、あとは囲いを作って厩舎を建てるぐらいで大枠は完成となる。
王宮から村長には既に連絡がいっているようで、ミルフィリッタ教会から離れた場所であるならということで神殿からも正式に許可を得ている。
「アベバベバァァァ」
「カメレオンフロッグ、彼らは何て言ってるのかな。あと、もう少し小声にしてくれって伝えて。ダークネスインビジブルを掛けてるけど声は聞こえちゃうんだからね」
『そうでやんすね……。あのツルのような草がとても気になる。是非とも試食させてもらいたいと言ってるでやんす』
ツルのような草。それは目の前で育っている新しいマメ科の植物であるピーナトゥのことだろう。二体ともヨダレを垂らしながらガン見している。
「あれは新しいマメ科の植物でまだ実がなってないんだけど」
いや、実になるまで待つ必要はないのか。彼らが欲しているのは実ではないのだから。
僕はピーナトゥを引き抜くと二頭の前に差し出した。フンフンフンと鼻先で匂いを堪能してから大きな舌で巻き取るようにしてゆっくりと咀嚼していく。
「アベバベバァァァ!」
「アベバベバァァァ!」
「あの、頼むからもう少し静かにしてもらえるかな」
もう一房手にとって渡すと今度はすぐに口にねじ込んでいった。バフォメットはかなり興奮しているように思える。
『こんな極上な植物に出会ったことがない。これを毎日食べられるのであれば何でも言うことを聞くって言ってるでやんす』
凄いな……。テイムの必要もなくピーナトゥで管理できそうなんだけど。
ピーナトゥにここまでの反応を示すとは思いもしなかった。彼らがそれで納得してここで過ごしてくれるのであれば僕としてもありがたい。囲いの中で育てる牧草代わりに、ピーナトゥを植えればいいのだ。少しコストは上がってしまうが、見返りとなるドラゴンステーキの売上を考えればどうってことはない。
「そんなことで良ければお安い御用だよ。他に必要な設備とかあるか聞いてもらってもいいか」
『そうっすね。平らな場所はあまり好ましくないらしいでやんす。岩を置いたり、高低差のある地形にしてもらいたいそうでやんす』
「そういうものなのか。わかった、あとで牧場工事の人に伝えておくよ。こっちに移動してからでも希望があれば何でも聞くから相談するように伝えといてくれるか」
『了解でやんす! あっ、仲間にお土産のピーナトゥを持ち帰りたいそうっすけどいいでやんすか?』
「問題ない。いくらでも持っていってくれ」
それだけピーナトゥがお気に入りということか。市場から仕入れておいて本当によかった。
すると僕が近くで見学していたからなのか、工事の様子を見に来ていた村長さんが近づいてきた。
「カメレオンフロッグ、バフォメットたちを連れて少しここから離れてくれ」
『任せるでやんす』
手を振りながらニコニコ顔の村長さんがやってくる。麦わら帽子がとてもよく似合っている。レティ用に作った日除け帽子だったけど、ルミナス村のご高齢軍団にも頼まれて追加で作ることになったのだ。
夏の日差しは強烈なので農家育ちの高齢者であってもかなり体力を奪われるそうなのだ。
「レンよ、急な話のようじゃったが神獣様から話は聞いておったのか?」
「私も昨日聞いたばかりでして、村長へのご連絡が遅れてしまいました」
「そうか、そうか。それにしても神獣様が王宮とも繋がりがあったとは驚いたのう」
「まったくです」
リタの評価が想像のかなり上の方まで突き抜けてしまっているが、本当のことを言う訳にもいかないので神獣様万能説で乗り切りたい。
「それで、その牧場で育てるというモンスターは大丈夫なのかのう。バフォメットと言ったかのう、大型のモンスターだと聞いたのじゃが暴れたりはせぬのか?」
見た目はとても厳ついモコモコではあるけど、お互いに話が通じる限り問題は起こりづらいだろう。
「ルミナス村には神獣様がいるので、暴れるということはないそうです」
「そうか、そうか。あと、話は聞いたぞ。聖女様はそのステーキとやらをご試食なさったのだとか。随分と美味しいと仰っておった」
「そ、そうでしたか。あっ、そういえば神獣様が用意してくれましたステーキがまだ残っております。お口に合うかどうか分かりませんが、村長にお届けいたします」
「ほう、そうか。まだ残っておったのか。牧場の土地貸出代は村の予算に組み込まれておるが、一応どんな味なのかは村の代表として知っておかねばならぬからのう」
僕としたことがいろいろあったとはいえ村長への忖度を失念していた。僕がルミナス村で平和にスローライフを送るためには村長を味方につけておかなければならない。
今年のお歳暮はグレードアップが必要かもしれないな。リタにお願いして村長夫妻のお召し物とブラドちゃんのお肉を準備しておこう。
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