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一章

55 牧場計画1

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 市場で手に入りにくいレアな肉であるのならばそうじゃなくなればいい。ミルフィーヌが話していたように王宮が運営する秘密の飼育計画という案をそのまま利用させてもらおう。

 別に王宮を掌握して悪いことをしようという考えはない。ルミナス村とレティに手を出さなければ何もしない。むしろ平和な世界を少しでも長く維持するための協力は惜しまないつもりだ。

 というわけで、早速僕は市場調査の名目で再び王都に向かうことにした。

「最近お兄ちゃん王都に行きすぎじゃない? 一応言っておくけど、もう女の子拾ってきたらダメだからね」

「ひ、拾ったことないし……」

「ふぅーん」

 何処か蔑まされるような視線がとても痛い。

 そんな目でお兄ちゃんを見ないでもらえるかな。少し前までもっと僕に対して優しかった気がするんだけど。僕だって好きでこうなってしまったわけではないんだレティ。

「まあ、いいよ。その代わりお土産に甘いお菓子を買ってきてね」

「わかったよ」

 レティはどちらかというと大人しい内気な性格だと思っていたんだけど、我が家が大所帯になってきたことで今までなかった一面が出てきた。

 ちゃんと自分の気持ちを伝えてくるのはいい事だ。ただ、主張を通すためにどうすればいいかを考えてくるようになった。これはミルフィーヌと暮らすことになったことが大きな要因だろう。

 別にそれ自体は悪いことではない。本人なりに新しい目標も出来たようだし、聖女になるためのライバルとして一緒に魔法の練習をしているルーミィちゃんの影響とかもあるのかもしれない。

「お土産は友達の分も必要?」

「うん、ミルキーちゃんとルーミィちゃんと、あとピースの分もお願い」

「うん、わかった。じゃあ行ってくるね」

 ピースには迷惑をかけたからね。僕としても美味しいお菓子を買ってあげたいと思っていた。

「気をつけてねー」


 さて、宰相と王様にいろいろと動いてもらわなければならない。迷惑を掛けられた分はしっかり働いてもらおうか。

 今回は定期便の増えた乗合馬車を利用させてもらっての旅となる。旅と言っても近いので午後には王都にいるだろうけど。

 馬車の便数が増えたことで王都の冒険者なんかも訪れるようになっている。

 当初はギルドからの依頼で街道のモンスター駆除を請け負っていたらしいけど、この街道はカメレオンフロッグが縄張りにしているので、弱いモンスターは近づかないし、この辺りでカメレオンフロッグを倒せるほどの冒険者もモンスターもいない。

「本当に平和になりましたねー」

「少し前まではよくバイオレンスドッグを見かけたものですけど、最近は全く見ないですもんね」

「去年はジャンピングフロッグの大量発生に悩まされたものですが、今年は全く見なくなりました。これも全部、魔王を討伐した勇者様のおかげなのか、それとも神獣様のおかげなのか」

「そりゃあ神獣様でしょうな。魔王討伐からはもう何年も経ちますぜ。街道のモンスターが減ったのは神獣様が現れてからでさぁ」

 乗合馬車での何気ない会話だけど、この積み重ねが神獣様とルミナス村の影響力を高めていると言ってもいい。

 リタには悪いけど、引き続き神獣様として頑張ってもらいたい。

 さて、王都に着いたらすぐに王様と宰相との打ち合わせになる。この牧場計画を何としてでも成功させなければならない。そのためにはあらゆる権力を使ってでもやり遂げてみせる。

 それぐらいにドラゴンステーキは美味しかった。レティもミルフィーヌもリタも絶賛している。みんなのためにも、あの肉はルミナス村で気軽に提供できるようにしなければならない。

 ということで、ダークネスインビジブルを自らにかけてからお城へと入っていく。もちろん騎士は僕には気づかずにあっさりと通してしまう。

『カメレオンフロッグはいるか?』

『へい、旦那の後ろに』

『僕は王様のいる部屋へ向かうから、君は宰相を連れてきてもらえるかな』

『わかりやした』

 現在王宮ではスライムとカメレオンフロッグによる監視が続いている。彼らはルミナス村方面のモンスター狩りもやってくれているので、ギルドに所属する駆け出し冒険者の仕事は反対側の山岳側に集中しているらしい。

 山に出現するモンスターと言えば、どこにでもいるスライムやゴブリン、そして山を縄張りにしているデスコンドルとロックリザードが中心だ。このあたりになると、どちらも駆け出し冒険者には厳しい相手となるが、パーティを組んで何とか対応しているらしい。

 さて、久し振りの王様との話し合いだ。何やら書類作業している王様の真後ろに立ち小声で話かける。

「王よ、神獣様が参られた。今すぐ人を遠ざけよ」

「ふぁっ! し、神獣様ですと!? か、かしこまりました。ご、ごほん……。お、お前たち、すぐにこの階から立ち去るように! 私が許可を出すまでは誰一人として通すでないぞ。あっ、神獣様、宰相はどうしますか?」

「宰相は別の者が呼びに行っているから、部屋に通すよう伝えよ」

「は、ははぁー。お、おい、お前たち、まだ行くな! 宰相だけは部屋に通せ。すぐに来るはずだ」

「か、かしこまりました。宰相様をご案内しましたら下の階に控えております」

「ふ、ふむ。下がれ」

 さて、ステーキのために頑張ろうか。
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