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一章

47 魔族領の状況は……

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 その後、何事も無かったかのように市場の視察を終えて、今はルミナス村に戻る定期便の馬車に揺られている。

 市場では新しくマメ科植物の種を購入してきた。何か買っておかないとレティや聖女に怪しまれるというのもあるけど、実際に試食してみて甘くて癖になる味わいに惹かれたというのもある。

「豆料理は種類も多いと聞くから村の定食屋さんにも味をみてもらおうかな」

「レン様がちゃんと農家をしている……」


 当たり前だ。僕は二度と魔王なんてやらなくてもいいようにルミナス村で確固たる地位(農家)を築いてきたのだ。

「評判が良ければ作付面積を増やそうと思ってる」

 ユリイカには魔王ゼイオンとしてではなく、ルミナス村のレンを手伝う農夫として雇うということで近くに置くことにした。事後報告になるので、これからどうレティを説得するか頭を悩ませている。

「それにしても魔族領は思いの外に大変なことになっているんだね」

「ゼイオン様を見捨てた報いを受けるがいいのです」

 どうやら魔族領は大いに揉めているらしく、実力でいえばトップクラスの元魔王軍四天王の内、ユリイカを除いた三名が勢力争いをしているそうなのだけど、それぞれの勢力がそれなりにパワーがあるため拮抗状態にあるらしい。

 一般的に魔王とその側近はまとめて勇者パーティに倒されるのが通例という悲しい状況がある。そういうことなので、次の魔王というのは将来性を見込まれつつ、ある程度は魔族間で合意の上で育成という名の殺し合いをさせながら強引にその実力を引っ張りあげられていく。

 僕がそうであったように……。

 ところが今回の場合、実力者である四天王が三人も健在であるため、その勢力争いは揉めにもめてしまっているらしい。現在魔族領を三分割にしての争いが勃発。どの勢力が次の魔王代理になるか、そして次期魔王を育て上げるかで小競り合いが続いているらしい。

「魔王代理か。あいつらが魔王になりたがらないのは何となくわかるけど、次期魔王を育てる権限で争うとはね」

「まったく嘆かわしい限りです。そんなことなので私は早々に魔族領を出てゼイオン様を探す旅に出たのです」

 仲間意識の薄い魔族で勢力争いをしたところで上手くまとまるはずもない。あいつら本当に馬鹿だな。十中八九、裏切りの応酬やら騙し合いで話は一向に纏まらないだろう。これで平和な世界が更に十年延びることになるだろう。

「ユリイカ、魔族領の情報は定期的にとれるか?」

「私にはテイムしたモンスターとかいませんし、レン様のスライムをお貸し頂けませんか? ゾルギアスの奴が俺の元に来いとか、可愛がってやるとか上から目線でムカついたので、ちょっと戻るふりをしてスライムを置いてこようかと」

「なるほど、それはいい考えだ。あっちの情報も把握しておけば、僕のスローライフも捗るというものだ」

 スライムも、もう少しテイム数増やした方がいいかもしれないな。ユリイカには隙をみて残りの二人の勢力にもスライムを連れて行ってもらいたい。

 僕の代における魔王軍四天王は、豪腕魔剣のゾルギアス、電光雷轟のシュバリエ、堅塞固塁のゴルギエフ、あと爆炎魔法のユリイカの四人だ。

 あの三人とは極力関わりたくない。復讐するほど憎んでいるかといえばそこまででもない。どちらかといえばかなり前から諦めていたからこそ、いろいろと準備ができたわけでもある。それに復讐しようと思っても、今の僕では百パーセント返り討ちにあうこと必至。

 そういうことなので、奴らの動きを事前に把握することで今後の対策を立てたいといったところが本音だ。しばらくは大丈夫だと思うけど、大軍で攻めてくるのなら逃げる準備も必要だし。でもここは王都近郊の村だから治安としてはそれなりに安心だし、その時は当代の勇者パーティに頑張って守ってもらいたい。

「そろそろルミナス村に着くな。ユリイカ、しっかり頼むよ。あと、ルミナス村では角と魔力は隠すように」

「おっとそうでした。もちろんお任せください」

 ユリイカも人との暮らしは経験がないだけにしばらくは大人しく農作業を手伝ってもらいながら学んでもらう方向でいく。


 僕が戻ってくるのを知っていたのか、家の前にはレティと聖女が待ち構えていた。二人の視線はもちろん僕の隣にいるユリイカに釘付けである。

「あ、あれっ、今日帰るって言ってたっけ? 二人ともただいま」

「おかえりなさいレン君。で、そちらの方はどなたでしょうか?」

「紹介するよ。王都の取引先で紹介してもらったユリイカさん。これから農夫として畑を手伝ってもらう予定なんだ。ほ、ほら、畑も増えたしさ……」

「農夫? そんなこと私に相談もなく決めちゃうんだ」

 いつも優しいレティがこわい。

 ユリイカもこの緊迫した状況を察してか、軽く頭を下げつつも後ろに下がりつつ聖女を睨みつける。

「なかなか挑戦的な目を向ける娘ですね。躾が必要でしょうか」

 おい、やめろユリイカ。聖女がいることはちゃんと説明しておいただろう。穏便に、穏便にだ!

 僕のジェスチャーが通じたのかユリイカは大人しく再びお辞儀をする。

 何故かレティも聖女も軽くため息を吐きつつシンクロするように腕を組みはじめる。これは説教が始まる合図かな……。

「お兄ちゃんはあれかな。女の人どんどん拾ってきちゃう人なのかな?」

 聖女は僕と言うよりもむこうからだし、リタはテイムした成り行き……。ユリイカは見つかってしまった以上どうしょうもないというか。

「その、ごめんなさい」

「むぅー。ライバルがどんどん増えていくんだけど」

「えっ、何?」

「な、なんでもないよ! それで、ユリイカさんは何処に住まわせるつもりなの」

「出荷小屋を本人が増築するって言ってるんだ」

 よくは分からないのだけど、新魔王城は私の手でつくり上げてみせます! とか言ってたから本人の好きなようにDIYをやらせようと思う。自分が暮らす場所だからね。

「そ、そう、一緒には住まないのね」

「レティちゃん、油断は禁物よ」

「そ、そうですね。増築するにしてもしばらくは一緒に住むことになりますよね。ユリイカさんとは私たちとお話をする必要があると思うの。だからお兄ちゃんは夕方まで戻ってこないで!」

「は、はい」

 お兄ちゃん、旅の疲れとか爆炎魔法とかくらってとても疲れてるんだけどな……。とりあえず公共温泉にでも入りに行こうか。

「えっ、レン様!?」

 家に連行されるユリイカが悲しい目を向けてくるが僕にはどうすることもできないんだ。許してくれユリイカ。その、健闘を祈る。
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