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一章
40 魔法の扱い
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「今日もお兄ちゃんと魔法の練習だー。たっのしいなぁー」
元気に歌いながら一緒に畑へと向かうご機嫌なレティ。家事仕事が中心だったレティは外で仕事が出来ることが嬉しいようだ。
病気がちだった体も良くなってきたし、勇者も王都に戻っているのでちょうどいい頃合いだったのかもしれない。
最近はミルフィーヌから少しづつ魔法を教わり始めたようで光をともすライトや光の盾を具現化するシールドという魔法を使えるようになったらしい。
ちなみにホーリーという広範囲回復魔法については正式に聖女見習いとして教会勤めにならないと教えてはもらえないのだそうだ。
それだけ回復魔法というのは神殿にとってもお金を産む魔法ということなのだろう。
「何でお兄ちゃんが魔法教えてくれないの?」
「ほらっお兄ちゃんの魔法って独学だし、ちょっと癖が強いから。ちゃんとしたのはミルフィーヌから学んだ方がいいんだよ」
実際に聖光魔法とかほとんど知らないし、専門は暗黒魔法なので僕に教えられることなどない。強いて言うならば魔法の扱い方ぐらいだろう。
「じゃあ今日もクイックキュアの練習だね」
「うん、頑張ろうな」
魔法を扱うなら初級魔法であるライトかクイックキュアが練習に適している。広くなった畑で作物はいっぱいに育っているのでレティの練習にもちょうどいい。
「元気のない作物を探すんだよね。これとかどう?」
「うん、いいんじゃないかな」
「よしっ、再生の光よ、闇を祓い清めよ。クイックキュア」
トマクの実は少しだけ元気になったものの、もうひと頑張り必要に思える。
「うーん。あと二回ぐらいかな」
「わかった」
まだ魔力量の多くないレティには野菜を枯らすほどのクイックキュアは放てない。それでも作物ごとに状態を見ながら魔力量を調節して与えなければならない。あまり魔力が多すぎても枯らしてしまうし、少なすぎても元気な実がならないのだ。
「野菜が自分の力で立ち上がれるギリギリのラインを見極めることが大事なんだ。そうやって魔力量を調節することで繊細で無駄のない魔法が扱えるようになるんだよ」
極力野菜自身の力で成長するのが理想。クイックキュアに頼りきりでは元気で強い野菜にはならない。あくまで成長の補助をしてあげるぐらいの見極めが必要になる。これが農家の仕事なのだ。
「これを一人でやっていたお兄ちゃんはやっぱりすごい」
「レティも慣れたら時間を掛けずにできるようになるよ」
僕ぐらいの農家になれば、作物がどのぐらいダークネスグロウを欲しているかは見ないでもだいたいの感覚でわかる。
「クイックキュア(ダークネスグロウ)!」
一面の畑を俯瞰しながら、どこに成育の悪いものがあるか見定めつつ放っていく。
「す、すごい……」
これがプロ(農家)のやり方なのだよレティ。魔王の時のパワーがあれば全ての畑を一網打尽にダークネスグロウできる。今のレンでは一気にやるのは畑一面分が限界だけどね。
「私もあんな風にできるようになる?」
「練習すればできるようになるよ。今のレティは必要な魔力以上を使ってクイックキュアを発動しているんだ。それと発動のバランスが悪いから効果も低くなってしまっている」
「うん。それはお兄ちゃんの魔法を見ているからわかる。お兄ちゃんの魔法って無駄がないというか、簡単そうに見えて高度というか……。あれだ……美しいと思うの」
「へぇー、美しいとか言われたことないな」
魔族時代も僕の魔法はどちらかといえば馬鹿にされていた。あっちの世界だと限界まで魔力を練り上げて盛大に爆発させる方が美徳とされていたからね。
「他の人の魔法をそんなに見たことないけど、ミルフィーヌ姉さまよりも展開する魔法陣は綺麗だし、発動する時の輝きとか美しいと思う」
「そ、そうか」
魔法のことを褒められるというのはあまり無かったことだから素直に嬉しい。
「あっ、そういえばミルフィーヌ姉さまがお願いがあるって言ってたよ」
「お願い? リタの給料を下げたいとか?」
「違う違う。えっとね、教会の清掃業務にスライムの派遣をお願いできないかって。月に一回二十万ギルでどうかって」
「に、二十万ギル!?」
「大金だよね。ミルフィーヌ姉さま、綺麗好きだから、うちの家で過ごしてる内に教会の汚れとか気になってきちゃったみたいなの。まだ新しいのにね」
ミルフィリッタ教会は観光地の目玉なだけあり、ルミナス村に訪れた人のほとんど全員が訪れる場所。それだけに日々の清掃は大変なのだろう。
あとは、ステンドグラスの清掃が高所での作業となるため危険と隣り合わせだ。遠くからでも目立つ煌びやからなシンボルが汚れていては目も当てられない。
「まあ、月に一度くらいならいいかな」
「本当? ミルフィーヌ姉さま喜ぶと思うよ」
リタも月に三十万近く稼ぐだろうし、スライムたちも二十万か……。僕の畑は作付面積が広がったとはいえ均すとおそらく月二十五万程度。スライムたちの仕事が認められて宿屋とか定食屋の掃除依頼とか入っちゃったらあっさり抜かされてしまう。
テイムしたモンスターの稼ぎがエグすぎる。
いや、家計に余裕ができるのはありがたいことなんだ。今まで貯金すらできてなかったわけで、これからはレティの将来のために蓄えを残すことができるんだから。
悲しくなんかない。
悲しくなんかないんだからっ!
元気に歌いながら一緒に畑へと向かうご機嫌なレティ。家事仕事が中心だったレティは外で仕事が出来ることが嬉しいようだ。
病気がちだった体も良くなってきたし、勇者も王都に戻っているのでちょうどいい頃合いだったのかもしれない。
最近はミルフィーヌから少しづつ魔法を教わり始めたようで光をともすライトや光の盾を具現化するシールドという魔法を使えるようになったらしい。
ちなみにホーリーという広範囲回復魔法については正式に聖女見習いとして教会勤めにならないと教えてはもらえないのだそうだ。
それだけ回復魔法というのは神殿にとってもお金を産む魔法ということなのだろう。
「何でお兄ちゃんが魔法教えてくれないの?」
「ほらっお兄ちゃんの魔法って独学だし、ちょっと癖が強いから。ちゃんとしたのはミルフィーヌから学んだ方がいいんだよ」
実際に聖光魔法とかほとんど知らないし、専門は暗黒魔法なので僕に教えられることなどない。強いて言うならば魔法の扱い方ぐらいだろう。
「じゃあ今日もクイックキュアの練習だね」
「うん、頑張ろうな」
魔法を扱うなら初級魔法であるライトかクイックキュアが練習に適している。広くなった畑で作物はいっぱいに育っているのでレティの練習にもちょうどいい。
「元気のない作物を探すんだよね。これとかどう?」
「うん、いいんじゃないかな」
「よしっ、再生の光よ、闇を祓い清めよ。クイックキュア」
トマクの実は少しだけ元気になったものの、もうひと頑張り必要に思える。
「うーん。あと二回ぐらいかな」
「わかった」
まだ魔力量の多くないレティには野菜を枯らすほどのクイックキュアは放てない。それでも作物ごとに状態を見ながら魔力量を調節して与えなければならない。あまり魔力が多すぎても枯らしてしまうし、少なすぎても元気な実がならないのだ。
「野菜が自分の力で立ち上がれるギリギリのラインを見極めることが大事なんだ。そうやって魔力量を調節することで繊細で無駄のない魔法が扱えるようになるんだよ」
極力野菜自身の力で成長するのが理想。クイックキュアに頼りきりでは元気で強い野菜にはならない。あくまで成長の補助をしてあげるぐらいの見極めが必要になる。これが農家の仕事なのだ。
「これを一人でやっていたお兄ちゃんはやっぱりすごい」
「レティも慣れたら時間を掛けずにできるようになるよ」
僕ぐらいの農家になれば、作物がどのぐらいダークネスグロウを欲しているかは見ないでもだいたいの感覚でわかる。
「クイックキュア(ダークネスグロウ)!」
一面の畑を俯瞰しながら、どこに成育の悪いものがあるか見定めつつ放っていく。
「す、すごい……」
これがプロ(農家)のやり方なのだよレティ。魔王の時のパワーがあれば全ての畑を一網打尽にダークネスグロウできる。今のレンでは一気にやるのは畑一面分が限界だけどね。
「私もあんな風にできるようになる?」
「練習すればできるようになるよ。今のレティは必要な魔力以上を使ってクイックキュアを発動しているんだ。それと発動のバランスが悪いから効果も低くなってしまっている」
「うん。それはお兄ちゃんの魔法を見ているからわかる。お兄ちゃんの魔法って無駄がないというか、簡単そうに見えて高度というか……。あれだ……美しいと思うの」
「へぇー、美しいとか言われたことないな」
魔族時代も僕の魔法はどちらかといえば馬鹿にされていた。あっちの世界だと限界まで魔力を練り上げて盛大に爆発させる方が美徳とされていたからね。
「他の人の魔法をそんなに見たことないけど、ミルフィーヌ姉さまよりも展開する魔法陣は綺麗だし、発動する時の輝きとか美しいと思う」
「そ、そうか」
魔法のことを褒められるというのはあまり無かったことだから素直に嬉しい。
「あっ、そういえばミルフィーヌ姉さまがお願いがあるって言ってたよ」
「お願い? リタの給料を下げたいとか?」
「違う違う。えっとね、教会の清掃業務にスライムの派遣をお願いできないかって。月に一回二十万ギルでどうかって」
「に、二十万ギル!?」
「大金だよね。ミルフィーヌ姉さま、綺麗好きだから、うちの家で過ごしてる内に教会の汚れとか気になってきちゃったみたいなの。まだ新しいのにね」
ミルフィリッタ教会は観光地の目玉なだけあり、ルミナス村に訪れた人のほとんど全員が訪れる場所。それだけに日々の清掃は大変なのだろう。
あとは、ステンドグラスの清掃が高所での作業となるため危険と隣り合わせだ。遠くからでも目立つ煌びやからなシンボルが汚れていては目も当てられない。
「まあ、月に一度くらいならいいかな」
「本当? ミルフィーヌ姉さま喜ぶと思うよ」
リタも月に三十万近く稼ぐだろうし、スライムたちも二十万か……。僕の畑は作付面積が広がったとはいえ均すとおそらく月二十五万程度。スライムたちの仕事が認められて宿屋とか定食屋の掃除依頼とか入っちゃったらあっさり抜かされてしまう。
テイムしたモンスターの稼ぎがエグすぎる。
いや、家計に余裕ができるのはありがたいことなんだ。今まで貯金すらできてなかったわけで、これからはレティの将来のために蓄えを残すことができるんだから。
悲しくなんかない。
悲しくなんかないんだからっ!
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