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一章
34 神獣様のご活躍
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■■■聖女ミルフィーヌ視点
「ちょっとリタさん! 何で先に行ってしまったのですか? も、もう、所々に糸があってベトベトなんですけどー」
私が辿り着いた時には全てが終わった後だった。一緒に森へと向かったリタさんが急にスピードを上げて単独で向かってしまったのです。
まあ、戦力として考えると、後衛の私が急いで駆けつけたところで役に立つかと言われれば微妙なところ。実際にこのメンバーを見てるとどうなっていたかわからない。
おそらくだけど、レティちゃんと名前の知らない少年を人質にとられてアシュレイは一方的に攻撃されていたのでしょう。
「神々の息吹きよ、満ちみちて聖浄と癒しをもたらさん、聖光魔法ホーリー!」
アシュレイの傷は酷く、もう少し遅れていたら後遺症が出てもおかしくない程の深いものでした。
私一人がこの場に来たとして、すぐに何とか出来たかと言われれば難しかったでしょう。
この三人組は、闇ギルドのA級犯罪者である二刀流のセプター、小刀使いのリンドルに紅蓮の魔法使いラグルスという狡猾で厄介な相手。
「これを全部リタさんが?」
「レティ危なかったから全力で倒した」
ホーリータラテクトの姿なので表情はわからないのだけど、おそらくドヤ顔で決めポーズをしている感じがする。
「全員を眠らせたのもリタさん?」
ふっ、と少し笑みを浮かべるようにして髪をかきあげたような気がする。ホーリータラテクトの姿だから実際にはわからないけど。
「私の糸眠らす。前に聖女も眠った」
リタさんが進化する前に確かに私は蜘蛛の巣に捕われ眠らされたことがある。私が眠ってしまうほどの魔力効果。進化したホーリータラテクトであれば、ここにいる者が全員眠ってしまったとしてもおかしくはない。
「でも、こんな一瞬でこのメンバーを沈黙させられるの……?」
いくらリタさんがホーリータラテクトという上位種のモンスターだったとしても、目の前で寝ている者達は、闇ギルドのA級犯罪者にこの世界で一番強いはずの勇者なのです。
「私にかかれば勇者なんてザコ。どうする? 今なら毒を注入すれば倒せると思う。全部こいつら三人組のせいにできる」
「ダメよ。私もレティちゃんのことを考えたらチャンスとか思わないこともないけど。それでも一応、私たちが来るまで時間稼ぎをして守っていたのは彼なんだから。それに……話を聞かなければならないもの」
「残念」
名目上、リタさんの観察と何かあった時の為に一緒に生活をしているのだけど、リタさんが本気を出したら絶対適わないんじゃないでしょうか……。
ここ何日か一緒に生活をしてきて、レン君とレティちゃんに対する忠誠心というのは間違いないと判断している。私に対しても少しは心を開いていてくれている気がしないでもない。
テイムされたモンスターといっても自分で考えて行動している部分もあるし、人の暮らしを学びながら確実に成長を遂げている。信用はしたい。でもまだ全てを信じることはできない。
「ところで、そろそろこの糸をどうにかしてもらいたいのだけど」
「リタにはどうにもできない。温泉に入ればいいと思う」
私が温泉に入れないことを知っていてそんな発言をするリタさん。このあたりはとても人間くさいのよね。
「何でですか。前は糸をキレイにとってくれたと思うのですけど」
「あ、あれは、多分スライムじゃないかな……」
レティちゃんの周りを警護するようにスライムが集まっている。やはりテイムモンスターはレン君とレティちゃんが第一優先というのがよくわかる。
「スライムさん、私の糸をとってもらえませんか?」
私もレティちゃんのついでとは思うけどレン君の家で髪や肌のメンテナンスをしてもらっている。おかげさまで生まれてから一番髪の艶、肌の調子がいい。ここで暮らすかぎり美容に関しては言うことはない。あと温泉にさえ入ることができれば完璧なのだけど。
ぷよぷよと体を揺らしながら悩んでいる様子のスライムさん。
お願い、私はまだほとんど温泉には浸かれないの。こんなベタベタなまま午後のお祈りとか無理です。お願いします。
私の願いが通じたのか1匹のスライムが体にまとわりついた糸を溶かしはじめてくれました。
「よ、よかったわ」
スライムさんも一緒に暮らしている私のことを少しは覚えてくれたのでしょうか。味方判定してくれたことに感謝いたします。
「リタさん、こっちの三人は糸でぐるぐる巻きにして抜け出せないようにしてもらえますか?」
「わかった」
「リ、リタさん? 勇者は巻かなくていいのよ」
「そう……とても残念」
絶対にわざとやっているけど、今までのアシュレイの行動や態度を思うとしょうがない気もする。今回のことで少しは評価が上がるかもしれないけど、それまでの負債が大きすぎるのよね。
「リタさんの眠りの効果が全然切れないんだけど、これどうすれば目覚めるの?」
「ちょっと魔力込めすぎたって。しばらく無理そう」
「魔力込めすぎたって……もう、まるで他人事ね。村までどうやって運びましょう」
「リタがこの三人組とレティを運ぶ。聖女は勇者とこのチビを運べばいい」
そう言うと、三人組を引き摺りながらレティのことは大事にそうに抱えていく。
「えー、私がアシュレイを運ぶの?」
「嫌なら置いていくといい。あっ、勇者引き摺るか?」
「それは悪いわよ。レティちゃんのピンチを教えてくれたのはアシュレイなのよ」
うーん私、力仕事は苦手なのに……。誰でもいいから来てくれないでしょうか。もう少ししたら神官さん達が来てくれると思うのだけど。
「ちょっとリタさん! 何で先に行ってしまったのですか? も、もう、所々に糸があってベトベトなんですけどー」
私が辿り着いた時には全てが終わった後だった。一緒に森へと向かったリタさんが急にスピードを上げて単独で向かってしまったのです。
まあ、戦力として考えると、後衛の私が急いで駆けつけたところで役に立つかと言われれば微妙なところ。実際にこのメンバーを見てるとどうなっていたかわからない。
おそらくだけど、レティちゃんと名前の知らない少年を人質にとられてアシュレイは一方的に攻撃されていたのでしょう。
「神々の息吹きよ、満ちみちて聖浄と癒しをもたらさん、聖光魔法ホーリー!」
アシュレイの傷は酷く、もう少し遅れていたら後遺症が出てもおかしくない程の深いものでした。
私一人がこの場に来たとして、すぐに何とか出来たかと言われれば難しかったでしょう。
この三人組は、闇ギルドのA級犯罪者である二刀流のセプター、小刀使いのリンドルに紅蓮の魔法使いラグルスという狡猾で厄介な相手。
「これを全部リタさんが?」
「レティ危なかったから全力で倒した」
ホーリータラテクトの姿なので表情はわからないのだけど、おそらくドヤ顔で決めポーズをしている感じがする。
「全員を眠らせたのもリタさん?」
ふっ、と少し笑みを浮かべるようにして髪をかきあげたような気がする。ホーリータラテクトの姿だから実際にはわからないけど。
「私の糸眠らす。前に聖女も眠った」
リタさんが進化する前に確かに私は蜘蛛の巣に捕われ眠らされたことがある。私が眠ってしまうほどの魔力効果。進化したホーリータラテクトであれば、ここにいる者が全員眠ってしまったとしてもおかしくはない。
「でも、こんな一瞬でこのメンバーを沈黙させられるの……?」
いくらリタさんがホーリータラテクトという上位種のモンスターだったとしても、目の前で寝ている者達は、闇ギルドのA級犯罪者にこの世界で一番強いはずの勇者なのです。
「私にかかれば勇者なんてザコ。どうする? 今なら毒を注入すれば倒せると思う。全部こいつら三人組のせいにできる」
「ダメよ。私もレティちゃんのことを考えたらチャンスとか思わないこともないけど。それでも一応、私たちが来るまで時間稼ぎをして守っていたのは彼なんだから。それに……話を聞かなければならないもの」
「残念」
名目上、リタさんの観察と何かあった時の為に一緒に生活をしているのだけど、リタさんが本気を出したら絶対適わないんじゃないでしょうか……。
ここ何日か一緒に生活をしてきて、レン君とレティちゃんに対する忠誠心というのは間違いないと判断している。私に対しても少しは心を開いていてくれている気がしないでもない。
テイムされたモンスターといっても自分で考えて行動している部分もあるし、人の暮らしを学びながら確実に成長を遂げている。信用はしたい。でもまだ全てを信じることはできない。
「ところで、そろそろこの糸をどうにかしてもらいたいのだけど」
「リタにはどうにもできない。温泉に入ればいいと思う」
私が温泉に入れないことを知っていてそんな発言をするリタさん。このあたりはとても人間くさいのよね。
「何でですか。前は糸をキレイにとってくれたと思うのですけど」
「あ、あれは、多分スライムじゃないかな……」
レティちゃんの周りを警護するようにスライムが集まっている。やはりテイムモンスターはレン君とレティちゃんが第一優先というのがよくわかる。
「スライムさん、私の糸をとってもらえませんか?」
私もレティちゃんのついでとは思うけどレン君の家で髪や肌のメンテナンスをしてもらっている。おかげさまで生まれてから一番髪の艶、肌の調子がいい。ここで暮らすかぎり美容に関しては言うことはない。あと温泉にさえ入ることができれば完璧なのだけど。
ぷよぷよと体を揺らしながら悩んでいる様子のスライムさん。
お願い、私はまだほとんど温泉には浸かれないの。こんなベタベタなまま午後のお祈りとか無理です。お願いします。
私の願いが通じたのか1匹のスライムが体にまとわりついた糸を溶かしはじめてくれました。
「よ、よかったわ」
スライムさんも一緒に暮らしている私のことを少しは覚えてくれたのでしょうか。味方判定してくれたことに感謝いたします。
「リタさん、こっちの三人は糸でぐるぐる巻きにして抜け出せないようにしてもらえますか?」
「わかった」
「リ、リタさん? 勇者は巻かなくていいのよ」
「そう……とても残念」
絶対にわざとやっているけど、今までのアシュレイの行動や態度を思うとしょうがない気もする。今回のことで少しは評価が上がるかもしれないけど、それまでの負債が大きすぎるのよね。
「リタさんの眠りの効果が全然切れないんだけど、これどうすれば目覚めるの?」
「ちょっと魔力込めすぎたって。しばらく無理そう」
「魔力込めすぎたって……もう、まるで他人事ね。村までどうやって運びましょう」
「リタがこの三人組とレティを運ぶ。聖女は勇者とこのチビを運べばいい」
そう言うと、三人組を引き摺りながらレティのことは大事にそうに抱えていく。
「えー、私がアシュレイを運ぶの?」
「嫌なら置いていくといい。あっ、勇者引き摺るか?」
「それは悪いわよ。レティちゃんのピンチを教えてくれたのはアシュレイなのよ」
うーん私、力仕事は苦手なのに……。誰でもいいから来てくれないでしょうか。もう少ししたら神官さん達が来てくれると思うのだけど。
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