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一章
27 畑のお手入れ
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農家である僕以外の村人にとっては新生ルミナス村の門出となる。新しい町並みは綺麗に整備されているし、道にはゴミ一つ落ちていない。観光客を迎え入れる準備は万全である。
一方、僕はというと畑の面積は増えたもののやることはいつも通り変わっていない。水やりや雑草の除去、堆肥の追加など簡単な作業はスライムたちが行ってくれる。
もちろん、ここまでスライムたちを指導していくのはそれなりに大変だった。最初の頃は水や堆肥の量を間違えては枯らしたりもした。
「今では僕よりもずーっと野菜を育てるプロになってしまったけどね。トマクの実は今日もぷっくりと元気に育ってるね」
先に畑のお手入れをしていたスライムたちをから報告が入ってくる。
「このエリアのトマクの実は水分を減らして甘みを蓄えさせてるのー。収穫は明日の朝一番だからねー」
「ボア系の肥料が少なくなってきてるよー。夕方の狩りはボアを狩ってきてほしーなー」
「温泉が湧いた影響で土が温かくなってるところがあるのー。そこなら冬でも夏野菜が育てられるかもしれないよー」
なるほど、土が暖かければ冬に夏野菜を育てることも可能になるか。トマクの実は夏に育つ野菜だから冬でも採れれば高額で取引されるかもしれない。
「今日も勇者が近くにいるよ。あっ、こっちに来た!」
スライムからいつもの報告を受けていたら、勇者が僕に気づいて近づいて来たらしい。
昨日は何事もなく別れたのだけど、さすがにあやしいと思われていたのだろうか。
勇者アシュレイは僕を見ると手をあげて軽快な笑顔をみせながら歩いてきた。
「いやー、お兄さん今日はいい天気ですね。これならルミナス村にやって来る観光客にも楽しんでもらえそうですね」
「どうされたのですか?」
「いえね、昨日はレティさんを執拗に追い回す厄介者がいると聞いて、せめて僕がルミナス村に滞在している間だけでも家の周辺を守らせてもらいたいと思いまして」
守るも何も君がその厄介者なので、家に近づけさせる分、危険度が増してしまうんだけどね。
「それでしたらご安心ください。先ほど神獣様が聖光魔法でトラップを仕掛けて下さいました。邪な考えをもって近づいた者だけが捕まる罠だそうですよ」
これはもちろん嘘だ。聖光魔法にそんな器用な魔法はない。しかしながら、トラップを仕掛けたのは事実だ。もちろん仕掛けたのは僕だけども。
邪な考えをもって近づいた者はダークネスパラライズの餌食となる。暗黒魔法には精神や心に作用するダークネスマインドがあり、その者の心情を読みとりトラップが発動。全身をパラライズにより麻痺させて動けなくする。そうして身動きがとれなくなったところにダークネススリープに包みこんでしまうのだ。
ダークネススリープは聖女にも効果のあった魔法だけに、勇者とて全くの無事とはいかないだろう。
「そ、そうなんですか。ちなみにですがその罠の仕組みを教えてもらってもよろしいですか? いえ、私も周辺の警護はしようと思っていたので、間違って罠にかかったらあれですし」
「大丈夫ですよ。この罠は邪な気持ちがなければ発動しないと神獣様も仰っておりました。だから勇者様なら何も問題ございませんよね」
「そ、そうですね。でも少し安心しました。これでレティさんに近づく不届き者を捕まえられるのですからね」
「ええ、本当によかったです。勇者様にも気を使わせてしまいました。あっ、よかったら今晩うちで食事でもいかがですか? これでレティも少しは安心したと思いますし」
「い、家にですか! い、行きたい! とても行きたいっ! で、ですが、今晩は別の用事が入っておりまして近づけません」
「え、近づけない?」
「あ、い、いいえ、こちらの話です。ああ、残念でなりませんが、またの機会にさせて下さい。その、レティさんによろしくお伝えください。し、失礼します」
よしっ。勇者的にはこのトラップに自分が掛かるかどうか現時点では判断できていない。自分の気持ちが邪であると思っていない可能性もあったが、少なからず罠に掛かってしまう可能性がゼロではないと判断したのだろう。
これで勇者は家に気軽に近づけなくなった。勇者パワーで強引に罠を突破してくる可能性は否定できないが、そんな騒動を起こすほど頭がいかれているわけではないだろう。
「とりあえずはこれで一安心かな。勇者も数日もしたらまた王都に戻るだろうしね」
さて、僕もそろそろ仕事をしないとね。堆肥の方は後で作るとして、肥料代わりの魔力を流していこうかな。
「ダークネスグロウ」
堆肥はゆっくりじっくり土に栄養を与えていくのに対して、魔力は速効性により直接農作物に影響を与えていく。育ちの悪いものを発見しながらピンポイントに魔力を流して育成を補助してあげるのだ。
こうすることで魔力も美味しさも詰まったルミナス産の野菜が出来上がる。
「さて、一通りチェックが終わったら収穫しておかないとね」
トマクの実は定食屋の娘のミルキーちゃんから大量注文を受けているので持っていってあげないとならない。冷やしトマクの実、売れるといいね。僕としても売上げになるので応援はしてあげるよ。
いつもの日常から、観光地として一歩踏み出し始めたルミナス村。これからルミナス村も我が家の環境も大きく変貌を遂げていく。
この時は勇者を家に近づかせなければ大丈夫だろうぐらいにしか思っていなかった。
これが後々面倒なことに繋がっていくとはこの時は思いもしなかったのだ。
一方、僕はというと畑の面積は増えたもののやることはいつも通り変わっていない。水やりや雑草の除去、堆肥の追加など簡単な作業はスライムたちが行ってくれる。
もちろん、ここまでスライムたちを指導していくのはそれなりに大変だった。最初の頃は水や堆肥の量を間違えては枯らしたりもした。
「今では僕よりもずーっと野菜を育てるプロになってしまったけどね。トマクの実は今日もぷっくりと元気に育ってるね」
先に畑のお手入れをしていたスライムたちをから報告が入ってくる。
「このエリアのトマクの実は水分を減らして甘みを蓄えさせてるのー。収穫は明日の朝一番だからねー」
「ボア系の肥料が少なくなってきてるよー。夕方の狩りはボアを狩ってきてほしーなー」
「温泉が湧いた影響で土が温かくなってるところがあるのー。そこなら冬でも夏野菜が育てられるかもしれないよー」
なるほど、土が暖かければ冬に夏野菜を育てることも可能になるか。トマクの実は夏に育つ野菜だから冬でも採れれば高額で取引されるかもしれない。
「今日も勇者が近くにいるよ。あっ、こっちに来た!」
スライムからいつもの報告を受けていたら、勇者が僕に気づいて近づいて来たらしい。
昨日は何事もなく別れたのだけど、さすがにあやしいと思われていたのだろうか。
勇者アシュレイは僕を見ると手をあげて軽快な笑顔をみせながら歩いてきた。
「いやー、お兄さん今日はいい天気ですね。これならルミナス村にやって来る観光客にも楽しんでもらえそうですね」
「どうされたのですか?」
「いえね、昨日はレティさんを執拗に追い回す厄介者がいると聞いて、せめて僕がルミナス村に滞在している間だけでも家の周辺を守らせてもらいたいと思いまして」
守るも何も君がその厄介者なので、家に近づけさせる分、危険度が増してしまうんだけどね。
「それでしたらご安心ください。先ほど神獣様が聖光魔法でトラップを仕掛けて下さいました。邪な考えをもって近づいた者だけが捕まる罠だそうですよ」
これはもちろん嘘だ。聖光魔法にそんな器用な魔法はない。しかしながら、トラップを仕掛けたのは事実だ。もちろん仕掛けたのは僕だけども。
邪な考えをもって近づいた者はダークネスパラライズの餌食となる。暗黒魔法には精神や心に作用するダークネスマインドがあり、その者の心情を読みとりトラップが発動。全身をパラライズにより麻痺させて動けなくする。そうして身動きがとれなくなったところにダークネススリープに包みこんでしまうのだ。
ダークネススリープは聖女にも効果のあった魔法だけに、勇者とて全くの無事とはいかないだろう。
「そ、そうなんですか。ちなみにですがその罠の仕組みを教えてもらってもよろしいですか? いえ、私も周辺の警護はしようと思っていたので、間違って罠にかかったらあれですし」
「大丈夫ですよ。この罠は邪な気持ちがなければ発動しないと神獣様も仰っておりました。だから勇者様なら何も問題ございませんよね」
「そ、そうですね。でも少し安心しました。これでレティさんに近づく不届き者を捕まえられるのですからね」
「ええ、本当によかったです。勇者様にも気を使わせてしまいました。あっ、よかったら今晩うちで食事でもいかがですか? これでレティも少しは安心したと思いますし」
「い、家にですか! い、行きたい! とても行きたいっ! で、ですが、今晩は別の用事が入っておりまして近づけません」
「え、近づけない?」
「あ、い、いいえ、こちらの話です。ああ、残念でなりませんが、またの機会にさせて下さい。その、レティさんによろしくお伝えください。し、失礼します」
よしっ。勇者的にはこのトラップに自分が掛かるかどうか現時点では判断できていない。自分の気持ちが邪であると思っていない可能性もあったが、少なからず罠に掛かってしまう可能性がゼロではないと判断したのだろう。
これで勇者は家に気軽に近づけなくなった。勇者パワーで強引に罠を突破してくる可能性は否定できないが、そんな騒動を起こすほど頭がいかれているわけではないだろう。
「とりあえずはこれで一安心かな。勇者も数日もしたらまた王都に戻るだろうしね」
さて、僕もそろそろ仕事をしないとね。堆肥の方は後で作るとして、肥料代わりの魔力を流していこうかな。
「ダークネスグロウ」
堆肥はゆっくりじっくり土に栄養を与えていくのに対して、魔力は速効性により直接農作物に影響を与えていく。育ちの悪いものを発見しながらピンポイントに魔力を流して育成を補助してあげるのだ。
こうすることで魔力も美味しさも詰まったルミナス産の野菜が出来上がる。
「さて、一通りチェックが終わったら収穫しておかないとね」
トマクの実は定食屋の娘のミルキーちゃんから大量注文を受けているので持っていってあげないとならない。冷やしトマクの実、売れるといいね。僕としても売上げになるので応援はしてあげるよ。
いつもの日常から、観光地として一歩踏み出し始めたルミナス村。これからルミナス村も我が家の環境も大きく変貌を遂げていく。
この時は勇者を家に近づかせなければ大丈夫だろうぐらいにしか思っていなかった。
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