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一章
20 温かい背中
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翌日からすぐにルミナス村へと温泉をひく工事が進められた。宿屋を生業にしようとしていたライアンさんは神殿に個人的な借金をして宿泊施設に併設して温浴施設を造ることを決めたらしい。
神殿に借金とか大丈夫なのだろうか。というか、神殿もすぐにお金を用意するあたりそれなりに集客を見込んでいるのだろう。利子の代わりに売上の二十パーセントで契約を結ぶそうだ。
少しだけライアンさんが心配だけど本人の希望でもあるので僕が口を出すことでもない。
一応、足湯や簡易的な温浴施設は村の運営でも造るらしいので、村人や一般的な観光客はそこに入ることになる。村の運営ということで村人はもちろん無料だ。やったね。
観光客からは幾らかお金をとるらしいけど、運営費がまかなえれば十分で利益が出れば村の運営に回すとのこと。これで村長の影響力が益々増していく。季節毎の御中元、御歳暮は更にグレードを上げていく必要がありそうだ。
「何で私だけ温泉に入れないのでしょうか」
「何でだろうね」
「ホーリータラテクトのリタさんが普通に入れるのはずるいと思うのです」
実際はホワイトクイーンタラテクトなので何の問題もない……とは言えない。
「リタは何か言ってた?」
「ホーリータラテクトは魔力が多い種だから身体を魔力で覆うことで問題なく湯に浸れるって。聖女が温泉に入れないのは魔力がしょぼいからだと……」
とても好戦的な神獣様である。いや、僕が聖女を警戒しているのを知っているからこその辛口な態度なのだろう。
「魔力がしょぼいんじゃ、しょうがないですね」
「聖女の魔力がしょぼいわけないでしょ! 魔力量だけなら勇者にだって負けてないんですからっ!」
「そ、そうですよね。ごめんなさい」
「まあいいです。リタさんが入れるのですから私だって絶対に温泉に入ってみせます。そ、それよりも、そろそろ寝ましょうか」
聖女と布団を重ねることも数回。もちろん全然エロい意味はないですからね。この聖女は意外と奥手な恥ずかしがり屋であることが判明している。
自分から一緒に寝ようとか提案しておいて何を考えているのやらとも思うが、聖女なりにまだ僕のことを疑っているのだろう。熱心な聖職者というのは時に厄介なものである。
しかしながら、レティと寝るのは慣れてきたものの、さすがに聖女と同じ布団で寝れるわけがない。明日も寝不足決定だな……。
「あのね、レン君。そのスライムどけてもらえないかしら」
少しでも距離を置こうとスライムが間に挟まっていたのだけど今日はそれも許されないらしい。
「スライムは寝ている間に髪や身体をキレイにしてくれるんだよ」
「それはレティちゃんから聞いたから知ってます。どうりで二人とも美髪美肌だと思いました。農家なのに肌もとんでもなくきめ細かいし……」
「聖女様もスライムをテイムすればもっと清潔でいられますよ」
「わ、私はテイマーではありませんから! あと、私が汚いみたいな言い方はやめてください」
温泉に入れないものの、最近はレティの部屋で寝る時はスライムを貸してもらえるらしく、聖女の髪や肌はキレイに保たれている。もちろん一緒に寝ているリタも同様だ。
僕がテイムしたスライムなのにレティの指示で敵の身を清めるとは。それにしても二人はいつの間にそんなに仲良くなったのだろう。
「悪かったよ。スライム、今日はいいからレティのところへ行ってくれるか?」
聖女も本気なのだろう。今夜は暗黒魔法を一切感じさせないよう僕も気合を入れる必要がある。
「レティちゃんが自慢してました。レン君の背中がとっても温かくて抱きしめるとすぐに寝れるって」
妹よ、何故に聖女にそんなことを言うのだ。ガールズトークってやつなのか? そんなの何の自慢にもならないからな。
「ですので、今夜は私もその背中をお借りしますね」
「え、えっ、えっー」
いつにも増して積極的に僕の魔力を探りにくるらしい。くっ、徹夜決定か……。
するすると腕を伸ばしながら僕の心臓を掴まんとする勢いでくっついてくる。この体勢は完全にレティにされているいつものバックホールド状態だ。問題はこれがレティではなく聖女であるということだろう。
「ち、ちょっ、近すぎませんか? そ、その胸も当たってますし」
すぐ後ろに感じる聖女の吐息。何でお前そんなに息が荒いんだよ。
「あ、当ててるんです……。し、静かにしてもらえませんか」
く、くそっ、魔力というのは心臓近くにある臓器から生み出されている。そうやって僕の魔力を分析しようとしているのだろう。聖女め、純真無垢な癖に捨て身の作戦か。
「あ、温かいです……。それにこの感じ、前にも感じたことがあるような気がします」
ま、まさか、僕が魔王だとバレてないだろうな……。
さすがにこれだけ密着されてしまえば何かしら魔力の痕跡がわかってしまうのかもしれない。魔力量だけなら人の世界でも上位の聖女。やはり迂闊に寝室に入れるべきではなかった。
この絶望的な状況を乗り切るのは、聖女をやるしかないのか……。
しかしながら、今の僕の魔力では攻撃力がそこまででもない聖女が相手とはいえ返り討ちにされる可能系が高い。いや、リタを呼べばいけるか……。落ち着け、気取られるな。殺気を隠すんだ。
「あの時です。私が蜘蛛の糸で眠らされた時に感じた温かくて優しい背中です。レン君は私を助けて運んでくれたのですよね」
あ、あっれ……。何か違うっぽい。
神殿に借金とか大丈夫なのだろうか。というか、神殿もすぐにお金を用意するあたりそれなりに集客を見込んでいるのだろう。利子の代わりに売上の二十パーセントで契約を結ぶそうだ。
少しだけライアンさんが心配だけど本人の希望でもあるので僕が口を出すことでもない。
一応、足湯や簡易的な温浴施設は村の運営でも造るらしいので、村人や一般的な観光客はそこに入ることになる。村の運営ということで村人はもちろん無料だ。やったね。
観光客からは幾らかお金をとるらしいけど、運営費がまかなえれば十分で利益が出れば村の運営に回すとのこと。これで村長の影響力が益々増していく。季節毎の御中元、御歳暮は更にグレードを上げていく必要がありそうだ。
「何で私だけ温泉に入れないのでしょうか」
「何でだろうね」
「ホーリータラテクトのリタさんが普通に入れるのはずるいと思うのです」
実際はホワイトクイーンタラテクトなので何の問題もない……とは言えない。
「リタは何か言ってた?」
「ホーリータラテクトは魔力が多い種だから身体を魔力で覆うことで問題なく湯に浸れるって。聖女が温泉に入れないのは魔力がしょぼいからだと……」
とても好戦的な神獣様である。いや、僕が聖女を警戒しているのを知っているからこその辛口な態度なのだろう。
「魔力がしょぼいんじゃ、しょうがないですね」
「聖女の魔力がしょぼいわけないでしょ! 魔力量だけなら勇者にだって負けてないんですからっ!」
「そ、そうですよね。ごめんなさい」
「まあいいです。リタさんが入れるのですから私だって絶対に温泉に入ってみせます。そ、それよりも、そろそろ寝ましょうか」
聖女と布団を重ねることも数回。もちろん全然エロい意味はないですからね。この聖女は意外と奥手な恥ずかしがり屋であることが判明している。
自分から一緒に寝ようとか提案しておいて何を考えているのやらとも思うが、聖女なりにまだ僕のことを疑っているのだろう。熱心な聖職者というのは時に厄介なものである。
しかしながら、レティと寝るのは慣れてきたものの、さすがに聖女と同じ布団で寝れるわけがない。明日も寝不足決定だな……。
「あのね、レン君。そのスライムどけてもらえないかしら」
少しでも距離を置こうとスライムが間に挟まっていたのだけど今日はそれも許されないらしい。
「スライムは寝ている間に髪や身体をキレイにしてくれるんだよ」
「それはレティちゃんから聞いたから知ってます。どうりで二人とも美髪美肌だと思いました。農家なのに肌もとんでもなくきめ細かいし……」
「聖女様もスライムをテイムすればもっと清潔でいられますよ」
「わ、私はテイマーではありませんから! あと、私が汚いみたいな言い方はやめてください」
温泉に入れないものの、最近はレティの部屋で寝る時はスライムを貸してもらえるらしく、聖女の髪や肌はキレイに保たれている。もちろん一緒に寝ているリタも同様だ。
僕がテイムしたスライムなのにレティの指示で敵の身を清めるとは。それにしても二人はいつの間にそんなに仲良くなったのだろう。
「悪かったよ。スライム、今日はいいからレティのところへ行ってくれるか?」
聖女も本気なのだろう。今夜は暗黒魔法を一切感じさせないよう僕も気合を入れる必要がある。
「レティちゃんが自慢してました。レン君の背中がとっても温かくて抱きしめるとすぐに寝れるって」
妹よ、何故に聖女にそんなことを言うのだ。ガールズトークってやつなのか? そんなの何の自慢にもならないからな。
「ですので、今夜は私もその背中をお借りしますね」
「え、えっ、えっー」
いつにも増して積極的に僕の魔力を探りにくるらしい。くっ、徹夜決定か……。
するすると腕を伸ばしながら僕の心臓を掴まんとする勢いでくっついてくる。この体勢は完全にレティにされているいつものバックホールド状態だ。問題はこれがレティではなく聖女であるということだろう。
「ち、ちょっ、近すぎませんか? そ、その胸も当たってますし」
すぐ後ろに感じる聖女の吐息。何でお前そんなに息が荒いんだよ。
「あ、当ててるんです……。し、静かにしてもらえませんか」
く、くそっ、魔力というのは心臓近くにある臓器から生み出されている。そうやって僕の魔力を分析しようとしているのだろう。聖女め、純真無垢な癖に捨て身の作戦か。
「あ、温かいです……。それにこの感じ、前にも感じたことがあるような気がします」
ま、まさか、僕が魔王だとバレてないだろうな……。
さすがにこれだけ密着されてしまえば何かしら魔力の痕跡がわかってしまうのかもしれない。魔力量だけなら人の世界でも上位の聖女。やはり迂闊に寝室に入れるべきではなかった。
この絶望的な状況を乗り切るのは、聖女をやるしかないのか……。
しかしながら、今の僕の魔力では攻撃力がそこまででもない聖女が相手とはいえ返り討ちにされる可能系が高い。いや、リタを呼べばいけるか……。落ち着け、気取られるな。殺気を隠すんだ。
「あの時です。私が蜘蛛の糸で眠らされた時に感じた温かくて優しい背中です。レン君は私を助けて運んでくれたのですよね」
あ、あっれ……。何か違うっぽい。
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