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一章
19 温泉
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僕たちはすぐに温泉が湧き出たという大木のある森へと向かうことになった。メンバーは発見した青年と村長。それから聖女とリタに僕。大司教様は森まで歩くのがつらいとのことで冷やしトマクの実の試食をすることにしたようだ。
「聖女よ、あとでちゃんと報告するように」
「かしこまりました」
聖女が来るのが厄介といえば厄介。とはいえ、あれからかなり日も経つし魔力の痕跡などほとんど残っていないだろう。きっと大丈夫。念のためスライム二匹を先に向かわせたので問題があっても隠してくれるだろう。
それよりも驚いたのは獄炎が温泉を誘引したことだ。そんなことがあるとは知らなかった。
「何か気になることでもありましたか?」
「い、いえ。何もないですよ。本当に温泉が湧き出たのならルミナス村や今後訪れる観光客にとっても良いことでしょう」
「そうですね。私も温泉に入れるのがとても楽しみです」
温泉に入ることで体調が良くなったり、腰痛がとれたりと迷信のように信じられている。これは温泉に含まれる魔力成分によって変わってくるのだけど、今回の場合はおそらく、いや間違いなく暗黒魔法が影響してしまっている。
暗黒属性の魔力が含まれた温泉って人が入っても大丈夫なのか不安しかない。少なくとも聖光魔法を操る聖女とか真逆の属性なので心配だ。
「……ええ。入れるといいですね」
「レン君は心配性なんですね。あれだけ吹き出してるのですからすぐに枯渇するようなことはないと思いますよ」
目の前にはダイナミックに吹き上がっている源泉が見えてきた。見た目にも圧倒的に黒い。あれは土や泥が混ざってるからではなく、紛れもなく暗黒属性による黒い温泉だ。
とりあえず、スライムからの連絡が入ってきて、温泉は暗黒魔法が影響しているのは間違いないようで、今さら違う属性に変更できることなど不可能とのこと。
そうですか……。そうですよねー。
隣を歩くリタが胸を張るようにして任せろとジェスチャーをしている。
「リタに任せて」
「お、おおう」
さっきもそんなことを言っていたような気がするが、何でこんなにも自信満々なのだろう。信じていいのか微妙なところだが、他に手がないのも事実。ここは任せるしかない。
「聖女様、黒い温泉というのは珍しいのでしょうか?」
「温泉の成分によっては白濁色や錆色の湯が湧いていることもあるそうです。黒い湯にどのような効能があるのかわかりませんが、そう珍しいことではないでしょう」
なるほど。温泉にいろいろな色があってよかった。
「聖女様は温泉がお好きなんですね」
「温かい湯に全身をつかれることはそうないですからね。以前入った温泉では体の疲れがとれ、とてもリラックスできました。温泉は美容にもいいとききます。きっとレティちゃんも喜ぶでしょう」
「みなさん、そろそろです。足下が滑りますのでご注意ください」
大木の前は陥没しており、吹き出した湯はそこに溜まりはじめている。かなり湯気が立ち昇っていることからも湯の温度はかなり高そうに思える。
「これは確かに温泉ですな。どれ、温度はどのくらいかの」
村長は迷いなく湯に手を入れていく。いや、これが暗黒属性が含まれている湯だとは思っていないからだけど。
「だ、大丈夫ですか?」
「何をそんなに焦っている。ただの湯じゃよ」
「こ、これは……」
「どうしました村長!」
「ぽかぽかしていいのう。腰痛にも効き目がありそうじゃわい」
驚かせないでもらいたい。でもこれでこの湯が危険なものではないということがわかった。暗黒属性といってもただの一属性にすぎない。心配しすぎたか。
「私も確認してみますね」
問題は聖女だ。魔法を熟知しているだけに何か感じることもあるだろう。しかも自分と相性の悪い暗黒属性が含まれているのだ。
「な、なんだかピリピリしますね……。これに全身を浸かるのはちょっとこわい気がします」
「そうですかのう? 私には気持ちいいだけの湯に思えますが」
村長と聖女の意見が異なるのは村長に魔力がほとんどないからだろう。やはり、聖光魔法とは愛称が悪いらしい。
「ここはリタが巣を作ろうとした場所。いっぱい糸を出したから、この周辺は暗黒魔法に溢れていた」
「暗黒魔法!?」
「そう。だから聖女はこの温泉がきっと苦手。普通の人は問題なく入れるけど」
「な、なんですって!」
聖女が絶望的な表情で天を仰いでいる。温泉が好きな聖女にとって、せっかく近くに湧いた湯に浸かれないというのは少し可哀想に思えなくもない。
「この湯には暗黒属性が含まれている。強い光属性や聖光属性を持つ者はきっと入れない。でも一般観光客はもちろん、ルミナス村の人は全員普通に入れるし、肩凝り腰痛、疲労回復に効果ある」
「そ、そんなー」
「ほう。ということは、神獣様がこの温泉を産み出してくださったのですな」
リタ、グッジョブだ! そして、村長ナイス勘違い! 僕の暗黒魔法を隠しつつ神獣である自分が進化する前の属性で温泉を誘引した感じになった。
効果効能が本当かどうかはわからないけど、こういうのはきっと雰囲気が大事。黒い湯はそういう意味でも何かいろいろ含まれているような感じにさせる。この流れ悪くない。
「すぐに村まで湯をひく手配を進めましょう。この湯は神獣様の湯です! 大司教様には工事費用を工面してもらわねばなりませんな」
「うう、温泉に私だけ入れないの……」
気落ちしている聖女には悪いが、ルミナス村の新しい観光資源が奇跡的に誕生してしまった。
「聖女よ、あとでちゃんと報告するように」
「かしこまりました」
聖女が来るのが厄介といえば厄介。とはいえ、あれからかなり日も経つし魔力の痕跡などほとんど残っていないだろう。きっと大丈夫。念のためスライム二匹を先に向かわせたので問題があっても隠してくれるだろう。
それよりも驚いたのは獄炎が温泉を誘引したことだ。そんなことがあるとは知らなかった。
「何か気になることでもありましたか?」
「い、いえ。何もないですよ。本当に温泉が湧き出たのならルミナス村や今後訪れる観光客にとっても良いことでしょう」
「そうですね。私も温泉に入れるのがとても楽しみです」
温泉に入ることで体調が良くなったり、腰痛がとれたりと迷信のように信じられている。これは温泉に含まれる魔力成分によって変わってくるのだけど、今回の場合はおそらく、いや間違いなく暗黒魔法が影響してしまっている。
暗黒属性の魔力が含まれた温泉って人が入っても大丈夫なのか不安しかない。少なくとも聖光魔法を操る聖女とか真逆の属性なので心配だ。
「……ええ。入れるといいですね」
「レン君は心配性なんですね。あれだけ吹き出してるのですからすぐに枯渇するようなことはないと思いますよ」
目の前にはダイナミックに吹き上がっている源泉が見えてきた。見た目にも圧倒的に黒い。あれは土や泥が混ざってるからではなく、紛れもなく暗黒属性による黒い温泉だ。
とりあえず、スライムからの連絡が入ってきて、温泉は暗黒魔法が影響しているのは間違いないようで、今さら違う属性に変更できることなど不可能とのこと。
そうですか……。そうですよねー。
隣を歩くリタが胸を張るようにして任せろとジェスチャーをしている。
「リタに任せて」
「お、おおう」
さっきもそんなことを言っていたような気がするが、何でこんなにも自信満々なのだろう。信じていいのか微妙なところだが、他に手がないのも事実。ここは任せるしかない。
「聖女様、黒い温泉というのは珍しいのでしょうか?」
「温泉の成分によっては白濁色や錆色の湯が湧いていることもあるそうです。黒い湯にどのような効能があるのかわかりませんが、そう珍しいことではないでしょう」
なるほど。温泉にいろいろな色があってよかった。
「聖女様は温泉がお好きなんですね」
「温かい湯に全身をつかれることはそうないですからね。以前入った温泉では体の疲れがとれ、とてもリラックスできました。温泉は美容にもいいとききます。きっとレティちゃんも喜ぶでしょう」
「みなさん、そろそろです。足下が滑りますのでご注意ください」
大木の前は陥没しており、吹き出した湯はそこに溜まりはじめている。かなり湯気が立ち昇っていることからも湯の温度はかなり高そうに思える。
「これは確かに温泉ですな。どれ、温度はどのくらいかの」
村長は迷いなく湯に手を入れていく。いや、これが暗黒属性が含まれている湯だとは思っていないからだけど。
「だ、大丈夫ですか?」
「何をそんなに焦っている。ただの湯じゃよ」
「こ、これは……」
「どうしました村長!」
「ぽかぽかしていいのう。腰痛にも効き目がありそうじゃわい」
驚かせないでもらいたい。でもこれでこの湯が危険なものではないということがわかった。暗黒属性といってもただの一属性にすぎない。心配しすぎたか。
「私も確認してみますね」
問題は聖女だ。魔法を熟知しているだけに何か感じることもあるだろう。しかも自分と相性の悪い暗黒属性が含まれているのだ。
「な、なんだかピリピリしますね……。これに全身を浸かるのはちょっとこわい気がします」
「そうですかのう? 私には気持ちいいだけの湯に思えますが」
村長と聖女の意見が異なるのは村長に魔力がほとんどないからだろう。やはり、聖光魔法とは愛称が悪いらしい。
「ここはリタが巣を作ろうとした場所。いっぱい糸を出したから、この周辺は暗黒魔法に溢れていた」
「暗黒魔法!?」
「そう。だから聖女はこの温泉がきっと苦手。普通の人は問題なく入れるけど」
「な、なんですって!」
聖女が絶望的な表情で天を仰いでいる。温泉が好きな聖女にとって、せっかく近くに湧いた湯に浸かれないというのは少し可哀想に思えなくもない。
「この湯には暗黒属性が含まれている。強い光属性や聖光属性を持つ者はきっと入れない。でも一般観光客はもちろん、ルミナス村の人は全員普通に入れるし、肩凝り腰痛、疲労回復に効果ある」
「そ、そんなー」
「ほう。ということは、神獣様がこの温泉を産み出してくださったのですな」
リタ、グッジョブだ! そして、村長ナイス勘違い! 僕の暗黒魔法を隠しつつ神獣である自分が進化する前の属性で温泉を誘引した感じになった。
効果効能が本当かどうかはわからないけど、こういうのはきっと雰囲気が大事。黒い湯はそういう意味でも何かいろいろ含まれているような感じにさせる。この流れ悪くない。
「すぐに村まで湯をひく手配を進めましょう。この湯は神獣様の湯です! 大司教様には工事費用を工面してもらわねばなりませんな」
「うう、温泉に私だけ入れないの……」
気落ちしている聖女には悪いが、ルミナス村の新しい観光資源が奇跡的に誕生してしまった。
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