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一章

12 敵か味方かはたまた

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 村の入口に白い繭のようなものを見た時には、あの蜘蛛何てことしてくれるんだと思ったものだけど、この絶望的な状況を奇跡的に切り抜ける光の糸筋が見えてしまった。

 僕の言葉に驚きを隠しつつも聖女の顔はどこか納得してしまっている。点と点が繋がり完全に線となってしまっている、まさに腑に落ちてしまったような表情。

 あとは聖女が勇者や村の人達に説明してくれることだろう。僕の役目はここまでだ。僕はこの難局を乗り切ったのだ。

「勇者様、それからルミナス村のみなさんに私から話がございます。今から話すことはまだ予測の範疇になりますが、おそらくこの村に起きていたことの説明になるはずです」

「ミルフィーヌ、何かわかったのか?」

「はい」

 それから聖女が話したことは全て僕の思惑どおりに進んでいった。昨日の夜のこと。勇者パーティが見た黒い影は蜘蛛のモンスターである可能性が高いということ。そして、その蜘蛛が大好きなトマクの実をもらえる村周辺のモンスターを狩り尽くしていたということ。

「正直に言いますと、最初はレン君の黒いスライムを疑っていました。昨夜呼び出したのはレン君のことを怪しんでいたからです。でも、ごめんなさい。どうやら私が間違っていたようです。夜の森に呼び出してあなたを危険な目に遭わせてしまいました。それから……私を助けてくれてありがとうございます」

「い、いえ、僕は当然のことをしたまでです」

「そうか。レティさんのお兄さんだけあって信頼出来る方ですね。僕からもお礼を言わせてください。聖女を、ミルフィーヌを助けてくれてありがとうございます」

 勇者パーティにおける聖女ミルフィーヌの評価は高いのだろう。剣聖も賢者も特に怪しむようなところはない。勇者に至っては僕がレティの兄だからという理由だけで信用しているけども。

 うむ、思いの外ちょろいな勇者パーティ。

 勇者とレティを近づけることは兄として断じて許さないが、何かあった時に助けてくれそうな気もするので微妙な距離感というのをとりながら様子を見てもいいのかもしれない。

 どうせこのロリコンはレティがあと二つぐらい歳を重ねれば興味も失せていくだろう。近頃は食事の量も増えてきているし、すぐに成長期に入っていく。

 これでルミナス村の観光地化の流れは止まらない。村のみんなも喜ぶだろうし、僕も広くなった畑をのんびり耕したい。


 ところがここで村人の一人が気になることを発言してしまった。

「その蜘蛛のモンスターっていうのは本当に信用していいのか?」

 村のことを思うならスルーすべきところ。いつも優しい村長ですら発言した村人を思わず睨みつけている。そんなことでは魅惑の観光産業が一気に遠ざかってしまうではないか。

「今までルミナス村周辺に現れるモンスターを退治してくれてたんだろ? だったらいいモンスターじゃねぇか。寧ろ神獣様じゃねぇか」
「でもモンスターだぞ」
「普通のモンスターはお礼にヒュージディアを持ってこないだろ」

「そ、村長、どうしたらいいんじゃ」

「む、むう。聖女様はどう思われますか? 聖女様は実際にそのモンスターと相対したのでございましょう」

「と言われましても、実際に目にしたのはレン君だけで、私はその姿を見たわけではございません。確かにどこまで信じていいのか……」

 くっ、村人Aのせいで振り出しに戻ってしまった。とはいえ、蜘蛛のモンスターが近くにいる観光地で人を集めていいのだろうか。微妙な気がする。というか無理だよね。

 ここで話を聞いていた勇者アシュレイが手を挙げて打開策を思いついたとばかりに発言をする。

「それなら、僕がルミナス村を拠点にしてクエストを継続しよう。内容は変更して、ルミナス村を守る黒き神獣が信用出来るモンスターであるか、でどうかな?」

 勇者がルミナス村に一人残ってクエストを継続するのはレティと少しでも一緒にいたいからに違いない。このロリコンの思考など手に取るようにわかる。

 しかしながら、現状においてはこの案に乗るしかない。ジャイアントスパイダーは定期的にトマクの実を与えていれば無茶なことはしないとは思う。元々は気の弱いモンスターだ。しかしながら意思疎通がとれているわけではないのだ。

 実を言うとジャイアントスパイダーは、すぐ近くにある木の上で身を隠しながらこちらの様子を窺っている。贈り物を喜んでもらえたかどうかが気になっているとかなのかもしれない。見つかると面倒だから絶対に出てきちゃダメだよ。

 そんな僕の想いが通じなかったのか、何を勘違いしたのかジャイアントスパイダーは隠れていた木をするすると降りてきて姿を現してしまった。

「く、蜘蛛のモンスターが出た!」
「あ、現れたぞー。本当にいたのか!」

 もちろん、人の言葉などわかるはずもないジャイアントスパイダー。ずいずいと村の入口に近づくと、僕の目の前までやって来てしまう。来るなっていう僕の気持ちが、間違ってトマクの実あるよ。とでも聞こえたのだろうか。臆病なモンスターのはずなのに随分と積極的じゃないか。

 だが問題はそこではない。敵か味方かはっきりしないモンスターがトコトコと僕を目指して歩いてきているという真実。

 みんなの僕を見る視線がとても痛い。多くの村人が何が起こっているのか見ているのだ。この五年培ってきた僕の信頼が崩れ去ってしまいそうで未だかつてない絶望感が漂っている。

 乗り切れるだろうか。いや、やるしかない。村人として一人の農家としてこの絶望的な状況に打ち勝ってみせる。

 落ち着け、深呼吸だ。まずは会話からはじめてみようか。

「トマクの実が足りなかったのか?」

 それとも僕の体にトマクの実の匂いでもついているのだろうか。まるでペットが飼い主を見つけたかのように足元でじゃれついてくる。くっ、何だか少しかわいい。

 後ろには村を守るように勇者パーティが武器を持って展開している。モンスターの行動が読めないだけにどうしたものか悩ましい。とりあえず敵対的な感じてはないんだよね。

 トマクの実をあげてみようか。村のみんなも勇者パーティだって餌付け出来ることがわかれば安心もするだろう。

「ほら、食べな」

 僕の持っていたトマクの実を手の上でそのまま食べ始めるジャイアントスパイダー。人の手のひらで食事をするモンスター。もう少し警戒してくれないと逆に僕が疑われそうで困る。

「大人しいな……」
「確かに敵意はなさそうだ」

 ジャイアントスパイダーの八つ目も青いままで興奮状態の赤ではない。何なら少し頭を撫でても大丈夫かもしれない。

 そうして僕がジャイアントスパイダーの頭に手を置いて撫で始めると、嬉しそうに頭を擦りつけようとしてくる。うん、やっぱりちょっとかわいい。

 そうして、次の瞬間ジャイアントスパイダーの体が眩しく光るとテイムが成功してしまった。

「え、え、えぇっー!」
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