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一章
9 聖女のピンチ
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聖女と僕の足元に何重もの糸が複雑に絡みつき動きを制限していた。
この仕業はおそらくジャイアントスパイダー。前に森の奥を確認した時、その姿を一度みかけたことがあった。
森の奥に生息しているモンスターなのだけど、臆病な性格のモンスターのため普段はこんな所まで来ることはない。よほどお腹を空かせてなければ……。
ああ、これは僕のせいでもあるのか。彼らの食料であるモンスターを減らされて山から降りて来ざるを得なかったのだろう。
「聖なる炎よ、この糸を焼き尽くせ!」
すぐに聖女が聖光魔法で糸を焼こうとするもその効果はほとんどない。ジャイアントスパイダーの糸は暗黒属性なので聖光魔法とは相性が悪いのだ。どう頑張っても糸を取り除くことは難しいだろう。繋がれたホーンラビットを怪しく思い、罠を掛けて待ち構えていたジャイアントスパイダーの勝利だ。
「レ、レン君、あなただけでも早く逃げて。村に行ってアシュレイ達を呼んでくるの!」
聖女ほど糸が絡みついてない僕を見て、何とか助けを呼んでもらいたいと思ったのだろうか。それともせめて僕だけでも助けたいと思っているのだろうか。
しかしながら、ジャイアントスパイダーの仕掛けた罠に入ってしまったからにはそう簡単に抜け出せるものではない。
もし僕がここから何とか脱出して村へ助けを求めに行ったとしても、聖女はその隙にジャイアントスパイダーに捕えられ、場合によってはそのまま捕食されてしまう可能性がある。
「は、早く……」
自分の糸を燃やそうとはせずに僕の足に絡みついた糸を頑張って燃やそうとしているのを見ると、自分のことは半ば諦めているのかもしれない。
聖女も気づいたのだろう。この糸は聖光魔法の炎では燃やし尽くすことは出来ない。
燃やすのならば同じ属性である暗黒魔法の獄炎の方がまだ効率がいい。
そしてこの糸だが、ただ粘着性の高い糸というわけではなく軽い毒と睡眠効果が付与されている。ジャイアントスパイダーの狩りは無抵抗の相手を安全に食べるというのが基本的な戦い方。本体の防御力や耐久値は思いの外に低い。
いくら聖女ミルフィーヌといえども、そろそろ意識を保つことも難しいか。目は虚ろになり手足には徐々に力も入らなくなっている。
「さすがは聖女なだけあって、なかなか精神力は強いようだけど、ここまで糸に捕えられてしまったらどうしようもないね」
聖女が眠りについたのを確認すると、僕は魔力を練っていく。もちろん使用する魔法は暗黒魔法。
「暗黒魔法、獄炎。絡みつく糸を全て燃やし尽くせ」
森の木々に繋がっていた糸は炎が移ると溶けるように簡単に消え去っていく。
そして絡みつく糸だけを溶かしつつ服や体には燃え移らない不思議な漆黒の炎。この獄炎はどちらかと言えば炎というよりも魔力そのものに近い。聖女にまとわりつくように絡まっていた糸もその服を燃やさずに糸だけを綺麗に消滅していく。
この獄炎の痕跡を消すには少し時間が掛かる。あとで聖女に調べられても面倒だ。いったん地中深くに隠しておこうか……。
驚いたのはジャイアントスパイダー。木の上から獲物の力が弱まった所を糸で入念に巻き上げ巣に持ち帰ろうとしていたのだろう。漆黒の炎が自身の周辺まで及ぶと、捕獲していたホーンラビットがぼとっと落ちてくる。
「本体はそこにいたのか」
以前確認したジャイアントスパイダーでおそらく間違いない。黒い体は闇夜にまぎれ、普段の青から警戒しているのか紅く光る目の数は八つ。
夜はジャイアントスパイダーにとっても活性の高い時刻。これがせめて日中であったのなら聖女も異変に気づけていたのかもしれない。
僕の魔法を見たジャイアントスパイダーはすぐに勝てないと悟ったのだろう。糸を切り離し森の奥へと逃げていった。
ジャイアントスパイダーは普段は大人しいモンスター。無闇に人を襲うことはないし、こちらから攻撃しないかぎり襲ってくることはない。これはスライムたちが周辺のモンスターを狩りすぎてしまったから。
「これは僕の責任だ、許してほしい。ほらっ、スライムたちジャイアントスパイダーにトマクの実をいっぱい持っていってあげて」
スライムたちが赤くみずみずしいトマクの実をジャイアントスパイダーを追いかけるように運んでいく。
彼らは雑食だ。何でも食べるが、魔力が多く含まれているものを特に好む。うちの野菜を気に入ってもらえるなら定期的にスライムたちに届けさせてもいいだろう。
気に入ってもらえると嬉しいんだけどな。
ふと、自分の足元を見ると「うん、ううん……」と少し艶かしい声を零す聖女様。あーそうか。軽いながらも毒に侵され、強制的に眠らされているのだったね。
「ところで、この聖女をどうするべきか……。さすがにここに置いていったら後で怒られるよね」
周辺にあった蜘蛛の糸は全て燃やし尽くした。聖女の足や腕に絡まっていた糸も全て取り除いたのだが、聖女が深い睡眠効果から起きることはしばらくない。
「しょうがない。うちに連れて帰るか」
この仕業はおそらくジャイアントスパイダー。前に森の奥を確認した時、その姿を一度みかけたことがあった。
森の奥に生息しているモンスターなのだけど、臆病な性格のモンスターのため普段はこんな所まで来ることはない。よほどお腹を空かせてなければ……。
ああ、これは僕のせいでもあるのか。彼らの食料であるモンスターを減らされて山から降りて来ざるを得なかったのだろう。
「聖なる炎よ、この糸を焼き尽くせ!」
すぐに聖女が聖光魔法で糸を焼こうとするもその効果はほとんどない。ジャイアントスパイダーの糸は暗黒属性なので聖光魔法とは相性が悪いのだ。どう頑張っても糸を取り除くことは難しいだろう。繋がれたホーンラビットを怪しく思い、罠を掛けて待ち構えていたジャイアントスパイダーの勝利だ。
「レ、レン君、あなただけでも早く逃げて。村に行ってアシュレイ達を呼んでくるの!」
聖女ほど糸が絡みついてない僕を見て、何とか助けを呼んでもらいたいと思ったのだろうか。それともせめて僕だけでも助けたいと思っているのだろうか。
しかしながら、ジャイアントスパイダーの仕掛けた罠に入ってしまったからにはそう簡単に抜け出せるものではない。
もし僕がここから何とか脱出して村へ助けを求めに行ったとしても、聖女はその隙にジャイアントスパイダーに捕えられ、場合によってはそのまま捕食されてしまう可能性がある。
「は、早く……」
自分の糸を燃やそうとはせずに僕の足に絡みついた糸を頑張って燃やそうとしているのを見ると、自分のことは半ば諦めているのかもしれない。
聖女も気づいたのだろう。この糸は聖光魔法の炎では燃やし尽くすことは出来ない。
燃やすのならば同じ属性である暗黒魔法の獄炎の方がまだ効率がいい。
そしてこの糸だが、ただ粘着性の高い糸というわけではなく軽い毒と睡眠効果が付与されている。ジャイアントスパイダーの狩りは無抵抗の相手を安全に食べるというのが基本的な戦い方。本体の防御力や耐久値は思いの外に低い。
いくら聖女ミルフィーヌといえども、そろそろ意識を保つことも難しいか。目は虚ろになり手足には徐々に力も入らなくなっている。
「さすがは聖女なだけあって、なかなか精神力は強いようだけど、ここまで糸に捕えられてしまったらどうしようもないね」
聖女が眠りについたのを確認すると、僕は魔力を練っていく。もちろん使用する魔法は暗黒魔法。
「暗黒魔法、獄炎。絡みつく糸を全て燃やし尽くせ」
森の木々に繋がっていた糸は炎が移ると溶けるように簡単に消え去っていく。
そして絡みつく糸だけを溶かしつつ服や体には燃え移らない不思議な漆黒の炎。この獄炎はどちらかと言えば炎というよりも魔力そのものに近い。聖女にまとわりつくように絡まっていた糸もその服を燃やさずに糸だけを綺麗に消滅していく。
この獄炎の痕跡を消すには少し時間が掛かる。あとで聖女に調べられても面倒だ。いったん地中深くに隠しておこうか……。
驚いたのはジャイアントスパイダー。木の上から獲物の力が弱まった所を糸で入念に巻き上げ巣に持ち帰ろうとしていたのだろう。漆黒の炎が自身の周辺まで及ぶと、捕獲していたホーンラビットがぼとっと落ちてくる。
「本体はそこにいたのか」
以前確認したジャイアントスパイダーでおそらく間違いない。黒い体は闇夜にまぎれ、普段の青から警戒しているのか紅く光る目の数は八つ。
夜はジャイアントスパイダーにとっても活性の高い時刻。これがせめて日中であったのなら聖女も異変に気づけていたのかもしれない。
僕の魔法を見たジャイアントスパイダーはすぐに勝てないと悟ったのだろう。糸を切り離し森の奥へと逃げていった。
ジャイアントスパイダーは普段は大人しいモンスター。無闇に人を襲うことはないし、こちらから攻撃しないかぎり襲ってくることはない。これはスライムたちが周辺のモンスターを狩りすぎてしまったから。
「これは僕の責任だ、許してほしい。ほらっ、スライムたちジャイアントスパイダーにトマクの実をいっぱい持っていってあげて」
スライムたちが赤くみずみずしいトマクの実をジャイアントスパイダーを追いかけるように運んでいく。
彼らは雑食だ。何でも食べるが、魔力が多く含まれているものを特に好む。うちの野菜を気に入ってもらえるなら定期的にスライムたちに届けさせてもいいだろう。
気に入ってもらえると嬉しいんだけどな。
ふと、自分の足元を見ると「うん、ううん……」と少し艶かしい声を零す聖女様。あーそうか。軽いながらも毒に侵され、強制的に眠らされているのだったね。
「ところで、この聖女をどうするべきか……。さすがにここに置いていったら後で怒られるよね」
周辺にあった蜘蛛の糸は全て燃やし尽くした。聖女の足や腕に絡まっていた糸も全て取り除いたのだが、聖女が深い睡眠効果から起きることはしばらくない。
「しょうがない。うちに連れて帰るか」
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