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一章
6 勇者パーティの到着
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ルミナス村では朝から勇者パーティのおもてなしということでお祝いの準備が進められている。こういった村仕事は率先してやるのが我が家の家訓だ。
ということで畑はスライムたちに任せて僕とレティは広場で宴の準備として大量のお肉を焼く係をしていた。
「おう、二人とも頑張ってるねぇ。勇者様方は今朝出発したって言うから昼過ぎには到着すると思うんだ。いっぱい美味しく焼いといてくれよ。このおもてなしでルミナス村が一大観光地になるかが決まるかもしれねぇんだ」
「了解しました。お任せください」
村のほとんどの人がルミナス村が観光地化した際には農家を辞めてしまうので、その眼差しはとてもギラギラしている。
僕としてはそのギラつきを農業に活かしてもらいたかったのだけど、観光産業というのはそれだけ魅力的な仕事なのだろう。僕にはよく分からないけど。
大型のワイルドボアを串刺しにして焼きムラが出ないように僕がぐるぐると回し、味つけと焦げ付かないように肉を削ぎ落としていくのがレティの仕事だ。
「お兄ちゃん、うちだけ農家を続けるの?」
「うん。うちにはスライムたちがいるし、村長さんからも頼まれちゃったからね」
「そっかー。レティも何か手伝えることあったら言ってね。ほらっ、出荷の箱詰めとか仕分けとか私でも出来ることあると思うし、これからはいろいろ教わりたいしさ」
管理する畑が十倍近くになる予定なので、レティにも気をつかわせてしまったのだろう。これも村の人がみんな畑を放棄するからだよね。
とはいえ、レティのやる気ある表情を無碍にするほど空気の読めない兄ではない。
「じゃあ家のこと以外でも少しづつお願いしようかな」
「うん、任せてっ!」
元気いっぱいの良い返事を頂けた。レティのこの笑顔のためならばお兄ちゃんはいくらでも頑張れると思うんだよね。
そうして作業をしていると村の入口辺りが急に騒がしくなってきた。どうやら勇者御一行が到着したらしい。想定していたよりもかなり早いな。こうして勇者パーティを迎え入れるのは魔王の時以来か。今は農家だけど。
「勇者様が到着されたぞー!」
それにしてもどうしようか。まだ全然お肉が焼けてないんだけど……。
するとここで不穏な空気が流れる。何やら村の入口が騒がしくなってきた。
「せ、聖女様、おやめくだせぇ」
「そ、それは違うんです! 待ってください」
歓迎ムードから一転、怪しげな雰囲気が漂よい始めている。一体何を揉めているのだろうか。
「お、お兄ちゃん」
「うん、ちょっと様子を見てくるよ」
「お兄ちゃん、私も行く」
揉めごとのありそうな場所にレティを連れていくのは反対だったのだけど、ここで一人残しておくよりも僕の近くにいた方がいいと思い連れて行くことにした。
そこでは多くの人だかりが出来ていて、村のみんなが何かを守るように勇者パーティと話をしている。
「何があったんですか?」
「あぁ、レン君! レン君のテイムしたスライムを聖女様が不吉な魔力を帯びているとか言い出したのよ」
「えっ、僕のスライムですか」
ダークネステイムは暗黒魔法だから普通のテイム魔法と違う点があったのかもしれない……。あの聖女弱かったし、そんな細かいこと気づかないと思ってたのにな。
「そこをどいてください。そのモンスターは危険です。すぐに討伐しなければなりません」
「ま、待ってくだせぇ。このスライムたちは村の農作業を手伝ってくれる大切な使役モンスターなんです」
「あなたたちは騙されているのでしょう。こんな黒いスライムは見たこともありません」
確かに弱いスライム種とはいえ、ブラックメタルスライムは希少種なので人の住むエリアで発見されたことなどなかったのだろう。ただ単に見た目が黒いから討伐されそうになってるのなら何とかなるか……。
「そりゃ毎日畑仕事をしていれば黒くもなりやすぜ。この土汚れは農家であることの証でさぁ」
上手いこと言ってるけど、ブラックメタルスライムは名前の通り最初から真っ黒だ。
「スライムをいじめないで!」
しまった。僕の後ろにいたと思っていたレティがスライムたちを助けに行ってしまった。
スライムを抱えるようにして聖女を睨みつけている。あまり大事にはしたくなかったが、レティが前に出た以上はお兄ちゃんも腹をくくるしかない。勇者パーティとは何かと縁があるようだ。
そう思い行動に移そうとしたところ、村長が僕の行くてを遮るように腕を出しつつレティに近づいて行った。ここは任せなさいということなのだろう。
御中元、御歳暮効果が如実に出ている。やはり我が家の家訓に間違いはなかった。
「あ、あのー、聖女様。こちらのスライムは本当に村人がテイムしたスライムでして、今まで人に危害を加えたことは一切ございません。それどころか、畑を世話してくれるかけがえのない仲間なのです」
「あなたは?」
「私はルミナス村の村長でございます」
「そうですか……。しかしながら、このスライムは怪しすぎます。少し様子を見させてください」
「あ、ありがとうございます」
「では、村長さん。少し話を聞かせてもらいたいのですが。そうですね、村長さんの家にこの黒いスライムをテイムした者を全員呼んでもらってもいいですか?」
「スライムをテイムした者ですか?」
「ええ、何人かいるのでしょう?」
聖女様は周りを見渡すようにして、前に出てきなさいとでも言うようにそう告げる。
ところが、ルミナス村の面々は少し考えるようにしながらも、僕を見つけると列が開けていった。
「それが、その……ですね。スライムをテイムした者は一人でございます。そこにいるレンと申す者です」
「ス、スライムの数は全部で何匹いるのですか? ここにいるだけでも六匹はいますよね? たった一人で複数のモンスターをテイム出来るのですか!? そ、そんなこと聞いたことありません!」
どうしよう。深く考えてなかったとはいえ、これは僕のせいでもある。普通のテイム魔法というのをもう少し把握しておくべきだった。
王都から近い村だからこそ治安もそこそこ良く、強いモンスターもいない。そんな場所に勇者パーティがやってくるなんて思いもしなかったのだ。
ここは、村の人に変な疑いを持たれる前に聖女を説得するしかない。こんな所でせっかく築きあげた居場所を失ってなるものか。
「では村長、勇者様方をすぐに案内いたしましょう。ささ、こちらになります」
「待ちたまえ」
そこには何故かレティの前に立ち、髪をかきあげながら白い歯を見せる勇者アシュレイがいた。
「こんな美しい方が守るスライムが怪しいわけがない。ミルフィーヌの思い違いじゃないのか?」
勇者のレティを見る目がいやらしい気がするのは僕だけだろうか。何となく気分の悪さを感じさせる。僕の勘が外れていればよいのだけど……。
ということで畑はスライムたちに任せて僕とレティは広場で宴の準備として大量のお肉を焼く係をしていた。
「おう、二人とも頑張ってるねぇ。勇者様方は今朝出発したって言うから昼過ぎには到着すると思うんだ。いっぱい美味しく焼いといてくれよ。このおもてなしでルミナス村が一大観光地になるかが決まるかもしれねぇんだ」
「了解しました。お任せください」
村のほとんどの人がルミナス村が観光地化した際には農家を辞めてしまうので、その眼差しはとてもギラギラしている。
僕としてはそのギラつきを農業に活かしてもらいたかったのだけど、観光産業というのはそれだけ魅力的な仕事なのだろう。僕にはよく分からないけど。
大型のワイルドボアを串刺しにして焼きムラが出ないように僕がぐるぐると回し、味つけと焦げ付かないように肉を削ぎ落としていくのがレティの仕事だ。
「お兄ちゃん、うちだけ農家を続けるの?」
「うん。うちにはスライムたちがいるし、村長さんからも頼まれちゃったからね」
「そっかー。レティも何か手伝えることあったら言ってね。ほらっ、出荷の箱詰めとか仕分けとか私でも出来ることあると思うし、これからはいろいろ教わりたいしさ」
管理する畑が十倍近くになる予定なので、レティにも気をつかわせてしまったのだろう。これも村の人がみんな畑を放棄するからだよね。
とはいえ、レティのやる気ある表情を無碍にするほど空気の読めない兄ではない。
「じゃあ家のこと以外でも少しづつお願いしようかな」
「うん、任せてっ!」
元気いっぱいの良い返事を頂けた。レティのこの笑顔のためならばお兄ちゃんはいくらでも頑張れると思うんだよね。
そうして作業をしていると村の入口辺りが急に騒がしくなってきた。どうやら勇者御一行が到着したらしい。想定していたよりもかなり早いな。こうして勇者パーティを迎え入れるのは魔王の時以来か。今は農家だけど。
「勇者様が到着されたぞー!」
それにしてもどうしようか。まだ全然お肉が焼けてないんだけど……。
するとここで不穏な空気が流れる。何やら村の入口が騒がしくなってきた。
「せ、聖女様、おやめくだせぇ」
「そ、それは違うんです! 待ってください」
歓迎ムードから一転、怪しげな雰囲気が漂よい始めている。一体何を揉めているのだろうか。
「お、お兄ちゃん」
「うん、ちょっと様子を見てくるよ」
「お兄ちゃん、私も行く」
揉めごとのありそうな場所にレティを連れていくのは反対だったのだけど、ここで一人残しておくよりも僕の近くにいた方がいいと思い連れて行くことにした。
そこでは多くの人だかりが出来ていて、村のみんなが何かを守るように勇者パーティと話をしている。
「何があったんですか?」
「あぁ、レン君! レン君のテイムしたスライムを聖女様が不吉な魔力を帯びているとか言い出したのよ」
「えっ、僕のスライムですか」
ダークネステイムは暗黒魔法だから普通のテイム魔法と違う点があったのかもしれない……。あの聖女弱かったし、そんな細かいこと気づかないと思ってたのにな。
「そこをどいてください。そのモンスターは危険です。すぐに討伐しなければなりません」
「ま、待ってくだせぇ。このスライムたちは村の農作業を手伝ってくれる大切な使役モンスターなんです」
「あなたたちは騙されているのでしょう。こんな黒いスライムは見たこともありません」
確かに弱いスライム種とはいえ、ブラックメタルスライムは希少種なので人の住むエリアで発見されたことなどなかったのだろう。ただ単に見た目が黒いから討伐されそうになってるのなら何とかなるか……。
「そりゃ毎日畑仕事をしていれば黒くもなりやすぜ。この土汚れは農家であることの証でさぁ」
上手いこと言ってるけど、ブラックメタルスライムは名前の通り最初から真っ黒だ。
「スライムをいじめないで!」
しまった。僕の後ろにいたと思っていたレティがスライムたちを助けに行ってしまった。
スライムを抱えるようにして聖女を睨みつけている。あまり大事にはしたくなかったが、レティが前に出た以上はお兄ちゃんも腹をくくるしかない。勇者パーティとは何かと縁があるようだ。
そう思い行動に移そうとしたところ、村長が僕の行くてを遮るように腕を出しつつレティに近づいて行った。ここは任せなさいということなのだろう。
御中元、御歳暮効果が如実に出ている。やはり我が家の家訓に間違いはなかった。
「あ、あのー、聖女様。こちらのスライムは本当に村人がテイムしたスライムでして、今まで人に危害を加えたことは一切ございません。それどころか、畑を世話してくれるかけがえのない仲間なのです」
「あなたは?」
「私はルミナス村の村長でございます」
「そうですか……。しかしながら、このスライムは怪しすぎます。少し様子を見させてください」
「あ、ありがとうございます」
「では、村長さん。少し話を聞かせてもらいたいのですが。そうですね、村長さんの家にこの黒いスライムをテイムした者を全員呼んでもらってもいいですか?」
「スライムをテイムした者ですか?」
「ええ、何人かいるのでしょう?」
聖女様は周りを見渡すようにして、前に出てきなさいとでも言うようにそう告げる。
ところが、ルミナス村の面々は少し考えるようにしながらも、僕を見つけると列が開けていった。
「それが、その……ですね。スライムをテイムした者は一人でございます。そこにいるレンと申す者です」
「ス、スライムの数は全部で何匹いるのですか? ここにいるだけでも六匹はいますよね? たった一人で複数のモンスターをテイム出来るのですか!? そ、そんなこと聞いたことありません!」
どうしよう。深く考えてなかったとはいえ、これは僕のせいでもある。普通のテイム魔法というのをもう少し把握しておくべきだった。
王都から近い村だからこそ治安もそこそこ良く、強いモンスターもいない。そんな場所に勇者パーティがやってくるなんて思いもしなかったのだ。
ここは、村の人に変な疑いを持たれる前に聖女を説得するしかない。こんな所でせっかく築きあげた居場所を失ってなるものか。
「では村長、勇者様方をすぐに案内いたしましょう。ささ、こちらになります」
「待ちたまえ」
そこには何故かレティの前に立ち、髪をかきあげながら白い歯を見せる勇者アシュレイがいた。
「こんな美しい方が守るスライムが怪しいわけがない。ミルフィーヌの思い違いじゃないのか?」
勇者のレティを見る目がいやらしい気がするのは僕だけだろうか。何となく気分の悪さを感じさせる。僕の勘が外れていればよいのだけど……。
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