上 下
118 / 151

117 ケツァルコアトル族

しおりを挟む
 僕が入口を入るのを見ると、前へ行かせようと道ができていく。それはおそらく長からの指示で僕に話をすることがあるのだろう。

 ドラゴンのそばにはアドリーシャが回復魔法を掛け続けており、アルベロもルイーズもその支援を手伝っていた。

「旅の者、我の回復だけでなく、グレーリノが危ないところを助けていただき感謝する」

「ぼ、僕一人でも全然平気だったけどな。時間は掛かったかもしれないけど……」

「おかげで、死ぬ前にこの子と話をする時間ができました」

 やはり、無理だったのか。隣で聞いていたグレーリノもあ然とした表情をしている。

「病ではないのですね」

 長はゆっくりと頷いた。

「私の命は間もなく尽きます。これは、寿命です」

「そんな、嘘だっ! 嘘……だよね?」

「グレーリノ、今からお前にケツァルコアトル族のことを教えるからしっかり聞くんだよ。あまり時間がないんだ」

「わ、わかったよ」

 長の話によると、風の谷の民とはケツァルコアトル族というドラゴンの種族なのだという。

 ケツァルコアトルはこの聖域を守るために代々代表となる長が受け持ってきた。ただ、一般的なドラゴンと違うのは、ドラゴンになれるのは次世代の代表となる一人のみというところ。

 長となった者は聖域へ風の魔力を供給し、この地に安寧と豊穣をもたらすのが役割。その代わりに、神様より風属性の付与という奇跡を与えることを許されている。

 人が多く訪れることで土地や空気の流れがよくなり、聖域に安定を保たせやすくなる。そのために、作物の輸出や風の属性付与をアピールしているのだとか。

「それじゃあ、僕が次の長になるってことなの?」

「そうだよ、グレーリノ。頭をこちらに寄せてごらん」

 長の差しだす大きな手に覆われるように頭を差しだすグレーリノ。

 その手からは温かそうな魔力とともに、長としての役割を伝えているのだと思う。長が最後の力を振り絞るようにして丁寧に大事に役目を果たそうとしている。

「これからはお前がみんなを守るんだよ」

「でも、僕は、まだ……」

「大丈夫。グレーリノ、お前ならきっと……。っと、すまない、そろそろ……時間のようだね」

 長を熱心に看病しているアドリーシャたちも首を横に振っている。急に力が抜けていくのを感じたようで、もう維持するのも難しくなっているのだろう。

「いやだよ。もっと一緒にいたいよ。もっとたくさんお話をしたかったのに」

「グレーリノ。お前は風の谷で一番若い、かわいい……我が子。最初はみんなが助けてくれる。だから、お前も……早くみんなを助けられるように頑張るんだよ。かわいい……我が子……よ……」

 目を閉じたドラゴンはそのまま力なく横たわっていく。ドラゴンの寿命ともなると途方もない時を生きてきたはずだ。

 その長旅が終焉を迎える。長からは、死を悲しむこともなければ、グレーリノを心配する様子もない。

 きっとここにいる風の谷の民がいればグレーリノを守り立ててくれると信じているのだろう。

 きっと代替りといっても何百年とか何千年の単位なんだろうし、何というかとんでもないタイミングで風の谷を訪れてしまったようだ。

 すると、聖域がまるでその身柄を回収するかのように長の体が光輝くと徐々にその姿が消えていってしまった。

 最後まで長のそばを離れずに光を追っていたグレーリノだったけど、決意を固めたのか涙を拭うようにして振り返った。

「何でかわからないけど、今日から僕が風の谷の長になった。まだわからないことがいっぱいある。だから、みんな僕を助けてほしい」

 風の谷の民への言葉を終えると同時にグレーリノはドラゴンの姿へと変わった。

 大きさはやはりまだ小さいながらも、その生命力というか迫力は、前任の長と比べても遜色ないように思える。

「ニールって呼ばれてたよね。君たちがこの地に来てくれたことで、僕は長の最期に立ち合えることができた。少しだったけど、話ができて本当に感謝している」

 長になったからなのか、前任から知識を得たからなのか、グレーリノはドラゴンの姿のままでこちらに話しかけてくる。

「だから、今度は僕が君たちのために最初の仕事をさせてほしい。風属性の付与が必要な人がいるんでしょ?」

「風属性付与が必要なのは三人。アルベロとルイーズ、それからキャットアイ」

「その三人は前に出て。必要な装備とミスリル宝石を持ってきて」

 装備ごとに必要な付与を確認していくと、グレーリノは聖域にゆっくりと入ると、アルベロの短弓ハジャーダ、ルイーズの疾風のレイピア、キャットアイのプジョーブーツに風属性を付与していった。

 付与が終わると、次はこれだと言わんばかりに長としての指示を出していく。

「長の……お父さんの旅立ちをみんなで祈ろう。今日から三日間はお祝いだ。同胞と一族を助けてくれた仲間もみんな一緒だ。盛大にやろう!」

 ということで、三日間お言葉に甘えてお祝いに参加させてもらった。こういう時に急ぎの旅ではないことがよかったと思う。

 旅というのは知らない人と知り合ったり、そこでしか見られない景色を観たり、美味しいものをいただくことが醍醐味だと思うんだよね。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】 ・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー! 十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。 そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。 その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。 さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。 柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。 しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。 人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。 そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。

処理中です...