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117 ケツァルコアトル族
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僕が入口を入るのを見ると、前へ行かせようと道ができていく。それはおそらく長からの指示で僕に話をすることがあるのだろう。
ドラゴンのそばにはアドリーシャが回復魔法を掛け続けており、アルベロもルイーズもその支援を手伝っていた。
「旅の者、我の回復だけでなく、グレーリノが危ないところを助けていただき感謝する」
「ぼ、僕一人でも全然平気だったけどな。時間は掛かったかもしれないけど……」
「おかげで、死ぬ前にこの子と話をする時間ができました」
やはり、無理だったのか。隣で聞いていたグレーリノもあ然とした表情をしている。
「病ではないのですね」
長はゆっくりと頷いた。
「私の命は間もなく尽きます。これは、寿命です」
「そんな、嘘だっ! 嘘……だよね?」
「グレーリノ、今からお前にケツァルコアトル族のことを教えるからしっかり聞くんだよ。あまり時間がないんだ」
「わ、わかったよ」
長の話によると、風の谷の民とはケツァルコアトル族というドラゴンの種族なのだという。
ケツァルコアトルはこの聖域を守るために代々代表となる長が受け持ってきた。ただ、一般的なドラゴンと違うのは、ドラゴンになれるのは次世代の代表となる一人のみというところ。
長となった者は聖域へ風の魔力を供給し、この地に安寧と豊穣をもたらすのが役割。その代わりに、神様より風属性の付与という奇跡を与えることを許されている。
人が多く訪れることで土地や空気の流れがよくなり、聖域に安定を保たせやすくなる。そのために、作物の輸出や風の属性付与をアピールしているのだとか。
「それじゃあ、僕が次の長になるってことなの?」
「そうだよ、グレーリノ。頭をこちらに寄せてごらん」
長の差しだす大きな手に覆われるように頭を差しだすグレーリノ。
その手からは温かそうな魔力とともに、長としての役割を伝えているのだと思う。長が最後の力を振り絞るようにして丁寧に大事に役目を果たそうとしている。
「これからはお前がみんなを守るんだよ」
「でも、僕は、まだ……」
「大丈夫。グレーリノ、お前ならきっと……。っと、すまない、そろそろ……時間のようだね」
長を熱心に看病しているアドリーシャたちも首を横に振っている。急に力が抜けていくのを感じたようで、もう維持するのも難しくなっているのだろう。
「いやだよ。もっと一緒にいたいよ。もっとたくさんお話をしたかったのに」
「グレーリノ。お前は風の谷で一番若い、かわいい……我が子。最初はみんなが助けてくれる。だから、お前も……早くみんなを助けられるように頑張るんだよ。かわいい……我が子……よ……」
目を閉じたドラゴンはそのまま力なく横たわっていく。ドラゴンの寿命ともなると途方もない時を生きてきたはずだ。
その長旅が終焉を迎える。長からは、死を悲しむこともなければ、グレーリノを心配する様子もない。
きっとここにいる風の谷の民がいればグレーリノを守り立ててくれると信じているのだろう。
きっと代替りといっても何百年とか何千年の単位なんだろうし、何というかとんでもないタイミングで風の谷を訪れてしまったようだ。
すると、聖域がまるでその身柄を回収するかのように長の体が光輝くと徐々にその姿が消えていってしまった。
最後まで長のそばを離れずに光を追っていたグレーリノだったけど、決意を固めたのか涙を拭うようにして振り返った。
「何でかわからないけど、今日から僕が風の谷の長になった。まだわからないことがいっぱいある。だから、みんな僕を助けてほしい」
風の谷の民への言葉を終えると同時にグレーリノはドラゴンの姿へと変わった。
大きさはやはりまだ小さいながらも、その生命力というか迫力は、前任の長と比べても遜色ないように思える。
「ニールって呼ばれてたよね。君たちがこの地に来てくれたことで、僕は長の最期に立ち合えることができた。少しだったけど、話ができて本当に感謝している」
長になったからなのか、前任から知識を得たからなのか、グレーリノはドラゴンの姿のままでこちらに話しかけてくる。
「だから、今度は僕が君たちのために最初の仕事をさせてほしい。風属性の付与が必要な人がいるんでしょ?」
「風属性付与が必要なのは三人。アルベロとルイーズ、それからキャットアイ」
「その三人は前に出て。必要な装備とミスリル宝石を持ってきて」
装備ごとに必要な付与を確認していくと、グレーリノは聖域にゆっくりと入ると、アルベロの短弓ハジャーダ、ルイーズの疾風のレイピア、キャットアイのプジョーブーツに風属性を付与していった。
付与が終わると、次はこれだと言わんばかりに長としての指示を出していく。
「長の……お父さんの旅立ちをみんなで祈ろう。今日から三日間はお祝いだ。同胞と一族を助けてくれた仲間もみんな一緒だ。盛大にやろう!」
ということで、三日間お言葉に甘えてお祝いに参加させてもらった。こういう時に急ぎの旅ではないことがよかったと思う。
旅というのは知らない人と知り合ったり、そこでしか見られない景色を観たり、美味しいものをいただくことが醍醐味だと思うんだよね。
ドラゴンのそばにはアドリーシャが回復魔法を掛け続けており、アルベロもルイーズもその支援を手伝っていた。
「旅の者、我の回復だけでなく、グレーリノが危ないところを助けていただき感謝する」
「ぼ、僕一人でも全然平気だったけどな。時間は掛かったかもしれないけど……」
「おかげで、死ぬ前にこの子と話をする時間ができました」
やはり、無理だったのか。隣で聞いていたグレーリノもあ然とした表情をしている。
「病ではないのですね」
長はゆっくりと頷いた。
「私の命は間もなく尽きます。これは、寿命です」
「そんな、嘘だっ! 嘘……だよね?」
「グレーリノ、今からお前にケツァルコアトル族のことを教えるからしっかり聞くんだよ。あまり時間がないんだ」
「わ、わかったよ」
長の話によると、風の谷の民とはケツァルコアトル族というドラゴンの種族なのだという。
ケツァルコアトルはこの聖域を守るために代々代表となる長が受け持ってきた。ただ、一般的なドラゴンと違うのは、ドラゴンになれるのは次世代の代表となる一人のみというところ。
長となった者は聖域へ風の魔力を供給し、この地に安寧と豊穣をもたらすのが役割。その代わりに、神様より風属性の付与という奇跡を与えることを許されている。
人が多く訪れることで土地や空気の流れがよくなり、聖域に安定を保たせやすくなる。そのために、作物の輸出や風の属性付与をアピールしているのだとか。
「それじゃあ、僕が次の長になるってことなの?」
「そうだよ、グレーリノ。頭をこちらに寄せてごらん」
長の差しだす大きな手に覆われるように頭を差しだすグレーリノ。
その手からは温かそうな魔力とともに、長としての役割を伝えているのだと思う。長が最後の力を振り絞るようにして丁寧に大事に役目を果たそうとしている。
「これからはお前がみんなを守るんだよ」
「でも、僕は、まだ……」
「大丈夫。グレーリノ、お前ならきっと……。っと、すまない、そろそろ……時間のようだね」
長を熱心に看病しているアドリーシャたちも首を横に振っている。急に力が抜けていくのを感じたようで、もう維持するのも難しくなっているのだろう。
「いやだよ。もっと一緒にいたいよ。もっとたくさんお話をしたかったのに」
「グレーリノ。お前は風の谷で一番若い、かわいい……我が子。最初はみんなが助けてくれる。だから、お前も……早くみんなを助けられるように頑張るんだよ。かわいい……我が子……よ……」
目を閉じたドラゴンはそのまま力なく横たわっていく。ドラゴンの寿命ともなると途方もない時を生きてきたはずだ。
その長旅が終焉を迎える。長からは、死を悲しむこともなければ、グレーリノを心配する様子もない。
きっとここにいる風の谷の民がいればグレーリノを守り立ててくれると信じているのだろう。
きっと代替りといっても何百年とか何千年の単位なんだろうし、何というかとんでもないタイミングで風の谷を訪れてしまったようだ。
すると、聖域がまるでその身柄を回収するかのように長の体が光輝くと徐々にその姿が消えていってしまった。
最後まで長のそばを離れずに光を追っていたグレーリノだったけど、決意を固めたのか涙を拭うようにして振り返った。
「何でかわからないけど、今日から僕が風の谷の長になった。まだわからないことがいっぱいある。だから、みんな僕を助けてほしい」
風の谷の民への言葉を終えると同時にグレーリノはドラゴンの姿へと変わった。
大きさはやはりまだ小さいながらも、その生命力というか迫力は、前任の長と比べても遜色ないように思える。
「ニールって呼ばれてたよね。君たちがこの地に来てくれたことで、僕は長の最期に立ち合えることができた。少しだったけど、話ができて本当に感謝している」
長になったからなのか、前任から知識を得たからなのか、グレーリノはドラゴンの姿のままでこちらに話しかけてくる。
「だから、今度は僕が君たちのために最初の仕事をさせてほしい。風属性の付与が必要な人がいるんでしょ?」
「風属性付与が必要なのは三人。アルベロとルイーズ、それからキャットアイ」
「その三人は前に出て。必要な装備とミスリル宝石を持ってきて」
装備ごとに必要な付与を確認していくと、グレーリノは聖域にゆっくりと入ると、アルベロの短弓ハジャーダ、ルイーズの疾風のレイピア、キャットアイのプジョーブーツに風属性を付与していった。
付与が終わると、次はこれだと言わんばかりに長としての指示を出していく。
「長の……お父さんの旅立ちをみんなで祈ろう。今日から三日間はお祝いだ。同胞と一族を助けてくれた仲間もみんな一緒だ。盛大にやろう!」
ということで、三日間お言葉に甘えてお祝いに参加させてもらった。こういう時に急ぎの旅ではないことがよかったと思う。
旅というのは知らない人と知り合ったり、そこでしか見られない景色を観たり、美味しいものをいただくことが醍醐味だと思うんだよね。
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