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116 ウインドフラワー

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「グレーリノ、花の採取方法とか、何か特別なことがあるならルリカラに伝えて。僕がインベントリに確保するから」

 こちらの言葉は理解しているのに、人の言葉を話せなくなってしまうのは何とももどかしい。

 少年の姿の時は普通に会話できていたのに、ドラゴンになったら会話ができないなんて。何というか、動きもそうだけどドラゴンに慣れていないという言葉がしっくりくる。

 確かにこのオウルベアは強ランクの魔物で間違いないけど、一般的に考えてもドラゴンはすべての生物の頂点にいるべき存在なわけで、グレーリノがここまで苦戦するのは何か理由があるとしか思えない。

 ルリカラと会話をしたグレーリノからの回答は、根に薬効成分があるため、周りの土ごと根を傷つけないように採取してほしいとのことだった。

 採取して戻ろうと思ったら自分のサイズではそれが無理なことを気づいたらしく、悩んでいたらオウルベアがやって来たらしい。

 まるで意味がわからない。

 いや、これは……そうか。グレーリノは今日はじめてドラゴンの姿になったということなのでないだろうか。そう考えれば納得がいく。

 妙薬がここにあることを知っていながら、誰も取りにこなかった。それは取りにいけなかったからなのだ。

 この花を採取できるのはドラゴンである長だけだったのだろう。ところが、何かしらの理由でグレーリノもドラゴンになれるようになった。

 それで何も考えずにここまで来たということか。

「キャットアイ、花は根を傷つけないように周りの土ごと採取して」

「了解にゃ」

 後ろでこそこそ動き回るキャットアイがいなくなったことで。オウルベアは前方のドラゴンに集中する。

「グレーリノ、頼むよ」

 大事な花に影響が出てしまう炎、氷系のスクロールは使えない。

 でも、僕には一つこの状況にピッタリなスクロールを持っている。

「ディルト」

 この魔法は敵を暗闇に包む補助魔法。シーデーモンとの戦いにおいて、アルベロの矢を隠すために使用したあのスクロールだ。

 今回はオウルベア単体に直接使わせてもらう。ドラゴンでの戦闘に慣れていないグレーリノでも数体は倒せているのだから、補助があれば倒すのにそう時間もかからないだろう。

 突如目の前が真っ暗になってしまったオウルベアは驚いてパニック状態に陥っている。

 その隙を逃さずにグレーリノはタックルで吹き飛ばし、倒れたオウルベアの首元をその鋭い牙で突き刺すようにして体ごと押さえつける。

 何とか逃げ出そうとするオウルベアだったが、しばらくしてあきらめたように体がだらりと力が抜けていった。

「いいスクロールを選択したにゃ」

 僕の隣には無事に花を採取したキャットアイとルリカラがいる。

 無事ミッションコンプリートだ。

 何とかオウルベアをすべて倒しきったグレーリノは興奮気味に雄叫びをあげていた。

 ドラゴンとしてはあまり褒められたような戦い方ではなかったかもしれないけどね。まあ、大事な花を確保できたことが嬉しかったのだろう。

 インベントリに入れたその花の名前は『ウインドフラワー』。まさしく風の谷のドラゴンが求める名前なのかもしれない。

 僕が階段を登りきって戻ると、待てないとばかりに人の姿に戻ったグレーリノが駆け寄ってくる。

「さっきは、ありがとう」

「ううん。こちらこそ、力になれてよかったよ」

「実はさ、さっき急にドラゴンになれたんだ。だから、長の病気を治す妙薬を取ってこようと思って下まで降りたんだけど、あいつらが邪魔をしてきて」

 まあ、予想通りだよ。僕から見てもドラゴン慣れしてなかったからね。

「そ、それで、あの花は?」

「はい。早く持っていってあげて」

「ありがとう!」

 僕からウインドフラワーを受け取ると、すぐに教会へと走っていった。これで長の体調が回復して風属性の付与をしてもらえたら僕たちも言うことはない。

 あとは、食料も多めに調達させてもらいたいかな。風の谷産の農作物は美味しいと聞いているからね。

 ここは一面のどかな畑が広がっており、ドラゴンとは思えないほどに手入れの行き届いた作物が立派に育っている。

 風も強いので風車が元気に回っているのを見ると、きっと小麦をひいているのだろう。

「僕たちも行こうか」

 あまり身内が大変な時に外部の人間が顔を出すのもなんだけど、もういろいろと関わってしまっているしね。

 何となく想像はできるけど、アドリーシャがディオスの使いすぎでふらふらになっているのをルイーズとアルベロが支えてマジックポーションを飲ませているとみた。

 アドリーシャはこういう時は無茶をするからね。さっきも使えない上級の回復魔法を使おうとしてたしね。


 しかしながら、教会に入るとその雰囲気は僕の予想していたものとは違っていた。

 飛び込んできたのはグレーリノの大きな声だった。

「な、何で治せないんだよ! せっかく取ってきたんだから、早く煎じてくれよ。こ、これを、長に飲ませてあげてよ!」

「違うの、違うの……グレーリノ」


「やっと……来たか。私の近くに来ておくれ……グレーリノ」

 話ができる程度までには回復したドラゴンだけど、どうにもその雰囲気は重い。
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