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114 風の谷の集落
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風の谷の集落は一面に畑が広がっており、教会のある一番奥側が切立った崖になっていて風が強い。この場所が風の谷と言われる由縁なのかもしれない。
教会に近づくにつれて風の勢いは増していく。何故こんな場所に教会を建てたのか。
いや、ここが聖域だからこそ、この場所に教会があるのだろう。
しかしながら、強い風もどこか力がないように感じる不思議な感覚があった。
「あそこが教会だね」
教会には入れきれない人たちが心配そうに祈っている。集落の人が全員この場所に集まっているのだろう。
何だかすごく声をかけづらい。でも、声をかけなければここで何が起こっているのかもわからないし、前に進むこともできない。
「あのー、すみません。何があったのですか?」
「外から来た人だね。悪いけど、今はそれどころじゃないんだよ。申し訳ないけど帰ってくれないか」
「そんな、困ります。風属性付与をしてもらいにここまでやってきたんです」
「それなら、尚更無理だよ。属性付与できる長が病で倒れてしまったんだ」
「それで、ここに人が集まっているのですか」
「見りゃわかるだろ……」
「あ、あの、私はイルミナ大聖堂で聖女見習いをしているアドリーシャと申します。もしよろしければ、ご病気の方の状態を見せてもらえないでしょうか」
「大聖堂の聖女だって」
「見習いだろう。どうする?」
「いや、しかし……」
「悩んでいる場合ではないじゃろう。長を救える可能性があるなら診てもらうべきじゃ。それにあれを見ろ」
「ま、まさか、同胞か」
「な、ならば、信じてもいいか」
風の谷の民が何人も集まって相談をはじめてしまった。病気となると、アドリーシャがどこまでの知識があって診断や治癒行為ができるのかわからない。
しかしながら、おそらく無償でやると思われるアドリーシャの好意をそこまで悩む理由がわからない。
「旅の方、長の状態を診てもらえないか。頼み申す」
「決して失礼のないようにな」
「それから、ここで見たことは誰にも言わないと約束してもらいたい」
「わかりました」
教会はとても大きく、中では大きな竜を囲うようにして風の谷の民が看病やお祈りを捧げている。
どうやら患者はドラゴンらしい。
緑色な体に白い羽毛のある十メートル近い大きなドラゴンが静かに横たわっている。
「えっ、ド、ドラゴン!?」
うろたえる僕たちと違い、アドリーシャはずんずんと進んでいくと、お腹のあたりや顔周りをじっくりと触診していく。
「な、何だ、この人間は」
「長に触るな!」
「この方はイルミナ大聖堂の聖女見習いとのことだ。長の状態を診てくれるそうだ。邪魔をするでない」
「し、しかし」
「わしらにできることは何もない。少しでも可能性があるのならすがりたい」
「わ、わかりました」
「み、見ろ。同胞がいるぞ」
「あ、あれは、ホワイトドラゴンか。何と珍しい」
同胞というのはルリカラのことだったらしい。ということは、ここにいる人たちは……。
何か聞いちゃいけないような雰囲気があるので黙っていよう。向こうから話してくれるまで聞いてはいけない雰囲気がある。
ルリカラがフレンドリーな感じの理由も何となくわかった。今まで見たことがなかった同種族に関心があるのだろう。
さっきからキョロキョロしたり、落ち着きがない。
「ルリカラ?」
すると、アドリーシャの後を追うように大きなドラゴンの元へと飛んでいった。
ルリカラから伝わる心の声は「弱っている。魔力が漏れている」だ。
やはりかなり深刻な状況らしい。
「ディオス」
アドリーシャが回復魔法をかけているものの、あまり効果が得られないのか首を横に振っている。
「ディオス、ディアル、ディアルマ!」
しかしながらその魔法は発動しない。
おそらくはまだアドリーシャが扱えない上位の回復魔法なのだろう。ディオスで体の一部が回復していくものの、その祝福も少しすると漏れ出てしまうように抜けていく。
「ニール様、このドラゴンは……もう長くないかもしれません」
すると、長の頭の上に飛び乗ったルリカラがおもむろにブレスを吐いた。吐いてしまった。
くしゃみレベルとかではなく、本気の偉大な聖なるブレスだ。
「ちょっ、ルリカラ!?」
一応、ぎりぎり調節はできていたようで何とか倒れずにいる。その足はぷるぷるしてるけども。
すると、奇跡が起こったのか、ドラゴンの目が開いた。
「おお、長の目が」
「目覚められた」
「大丈夫でございますか!」
『ホワイトドラゴンよ……すまぬな』
僕の心のなかにも響く優しい声が聞こえてくる。
『我の命は……間もなく尽きるであろう。ここへ、グレーリノを』
しかしながらグレーリノと呼ばれた者は一向に出てこない。
「あいつ、外で泣いていたような」
「おいっ、誰かグレーリノを呼んできてくれ」
どうやら、外で膝を抱えていた少年がグレーリノらしい。
すると、ルリカラが僕の方へ飛んできながら「グレーリノ、谷の底へ行った。一緒に追いかける」と伝えてきた。
追いかけると言っても、谷の底へどうやって追いかけるというのか。
それでもルリカラは「僕についてきて」と服を引っ張って強引に連れ出す。
「アドリーシャは引き続き回復魔法を。僕はグレーリノを探してくる」
「わ、わかりました」
すると、僕の隣を並走するようにキャットアイがついて来る。昼間から活動的な猫さんを久し振りに見る。
「自分もついていくにゃ」
「うん、ありがとう。キャットアイ」
教会に近づくにつれて風の勢いは増していく。何故こんな場所に教会を建てたのか。
いや、ここが聖域だからこそ、この場所に教会があるのだろう。
しかしながら、強い風もどこか力がないように感じる不思議な感覚があった。
「あそこが教会だね」
教会には入れきれない人たちが心配そうに祈っている。集落の人が全員この場所に集まっているのだろう。
何だかすごく声をかけづらい。でも、声をかけなければここで何が起こっているのかもわからないし、前に進むこともできない。
「あのー、すみません。何があったのですか?」
「外から来た人だね。悪いけど、今はそれどころじゃないんだよ。申し訳ないけど帰ってくれないか」
「そんな、困ります。風属性付与をしてもらいにここまでやってきたんです」
「それなら、尚更無理だよ。属性付与できる長が病で倒れてしまったんだ」
「それで、ここに人が集まっているのですか」
「見りゃわかるだろ……」
「あ、あの、私はイルミナ大聖堂で聖女見習いをしているアドリーシャと申します。もしよろしければ、ご病気の方の状態を見せてもらえないでしょうか」
「大聖堂の聖女だって」
「見習いだろう。どうする?」
「いや、しかし……」
「悩んでいる場合ではないじゃろう。長を救える可能性があるなら診てもらうべきじゃ。それにあれを見ろ」
「ま、まさか、同胞か」
「な、ならば、信じてもいいか」
風の谷の民が何人も集まって相談をはじめてしまった。病気となると、アドリーシャがどこまでの知識があって診断や治癒行為ができるのかわからない。
しかしながら、おそらく無償でやると思われるアドリーシャの好意をそこまで悩む理由がわからない。
「旅の方、長の状態を診てもらえないか。頼み申す」
「決して失礼のないようにな」
「それから、ここで見たことは誰にも言わないと約束してもらいたい」
「わかりました」
教会はとても大きく、中では大きな竜を囲うようにして風の谷の民が看病やお祈りを捧げている。
どうやら患者はドラゴンらしい。
緑色な体に白い羽毛のある十メートル近い大きなドラゴンが静かに横たわっている。
「えっ、ド、ドラゴン!?」
うろたえる僕たちと違い、アドリーシャはずんずんと進んでいくと、お腹のあたりや顔周りをじっくりと触診していく。
「な、何だ、この人間は」
「長に触るな!」
「この方はイルミナ大聖堂の聖女見習いとのことだ。長の状態を診てくれるそうだ。邪魔をするでない」
「し、しかし」
「わしらにできることは何もない。少しでも可能性があるのならすがりたい」
「わ、わかりました」
「み、見ろ。同胞がいるぞ」
「あ、あれは、ホワイトドラゴンか。何と珍しい」
同胞というのはルリカラのことだったらしい。ということは、ここにいる人たちは……。
何か聞いちゃいけないような雰囲気があるので黙っていよう。向こうから話してくれるまで聞いてはいけない雰囲気がある。
ルリカラがフレンドリーな感じの理由も何となくわかった。今まで見たことがなかった同種族に関心があるのだろう。
さっきからキョロキョロしたり、落ち着きがない。
「ルリカラ?」
すると、アドリーシャの後を追うように大きなドラゴンの元へと飛んでいった。
ルリカラから伝わる心の声は「弱っている。魔力が漏れている」だ。
やはりかなり深刻な状況らしい。
「ディオス」
アドリーシャが回復魔法をかけているものの、あまり効果が得られないのか首を横に振っている。
「ディオス、ディアル、ディアルマ!」
しかしながらその魔法は発動しない。
おそらくはまだアドリーシャが扱えない上位の回復魔法なのだろう。ディオスで体の一部が回復していくものの、その祝福も少しすると漏れ出てしまうように抜けていく。
「ニール様、このドラゴンは……もう長くないかもしれません」
すると、長の頭の上に飛び乗ったルリカラがおもむろにブレスを吐いた。吐いてしまった。
くしゃみレベルとかではなく、本気の偉大な聖なるブレスだ。
「ちょっ、ルリカラ!?」
一応、ぎりぎり調節はできていたようで何とか倒れずにいる。その足はぷるぷるしてるけども。
すると、奇跡が起こったのか、ドラゴンの目が開いた。
「おお、長の目が」
「目覚められた」
「大丈夫でございますか!」
『ホワイトドラゴンよ……すまぬな』
僕の心のなかにも響く優しい声が聞こえてくる。
『我の命は……間もなく尽きるであろう。ここへ、グレーリノを』
しかしながらグレーリノと呼ばれた者は一向に出てこない。
「あいつ、外で泣いていたような」
「おいっ、誰かグレーリノを呼んできてくれ」
どうやら、外で膝を抱えていた少年がグレーリノらしい。
すると、ルリカラが僕の方へ飛んできながら「グレーリノ、谷の底へ行った。一緒に追いかける」と伝えてきた。
追いかけると言っても、谷の底へどうやって追いかけるというのか。
それでもルリカラは「僕についてきて」と服を引っ張って強引に連れ出す。
「アドリーシャは引き続き回復魔法を。僕はグレーリノを探してくる」
「わ、わかりました」
すると、僕の隣を並走するようにキャットアイがついて来る。昼間から活動的な猫さんを久し振りに見る。
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