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99 大浴場
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コース料理を満喫した僕たちは大浴場へと向かっている。お酒を程々に切り上げたもののやはり旅の疲れがたまっているので眠くなってきている。
お湯に浸かったらぐっすり眠れそうな気がする。
「いやー、メインの肉料理美味しかったねー」
「あんなに肉厚なのに、中まで火が通っていて柔らかかったものね」
大聖堂の料理人さんは相当な腕前だ。夕食一回で完全に僕たちパーティの胃袋を掴んでしまった。
「キャットアイもくればよかったのにね」
「水浴びは嫌いって言ってたわ」
水浴びとはちょっと違う気もする。
バブルラグーンの海を泳いでいたのも、本当は嫌だったのだろうか。あの猫かきもかなりスピードは遅かった。まあ、シーデーモンは必ず倒すという気持ちの方が強かったのかもしれない。
「ルリカラは大丈夫なのー?」
「僕が大浴場にノリノリだから気になるらしいよ」
話をしようとすると、お互いの心が伝わるだけに僕とルリカラの信頼関係はかなり強くなっている。
これが人と人だったとしたらこうはいかないだろう。自分の気持が相手に筒抜けな状況というのは関係性を構築しにくくさせる。
ということなので、ルリカラの好きなもの、僕の好きなもの、気になっているもの、どう行動したいかなど。意思疎通がしっかりとれているからこそ相手のことも考えるようになる。
「じゃあ、男湯はこっちみたいだから」
「うん。またねー」
湯浴み文化というのがどの程度浸透しているのかわからなかったけど、ちゃんと男女で分かれていてよかった。
そもそも混浴だったら二人は入ったとしても時間をずらしていただろうけど。
脱衣所で服を脱いで、湯気の立っている大浴場に入ると、そこは和風な露天風呂ではなくて、西洋の神殿のような立派な大浴場だった。
「うん、これはこれで素晴らしいね」
「お褒めいただき、ありがとうございます」
「えっ!?」
「キュイ?」
男湯には僕とルリカラしかいないはず。ルリカラが雄なのかは知らないけど。
いやいや、今はそんなことを言っている場合ではない。この声は聖女見習いのアドリーシャさん。
僕の真後ろからアドリーシャさんの声が聞こえているのだ。
「あ、あの、アドリーシャさん。ここは男湯と聞いていたのですが」
「はい、存じております」
「じゃ、じゃあ、何で」
「湯浴み着なのでお気になさらないで結構でございます」
その言葉を信用して振り返ると、確かに湯浴み着を着たアドリーシャさんがいた。しかしながら、それはとても薄くお湯がかかったりしたらどうなってしまうのか、とても不安な生地薄めの湯浴み着。
「あ、あの、困ります」
「マリアンヌ様に長期間の同行についてお話いただいた御礼と、これから仲間としてよろしくお願いしますという気持ちでお背中をお流しさせていただきます」
「このことをマリアンヌさんは?」
「私の個人的な判断でございます」
あまり大きな声を出してしまうと、隣の女性用大浴場にも聞こえてしまうかもしれない。これからパーティメンバーとして行動をともにするのに、二人に変な疑念を与えてしまうのはよくない。
それならば、早めに背中を流してもらって出ていってもらったほうがいいか。
「……こういうのは今回だけでいいですからね」
「いえ、でも」
「大丈夫ですから」
「わかりました」
こんなことをアドリーシャさんのファン(信者)に見つかってしまったら、僕は抹殺されるのではないだろうか。
ルイーズとアルベロが知ってもどう思われるか心配になる。
すると、そこにルイーズの声が聞こえてくる。
「ねー、ニール、大浴場すごいねー。そっちの湯加減はどう?」
「だ、大丈夫だよ。ちょ、ちょうどいい感じ」
どうやら隣の女性用大浴場とは繋がっているようで、壁の上部には隙間が空いている。
「こんなに気持ちいいなら、明日も入りたいねー」
「そうだね。ひ、ひゃう」
すると、石けんの泡立てが終わったらしいアドリーシャさんが僕の背中を洗いはじめたのだ。
「どうしたのー?」
「あっ、いや、ルリカラがちょっとね……。だ、大丈夫」
「も、申し訳ございません。少しお湯が冷めていたようでございます」
「し、しー! 静かにお願いします」
「誰かいるのー?」
「い、いないよ。あっ、ルリカラだけ」
ルイーズが鋭くて困る。というか、これアルベロは気づいているんだろうな。彼女の索敵能力はキャットアイも信頼しているぐらいに高いのだ……。
とりあえずアルベロには隠さずに話をしておいた方がよさそうだ。
それにしても、同じ年ぐらいの女性と一緒にお風呂に入るとか、緊張しすぎて全く疲れがとれそうにない。しかも、聖女見習いランキングナンバーワンのアドリーシャさんなのだ。
薄めのブルーの髪と華奢な体型の割に大きな膨らみのある……って、さっき見たアドリーシャさんが頭から離れない。
「ルリカラ、おいで。お湯に浸かる前に僕が体を洗ってあげるから」
「キュイー」
僕は無心にルリカラをゴシゴシと洗うことで平静を装った。
ルリカラは水もお湯も気にすることなく洗われるのが好きなようで、石鹸の匂いも気にせずゴシゴシさせてくれる。
いつもアルベロの清浄魔法を受けているせいか、綺麗好きなドラゴンになってくれたようだ。
「あの、次は前を」
「ま、前は自分でやるので大丈夫です。体が冷えているでしょうから、少しお湯に浸かってから先にあがってください」
「はい。やはりニール様はお優しいのでございますね」
しばらくお湯に浸かったアドリーシャさんが出ていって、ようやくリラックスすることができた。せっかくのお風呂を精一杯満喫しなければ。
「気持ちいいね」
「キューイー」
ルリカラも気に入ってくれたようだ。
ルイーズじゃないけど、ここに滞在している間は毎日でも入らせてもらいたい。
お湯に浸かったらぐっすり眠れそうな気がする。
「いやー、メインの肉料理美味しかったねー」
「あんなに肉厚なのに、中まで火が通っていて柔らかかったものね」
大聖堂の料理人さんは相当な腕前だ。夕食一回で完全に僕たちパーティの胃袋を掴んでしまった。
「キャットアイもくればよかったのにね」
「水浴びは嫌いって言ってたわ」
水浴びとはちょっと違う気もする。
バブルラグーンの海を泳いでいたのも、本当は嫌だったのだろうか。あの猫かきもかなりスピードは遅かった。まあ、シーデーモンは必ず倒すという気持ちの方が強かったのかもしれない。
「ルリカラは大丈夫なのー?」
「僕が大浴場にノリノリだから気になるらしいよ」
話をしようとすると、お互いの心が伝わるだけに僕とルリカラの信頼関係はかなり強くなっている。
これが人と人だったとしたらこうはいかないだろう。自分の気持が相手に筒抜けな状況というのは関係性を構築しにくくさせる。
ということなので、ルリカラの好きなもの、僕の好きなもの、気になっているもの、どう行動したいかなど。意思疎通がしっかりとれているからこそ相手のことも考えるようになる。
「じゃあ、男湯はこっちみたいだから」
「うん。またねー」
湯浴み文化というのがどの程度浸透しているのかわからなかったけど、ちゃんと男女で分かれていてよかった。
そもそも混浴だったら二人は入ったとしても時間をずらしていただろうけど。
脱衣所で服を脱いで、湯気の立っている大浴場に入ると、そこは和風な露天風呂ではなくて、西洋の神殿のような立派な大浴場だった。
「うん、これはこれで素晴らしいね」
「お褒めいただき、ありがとうございます」
「えっ!?」
「キュイ?」
男湯には僕とルリカラしかいないはず。ルリカラが雄なのかは知らないけど。
いやいや、今はそんなことを言っている場合ではない。この声は聖女見習いのアドリーシャさん。
僕の真後ろからアドリーシャさんの声が聞こえているのだ。
「あ、あの、アドリーシャさん。ここは男湯と聞いていたのですが」
「はい、存じております」
「じゃ、じゃあ、何で」
「湯浴み着なのでお気になさらないで結構でございます」
その言葉を信用して振り返ると、確かに湯浴み着を着たアドリーシャさんがいた。しかしながら、それはとても薄くお湯がかかったりしたらどうなってしまうのか、とても不安な生地薄めの湯浴み着。
「あ、あの、困ります」
「マリアンヌ様に長期間の同行についてお話いただいた御礼と、これから仲間としてよろしくお願いしますという気持ちでお背中をお流しさせていただきます」
「このことをマリアンヌさんは?」
「私の個人的な判断でございます」
あまり大きな声を出してしまうと、隣の女性用大浴場にも聞こえてしまうかもしれない。これからパーティメンバーとして行動をともにするのに、二人に変な疑念を与えてしまうのはよくない。
それならば、早めに背中を流してもらって出ていってもらったほうがいいか。
「……こういうのは今回だけでいいですからね」
「いえ、でも」
「大丈夫ですから」
「わかりました」
こんなことをアドリーシャさんのファン(信者)に見つかってしまったら、僕は抹殺されるのではないだろうか。
ルイーズとアルベロが知ってもどう思われるか心配になる。
すると、そこにルイーズの声が聞こえてくる。
「ねー、ニール、大浴場すごいねー。そっちの湯加減はどう?」
「だ、大丈夫だよ。ちょ、ちょうどいい感じ」
どうやら隣の女性用大浴場とは繋がっているようで、壁の上部には隙間が空いている。
「こんなに気持ちいいなら、明日も入りたいねー」
「そうだね。ひ、ひゃう」
すると、石けんの泡立てが終わったらしいアドリーシャさんが僕の背中を洗いはじめたのだ。
「どうしたのー?」
「あっ、いや、ルリカラがちょっとね……。だ、大丈夫」
「も、申し訳ございません。少しお湯が冷めていたようでございます」
「し、しー! 静かにお願いします」
「誰かいるのー?」
「い、いないよ。あっ、ルリカラだけ」
ルイーズが鋭くて困る。というか、これアルベロは気づいているんだろうな。彼女の索敵能力はキャットアイも信頼しているぐらいに高いのだ……。
とりあえずアルベロには隠さずに話をしておいた方がよさそうだ。
それにしても、同じ年ぐらいの女性と一緒にお風呂に入るとか、緊張しすぎて全く疲れがとれそうにない。しかも、聖女見習いランキングナンバーワンのアドリーシャさんなのだ。
薄めのブルーの髪と華奢な体型の割に大きな膨らみのある……って、さっき見たアドリーシャさんが頭から離れない。
「ルリカラ、おいで。お湯に浸かる前に僕が体を洗ってあげるから」
「キュイー」
僕は無心にルリカラをゴシゴシと洗うことで平静を装った。
ルリカラは水もお湯も気にすることなく洗われるのが好きなようで、石鹸の匂いも気にせずゴシゴシさせてくれる。
いつもアルベロの清浄魔法を受けているせいか、綺麗好きなドラゴンになってくれたようだ。
「あの、次は前を」
「ま、前は自分でやるので大丈夫です。体が冷えているでしょうから、少しお湯に浸かってから先にあがってください」
「はい。やはりニール様はお優しいのでございますね」
しばらくお湯に浸かったアドリーシャさんが出ていって、ようやくリラックスすることができた。せっかくのお風呂を精一杯満喫しなければ。
「気持ちいいね」
「キューイー」
ルリカラも気に入ってくれたようだ。
ルイーズじゃないけど、ここに滞在している間は毎日でも入らせてもらいたい。
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