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89 アローヘッドとの戦い1
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あれからまた数日が経過して、僕たちは、ついに国境の街の手前まで辿り着いていた。
約一ヶ月近くにも及ぶ長い旅路は慣れていない僕にとってそれなりに大変だった。旅の疲労もあるし、言い知れぬ緊張感もある。
この場所にいるということはアローヘッドがいるわけで、僕たちは最後の難関に立ち向かうべく対峙しているわけなのである。
こちらの予想通り、アローヘッドは国境の街から少し離れた場所で待ち構えていた。
馬車と御者さんは遠回りするように先に国境の街へ行ってもらった。ここまでありがとう。
「君がニール君だね。仲間を守りたいなら投降することをおすすめしたいんだけど、どうかな?」
こう言っているということは、彼が捕まえようとしているのは僕一人ということらしい。
「残念だけど、お断りにゃ」
僕が言葉を発する前に、猫さんがバシッと断ってしまった。
「キャットアイ、ニール君を渡してくれたら金貨五十枚を出すよ。君がもらう護衛依頼の額をはるかに超えてるだろ?」
キャットアイと白金貨を分けて僕を連れ帰ろうという判断をしたのか。それだけ、キャットアイと戦うことを嫌がっているとも考えられる。
ここまで全力で駆けてきただけに、それなりに疲労を抱えているのは間違いない。
「何か勘違いしてるようにゃ。依頼ではなく自分の意志で行動をともにしてるにゃ」
「えっ、まさか……パーティ組んでるの?」
「そのまさかにゃ」
「いやいやいや、CランクとDランク二人のパーティにAランクの君が?」
「そうにゃ」
ずいぶんと失礼な物言いではあるものの、普通に考えてAランクのキャットアイがこのパーティにいるのはそれほど違和感があるのだろう。
僕たちのことを知っているキャットアイがパーティの将来性を見込んで参加している訳だけど、こうも当たり前のように言われると心に響くものがある。
アローヘッドの言葉の端々に僕たちを相手にしていないのだということは理解した。だが、あまり低ランクを舐めないでもらいたい。
「そうか……。では、残念だけど倒すしかないようだね。僕に勝てると思ってるの? キャットアイ」
戦いが始まったら、距離をとる。
「やってみるといいにゃ」
「へぇー、何か作戦でもあるのかい?」
キャットアイが前に出ると、アローヘッドは後ろに下がる。
彼からすると、キャットアイさえ倒せばこのクエストは終了だと思っている。
つまり、キャットアイとの一騎討ちは望むところで彼女との一対一であれば負けないと思っているのだ。
それはこちらもわかっているので、なるべく短い時間で準備をしていく。
「ニール!」
「了解」
僕の役割はインベントリで地面を切りとって壁をつくっていくこと。一回でインベントリに一メートル×二メートル×三メートル高さの塊が抜き取られ、そのすぐ後ろに建てていく。
キャットアイがアローヘッドを引き受けている間に、数秒で堀と壁を連続でつくりあげていくのだ。
何度も何度も繰り返して、簡易的な拠点をつくりあげる。数秒のうちに堀と土の壁の拠点が完成する。
「お、おいっ、何なんだよ、それは!」
壁の高さはさらに上げていく。そう、二段重ねだ。そして、その塊の上にはアルベロが乗り、すでに短弓ハジャーダを構えている。
「まずは一つ目の拠点完成っと」
深い堀に囲まれて、そびえ立つようにぶ厚い土の塊がっている。
ここまでに要した時間、約三十秒。
キャットアイが全力を出せば五分近くは稼げるだろうとのことだった。
僕たちはその五分の間にアローヘッドを囲うように安全な拠点を造りあげ、その土の塊の上から一方的に攻撃をさせてもらう。
さすがに高さ六メートルのぶ厚い土の塊を簡単に壊すことなど一人では無理というもの。しかも堀の深さ三メートルを入れたら総高さ九メートルになる。いくらAランク冒険者でもこれを登るのは簡単ではない。
「ちっ、ふざけるな! そんなもの何個も造らせてたまるか」
「どこを見てるにゃ? お前の相手はここにゃ」
最初から全力で向かってくるキャットアイを相手に簡単には動けそうにないアローヘッド。
その焦りはいつもなら見えているものも見えなくさせてしまう。それは、ここまで駆けてきた寝不足状態から来るものなのか、それとも、意外性の男、ニールの動きに惑わされたからなのか。
その矢は、一瞬距離をとったキャットアイと入れ替わるように飛んできた。
ビュンッ!
まるでキャットアイの動きを予測していたかのように連携のとれた攻撃をアローヘッドは避けられなかった。
「ぐおおぁぁぁあああー」
右の太ももに矢が爆発せずに突き刺さる。
シーデーモンの腕とか吹き飛ばしていた短弓ハジャーダの攻撃を抑え込んだアローヘッドの耐久値はさすがである。
しかしながら、これで俊敏性はかなり落ちる。堀に落としたら登るのも大変だろう。
アルベロの攻撃が終わった頃には、もうルイーズの拠点が完成していた。
「ニール、もう後ろの階段も消しちゃっていいよー」
「うん、了解」
遠距離攻撃の少ないアローヘッドからしたら拠点の数が増えてしまうことは不利になる。
なら、撤退をするか?
いや、足に怪我を負った時点でそれを許してくれるキャットアイではない。
さらにアルベロの短弓ハジャーダがリカバリーポーションを飲む隙も与えない。
そして、ルイーズの拠点から放たれるのは魔法だ。
「マハリト!」
範囲爆炎魔法がアローヘッドをさらに追い詰める。
約一ヶ月近くにも及ぶ長い旅路は慣れていない僕にとってそれなりに大変だった。旅の疲労もあるし、言い知れぬ緊張感もある。
この場所にいるということはアローヘッドがいるわけで、僕たちは最後の難関に立ち向かうべく対峙しているわけなのである。
こちらの予想通り、アローヘッドは国境の街から少し離れた場所で待ち構えていた。
馬車と御者さんは遠回りするように先に国境の街へ行ってもらった。ここまでありがとう。
「君がニール君だね。仲間を守りたいなら投降することをおすすめしたいんだけど、どうかな?」
こう言っているということは、彼が捕まえようとしているのは僕一人ということらしい。
「残念だけど、お断りにゃ」
僕が言葉を発する前に、猫さんがバシッと断ってしまった。
「キャットアイ、ニール君を渡してくれたら金貨五十枚を出すよ。君がもらう護衛依頼の額をはるかに超えてるだろ?」
キャットアイと白金貨を分けて僕を連れ帰ろうという判断をしたのか。それだけ、キャットアイと戦うことを嫌がっているとも考えられる。
ここまで全力で駆けてきただけに、それなりに疲労を抱えているのは間違いない。
「何か勘違いしてるようにゃ。依頼ではなく自分の意志で行動をともにしてるにゃ」
「えっ、まさか……パーティ組んでるの?」
「そのまさかにゃ」
「いやいやいや、CランクとDランク二人のパーティにAランクの君が?」
「そうにゃ」
ずいぶんと失礼な物言いではあるものの、普通に考えてAランクのキャットアイがこのパーティにいるのはそれほど違和感があるのだろう。
僕たちのことを知っているキャットアイがパーティの将来性を見込んで参加している訳だけど、こうも当たり前のように言われると心に響くものがある。
アローヘッドの言葉の端々に僕たちを相手にしていないのだということは理解した。だが、あまり低ランクを舐めないでもらいたい。
「そうか……。では、残念だけど倒すしかないようだね。僕に勝てると思ってるの? キャットアイ」
戦いが始まったら、距離をとる。
「やってみるといいにゃ」
「へぇー、何か作戦でもあるのかい?」
キャットアイが前に出ると、アローヘッドは後ろに下がる。
彼からすると、キャットアイさえ倒せばこのクエストは終了だと思っている。
つまり、キャットアイとの一騎討ちは望むところで彼女との一対一であれば負けないと思っているのだ。
それはこちらもわかっているので、なるべく短い時間で準備をしていく。
「ニール!」
「了解」
僕の役割はインベントリで地面を切りとって壁をつくっていくこと。一回でインベントリに一メートル×二メートル×三メートル高さの塊が抜き取られ、そのすぐ後ろに建てていく。
キャットアイがアローヘッドを引き受けている間に、数秒で堀と壁を連続でつくりあげていくのだ。
何度も何度も繰り返して、簡易的な拠点をつくりあげる。数秒のうちに堀と土の壁の拠点が完成する。
「お、おいっ、何なんだよ、それは!」
壁の高さはさらに上げていく。そう、二段重ねだ。そして、その塊の上にはアルベロが乗り、すでに短弓ハジャーダを構えている。
「まずは一つ目の拠点完成っと」
深い堀に囲まれて、そびえ立つようにぶ厚い土の塊がっている。
ここまでに要した時間、約三十秒。
キャットアイが全力を出せば五分近くは稼げるだろうとのことだった。
僕たちはその五分の間にアローヘッドを囲うように安全な拠点を造りあげ、その土の塊の上から一方的に攻撃をさせてもらう。
さすがに高さ六メートルのぶ厚い土の塊を簡単に壊すことなど一人では無理というもの。しかも堀の深さ三メートルを入れたら総高さ九メートルになる。いくらAランク冒険者でもこれを登るのは簡単ではない。
「ちっ、ふざけるな! そんなもの何個も造らせてたまるか」
「どこを見てるにゃ? お前の相手はここにゃ」
最初から全力で向かってくるキャットアイを相手に簡単には動けそうにないアローヘッド。
その焦りはいつもなら見えているものも見えなくさせてしまう。それは、ここまで駆けてきた寝不足状態から来るものなのか、それとも、意外性の男、ニールの動きに惑わされたからなのか。
その矢は、一瞬距離をとったキャットアイと入れ替わるように飛んできた。
ビュンッ!
まるでキャットアイの動きを予測していたかのように連携のとれた攻撃をアローヘッドは避けられなかった。
「ぐおおぁぁぁあああー」
右の太ももに矢が爆発せずに突き刺さる。
シーデーモンの腕とか吹き飛ばしていた短弓ハジャーダの攻撃を抑え込んだアローヘッドの耐久値はさすがである。
しかしながら、これで俊敏性はかなり落ちる。堀に落としたら登るのも大変だろう。
アルベロの攻撃が終わった頃には、もうルイーズの拠点が完成していた。
「ニール、もう後ろの階段も消しちゃっていいよー」
「うん、了解」
遠距離攻撃の少ないアローヘッドからしたら拠点の数が増えてしまうことは不利になる。
なら、撤退をするか?
いや、足に怪我を負った時点でそれを許してくれるキャットアイではない。
さらにアルベロの短弓ハジャーダがリカバリーポーションを飲む隙も与えない。
そして、ルイーズの拠点から放たれるのは魔法だ。
「マハリト!」
範囲爆炎魔法がアローヘッドをさらに追い詰める。
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