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80 さよなら王都
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まず、おかみさんに事情を説明すると、泣きながらアルベロとルイーズを抱きしめていた。
それなりに長いつき合いがあったと思うし、二人のことは我が子のように可愛がっていたのは知っている。
「二人のことを頼むよ」
「はい」
「あんたも元気で頑張るんだよ」
「はい、おかみさんも」
騎士団から何か言われたら十日分の宿代をもらっているから、そのうち戻ってくるだろうと話してもらうことにしてもらった。
国境付近まで馬車で二十日近くかかるそうなので、なるべく時間稼ぎをしたい。
次に僕たちが向かうのはドワーフのおじさんの武具店。アダマンタイトの細かい加工は知ってるかぎりでこの店でしかできなそうなので、お願いをする。
完成する頃には僕たちはこの国にはいないだろうけど、そこはカルメロ商会に届けてもらう。王都にもカルメロ商会の支店があるので、そこから移動先まで輸送してもらうつもりだ。
「おじさーん。アダマンタイト持ってきたよー」
「うるさいのー。そんな大声を出さんでも聞こえてるわい」
僕がアダマンタイトを渡すと、眼鏡のようなものを掛けて細かく状態を見ていく。
「インゴットじゃないが、これは相当純度が高そうじゃのう」
「純度は百パーセントなので、そのまま使えるはずです」
「百パーセントの鉱石じゃと!?」
「溶解してみればわかると思います」
「まあ、いいわい。この量なら完成品を渡せるのは十日はかかるかのう」
十日ならもう荷物の行き先がバレたとしても問題はないか。
「完成品はカルメロ商会に渡してもらいたいんです。お金は先に支払いますが、足りなかったらカルメロ商会に請求してください」
「うん? どういうことじゃ」
「実は、私たち国を出ることにしたのー」
「そうじゃったか。……それは、さみしくなるのう」
「アダマンタイトの加工を出来る人がいなかったら、またお願いすると思うからその時はお願いするわ」
「この国を出ても依頼をしてくれるのか。まあ、特級職人はそうおらんからのう。任せておけ」
この国からは出るけど、年に一度はミストマウンテンで採掘する予定だから、たまに戻ってくることになる。さすがにもう王都には来ないとは思うけどね。
せっかく脱出するのに王様やギルド長に見つかったら絶対に面倒なことになるだろうからね。
「いつ頃発つんじゃ?」
「秘密だよー。ちょっと面倒なことに巻き込まれててさー」
「そうじゃったか」
「あのね、もしも騎士団に何か言われたら……」
「わしは今から久し振りにアダマンタイトの加工をするために籠もるんじゃ。そんな奴らの相手をしている時間はないわい」
「ありがとう、おじさん」
「うむ。お前さんらも達者でな」
「うん。おじさん大好き」
ルイーズがドワーフのおじさんに抱きついている。ずっとこの街で暮らしてきたのだから、別れはさみしいのだろう。
「次は冒険者ギルドね」
アルベロは残る滞在場所である冒険者ギルドでのひと芝居に向けて頭を切り替えている。
「うん、そうだね。カルデローネさんとも最後かー」
最後ではあるけど、僕たちはラウラの森へ狩りに行くと言って王都を出発する。カルデローネさんにさようならを言うことはできない。
王都の冒険者ギルドで親身になっていろいろ教えてくれたのはカルデローネさんなので、彼女には感謝しかない。
本来ならちゃんと挨拶をしてお別れを伝えたいのだけど、そうすることでカルデローネさんの立場も危うくしてしまう可能性がある。
「じゃあ、入ろうか」
午後の冒険者ギルドは人も疎らなのでカルデローネさんの受付スペースには誰もいない。
「あら、みなさん。この度は……申し訳ございませんでした」
僕たちが明日の慰労会に参加するように、また、国から出ていかないように多くの職員が宿屋にまでやってきているのは彼女も知っている。
「いえいえ、カルデローネさんが悪いわけではないですから。明日は動けなそうなので、軽くジャイアントトードでも狩りに行こうかと思いまして」
「そうでしたか。ラウラの森の湖周辺ですね」
「はい、夕方頃には戻ると思います」
「みなさんなら大丈夫だとは思いますが、お気をつけください」
「はい、では行ってきますね」
冒険者ギルドのいつもの場所で昼寝をしていたっぽいキャットアイに目配せをすると、軽く頷いて、また寝る体制に戻った。
本当に理解しているのか若干不安になるものの、あー見えてできる猫さんなので問題ないだろう。
さようなら、冒険者ギルド。
ここはお金のない僕に未来を与えてくれた場所であり、仲間との繋がりをくれた場所だ。
本当にお世話になりました。
冒険者ギルドの扉を閉めて外に出ると、不思議と悲しい気持ちになっている自分がいた。
いい人はいっぱいいるのに、国を出なければならない。それも僕のせいというのがとても申し訳ない気持ちにさせる。
ルイーズもアルベロもキャットアイも本当によかったのだろうか。
インベントリの中にはみんなの全ての荷物が入っていて、王都に残していくものは何もない。
僕たちが帰ってこないことに気づくのは今日の夜か、それとも明日の朝になるのか。
騎士団や冒険者ギルドは追いかけてくるのか。
心配は尽きないけど、これは新しい旅立ちでもある。きっとこれまでに出会った人たちのように素敵な出会いだってあるはずだ。
うん、前へ進もう。
それなりに長いつき合いがあったと思うし、二人のことは我が子のように可愛がっていたのは知っている。
「二人のことを頼むよ」
「はい」
「あんたも元気で頑張るんだよ」
「はい、おかみさんも」
騎士団から何か言われたら十日分の宿代をもらっているから、そのうち戻ってくるだろうと話してもらうことにしてもらった。
国境付近まで馬車で二十日近くかかるそうなので、なるべく時間稼ぎをしたい。
次に僕たちが向かうのはドワーフのおじさんの武具店。アダマンタイトの細かい加工は知ってるかぎりでこの店でしかできなそうなので、お願いをする。
完成する頃には僕たちはこの国にはいないだろうけど、そこはカルメロ商会に届けてもらう。王都にもカルメロ商会の支店があるので、そこから移動先まで輸送してもらうつもりだ。
「おじさーん。アダマンタイト持ってきたよー」
「うるさいのー。そんな大声を出さんでも聞こえてるわい」
僕がアダマンタイトを渡すと、眼鏡のようなものを掛けて細かく状態を見ていく。
「インゴットじゃないが、これは相当純度が高そうじゃのう」
「純度は百パーセントなので、そのまま使えるはずです」
「百パーセントの鉱石じゃと!?」
「溶解してみればわかると思います」
「まあ、いいわい。この量なら完成品を渡せるのは十日はかかるかのう」
十日ならもう荷物の行き先がバレたとしても問題はないか。
「完成品はカルメロ商会に渡してもらいたいんです。お金は先に支払いますが、足りなかったらカルメロ商会に請求してください」
「うん? どういうことじゃ」
「実は、私たち国を出ることにしたのー」
「そうじゃったか。……それは、さみしくなるのう」
「アダマンタイトの加工を出来る人がいなかったら、またお願いすると思うからその時はお願いするわ」
「この国を出ても依頼をしてくれるのか。まあ、特級職人はそうおらんからのう。任せておけ」
この国からは出るけど、年に一度はミストマウンテンで採掘する予定だから、たまに戻ってくることになる。さすがにもう王都には来ないとは思うけどね。
せっかく脱出するのに王様やギルド長に見つかったら絶対に面倒なことになるだろうからね。
「いつ頃発つんじゃ?」
「秘密だよー。ちょっと面倒なことに巻き込まれててさー」
「そうじゃったか」
「あのね、もしも騎士団に何か言われたら……」
「わしは今から久し振りにアダマンタイトの加工をするために籠もるんじゃ。そんな奴らの相手をしている時間はないわい」
「ありがとう、おじさん」
「うむ。お前さんらも達者でな」
「うん。おじさん大好き」
ルイーズがドワーフのおじさんに抱きついている。ずっとこの街で暮らしてきたのだから、別れはさみしいのだろう。
「次は冒険者ギルドね」
アルベロは残る滞在場所である冒険者ギルドでのひと芝居に向けて頭を切り替えている。
「うん、そうだね。カルデローネさんとも最後かー」
最後ではあるけど、僕たちはラウラの森へ狩りに行くと言って王都を出発する。カルデローネさんにさようならを言うことはできない。
王都の冒険者ギルドで親身になっていろいろ教えてくれたのはカルデローネさんなので、彼女には感謝しかない。
本来ならちゃんと挨拶をしてお別れを伝えたいのだけど、そうすることでカルデローネさんの立場も危うくしてしまう可能性がある。
「じゃあ、入ろうか」
午後の冒険者ギルドは人も疎らなのでカルデローネさんの受付スペースには誰もいない。
「あら、みなさん。この度は……申し訳ございませんでした」
僕たちが明日の慰労会に参加するように、また、国から出ていかないように多くの職員が宿屋にまでやってきているのは彼女も知っている。
「いえいえ、カルデローネさんが悪いわけではないですから。明日は動けなそうなので、軽くジャイアントトードでも狩りに行こうかと思いまして」
「そうでしたか。ラウラの森の湖周辺ですね」
「はい、夕方頃には戻ると思います」
「みなさんなら大丈夫だとは思いますが、お気をつけください」
「はい、では行ってきますね」
冒険者ギルドのいつもの場所で昼寝をしていたっぽいキャットアイに目配せをすると、軽く頷いて、また寝る体制に戻った。
本当に理解しているのか若干不安になるものの、あー見えてできる猫さんなので問題ないだろう。
さようなら、冒険者ギルド。
ここはお金のない僕に未来を与えてくれた場所であり、仲間との繋がりをくれた場所だ。
本当にお世話になりました。
冒険者ギルドの扉を閉めて外に出ると、不思議と悲しい気持ちになっている自分がいた。
いい人はいっぱいいるのに、国を出なければならない。それも僕のせいというのがとても申し訳ない気持ちにさせる。
ルイーズもアルベロもキャットアイも本当によかったのだろうか。
インベントリの中にはみんなの全ての荷物が入っていて、王都に残していくものは何もない。
僕たちが帰ってこないことに気づくのは今日の夜か、それとも明日の朝になるのか。
騎士団や冒険者ギルドは追いかけてくるのか。
心配は尽きないけど、これは新しい旅立ちでもある。きっとこれまでに出会った人たちのように素敵な出会いだってあるはずだ。
うん、前へ進もう。
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