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48 バブルラグーンの戦い4

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 準備は整った。

 海に落ちるので皮の鎧も脱いでおく。大盾は壊れるか海の藻屑と消えることだろう。短い付き合いだったけどありがとう。君には何度か助けられたよね。

 アルベロは予備の矢も含めて、いつでも大丈夫そう。

 まだ心の準備ができていないのは僕ぐらいだろう。盾ごと吹き飛ばすって意味がわからないし、気を失わずにスクロールを使用しなければならない。

 そもそも、海の中で気を失うとか死を意味する気がするんだ。しかも海中にはマーマンだって大量にいるよね。

 あれっ、僕、生きて帰れるのだろうか。

「ニール、そろそろ準備を頼むにゃ」

「あっ、はい」

 覚悟が決まっていない僕を見透かしたかのようにキャットアイさんから声がかかる。

 やるしかない。

 やらなければ街が大変なことになる。

「ルリカラ、君はここでアルベロと一緒にいるんだ」

 僕の覚悟を感じとったのか、頷いてアルベロの方へと歩いていくルリカラ。

 もし可能なら海に落ちた僕を攻撃してくるマーマンをやっつけてほしいかなとも思ったけど、その後に気を失うルリカラを守りながら浜辺へ上がるのは至難と思われる。なので、ここはぐっと堪えて我慢する。

 何故か前線に留まる僕たちを狙い、マーマンの群れがこれでもかと押し掛けるものの、そのすべてをキャットアイさんが吹き飛ばしていく。

「これがAランク冒険者の力なんだね」

「ニールは何でキャットアイと仲がいいの?」

「何故か冒険者登録したときから話し掛けられたんだよね。何でだろう」

 ミャーコにも好かれていたと思うので、猫人族との相性がいいのだろうか。それとも猫に好かれるフェロモンでも出ているのだろうか。

 しかしながら、普通に考えて登録したばかりの駆け出し冒険者にAランク冒険者が声を掛けるとかありえない。

「彼女はギルドと近い関係にある冒険者だから、あまり近づきすぎるのも考えものよ」

「そういうものなの?」

「今まで彼女が興味を示す冒険者なんていなかったもの。バブルラグーンに来たタイミングもあやしい」

 どうもアルベロはキャットアイさんに対して警戒感が強い。そんな悪い人でもない気がするんだけどな。

「でも、キャットアイさんがいなかったらバブルラグーンは危なかったんじゃない」

「それはそうだけど。何か理由があるにしろ助かっているのは事実ね」

「そうそう。今はシーデーモンを倒すことに集中しよう」

「わかったわ」

 といっても倒すのはアルベロであって僕ではない。

 さて、僕もそろそろ覚悟を決めよう。吹き飛ばされる覚悟を。

 キャットアイさんは相変わらずくるくると回転しながら華麗に鉤爪で攻撃を繰り出していく。

「ニール」

「はいっ!」

 一瞬、周りにいるマーマンが全ていなくなったタイミングでキャットアイさんから声がかかる。

 僕はシーデーモンに背を向けて腰を落として大盾をしっかりと構える。

 キャットアイさんは溜めの姿勢に入ると、ぽわっと体全体が光り輝くようにキラキラし始める。

 今から攻撃を受けるというのに、その姿をどこか美しいと感じてしまった。

「いくにゃ」

 激しく突き上げるように受けた攻撃で、僕の体は豪快に吹き飛ばされる。それはとても気持ちいいぐらいの浮遊感だった。

「はっ!? やばい、一瞬気を失っていた」

 現在進行系で空をダイブしている僕はシーデーモンに向かって飛ばされている。

 一瞬だけ目が合うものの、そこまでの脅威ではないと判断されたのだろう。すぐに次の攻撃をするべく魔力を再び高めようとしている。

 またあの攻撃をしようとしているのか。

 あれを撃たせる前にこちらの攻撃を命中させてみせる。

 あとは頼んだよ。アルベロ。

 アルベロの姿が見えないように矢とシーデーモンの射線上を隠すように魔法を放つ。

「ディルト」

 自分の魔法に集中していたシーデーモンもディルトの魔力を感じたのか、一瞬躊躇しているように見える。

 こちらを見るものの、暗い闇が広がるだけでその魔力から何かしらの攻撃性を感じることはない。

 奇妙に思いながらも、既に完成間近の魔法を優先させたのか、最後の一押しとばかりに再び自分の魔力を展開した魔法陣へと注入していく。

 その瞬間を逃さずにアルベロの短弓ハジャーダから矢が放たれる。

 闇が広がった時点でアルベロからもシーデーモンは見えていない。それでも、僕は確信している。あの矢が間違いなくシーデーモンを撃ち抜くことを。

 バッシャァァァーン

 矢が当たったかどうかはわからない。

 次の瞬間、僕の視界は海の中でその音に反応するかのように近くにいたマーマンが二体、三体とやってくる。

 ゆっくり落下していく僕を嘲笑うかのようにスピーディに泳いてくるマーマン。

 さすが海のゴブリン。とても逃げ切れる気がしないよ。

 それでも、やれることをやる。こんなところで死んでる場合じゃない。時間を稼げば、それだけ助かる可能性が上がるはずだから。

 すくに海面へ向けて上昇する。

 とにかく上へ上へと。

 キャットアイさんに僕の場所を知らせなければならない。僕の位置さえわかれば必ず助けに来てくれる。

 それまで何とかしてみせる。

「痛っ!?」

 全力で浮上をする僕の足を掴んで沈めようとするマーマン。振りほどき、また浮上するも、次々とマーマンが重しのように足を引っ張ってくる。

 何度も何度も振りほどくようにして、マーマンを蹴る。もう少しで海面に上がれる。あとちょっとで空気が吸える。
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