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46 バブルラグーンの戦い2
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心臓を貫かれたマーマンは力なく崩れ落ちていく。それでも、すぐにその屍を越えるように次のマーマンが柵に手を掛ける。
ここからは忍耐力が勝負となる。気持ち悪いぐらいに続く魔物を刺し殺す作業。それでも油断することも気を抜くことも許されない。
どこか一箇所でも抜けられたら、雪崩のようにマーマンが柵の内側に押し寄せてしまうのだから。
「ニールさん!」
「うん、落ち着いて。まだ大丈夫」
リリィ達の柵の前では倒れたマーマンの上を登って次々にマーマンがやって来ている。
このまま柵の前にマーマンが積み重なってしまうと槍の攻撃が届きづらくなってしまうのだ。
そうなると、僕たちは後ろに下がるしかない。それを繰り返すと街への侵入を許してしまうことになる。なので、できる限りここで踏ん張る。
「だ、だめだー。も、もう、この柵は無理だ」
「待って、まだ大丈夫……」
僕の隣りにいた冒険者の青年が早々に逃げ出してしまった。マーマンのプレッシャーに耐えきれなかったのだろう。
「ニールさん、手伝います!」
「ありがとう、リリィ。槍でなるべく遠くへ押し出すようにしよう」
「はいっ!」
インベントリを使用すれば積み重なっているマーマンを違う場所へ退けることもできるけど、大勢の冒険者がいる前で使用はしたくない。
どうしても厳しい状況に陥るまでは隠しておきたい。それに、この場所だけ片付けたとしても他から侵入を許したらそれまでなのだ。そうなるとすぐにマーマンの群れに飲み込まれてしまう。
周囲の状況をよく見た上で後方への移動を考えなければならないだろう。
すると、僕の上を飛び越えるようにしてキャットアイさんがマーマンの群れへと突撃を開始した。やはり猫の獣人さんだけあってその身のこなしは軽い。
客観的に見ても僕のいるこの柵の前が人も足りていないから一番危険に思える。
キャットアイさんの攻撃は手に装着した鉤爪によるもの。防御も軽装で守るというよりスピード重視で避けることを前提に考えているのだろう。
攻撃を加えると後方宙返りで距離をとり、再びダッシュで複数のマーマンを相手に無双していく。
「強すぎる……」
遠距離攻撃の手段がないからたいして力になれないとか言っていたくせに、この一瞬で僕の目の前にいるマーマンの群れは地に倒れ伏している。
「ニール、そろそろ後ろに下がるにゃ」
「そうですね」
キャットアイさんもずっと無双し続けられる訳ではない。あくまでも一つ目の柵が限界を迎えるまでの時間稼ぎをしたに過ぎないのだ。
僕の目の前が大丈夫でも、少し離れたところでは柵が決壊し始めている。
「リリィたちも、今のうちに下がろう」
「はいっ」
一つ目の柵の前で、どのぐらいのマーマンを倒せているのだろうか。僕が槍で突き刺したマーマンは十体にも満たない。
多くの冒険者がいるとはいえ、このまま耐えきれるのだろうか。
周囲を見渡すと、冒険者がマーマンから逃げようと我先にと次の柵へと詰めかけている。そうなると移動する者同士でぶつかり混乱が生じてしまう。
「きゃっ」
リリィたちは他の冒険者にぶつかられ体勢を崩されてしまったらしい。
「大丈夫? まだそんな危険な状況じゃないから落ち着いてゆっくりと行こう」
「は、はい」
前線ではキャットアイさんが時間を稼ぐように立ち回っているし、後方からはアルベロの矢が的確にマーマンの行く手を遮っている。
僕は先に二番目の柵を越えると、リリィたち三人の手を引いてあげる。
「すみません」
ちなみにルリカラは僕の頭の上でじっとしており、いつか回ってくる自分の出番のために体力を温存しているようにも思える。寝てないよね?
ルリカラの偉大な聖なるブレスは、僕のインベントリ同様に目立つからあまり見せたくはないけどそうも言ってられないのも事実。
三人が柵を超えたところで、周囲が騒がしくなってきた。どうやら状況はあまりよくないらしい。
「キングマーマンだ!」
「やっぱりキングマーマンが指揮してるぞ!」
「一、二、三……五体はいるぞ」
マーマンが突撃してくる後方でついにキングマーマンが上陸してその姿を見せたようだ。
キングマーマンはランクCの魔物だ。同じランクの魔物だとホブゴブリンと一緒になる。マーマンと同じように陸ではその力も多少は劣るのだろうけど油断できない相手だ。
三人組も心配そうに見つめている。
「大丈夫、あれの相手をするのは僕たちではないから」
「そ、そうですよね」
ランクCはかなり強い。それでも短弓ハジャーダを持ったアルベロやランクAのキャットアイさんの敵ではない。
「さあ、僕たちはやれることをやっていこう」
マーマンを街へ辿り着かせないためにここでまたくい止める。
しかしながら、そううまく進まないのが現実らしい。
「シーデーモンだ……」
「な、なんで、シーデーモンが」
状況から察するに、このマーマンの群れを指揮していたのはキングマーマンではなく、シーデーモンという魔物だったようだ。
「ランクAたぞ……」
「無理だ……。バブルラグーンはもう終わりだ」
海上に浮かぶように現れたシーデーモンは巨大で十メートル近くになりそうなビッグサイズ。あんなのが上陸しようものなら、柵どころか街の石積みの壁すらあっさり壊されてしまう。
ここからは忍耐力が勝負となる。気持ち悪いぐらいに続く魔物を刺し殺す作業。それでも油断することも気を抜くことも許されない。
どこか一箇所でも抜けられたら、雪崩のようにマーマンが柵の内側に押し寄せてしまうのだから。
「ニールさん!」
「うん、落ち着いて。まだ大丈夫」
リリィ達の柵の前では倒れたマーマンの上を登って次々にマーマンがやって来ている。
このまま柵の前にマーマンが積み重なってしまうと槍の攻撃が届きづらくなってしまうのだ。
そうなると、僕たちは後ろに下がるしかない。それを繰り返すと街への侵入を許してしまうことになる。なので、できる限りここで踏ん張る。
「だ、だめだー。も、もう、この柵は無理だ」
「待って、まだ大丈夫……」
僕の隣りにいた冒険者の青年が早々に逃げ出してしまった。マーマンのプレッシャーに耐えきれなかったのだろう。
「ニールさん、手伝います!」
「ありがとう、リリィ。槍でなるべく遠くへ押し出すようにしよう」
「はいっ!」
インベントリを使用すれば積み重なっているマーマンを違う場所へ退けることもできるけど、大勢の冒険者がいる前で使用はしたくない。
どうしても厳しい状況に陥るまでは隠しておきたい。それに、この場所だけ片付けたとしても他から侵入を許したらそれまでなのだ。そうなるとすぐにマーマンの群れに飲み込まれてしまう。
周囲の状況をよく見た上で後方への移動を考えなければならないだろう。
すると、僕の上を飛び越えるようにしてキャットアイさんがマーマンの群れへと突撃を開始した。やはり猫の獣人さんだけあってその身のこなしは軽い。
客観的に見ても僕のいるこの柵の前が人も足りていないから一番危険に思える。
キャットアイさんの攻撃は手に装着した鉤爪によるもの。防御も軽装で守るというよりスピード重視で避けることを前提に考えているのだろう。
攻撃を加えると後方宙返りで距離をとり、再びダッシュで複数のマーマンを相手に無双していく。
「強すぎる……」
遠距離攻撃の手段がないからたいして力になれないとか言っていたくせに、この一瞬で僕の目の前にいるマーマンの群れは地に倒れ伏している。
「ニール、そろそろ後ろに下がるにゃ」
「そうですね」
キャットアイさんもずっと無双し続けられる訳ではない。あくまでも一つ目の柵が限界を迎えるまでの時間稼ぎをしたに過ぎないのだ。
僕の目の前が大丈夫でも、少し離れたところでは柵が決壊し始めている。
「リリィたちも、今のうちに下がろう」
「はいっ」
一つ目の柵の前で、どのぐらいのマーマンを倒せているのだろうか。僕が槍で突き刺したマーマンは十体にも満たない。
多くの冒険者がいるとはいえ、このまま耐えきれるのだろうか。
周囲を見渡すと、冒険者がマーマンから逃げようと我先にと次の柵へと詰めかけている。そうなると移動する者同士でぶつかり混乱が生じてしまう。
「きゃっ」
リリィたちは他の冒険者にぶつかられ体勢を崩されてしまったらしい。
「大丈夫? まだそんな危険な状況じゃないから落ち着いてゆっくりと行こう」
「は、はい」
前線ではキャットアイさんが時間を稼ぐように立ち回っているし、後方からはアルベロの矢が的確にマーマンの行く手を遮っている。
僕は先に二番目の柵を越えると、リリィたち三人の手を引いてあげる。
「すみません」
ちなみにルリカラは僕の頭の上でじっとしており、いつか回ってくる自分の出番のために体力を温存しているようにも思える。寝てないよね?
ルリカラの偉大な聖なるブレスは、僕のインベントリ同様に目立つからあまり見せたくはないけどそうも言ってられないのも事実。
三人が柵を超えたところで、周囲が騒がしくなってきた。どうやら状況はあまりよくないらしい。
「キングマーマンだ!」
「やっぱりキングマーマンが指揮してるぞ!」
「一、二、三……五体はいるぞ」
マーマンが突撃してくる後方でついにキングマーマンが上陸してその姿を見せたようだ。
キングマーマンはランクCの魔物だ。同じランクの魔物だとホブゴブリンと一緒になる。マーマンと同じように陸ではその力も多少は劣るのだろうけど油断できない相手だ。
三人組も心配そうに見つめている。
「大丈夫、あれの相手をするのは僕たちではないから」
「そ、そうですよね」
ランクCはかなり強い。それでも短弓ハジャーダを持ったアルベロやランクAのキャットアイさんの敵ではない。
「さあ、僕たちはやれることをやっていこう」
マーマンを街へ辿り着かせないためにここでまたくい止める。
しかしながら、そううまく進まないのが現実らしい。
「シーデーモンだ……」
「な、なんで、シーデーモンが」
状況から察するに、このマーマンの群れを指揮していたのはキングマーマンではなく、シーデーモンという魔物だったようだ。
「ランクAたぞ……」
「無理だ……。バブルラグーンはもう終わりだ」
海上に浮かぶように現れたシーデーモンは巨大で十メートル近くになりそうなビッグサイズ。あんなのが上陸しようものなら、柵どころか街の石積みの壁すらあっさり壊されてしまう。
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