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2 異世界で生きていく
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騎士団長に教えてもらったのは、お城と冒険者ギルドのちょうど中間地点にある大きな広場沿いにある「宵の月亭」という宿屋だった。
三日月の看板が目印とのことですぐわかると言われた。一階がレストランになっており、宿泊客以外からも人気の店とのこと。
ちなみに宿代は十日で銀貨五枚。朝と晩の食事付き。別料金でお昼のお弁当も作ってくれるらしい。
僕がもらった銀貨は三十枚なので、単純計算で何もしなくても二か月は暮らせる。
逆を言えばそれまでに生活の基盤を整えなければならないということ。
と、言っても何もない高校生にそれはどうなのだろうか。
ちなみに途中で見かけたポーション屋さんの入口付近に僕が出した物と全く同じポーションが銅貨一枚で売られていた。
騎士団長の言うことが合っているならば銅貨一枚は百円相当の価格らしい。
僕のスキルがポーション精製だとして、一日何回ポーションを出せるのかわからないけど、これだけで生きていけるスキルだとは到底思えなかった。
まあ、そうでなければ早々に追い出されたりはしないだろう。つまり、ポーション精製スキルは不遇スキルということ。
とりあえずは宵の月亭へ行き個室を確保することがミッションだろう。騎士団長の言う通り、ここで盗難にあって銀貨を失えば数日で行き倒れる。
しばらく歩くと目的の広場が見えてきた。この辺りからは人の数も多くなり、銀貨の入っている袋を握る手は自然と強くなっていく。
広場には多くの屋台が出店していて、様々な料理やアクセサリーなんかも販売している。
「さて、宵の月亭は……と」
広場を見渡すとその場所はすぐにわかった。ランチタイムということもあってか、お店に行列が出来ていたのだ。
どうやら人気のお店というのは間違いないらしい。
「部屋は空いてるだろうか……」
三階建ての一階は少し広めのレストラン。二階が宿泊の窓口になっているようだ。看板にはそう書かれていて、その文字は何故か普通に読めた。
とはいえ、二階の宿泊窓口とやらの入口がわからない。レストランの中から上へ行く感じなのだろうか。
意を決して、レストランに入ると、給仕をしている女の子に声を掛けてみた。
「あ、あの、すみません」
「ごめんなさい。今混んでいてランチは少し時間かかりますが、お待ちになりますか?」
忙しいのに申し訳なさそうにそう返事をしてくる金髪の美少女。
この店の人気の理由の一つがわかった気がする。奥にはもう一人綺麗な女の子がいて料理を運んでいる。あれはエルフ!? 長い銀髪から少し見える細長い耳はあきらかに人のものとは違う。
やはり、ここは異世界なんだね。
店の客は男性が多いし、お目当ては彼女たちなのだろう。みんな料理を食べながらも彼女たちを追いかけている。
客層を理解しているのか男性受けしそうなボリューム満点の肉々しい料理で、香りもとてもいい。シェフもちゃんと客層を理解している。これは僕もいただくのが楽しみだ。
「あのー?」
「あっ、ごめんなさい。僕はランチじゃなくて、宿泊希望なんですが」
「あっ、そうなんですね。おかみさーん、宿泊希望の方でーす」
「あらっ、今は手が離せないからルイーズちゃん案内お願いできる? 大部屋なら奥の部屋、個室なら三階の空き部屋でお願いね」
「わかりましたー」
ルイーズと呼ばれた美少女は僕を案内するように奥の階段を上っていく。
そして、その後ろ姿をレストランにいる客の目が一生懸命に追いかけていく。階段の角度は絶妙でスカートの奥が見えそうで見えないに違いない。これがこの店のやり方なのか!
「初めてですよね。お名前を伺ってもいいですか?」
「あっ、はい。銭形にぎるです」
「えっ? えーっと、ニール・ゼニガタ?」
「あっ、はい。もう、それで……」
この世界の人に「にぎる」という文字は発音が難しいのかもしれない。普通に他の日本語は通じているのに、僕の名前になるとみんな急にたどたどしくなる。
「ニール・ゼニガタっと。えーと、部屋は大部屋と個室がありますがどうしますか? 大部屋は十日で銀貨一枚、個室は十日で銀貨五枚です」
よかった。騎士団長の話してくれた金額と同じだ。こんな美少女にぼったくられたらどうしようかと思ったけど、その心配はないらしい。
お金に余裕がなくなったら大部屋に移動になるかな。それまでにこの世界に慣れるようにしなければならない。
「では、個室に十日でお願いします」
「はい。では前金で銀貨五枚いただきます。朝と夜は一階のレストランで食事が付きますのでお忘れなく。では、お部屋の方に案内しますねー」
案内された部屋は少し狭く感じたものの清掃も行き届いていて、ちゃんとベッドもあった。
「お湯とタオルは帰ってきた頃に部屋の外に用意しておきます。あと部屋と金庫のカギを渡しておきますね」
カギは魔導具なので失くさないようにとのこと。弁償とか大変そうなので気をつけたい。
「お部屋の掃除は日中こちらで勝手に行いますので、貴重品はお持ちになるか金庫の中へお願いします。服や下着はベッドの上に置いていただければ洗濯しておきます。あっ、これはサービスですよー」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ。あと、私とさっきお店で働いていたアルベロは隣の二人部屋を借りているのでよろしくお願いします」
アルベロさんというのが、あのエルフの少女なのだろう。
「えっ、従業員でなくて宿泊客!?」
「私たちは冒険者なんだけど、節約のために住み込みで働かせてもらってるの」
「そうだったんですね。こちらこそ、よろしくお願いします」
「隣がニールさんみたいな丁寧な方で安心しました」
確かにレストランの荒々しい客層とは正反対ともいえる草食系のニール。僕としても嫌われないように大きな音とか立てないように注意しようと思う。
三日月の看板が目印とのことですぐわかると言われた。一階がレストランになっており、宿泊客以外からも人気の店とのこと。
ちなみに宿代は十日で銀貨五枚。朝と晩の食事付き。別料金でお昼のお弁当も作ってくれるらしい。
僕がもらった銀貨は三十枚なので、単純計算で何もしなくても二か月は暮らせる。
逆を言えばそれまでに生活の基盤を整えなければならないということ。
と、言っても何もない高校生にそれはどうなのだろうか。
ちなみに途中で見かけたポーション屋さんの入口付近に僕が出した物と全く同じポーションが銅貨一枚で売られていた。
騎士団長の言うことが合っているならば銅貨一枚は百円相当の価格らしい。
僕のスキルがポーション精製だとして、一日何回ポーションを出せるのかわからないけど、これだけで生きていけるスキルだとは到底思えなかった。
まあ、そうでなければ早々に追い出されたりはしないだろう。つまり、ポーション精製スキルは不遇スキルということ。
とりあえずは宵の月亭へ行き個室を確保することがミッションだろう。騎士団長の言う通り、ここで盗難にあって銀貨を失えば数日で行き倒れる。
しばらく歩くと目的の広場が見えてきた。この辺りからは人の数も多くなり、銀貨の入っている袋を握る手は自然と強くなっていく。
広場には多くの屋台が出店していて、様々な料理やアクセサリーなんかも販売している。
「さて、宵の月亭は……と」
広場を見渡すとその場所はすぐにわかった。ランチタイムということもあってか、お店に行列が出来ていたのだ。
どうやら人気のお店というのは間違いないらしい。
「部屋は空いてるだろうか……」
三階建ての一階は少し広めのレストラン。二階が宿泊の窓口になっているようだ。看板にはそう書かれていて、その文字は何故か普通に読めた。
とはいえ、二階の宿泊窓口とやらの入口がわからない。レストランの中から上へ行く感じなのだろうか。
意を決して、レストランに入ると、給仕をしている女の子に声を掛けてみた。
「あ、あの、すみません」
「ごめんなさい。今混んでいてランチは少し時間かかりますが、お待ちになりますか?」
忙しいのに申し訳なさそうにそう返事をしてくる金髪の美少女。
この店の人気の理由の一つがわかった気がする。奥にはもう一人綺麗な女の子がいて料理を運んでいる。あれはエルフ!? 長い銀髪から少し見える細長い耳はあきらかに人のものとは違う。
やはり、ここは異世界なんだね。
店の客は男性が多いし、お目当ては彼女たちなのだろう。みんな料理を食べながらも彼女たちを追いかけている。
客層を理解しているのか男性受けしそうなボリューム満点の肉々しい料理で、香りもとてもいい。シェフもちゃんと客層を理解している。これは僕もいただくのが楽しみだ。
「あのー?」
「あっ、ごめんなさい。僕はランチじゃなくて、宿泊希望なんですが」
「あっ、そうなんですね。おかみさーん、宿泊希望の方でーす」
「あらっ、今は手が離せないからルイーズちゃん案内お願いできる? 大部屋なら奥の部屋、個室なら三階の空き部屋でお願いね」
「わかりましたー」
ルイーズと呼ばれた美少女は僕を案内するように奥の階段を上っていく。
そして、その後ろ姿をレストランにいる客の目が一生懸命に追いかけていく。階段の角度は絶妙でスカートの奥が見えそうで見えないに違いない。これがこの店のやり方なのか!
「初めてですよね。お名前を伺ってもいいですか?」
「あっ、はい。銭形にぎるです」
「えっ? えーっと、ニール・ゼニガタ?」
「あっ、はい。もう、それで……」
この世界の人に「にぎる」という文字は発音が難しいのかもしれない。普通に他の日本語は通じているのに、僕の名前になるとみんな急にたどたどしくなる。
「ニール・ゼニガタっと。えーと、部屋は大部屋と個室がありますがどうしますか? 大部屋は十日で銀貨一枚、個室は十日で銀貨五枚です」
よかった。騎士団長の話してくれた金額と同じだ。こんな美少女にぼったくられたらどうしようかと思ったけど、その心配はないらしい。
お金に余裕がなくなったら大部屋に移動になるかな。それまでにこの世界に慣れるようにしなければならない。
「では、個室に十日でお願いします」
「はい。では前金で銀貨五枚いただきます。朝と夜は一階のレストランで食事が付きますのでお忘れなく。では、お部屋の方に案内しますねー」
案内された部屋は少し狭く感じたものの清掃も行き届いていて、ちゃんとベッドもあった。
「お湯とタオルは帰ってきた頃に部屋の外に用意しておきます。あと部屋と金庫のカギを渡しておきますね」
カギは魔導具なので失くさないようにとのこと。弁償とか大変そうなので気をつけたい。
「お部屋の掃除は日中こちらで勝手に行いますので、貴重品はお持ちになるか金庫の中へお願いします。服や下着はベッドの上に置いていただければ洗濯しておきます。あっ、これはサービスですよー」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ。あと、私とさっきお店で働いていたアルベロは隣の二人部屋を借りているのでよろしくお願いします」
アルベロさんというのが、あのエルフの少女なのだろう。
「えっ、従業員でなくて宿泊客!?」
「私たちは冒険者なんだけど、節約のために住み込みで働かせてもらってるの」
「そうだったんですね。こちらこそ、よろしくお願いします」
「隣がニールさんみたいな丁寧な方で安心しました」
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