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第二十五話 お断りします【ツェリ】
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「困ったよ。サクラステラ側がツェリ殿と先に話をさせろと言ってきているんだ」
「私とですか」
「ルイーゼ様の顔を知っている者が来ればいいだろうと話しているのですが、全くとりあってもらえないんだよ」
「うーん、ジュード様。ここまで来て揉めるのもよくないでしょう。そもそも顔を見れば私がルイーゼ様でないことは明白です。何の話かわかりませんが参りましょう」
「それが問題があってですね。護衛の者は誰一人として受け付けないと言っているんです」
何なのでしょう。全くもって意味がわかりません。
「えーっと、私一人で会いに来いということでしょうか」
「そうなんです」
「ジュード、それは何か別の意図があるのではないか? この雰囲気だし、ツェリ殿が危険だろう」
「うむ、だから騎士ではなく世話係を一人だけ付けるということで了解をもらってきた」
「そ、それって、僕のことですか?」
「騎士ではないアルトリオに危険な役割を与えてしまって申し訳ない。しかしながら、騎士が同行できない以上、アルトリオに頼るしかないのだ」
「そういうことでしたら、お任せ下さい。ツェリを守ることは僕の役目です」
そんな決意めいた表情をしてもらっては困ります。自分の身は自分で守りますから大丈夫ですのに。
アルトリオの気持ちにはいろいろと思うところはあるのですが、一人で行くよりもアルトリオと一緒の方が私も嬉しいのでここは黙っておきましょう。
「アルトリオ、もしもの事があった場合には私たちにわかるように合図を送ってもらいたい。そこで、この笛を預ける」
「笛ですか」
「うむ、結構高い音が響くから外で鳴らせば私たちにも届くはずだ。その音が聞こえたら何を置いても駆けつけてみせよう」
「かしこまりました。ツェリのことはお任せ下さい」
「では、お前さま。向かいましょうか」
「あ、ああ。その、ツェリ。腕を組んで向かうのか?」
「もちろんです。こうしていれば私も緊張せずにすみます」
「そ、そうか」
アルトリオは、世話係と腕を絡ませて歩くご令嬢なんているのだろうかという思案顔をしておりますが、そんなことは私も知りません。何となく腕を組みたいからそうしてるだけなのですから。
私を守ることが役目とか言うから少し嬉しくなってしまいました。
そうして、歩いて向かってくる二人を奇妙な面持ちで迎え入れるサクラステラの騎士達。
私たち二人は案内されるままに領主様の館へと連れてこられました。
目の前には小太りの男性と化粧の濃い女性がハンカチを拭いながら迎えてくれています。ちなみにですが、実際には泣いていません。
「あー、私のルイーゼちゃん。生きて再び会えるとは不死鳥様に感謝申し上げますわ」
不死鳥? 私のことを知っているのでしょうか? 私の記憶にはこのような厚化粧の夫人と会った記憶は皆無です。
しかし、この館には不死鳥の像や絵画がたくさん飾られているのです。私、サクラステラで何かしましたっけ?
「ツェリ、ルイーゼと呼ばれているけど、やっぱり貴族の姫様だったのか……」
「いえ、違いますよ。お前さま、私の名前はツェリでございます」
「あー、なんと……。本当に記憶喪失になってしまったのだなルイーゼ。しばらくここで何不自由無く貴族として暮らしていけばいろいろと思い出していくであろう」
今度は小太りの方が私のことをルイーゼと呼びます。そんなにルイーゼとやらと私の容姿が似ているのでしょうか。
「何か勘違いされているようですが、私はルイーゼ様ではございません。記憶喪失と言っても全てを忘れているわけではありません。私の名前はツェリ・クレーン。何故、私の顔を見てそれでもルイーゼ様とお呼びになるのでしょう?」
「あ、あなた、話が違いますわ。記憶が無ければこちらの思うように出来るって……」
「ど、どういうことなのだ。記憶喪失だが、一部記憶はあるだと!?」
何やら酷く動揺されてます。どんな理由があろうが私の知ったことではございません。
「そういうことですので、私たちはこれにて失礼させていただきます」
「ちょ、ちょっと待て。待ちなさい。取引をしようではないか」
「取引でございますか?」
「ツェリと言ったな。お前にはこれから貴族として不自由無く生きる道がある。村での貧乏暮らしとは比較にならないほどの贅沢をさせてやろう」
「……はあ、お断りします」
「そうか、貴族社会の勉強をしっかりすれば本物の貴族とも婚姻関係を結ぶことも……。いや、ちょっと待て、お、お前、今断ったのか?」
「はい、お断りします。それでは話は終わりということでよろしいでしょうか」
「な、何が不満なのだ。村人から貴族になれるのだぞ! 何故断るのだ」
「私をルイーゼ様の代わりにしようとしているのはわかりましたが、本物のルイーゼ様はどちらにいらっしゃるのでしょう。まさか、本当に行方知らずなのでしょうか?」
「そ、そんなことはどうでもいいだろう。お前が知るべき話ではない。ええい、騎士よ、この二人を捕まえるのだ! 身柄さえ確保してしまえば後でどうにでもなる」
周りに控えていた騎士様方が一斉に武器を持ち立ち上がります。
「ツェリ、ぼ、僕の後ろに」
一方で、アルトリオは世話係ということになっているので、武器は何一つ持っておりません。いくら加護の力が使えるアルトリオでもこれでは何もできません。
さて、どうしたものでしょう。アルトリオの前で暴れるわけにも参りません。ここは、ひとまず大人しく捕まっておきましょうか。
「私とですか」
「ルイーゼ様の顔を知っている者が来ればいいだろうと話しているのですが、全くとりあってもらえないんだよ」
「うーん、ジュード様。ここまで来て揉めるのもよくないでしょう。そもそも顔を見れば私がルイーゼ様でないことは明白です。何の話かわかりませんが参りましょう」
「それが問題があってですね。護衛の者は誰一人として受け付けないと言っているんです」
何なのでしょう。全くもって意味がわかりません。
「えーっと、私一人で会いに来いということでしょうか」
「そうなんです」
「ジュード、それは何か別の意図があるのではないか? この雰囲気だし、ツェリ殿が危険だろう」
「うむ、だから騎士ではなく世話係を一人だけ付けるということで了解をもらってきた」
「そ、それって、僕のことですか?」
「騎士ではないアルトリオに危険な役割を与えてしまって申し訳ない。しかしながら、騎士が同行できない以上、アルトリオに頼るしかないのだ」
「そういうことでしたら、お任せ下さい。ツェリを守ることは僕の役目です」
そんな決意めいた表情をしてもらっては困ります。自分の身は自分で守りますから大丈夫ですのに。
アルトリオの気持ちにはいろいろと思うところはあるのですが、一人で行くよりもアルトリオと一緒の方が私も嬉しいのでここは黙っておきましょう。
「アルトリオ、もしもの事があった場合には私たちにわかるように合図を送ってもらいたい。そこで、この笛を預ける」
「笛ですか」
「うむ、結構高い音が響くから外で鳴らせば私たちにも届くはずだ。その音が聞こえたら何を置いても駆けつけてみせよう」
「かしこまりました。ツェリのことはお任せ下さい」
「では、お前さま。向かいましょうか」
「あ、ああ。その、ツェリ。腕を組んで向かうのか?」
「もちろんです。こうしていれば私も緊張せずにすみます」
「そ、そうか」
アルトリオは、世話係と腕を絡ませて歩くご令嬢なんているのだろうかという思案顔をしておりますが、そんなことは私も知りません。何となく腕を組みたいからそうしてるだけなのですから。
私を守ることが役目とか言うから少し嬉しくなってしまいました。
そうして、歩いて向かってくる二人を奇妙な面持ちで迎え入れるサクラステラの騎士達。
私たち二人は案内されるままに領主様の館へと連れてこられました。
目の前には小太りの男性と化粧の濃い女性がハンカチを拭いながら迎えてくれています。ちなみにですが、実際には泣いていません。
「あー、私のルイーゼちゃん。生きて再び会えるとは不死鳥様に感謝申し上げますわ」
不死鳥? 私のことを知っているのでしょうか? 私の記憶にはこのような厚化粧の夫人と会った記憶は皆無です。
しかし、この館には不死鳥の像や絵画がたくさん飾られているのです。私、サクラステラで何かしましたっけ?
「ツェリ、ルイーゼと呼ばれているけど、やっぱり貴族の姫様だったのか……」
「いえ、違いますよ。お前さま、私の名前はツェリでございます」
「あー、なんと……。本当に記憶喪失になってしまったのだなルイーゼ。しばらくここで何不自由無く貴族として暮らしていけばいろいろと思い出していくであろう」
今度は小太りの方が私のことをルイーゼと呼びます。そんなにルイーゼとやらと私の容姿が似ているのでしょうか。
「何か勘違いされているようですが、私はルイーゼ様ではございません。記憶喪失と言っても全てを忘れているわけではありません。私の名前はツェリ・クレーン。何故、私の顔を見てそれでもルイーゼ様とお呼びになるのでしょう?」
「あ、あなた、話が違いますわ。記憶が無ければこちらの思うように出来るって……」
「ど、どういうことなのだ。記憶喪失だが、一部記憶はあるだと!?」
何やら酷く動揺されてます。どんな理由があろうが私の知ったことではございません。
「そういうことですので、私たちはこれにて失礼させていただきます」
「ちょ、ちょっと待て。待ちなさい。取引をしようではないか」
「取引でございますか?」
「ツェリと言ったな。お前にはこれから貴族として不自由無く生きる道がある。村での貧乏暮らしとは比較にならないほどの贅沢をさせてやろう」
「……はあ、お断りします」
「そうか、貴族社会の勉強をしっかりすれば本物の貴族とも婚姻関係を結ぶことも……。いや、ちょっと待て、お、お前、今断ったのか?」
「はい、お断りします。それでは話は終わりということでよろしいでしょうか」
「な、何が不満なのだ。村人から貴族になれるのだぞ! 何故断るのだ」
「私をルイーゼ様の代わりにしようとしているのはわかりましたが、本物のルイーゼ様はどちらにいらっしゃるのでしょう。まさか、本当に行方知らずなのでしょうか?」
「そ、そんなことはどうでもいいだろう。お前が知るべき話ではない。ええい、騎士よ、この二人を捕まえるのだ! 身柄さえ確保してしまえば後でどうにでもなる」
周りに控えていた騎士様方が一斉に武器を持ち立ち上がります。
「ツェリ、ぼ、僕の後ろに」
一方で、アルトリオは世話係ということになっているので、武器は何一つ持っておりません。いくら加護の力が使えるアルトリオでもこれでは何もできません。
さて、どうしたものでしょう。アルトリオの前で暴れるわけにも参りません。ここは、ひとまず大人しく捕まっておきましょうか。
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