289 / 406
第11章 北の森
2 出立
しおりを挟む
船着場では領城の人たちや一緒に行く皆が忙しく働いてた。
今回キールさんは一緒にいかないので見送りに来てくれてる。北に向かうメンバーは私と黒猫君の他にヴィクさんとアルディさん、バッカスとアントニーさん、それにもう一人、シモンさんが知らん顔で既に船に乗ってる。
それにあと2人、ウイスキーの街の時にもいた兵士さんがついてきてくれるみたい。
「ネロ、これを持っていけ」
私たちが船に乗る直前、キールさんが黒猫君にそう言って一本の短剣を差し出した。
黒い革張りの鞘に収まったそれは短剣にしてはやや長めで、昔博物館で見た日本の脇差くらいの長さがあるみたい。
柄の部分はしっかりとした鉄製で、持ちての所にはやはり革がまかれてる。あまり飾り気のない実用的な剣。黒猫君がその剣をみながらキールさんに尋ねた。
「なんで今更俺に剣なんだ?」
言われてみれば確かに。今までも散々兵舎の既製品で訓練してたし、今回だって積み荷には念のため軍の剣が積まれてるはず。
するとキールさんがニヤッと笑って剣の柄の底を私たちに見せた。
「これはアズルナブの紋章だ。これが君たち二人の身分を証明してくれる。作るのに時間がかかったからギリギリになったな」
そう言って差し出された柄の底には、なんだか綺麗な星の図柄がしっかりと削り出されてる。
「そういうことなら有難く貰っとく」
少し躊躇いがちにそう返事をして、黒猫くんがキールさんの手から剣を受け取った。
「ネロ、北の事は頼んだぞ」
「ああ、お前も頑張っとけ。とっとと片付けてすぐ帰ってくるから」
「そうしてくれ」
キールさんと別れて私たちは船に乗り、アルディさんが船の指揮をとる。
ナンシーの桟橋を船が離れ、私たちから見えなくなるまでキールさんが私たちを見送ってくれてた。
「あゆみ寝てろ」
「え?」
船がナンシーを出てすぐに黒猫君にそういわれた。
いくら何でも早すぎるでしょと私が見返すと、黒猫君が少し赤くなって私の耳元で答えてくれる。
「昨日あんま寝れなかったろ。今のうちに寝とけよ」
そう言って抱えてる私を自分に寄りかからせて落ちない様に抱き込んだ。
他の皆もいるのにこんな事されるのはちょっと恥ずかしい。
だけど、今朝はシアンさんに魔術を教えてもらってたから緊張してて大丈夫だったけど、こんな静かな船旅でしかも黒猫君の腕の中は座り心地最高で。正直死ぬほど眠いのは事実。
私はすぐに我慢を放棄して、遠慮なく黒猫君をベッド代わりに気持ちよく眠りについた。
「ネロ君。昨日は寝れなかったんですか」
あゆみが寝付くとすぐにアルディがニヤニヤしながら俺に聞いてくる。
「ま、まあそういうっ!っってーなおい!」
俺がちょっと照れながら答えようとすると、後ろからバッカスに思いっきり頭を叩かれた。
「心配させやがって。昨日のお前のだらしない返事を俺は忘れてねーからな」
ああ、それか。昨日俺があゆみを抱えて離れに移る前にこいつスゲー顔で睨んでたもんな。
「すまねえ。ちょっととち狂ってた。もうしねえ」
俺が素直に謝るとバッカスが「ならいい」と小さく頷いてまたも軽く小突かれる。
「昨日は一晩、キーロン陛下が避難してきてたとナンシー公が今朝愚痴ってましたよ」
アルディがわざとらしく嫌味を言いやがる。
こいつらにからかわれるのはまあ仕方ない。どいつもこいつも俺が苦労してたのを知ってたしな。
そして昨日の夜、あゆみと俺がまあちゃんと夫婦になったのは、あゆみの朝からやけにニマる顔を見てればもう見るからに明らかだったしな。
もしかすると俺も似たようなもんなのかもしれねえが。
だが、俺が仕事終えて庄屋の家に迎えにいくと、あゆみの顔が普通に戻ってた。
何かあったなっとは思ったが、あゆみが切り出すまで我慢してお互いの朝の行動を報告し合う。
あゆみが魔法を俺と同等に使えるようになってくるのは正直複雑な気分だ。俺があゆみを助けてやれることがまた一つ減っちまう。
そんな情けないことを考えてる矢先に、あゆみの足の話を聞かされた。
正直、スゲー自分で自分が嫌になった。
あゆみにはもちろん自分の足を取り戻させてやりてえって思ってるはずなのに、あゆみの足が元に戻らないって聞いてホッとしてる自分に気づいちまった。
こいつの足の代わりをこれからもしてやれる。
情けねえがそれはまた一つ、俺が確実にあゆみのためにしてやれることで。
道々シアンの話を考えつつ、俺はどうにもあゆみに抱いてる自分の感情の根暗さに辟易としてた。
今朝だって実はにたようなもんだった──
昨日あゆみが寝落ちした後も、俺はしばらくあゆみを抱えて考えてた。
あゆみのやつ……寝落ち直前に俺の名前呼ぶとか反則だろ。
スゲエきて胸が痛え。
たった一つ、俺が向こうの世界から持ってこれたもの。
この俺の人格とか肉体とかには確固たる『自分』の自信がねーけど。
あゆみに名前を呼ばれて、初めて自分がまだ自分自身だという馬鹿みたいに単純な事実を確信できた。
こいつがこれからも名前を呼んでくれねえかな。
とても恥ずかしくて言い出せねえが、そう思わずには居られなかった。
むろんあゆみとこれ以上なく繋がることが出来たのはスゲー嬉しいけど、この気持ちは全く違う次元でスゲー重い。
次の朝俺が浅い眠りから覚めると、まだあゆみが俺の腕の中に残ってた。
ああ、こいつどこにもいなくなってねえ。俺と一緒にいてくれてる。
髪をすいてやると「フガッ」っと小さなイビキを上げて小さく震え、そして俺にすり寄ってきた。
どうしよう。どうしようもなく可愛い。
あんまり可愛いから鼻摘んだ。
すぐに苦しそうにパカっと口を開く。そして、「ンガンガ」言いながら薄っすらと目を開く。
寝顔だってもちろん可愛いが、やっぱり目を開けて俺を見てくれてるほうが断然いい。
俺がそんなこと考えてるうちにあゆみの目の焦点が合って、俺に鼻を摘まれてることに気付いてムッとして睨みあげてくる。
「黒猫君、もう少し優しい起こし方があるよね?」
『黒猫君』か。そんなに期待していたわけじゃねーけど、思っていたよりも失望感あるな。
それでも俺はそれを押し隠してあゆみの頭をくしゃくしゃと掻き混ぜた。
「いつまでも無防備な寝顔晒してるからつい、な」
その一言であゆみが真っ赤になって困ったように俺を見上げた。
「あんまり見ないで。っていうかいつから見てたの!?」
「そんなに経っちゃいねーよ。お前寝てても面白くねーし」
そう言ってからかうとあゆみが照れながら聞き返してきた。
「く、黒猫君、一体何考えてるの?」
「お前のこと」
俺がそう言うとあゆみが余計赤くなって首を傾げて俺に問返す。
「う、嬉しいけど、朝だよ? もう起きてお仕事行かなきゃ」
「ヤダ。もう少しこうしてたい」
そう言いつつ手を伸ばしてあゆみの肩を抱き寄せ、あゆみの耳に直接囁く。
「今日からまた旅に出るからしばらくこんなこと出来ねえかも知れねえんだぞ。今のうちにもう少しだけ」
あ……。腕の中であゆみの身体が震えた。
こうしてたいのが自分だけじゃない。そう思うとゾクゾクしてくる。
「で、でも、出発遅くしちゃダメだし、バッカスたち待ってるし」
そう言いつつもあゆみは逃げださない。
ああ。スゲー充足感。あゆみにまるっと受け入れられてる。
それから小一時間、俺はあゆみを愛で回してた。
ずっと思ってるが、あゆみが可愛い。
あんまり可愛くて、あんまり愛おしくて、今にも壊れそうで。
かなり本気で子供が欲しい。
自分がこんなこと言い出すとかマジ信じらんねー。
こんなこと考えたのは生まれて初めてだ。
正直決して恵まれた子供時代を過ごしてない俺には、自分の家族を作るなんてことは想像だにしないことだった。今まではゼッテー俺が受け入れなかった。
なのに今。スゲー子供欲しい。
あゆみと俺の。
今こそゼッテーマズイんだけどな。
俺たちの状況は一時的には落ち着いてるが、根本的な部分ではこっちに落とされた時とさほど変わってない。全部終わらせて、落ち着いて森にでも逃げ込むまではまだ子作りとかやってる場合じゃない。
頭ではそう分かっていてもかなりマズイ。どっかでほんの少し箍が外れちまったら出来心で作っちまいそうだ。
「あゆみ、好きだ……」
思わず呟くとあゆみが花開くように顔を綻ばせた。
信じられねーほど素直だった。愛でれば愛でただけ俺に返してくれる。
そしてちょっとよそ見しただけで拗ねて俺を呼ぶ。
「黒猫君、こっち」
腕を伸ばして俺を呼んでくれる。
ああああ。こいつが俺の嫁なんだよな。信じらんねぇ。
失う心配しなくていい。こいつは俺のもんで大えばりで俺のだって主張できて。
俺に抱きつき、スゲー幸せそうな顔で目を瞑るあゆみの顔に……気が緩んで……ちょっとばかり眠っちまった。
「黒猫君、何で私達二度寝しちゃってるの!?」
ああ。当たり前だけどあゆみに怒られた。慌てて大急ぎで着替えて、俺達は朝飯も食わずに庄屋の屋敷に向かった。始終くすぐったそうにあゆみが微笑んでたのを思い出して勝手に顔がニマってくる。
「ネロ、顔が緩みきってんぞ。そんなんであゆみ落とすなよ」
「どうやらあゆみとネロ殿の所の夫婦関係は良好みたいですね」
バッカスとヴィクに冷やかされても別に気になんねえ。恥ずかしかろうが何だろうが今くらいニヤつかせてくれ。
今回キールさんは一緒にいかないので見送りに来てくれてる。北に向かうメンバーは私と黒猫君の他にヴィクさんとアルディさん、バッカスとアントニーさん、それにもう一人、シモンさんが知らん顔で既に船に乗ってる。
それにあと2人、ウイスキーの街の時にもいた兵士さんがついてきてくれるみたい。
「ネロ、これを持っていけ」
私たちが船に乗る直前、キールさんが黒猫君にそう言って一本の短剣を差し出した。
黒い革張りの鞘に収まったそれは短剣にしてはやや長めで、昔博物館で見た日本の脇差くらいの長さがあるみたい。
柄の部分はしっかりとした鉄製で、持ちての所にはやはり革がまかれてる。あまり飾り気のない実用的な剣。黒猫君がその剣をみながらキールさんに尋ねた。
「なんで今更俺に剣なんだ?」
言われてみれば確かに。今までも散々兵舎の既製品で訓練してたし、今回だって積み荷には念のため軍の剣が積まれてるはず。
するとキールさんがニヤッと笑って剣の柄の底を私たちに見せた。
「これはアズルナブの紋章だ。これが君たち二人の身分を証明してくれる。作るのに時間がかかったからギリギリになったな」
そう言って差し出された柄の底には、なんだか綺麗な星の図柄がしっかりと削り出されてる。
「そういうことなら有難く貰っとく」
少し躊躇いがちにそう返事をして、黒猫くんがキールさんの手から剣を受け取った。
「ネロ、北の事は頼んだぞ」
「ああ、お前も頑張っとけ。とっとと片付けてすぐ帰ってくるから」
「そうしてくれ」
キールさんと別れて私たちは船に乗り、アルディさんが船の指揮をとる。
ナンシーの桟橋を船が離れ、私たちから見えなくなるまでキールさんが私たちを見送ってくれてた。
「あゆみ寝てろ」
「え?」
船がナンシーを出てすぐに黒猫君にそういわれた。
いくら何でも早すぎるでしょと私が見返すと、黒猫君が少し赤くなって私の耳元で答えてくれる。
「昨日あんま寝れなかったろ。今のうちに寝とけよ」
そう言って抱えてる私を自分に寄りかからせて落ちない様に抱き込んだ。
他の皆もいるのにこんな事されるのはちょっと恥ずかしい。
だけど、今朝はシアンさんに魔術を教えてもらってたから緊張してて大丈夫だったけど、こんな静かな船旅でしかも黒猫君の腕の中は座り心地最高で。正直死ぬほど眠いのは事実。
私はすぐに我慢を放棄して、遠慮なく黒猫君をベッド代わりに気持ちよく眠りについた。
「ネロ君。昨日は寝れなかったんですか」
あゆみが寝付くとすぐにアルディがニヤニヤしながら俺に聞いてくる。
「ま、まあそういうっ!っってーなおい!」
俺がちょっと照れながら答えようとすると、後ろからバッカスに思いっきり頭を叩かれた。
「心配させやがって。昨日のお前のだらしない返事を俺は忘れてねーからな」
ああ、それか。昨日俺があゆみを抱えて離れに移る前にこいつスゲー顔で睨んでたもんな。
「すまねえ。ちょっととち狂ってた。もうしねえ」
俺が素直に謝るとバッカスが「ならいい」と小さく頷いてまたも軽く小突かれる。
「昨日は一晩、キーロン陛下が避難してきてたとナンシー公が今朝愚痴ってましたよ」
アルディがわざとらしく嫌味を言いやがる。
こいつらにからかわれるのはまあ仕方ない。どいつもこいつも俺が苦労してたのを知ってたしな。
そして昨日の夜、あゆみと俺がまあちゃんと夫婦になったのは、あゆみの朝からやけにニマる顔を見てればもう見るからに明らかだったしな。
もしかすると俺も似たようなもんなのかもしれねえが。
だが、俺が仕事終えて庄屋の家に迎えにいくと、あゆみの顔が普通に戻ってた。
何かあったなっとは思ったが、あゆみが切り出すまで我慢してお互いの朝の行動を報告し合う。
あゆみが魔法を俺と同等に使えるようになってくるのは正直複雑な気分だ。俺があゆみを助けてやれることがまた一つ減っちまう。
そんな情けないことを考えてる矢先に、あゆみの足の話を聞かされた。
正直、スゲー自分で自分が嫌になった。
あゆみにはもちろん自分の足を取り戻させてやりてえって思ってるはずなのに、あゆみの足が元に戻らないって聞いてホッとしてる自分に気づいちまった。
こいつの足の代わりをこれからもしてやれる。
情けねえがそれはまた一つ、俺が確実にあゆみのためにしてやれることで。
道々シアンの話を考えつつ、俺はどうにもあゆみに抱いてる自分の感情の根暗さに辟易としてた。
今朝だって実はにたようなもんだった──
昨日あゆみが寝落ちした後も、俺はしばらくあゆみを抱えて考えてた。
あゆみのやつ……寝落ち直前に俺の名前呼ぶとか反則だろ。
スゲエきて胸が痛え。
たった一つ、俺が向こうの世界から持ってこれたもの。
この俺の人格とか肉体とかには確固たる『自分』の自信がねーけど。
あゆみに名前を呼ばれて、初めて自分がまだ自分自身だという馬鹿みたいに単純な事実を確信できた。
こいつがこれからも名前を呼んでくれねえかな。
とても恥ずかしくて言い出せねえが、そう思わずには居られなかった。
むろんあゆみとこれ以上なく繋がることが出来たのはスゲー嬉しいけど、この気持ちは全く違う次元でスゲー重い。
次の朝俺が浅い眠りから覚めると、まだあゆみが俺の腕の中に残ってた。
ああ、こいつどこにもいなくなってねえ。俺と一緒にいてくれてる。
髪をすいてやると「フガッ」っと小さなイビキを上げて小さく震え、そして俺にすり寄ってきた。
どうしよう。どうしようもなく可愛い。
あんまり可愛いから鼻摘んだ。
すぐに苦しそうにパカっと口を開く。そして、「ンガンガ」言いながら薄っすらと目を開く。
寝顔だってもちろん可愛いが、やっぱり目を開けて俺を見てくれてるほうが断然いい。
俺がそんなこと考えてるうちにあゆみの目の焦点が合って、俺に鼻を摘まれてることに気付いてムッとして睨みあげてくる。
「黒猫君、もう少し優しい起こし方があるよね?」
『黒猫君』か。そんなに期待していたわけじゃねーけど、思っていたよりも失望感あるな。
それでも俺はそれを押し隠してあゆみの頭をくしゃくしゃと掻き混ぜた。
「いつまでも無防備な寝顔晒してるからつい、な」
その一言であゆみが真っ赤になって困ったように俺を見上げた。
「あんまり見ないで。っていうかいつから見てたの!?」
「そんなに経っちゃいねーよ。お前寝てても面白くねーし」
そう言ってからかうとあゆみが照れながら聞き返してきた。
「く、黒猫君、一体何考えてるの?」
「お前のこと」
俺がそう言うとあゆみが余計赤くなって首を傾げて俺に問返す。
「う、嬉しいけど、朝だよ? もう起きてお仕事行かなきゃ」
「ヤダ。もう少しこうしてたい」
そう言いつつ手を伸ばしてあゆみの肩を抱き寄せ、あゆみの耳に直接囁く。
「今日からまた旅に出るからしばらくこんなこと出来ねえかも知れねえんだぞ。今のうちにもう少しだけ」
あ……。腕の中であゆみの身体が震えた。
こうしてたいのが自分だけじゃない。そう思うとゾクゾクしてくる。
「で、でも、出発遅くしちゃダメだし、バッカスたち待ってるし」
そう言いつつもあゆみは逃げださない。
ああ。スゲー充足感。あゆみにまるっと受け入れられてる。
それから小一時間、俺はあゆみを愛で回してた。
ずっと思ってるが、あゆみが可愛い。
あんまり可愛くて、あんまり愛おしくて、今にも壊れそうで。
かなり本気で子供が欲しい。
自分がこんなこと言い出すとかマジ信じらんねー。
こんなこと考えたのは生まれて初めてだ。
正直決して恵まれた子供時代を過ごしてない俺には、自分の家族を作るなんてことは想像だにしないことだった。今まではゼッテー俺が受け入れなかった。
なのに今。スゲー子供欲しい。
あゆみと俺の。
今こそゼッテーマズイんだけどな。
俺たちの状況は一時的には落ち着いてるが、根本的な部分ではこっちに落とされた時とさほど変わってない。全部終わらせて、落ち着いて森にでも逃げ込むまではまだ子作りとかやってる場合じゃない。
頭ではそう分かっていてもかなりマズイ。どっかでほんの少し箍が外れちまったら出来心で作っちまいそうだ。
「あゆみ、好きだ……」
思わず呟くとあゆみが花開くように顔を綻ばせた。
信じられねーほど素直だった。愛でれば愛でただけ俺に返してくれる。
そしてちょっとよそ見しただけで拗ねて俺を呼ぶ。
「黒猫君、こっち」
腕を伸ばして俺を呼んでくれる。
ああああ。こいつが俺の嫁なんだよな。信じらんねぇ。
失う心配しなくていい。こいつは俺のもんで大えばりで俺のだって主張できて。
俺に抱きつき、スゲー幸せそうな顔で目を瞑るあゆみの顔に……気が緩んで……ちょっとばかり眠っちまった。
「黒猫君、何で私達二度寝しちゃってるの!?」
ああ。当たり前だけどあゆみに怒られた。慌てて大急ぎで着替えて、俺達は朝飯も食わずに庄屋の屋敷に向かった。始終くすぐったそうにあゆみが微笑んでたのを思い出して勝手に顔がニマってくる。
「ネロ、顔が緩みきってんぞ。そんなんであゆみ落とすなよ」
「どうやらあゆみとネロ殿の所の夫婦関係は良好みたいですね」
バッカスとヴィクに冷やかされても別に気になんねえ。恥ずかしかろうが何だろうが今くらいニヤつかせてくれ。
0
お気に入りに追加
439
あなたにおすすめの小説
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!
猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」
無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。
色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。
注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします!
2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。
2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました!
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
★小説家になろう様でも公開しています。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる