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第6章 森
閑話: 黒猫の回想
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今朝は久しぶりに明るい気持ちで目が覚めた。ここ暫く毎日心を占領していた心配事が全てスッキリと解決したからだろう。麦も何とかなって、食料も何とか目処が立って、狼人族の事も一応決着してあゆみも帰ってきて。
疲れ切ってた俺はどうやらあゆみの寝顔を見てるうちにそのままあゆみの横で寝てしまったらしい。俺の横であゆみがいつも通り幸せそうに寝てる。ありがたい事に今日は服を着たままだ。昨日はあのまま寝落ちしたから着替える暇もなかったもんな。
寝ているあゆみの顔を見て改めてホッとする。生きていてくれて本当に良かった。
あゆみが起き出す前にベッドを抜け出して顔だけ洗ってキールの執務室に向かった。
あいつが起きないうちに少しキールと話しておきたかったからだ。
「キール悪いが時間あるか?」
「おはようネロ。こっちも幾つか話したいことがある。あゆみはどうした?」
「あいつはまだ寝てる。あいつが起きる前に話しておきたいんだ」
キールが少し怪訝そうにこちらを見る。
「俺は構わないが。テリースとアルディはすぐ来るぞ?」
「ああ、あいつらは構わない。っていうかあいつらも居てくれた方が助かる」
「じゃあ一体何の話なんだ?」
「バッカス達の事もそうだが……今後出来ればあゆみにはここの内政的な事を任せてバッカス達との政治的な駆け引きとか『連邦』や中央政府とやり合うのにはあまり噛ませない方が良いと思う」
「……それはランド・スチュワードとしての意見か? それともお前個人の意見か?」
「俺自身の意見だ。あいつと俺はやっぱりかなり違う。俺は結構あっちでも色んなところを旅してたから色々酷いことも経験してる。だけどあいつはずっと俺達の生まれた祖国で安全に暮らしてたんだ。常識が違い過ぎて直ぐには慣れないだろう」
「慣れる慣れないじゃなくて、それはお前、あゆみを傷つけたくないだけだろ?」
「……そうかもしれない」
キールに指摘されるまで気付かなかった自分の内心に気付かされ、ちょっと気恥ずかしくてすぐに続ける。
「それに昨日みたいな茶番ももう懲りごりだ」
「ああ、あれはな。今回は結果的には信じられないほど上手く纏まったが、毎回こんな上手く行くとは限らないしな」
二人でため息をつく。
「分かった。アルディとキールが着き次第話し合いを始めよう」
「俺はもう一度あいつの部屋に行って声だけ掛けてくる。まず起きないだろうけどな」
キールがニヤリと笑って俺を送り出した。
アルディとテリースが到着するのを待って俺が森で確認するべき事とバッカス達に提示したい条件、内部にいる『連邦』の子飼の対処、それにナンシー行きの日程について軽く意見をまとめた。ナンシー行きはとにかく早いに越したことは無いが、これもバッカス達の様子しだいだ。
「正直を言えば俺もこういう交渉事ってのは苦手なんだけどな」
元々俺のやり方は力技で通すか腹割って話すかだ。
「そう言うな。今回の事であゆみがお前に輪をかけてこういう事に向いていないのが良く分かったんだ」
そこでキールがちょっと考えて言い直す。
「いや違うな。もしかしたらあゆみの方が向いているのかもしれないが、着地点がまるっきり予想できな過ぎて怖くて任せられない」
二人で顔を見合わせて吹き出してしまう。
「仕方ねぇよな。何とかやってみるさ」
話がまとまった所であゆみを起こして城門に向かった。
城門を抜けて草原を走り出すとあゆみが慌てて俺の首に掴まってきた。見下ろせばあゆみが顔を引きつらせてしがみついてる。あゆみには悪いと思ったが身体で風を切る感触と、腕の中のあゆみの体温が俺の気分を高揚させて、俺はなんか上機嫌で思いっきりスピードを上げて森へ向かった。
あゆみと共に森に着けば何の事は無い、バッカスもその他の狼人族もあゆみを下にも置かない対応をする。
まずは以前俺たちが救助されかくまわれていた砦に向かい入れられ、そこで以前あゆみが寝かされていた部屋に通される。あゆみは知らない様だがこの砦にはここともう一部屋しか個室がない。バッカス達の話ではそのもう一つの個室をあゆみは占領していたらしい。
しかも部屋に入った途端、あゆみの座るところにはバッカスがシーツを丸めて座る場所作ってるし、すかさず他の狼人族の奴があゆみの分だけ木の器に入ったジュースと果物を持ってきてる。
こいつ、どんだけバッカス達に気に入られてるんだよ。
本当に心配しただけ損した気分だ。お陰でバッカスが勝負を挑んで来た時も安心してあゆみを置き去りにして二人で抜け出せた。
案の定、俺達がいない間あゆみは残った狼人族の連中にちやほやされていた様だ。あゆみの目の前に積み上がったフルーツや木の実を見れば一目で分かる。
置いてけぼりにした挙句傷だらけになって帰ってきた俺達にあゆみがヒスを起こしたように怒り出した。
イライラしながらこちらを睨んでいるあゆみを前に俺とバッカスは顔を見合わせる。俺もバッカスもこいつを怒らせるととんでもない事始めるのは昨日で懲りていた。
だからバッカスが気を利かせて森のすももを取りに誘ってくれた時には心底バッカスの機転に感謝した。
崖っぷちに着けばたわわに実を付けて並んだすももの木を前にあゆみが涎を垂らさんばかりになってる。さっきあれだけフルーツ食べてたくせにまだ食うのか。
バッカスと俺が集めたすももをあゆみが食べている間、俺はバッカスの仲間達と友好を深めていた。どいつもこいつも裏のない良い奴らだ。泳ぎ回りながら聞けばやはり皆北に置いてきた女子供の事が気掛かりらしい。家族がいる者もいない者もそれぞれの理由で早く呼び寄せたいのだそうだ。
帰りも同じようにあゆみを抱き上げて走り出そうとした途端、あゆみの匂いに頭がくらくらした。マズい、これは絶対なんか猫の習性のせいだ。俺は言わなくてもいい事を色々口走りそうになって、慌ててあゆみを抱えたまま崖から湖に飛び込んだ。
咄嗟の行動だったんだが思いがけずいい選択だった。
あゆみの驚きっぷりに胸に溜まっていたもやもやがスカッと晴れて、しかもあゆみ自身も湖の水に洗われて匂いも少し治まって一石二鳥だった。
帰り道、あゆみに聞こえないようにバッカスがちょろっと言った「こいつやけにイライラし過ぎじゃねぇか?」って言葉で俺は気づいちゃいけない事に気がついてしまった。
思い返せば昨日治療院に戻ってからずっとやけにあゆみの匂いが気になるとは思っていたんだが、しばらく会っていなかったせいだと思いこんでた。風呂に入れてやったのに今日も結構匂うとは思ってたが。
こいつ、なんで隠してるんだ? っていうか隠すよな。でも隠されると困るんだが。どうもバッカスは気付いてないみたいだな。
砦に戻った俺たちはバッカス達から分けてもらった肉を調理した。バッカスのくれた肉はどれも内臓から遠い部位の肉ではあったが全く血抜きがされていない。
俺はともかくあゆみの奴、よくこんな物をレアで食べ続けてたもんだ。幾ら狩りたてでもかなり危ない。勝手にあゆみから仕事を奪い取って手早く済ませバッカス達に合流した。
予定通りバッカス達に食人の習慣がない事、以前彼らの中に転移者らしき者がいた事を確認し、そして鉄の精製方法を俺も知っている事を匂わせて、内通者が混じってる事を大きな声で宣言しておく。ナンシー行きにもバッカスが付いてきてくれると言うのは予定外だが今夜の結果次第では非常に助かる。
こいつら、敵に回すと厄介だが仲間になればこんなに頼りになるやつらも少ない。
帰りがけにバッカスに今夜の予定を耳打ちした。バッカスもある程度予想してたのだろう、直ぐに落ち合う場所と時間を知らせてくる。そんな俺達の様子を見ていたあゆみがまた拗ねて口もきかなくなった。俺はもうそれは諦めてあゆみを抱えて街へと向かった。
直接キールの執務室に顔を出すと間髪入れずに仕事の話に入ろうとする。まるっきり口を利く気の無い拗ねきったあゆみの顔をキールに見せつけ、目配せしながら先にパットの様子を見に行くと断った。キールも直ぐに察した様子でついでにトーマスの所に寄る言い訳までくれる。最近あゆみはトーマスに色々相談している様だからあいつに任せれば確かに少し落ち着くかもしれない。
テリースに聞かされたパットの様態は寝耳に水だった。パットの様態がテリースが言うほど悪化していた事に俺は全く気づいていなかった。
それでテリースは毎日治療院から農場に通って来ていたのか。多分キールもテリースも俺がパットの様子を心配して農村の仕事が手に付かなくなるのを恐れて隠していたのだろう。
厨房にいたトーマスを見てあゆみが顔を輝かせる。俺は丁度良いのであゆみを一旦トーマスに預け、テリースを引きずって一目散にキールの執務室に飛び込んだ。そこで今日気づいたあゆみの体調の変化を説明する。
キールはこういう事に慣れているのか慣れてないのか、「そんな物放っといてもどうにかなる」というが、テリースがそれを「とんでもありません!」とたしなめる。
やはり農村から呼び寄せてここで働いてもらうはずの女性にお願いしてあゆみの相談に乗ってもらう事にした。
そんなあゆみに聞かせられない話をコソコソしている時にノックもそこそこにあゆみがヒョイっと顔を出したもんだから、俺たちはつい慌ててそれぞれ椅子の上で座り直してしまった。それに気付いたあゆみがより態度を硬化させる。
マズいな、折角パットとトーマスのお陰で少し回復してたあゆみの機嫌がさっきよりも悪化してる。
夕食を終わらせて、キールに今日の成果を報告する段になってあゆみの機嫌が爆発寸前なのに気づいた。何時までも全部隠してはおけないし言い方には結構気を使ったつもりだったがやはり自分だけ仲間外れにされたとでも感じたのだろう。
キールは自分が仕事として俺に振ったとフォローしてくれているがこいつが引っかかっているのは多分そこじゃない。
やっぱりこいつに何も話さずに進めるのは無理があったのか。なんか今日は全てが裏目に出てる気がする。やりつけない事をやった俺が馬鹿だったのか。
俺は諦めてあゆみを抱きかかえ、覚悟を決めて腹を割って話をしに行くことにした。
疲れ切ってた俺はどうやらあゆみの寝顔を見てるうちにそのままあゆみの横で寝てしまったらしい。俺の横であゆみがいつも通り幸せそうに寝てる。ありがたい事に今日は服を着たままだ。昨日はあのまま寝落ちしたから着替える暇もなかったもんな。
寝ているあゆみの顔を見て改めてホッとする。生きていてくれて本当に良かった。
あゆみが起き出す前にベッドを抜け出して顔だけ洗ってキールの執務室に向かった。
あいつが起きないうちに少しキールと話しておきたかったからだ。
「キール悪いが時間あるか?」
「おはようネロ。こっちも幾つか話したいことがある。あゆみはどうした?」
「あいつはまだ寝てる。あいつが起きる前に話しておきたいんだ」
キールが少し怪訝そうにこちらを見る。
「俺は構わないが。テリースとアルディはすぐ来るぞ?」
「ああ、あいつらは構わない。っていうかあいつらも居てくれた方が助かる」
「じゃあ一体何の話なんだ?」
「バッカス達の事もそうだが……今後出来ればあゆみにはここの内政的な事を任せてバッカス達との政治的な駆け引きとか『連邦』や中央政府とやり合うのにはあまり噛ませない方が良いと思う」
「……それはランド・スチュワードとしての意見か? それともお前個人の意見か?」
「俺自身の意見だ。あいつと俺はやっぱりかなり違う。俺は結構あっちでも色んなところを旅してたから色々酷いことも経験してる。だけどあいつはずっと俺達の生まれた祖国で安全に暮らしてたんだ。常識が違い過ぎて直ぐには慣れないだろう」
「慣れる慣れないじゃなくて、それはお前、あゆみを傷つけたくないだけだろ?」
「……そうかもしれない」
キールに指摘されるまで気付かなかった自分の内心に気付かされ、ちょっと気恥ずかしくてすぐに続ける。
「それに昨日みたいな茶番ももう懲りごりだ」
「ああ、あれはな。今回は結果的には信じられないほど上手く纏まったが、毎回こんな上手く行くとは限らないしな」
二人でため息をつく。
「分かった。アルディとキールが着き次第話し合いを始めよう」
「俺はもう一度あいつの部屋に行って声だけ掛けてくる。まず起きないだろうけどな」
キールがニヤリと笑って俺を送り出した。
アルディとテリースが到着するのを待って俺が森で確認するべき事とバッカス達に提示したい条件、内部にいる『連邦』の子飼の対処、それにナンシー行きの日程について軽く意見をまとめた。ナンシー行きはとにかく早いに越したことは無いが、これもバッカス達の様子しだいだ。
「正直を言えば俺もこういう交渉事ってのは苦手なんだけどな」
元々俺のやり方は力技で通すか腹割って話すかだ。
「そう言うな。今回の事であゆみがお前に輪をかけてこういう事に向いていないのが良く分かったんだ」
そこでキールがちょっと考えて言い直す。
「いや違うな。もしかしたらあゆみの方が向いているのかもしれないが、着地点がまるっきり予想できな過ぎて怖くて任せられない」
二人で顔を見合わせて吹き出してしまう。
「仕方ねぇよな。何とかやってみるさ」
話がまとまった所であゆみを起こして城門に向かった。
城門を抜けて草原を走り出すとあゆみが慌てて俺の首に掴まってきた。見下ろせばあゆみが顔を引きつらせてしがみついてる。あゆみには悪いと思ったが身体で風を切る感触と、腕の中のあゆみの体温が俺の気分を高揚させて、俺はなんか上機嫌で思いっきりスピードを上げて森へ向かった。
あゆみと共に森に着けば何の事は無い、バッカスもその他の狼人族もあゆみを下にも置かない対応をする。
まずは以前俺たちが救助されかくまわれていた砦に向かい入れられ、そこで以前あゆみが寝かされていた部屋に通される。あゆみは知らない様だがこの砦にはここともう一部屋しか個室がない。バッカス達の話ではそのもう一つの個室をあゆみは占領していたらしい。
しかも部屋に入った途端、あゆみの座るところにはバッカスがシーツを丸めて座る場所作ってるし、すかさず他の狼人族の奴があゆみの分だけ木の器に入ったジュースと果物を持ってきてる。
こいつ、どんだけバッカス達に気に入られてるんだよ。
本当に心配しただけ損した気分だ。お陰でバッカスが勝負を挑んで来た時も安心してあゆみを置き去りにして二人で抜け出せた。
案の定、俺達がいない間あゆみは残った狼人族の連中にちやほやされていた様だ。あゆみの目の前に積み上がったフルーツや木の実を見れば一目で分かる。
置いてけぼりにした挙句傷だらけになって帰ってきた俺達にあゆみがヒスを起こしたように怒り出した。
イライラしながらこちらを睨んでいるあゆみを前に俺とバッカスは顔を見合わせる。俺もバッカスもこいつを怒らせるととんでもない事始めるのは昨日で懲りていた。
だからバッカスが気を利かせて森のすももを取りに誘ってくれた時には心底バッカスの機転に感謝した。
崖っぷちに着けばたわわに実を付けて並んだすももの木を前にあゆみが涎を垂らさんばかりになってる。さっきあれだけフルーツ食べてたくせにまだ食うのか。
バッカスと俺が集めたすももをあゆみが食べている間、俺はバッカスの仲間達と友好を深めていた。どいつもこいつも裏のない良い奴らだ。泳ぎ回りながら聞けばやはり皆北に置いてきた女子供の事が気掛かりらしい。家族がいる者もいない者もそれぞれの理由で早く呼び寄せたいのだそうだ。
帰りも同じようにあゆみを抱き上げて走り出そうとした途端、あゆみの匂いに頭がくらくらした。マズい、これは絶対なんか猫の習性のせいだ。俺は言わなくてもいい事を色々口走りそうになって、慌ててあゆみを抱えたまま崖から湖に飛び込んだ。
咄嗟の行動だったんだが思いがけずいい選択だった。
あゆみの驚きっぷりに胸に溜まっていたもやもやがスカッと晴れて、しかもあゆみ自身も湖の水に洗われて匂いも少し治まって一石二鳥だった。
帰り道、あゆみに聞こえないようにバッカスがちょろっと言った「こいつやけにイライラし過ぎじゃねぇか?」って言葉で俺は気づいちゃいけない事に気がついてしまった。
思い返せば昨日治療院に戻ってからずっとやけにあゆみの匂いが気になるとは思っていたんだが、しばらく会っていなかったせいだと思いこんでた。風呂に入れてやったのに今日も結構匂うとは思ってたが。
こいつ、なんで隠してるんだ? っていうか隠すよな。でも隠されると困るんだが。どうもバッカスは気付いてないみたいだな。
砦に戻った俺たちはバッカス達から分けてもらった肉を調理した。バッカスのくれた肉はどれも内臓から遠い部位の肉ではあったが全く血抜きがされていない。
俺はともかくあゆみの奴、よくこんな物をレアで食べ続けてたもんだ。幾ら狩りたてでもかなり危ない。勝手にあゆみから仕事を奪い取って手早く済ませバッカス達に合流した。
予定通りバッカス達に食人の習慣がない事、以前彼らの中に転移者らしき者がいた事を確認し、そして鉄の精製方法を俺も知っている事を匂わせて、内通者が混じってる事を大きな声で宣言しておく。ナンシー行きにもバッカスが付いてきてくれると言うのは予定外だが今夜の結果次第では非常に助かる。
こいつら、敵に回すと厄介だが仲間になればこんなに頼りになるやつらも少ない。
帰りがけにバッカスに今夜の予定を耳打ちした。バッカスもある程度予想してたのだろう、直ぐに落ち合う場所と時間を知らせてくる。そんな俺達の様子を見ていたあゆみがまた拗ねて口もきかなくなった。俺はもうそれは諦めてあゆみを抱えて街へと向かった。
直接キールの執務室に顔を出すと間髪入れずに仕事の話に入ろうとする。まるっきり口を利く気の無い拗ねきったあゆみの顔をキールに見せつけ、目配せしながら先にパットの様子を見に行くと断った。キールも直ぐに察した様子でついでにトーマスの所に寄る言い訳までくれる。最近あゆみはトーマスに色々相談している様だからあいつに任せれば確かに少し落ち着くかもしれない。
テリースに聞かされたパットの様態は寝耳に水だった。パットの様態がテリースが言うほど悪化していた事に俺は全く気づいていなかった。
それでテリースは毎日治療院から農場に通って来ていたのか。多分キールもテリースも俺がパットの様子を心配して農村の仕事が手に付かなくなるのを恐れて隠していたのだろう。
厨房にいたトーマスを見てあゆみが顔を輝かせる。俺は丁度良いのであゆみを一旦トーマスに預け、テリースを引きずって一目散にキールの執務室に飛び込んだ。そこで今日気づいたあゆみの体調の変化を説明する。
キールはこういう事に慣れているのか慣れてないのか、「そんな物放っといてもどうにかなる」というが、テリースがそれを「とんでもありません!」とたしなめる。
やはり農村から呼び寄せてここで働いてもらうはずの女性にお願いしてあゆみの相談に乗ってもらう事にした。
そんなあゆみに聞かせられない話をコソコソしている時にノックもそこそこにあゆみがヒョイっと顔を出したもんだから、俺たちはつい慌ててそれぞれ椅子の上で座り直してしまった。それに気付いたあゆみがより態度を硬化させる。
マズいな、折角パットとトーマスのお陰で少し回復してたあゆみの機嫌がさっきよりも悪化してる。
夕食を終わらせて、キールに今日の成果を報告する段になってあゆみの機嫌が爆発寸前なのに気づいた。何時までも全部隠してはおけないし言い方には結構気を使ったつもりだったがやはり自分だけ仲間外れにされたとでも感じたのだろう。
キールは自分が仕事として俺に振ったとフォローしてくれているがこいつが引っかかっているのは多分そこじゃない。
やっぱりこいつに何も話さずに進めるのは無理があったのか。なんか今日は全てが裏目に出てる気がする。やりつけない事をやった俺が馬鹿だったのか。
俺は諦めてあゆみを抱きかかえ、覚悟を決めて腹を割って話をしに行くことにした。
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