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第5章 狼人族
7 成長
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蒸気機関にまつわるお話し合いはおしまいになったけど、他の皆さんがいるうちに前から聞いてみたかったことを聞いてみる。
「あの、キールさんとテリースさんてどんな魔法が使えるんですか?」
これ、結構気になっていたんだ。トーマスさんの話では、魔法は思っていたほどポピュラーじゃないらしいし。聞けるうちに聞いておきたい。
二人は私の質問にちょっと顔を見合わせて困った顔で私を見返した。
「あゆみ、君が知らないのは仕方のないことだが、ここではそれは余り誰にでもしないほうが無難な質問だ。お互い、それは自分の手の内を明かすようなものだしな」
「決して話すのがいけないと言うことではありませんが、自分の身の安全の為にもあまり大っぴらに話す内容ではありません」
「え! す、すみません」
二人の返答に慌てて謝ると、テリースさんがすかさずフォローを入れてくれる。
「いえ、いいんですよ。特にあゆみさんとネロ君は私が魔力の引き出しをしているんですから知っておきたいと思われるのは当然です」
そうなのだ。あまり魔法が出来る人間がいないということは、この二人が出来る魔法以外、私は習うことも出来ない可能性もあるし。
「全てお教えは出来ませんが、私もキーロン殿下も差しさわりのない程度には教えて差し上げられます」
そう言ってテリースさんがキールさんに顔を向ければ、キールさんもうなずきながら返事をしてくれる。
「ああ。俺は王家の固有魔法があるがこれは極秘事項で教える訳にはいかない。系統魔法も教えられないが、代わりに俺が全ての系統を使えることだけは教えておこう。だから君たちが魔術を鍛錬するときには少なくとも一通り全て触る手伝いをしてやれるだろう」
うわ、凄い。さっきのテリースさんのお話によれば系統以外の魔法は使えないことのほうが多いんだよね? だったら全部できるってのはかなり凄いことだと思う。
キールさんに続けてテリースさんが話し始めた。
「以前もお話しましたが、私は治療関連の固有魔法が幾つかあります。系統は風です。他に『生』と『死』の魔法が系統として使えます」
「せ、『生』と『死』ですか?」
なんか凄そうなカテゴリーに自分の耳を疑って聞きなおしちゃった。
「ええ、これは対になっていますが別に殺す、という意味の『死』ではありませんよ。まあ、極めればそれもあるのかもしれませんが、少なくとも私には使えません。私の『死』の系統魔法では、例えば眠らせたり、動きを緩くしたりすることが出来ます。ですから怪我や病の進行を遅らせるのに使用することが多いですね」
「そ、それはすごい」
「ええ、これは主にエルフが得意とする系統なんです」
伏目がちにテリースさんが頷いて答えてくれる。
「パット、お前は魔法は使えないんだよな?」
「出来ません。と言うより使える人の方が滅多にいませんよ」
黒猫君の不躾な質問にパット君がちょっと困った顔で黒猫君に返事をした。
「では折角お話も出ましたし、今日も少し魔術の鍛錬をしてみましょうか?」
「その前に一つあゆみに頼みたいんだが」
キールさんがチロリと黒猫君に目をやりながら聞いてきた。
「はい、なんでしょうか?」
「もう一度君の固有魔法を試してみないか?」
心臓がドキンと跳ねあがった。
「そ、それって」
「ああ、この前は水を通した放射実験をしたせいで影響がそこら中に広がってたが、ネロにだけ出せばもしかするとまたこいつを人間に戻せるんじゃないのか?」
「…………」
それは……私だって考えていなかったわけじゃなかった。
ただ、ちょっと躊躇っていたのは。
もし失敗しちゃったら黒猫君が凄く落ち込むんじゃないかと心配したから。
っていうのは詭弁だよね。
本当は。多分、黒猫君が黒猫君の方が私が付き合いやすいから。
私は恐る恐る黒猫君を見る。黒猫君はその金の瞳になんの感情も映さずに私を見返してきた。
「あゆみ、どうしたい?」
ひどく真っすぐな質問に、言葉を失う。自分の感情だけの問題でこれを断るのは余りに卑怯だ。
「やってみよう」
私は絞り出すように答えた。
キールさんが念のため室内は避けたほうがいいと言うので、また全員で裏庭に移動した。
「あゆみさん、この前と方法は同じですがネロ君の手を取って集中してみてください」
身長の差を縮めるために私も黒猫君も持ち出した椅子に座ってる。私は意を決して黒猫君の手を取った。
「失敗したらごめん」
前もって断っておく。
「別にいい」
短く黒猫君が答えてくれる。でもそれは不機嫌なんじゃなくてかなり緊張してるからみたい。その証拠に黒猫君の肉球の足はじっとりと汗で濡れている。
黒猫君の答えに背を押されて私は前回、水の中でしたように魔力を流し始めた。
「うっ!」
私が魔力を流し始めた途端、黒猫君の身体が大きくなり始める。だけどそれと同時に黒猫君が苦しそうな唸り声を上げた。
「だ、大丈夫!?」
唸った黒猫君が心配で声を掛けたけど、黒猫君は首を振って短く「続けろ」っとだけ返す。仕方ないので量を調節して、とにかく少なめを心がけて放出し続けた。
少し大きくなるたびに黒猫君が唸り声をあげる。どう見てもこの不自然な巨大化はかなり辛い痛みを伴ってるんだと思う。
「ねえ、ここで一旦止めない?」
黒猫君が小さめの柴犬くらいまで大きくなったところでもう一度魔力を止めて、再度聞いてみた。
だって黒猫君、身体を捩りながら痛みに耐えてるんだもん。足の肉球が滑るほど汗が滲んでるし。
「だめだ! 続けてくれ」
私は縋るようにキールさんとテリースさんを見上げた。
「ネロ、無理はするな。また試せばいいだけのことだぞ」
「大丈夫だから続けろ!」
頑なに続けろと繰り返す黒猫君に、私は仕方なく魔力の放出を再開した。
「がああぁ!」
叫び出した黒猫君に慌てて魔力を止める。
「なんかやだよ、もう出来ない」
こんな苦しんでるのに続けるのは無理。
私の拒絶を聞いた黒猫君が、苦しそうに喘ぎながら私を見上げた。小さくため息をついて、「分かった」と一言言って私の手から自分の前足を引き抜く。
「よ、よかったじゃないですかネロさん。少なくともネロさんの成長があゆみさんの魔法で起きていたのは証明されたんですから」
横で見ていたパット君が笑顔を貼りつけて声を掛けるけど。
「ああ、そうだな」
そう短く返事をした黒猫君は、すぐに治療院の中に一人で帰って行ってしまった。
「あの、キールさんとテリースさんてどんな魔法が使えるんですか?」
これ、結構気になっていたんだ。トーマスさんの話では、魔法は思っていたほどポピュラーじゃないらしいし。聞けるうちに聞いておきたい。
二人は私の質問にちょっと顔を見合わせて困った顔で私を見返した。
「あゆみ、君が知らないのは仕方のないことだが、ここではそれは余り誰にでもしないほうが無難な質問だ。お互い、それは自分の手の内を明かすようなものだしな」
「決して話すのがいけないと言うことではありませんが、自分の身の安全の為にもあまり大っぴらに話す内容ではありません」
「え! す、すみません」
二人の返答に慌てて謝ると、テリースさんがすかさずフォローを入れてくれる。
「いえ、いいんですよ。特にあゆみさんとネロ君は私が魔力の引き出しをしているんですから知っておきたいと思われるのは当然です」
そうなのだ。あまり魔法が出来る人間がいないということは、この二人が出来る魔法以外、私は習うことも出来ない可能性もあるし。
「全てお教えは出来ませんが、私もキーロン殿下も差しさわりのない程度には教えて差し上げられます」
そう言ってテリースさんがキールさんに顔を向ければ、キールさんもうなずきながら返事をしてくれる。
「ああ。俺は王家の固有魔法があるがこれは極秘事項で教える訳にはいかない。系統魔法も教えられないが、代わりに俺が全ての系統を使えることだけは教えておこう。だから君たちが魔術を鍛錬するときには少なくとも一通り全て触る手伝いをしてやれるだろう」
うわ、凄い。さっきのテリースさんのお話によれば系統以外の魔法は使えないことのほうが多いんだよね? だったら全部できるってのはかなり凄いことだと思う。
キールさんに続けてテリースさんが話し始めた。
「以前もお話しましたが、私は治療関連の固有魔法が幾つかあります。系統は風です。他に『生』と『死』の魔法が系統として使えます」
「せ、『生』と『死』ですか?」
なんか凄そうなカテゴリーに自分の耳を疑って聞きなおしちゃった。
「ええ、これは対になっていますが別に殺す、という意味の『死』ではありませんよ。まあ、極めればそれもあるのかもしれませんが、少なくとも私には使えません。私の『死』の系統魔法では、例えば眠らせたり、動きを緩くしたりすることが出来ます。ですから怪我や病の進行を遅らせるのに使用することが多いですね」
「そ、それはすごい」
「ええ、これは主にエルフが得意とする系統なんです」
伏目がちにテリースさんが頷いて答えてくれる。
「パット、お前は魔法は使えないんだよな?」
「出来ません。と言うより使える人の方が滅多にいませんよ」
黒猫君の不躾な質問にパット君がちょっと困った顔で黒猫君に返事をした。
「では折角お話も出ましたし、今日も少し魔術の鍛錬をしてみましょうか?」
「その前に一つあゆみに頼みたいんだが」
キールさんがチロリと黒猫君に目をやりながら聞いてきた。
「はい、なんでしょうか?」
「もう一度君の固有魔法を試してみないか?」
心臓がドキンと跳ねあがった。
「そ、それって」
「ああ、この前は水を通した放射実験をしたせいで影響がそこら中に広がってたが、ネロにだけ出せばもしかするとまたこいつを人間に戻せるんじゃないのか?」
「…………」
それは……私だって考えていなかったわけじゃなかった。
ただ、ちょっと躊躇っていたのは。
もし失敗しちゃったら黒猫君が凄く落ち込むんじゃないかと心配したから。
っていうのは詭弁だよね。
本当は。多分、黒猫君が黒猫君の方が私が付き合いやすいから。
私は恐る恐る黒猫君を見る。黒猫君はその金の瞳になんの感情も映さずに私を見返してきた。
「あゆみ、どうしたい?」
ひどく真っすぐな質問に、言葉を失う。自分の感情だけの問題でこれを断るのは余りに卑怯だ。
「やってみよう」
私は絞り出すように答えた。
キールさんが念のため室内は避けたほうがいいと言うので、また全員で裏庭に移動した。
「あゆみさん、この前と方法は同じですがネロ君の手を取って集中してみてください」
身長の差を縮めるために私も黒猫君も持ち出した椅子に座ってる。私は意を決して黒猫君の手を取った。
「失敗したらごめん」
前もって断っておく。
「別にいい」
短く黒猫君が答えてくれる。でもそれは不機嫌なんじゃなくてかなり緊張してるからみたい。その証拠に黒猫君の肉球の足はじっとりと汗で濡れている。
黒猫君の答えに背を押されて私は前回、水の中でしたように魔力を流し始めた。
「うっ!」
私が魔力を流し始めた途端、黒猫君の身体が大きくなり始める。だけどそれと同時に黒猫君が苦しそうな唸り声を上げた。
「だ、大丈夫!?」
唸った黒猫君が心配で声を掛けたけど、黒猫君は首を振って短く「続けろ」っとだけ返す。仕方ないので量を調節して、とにかく少なめを心がけて放出し続けた。
少し大きくなるたびに黒猫君が唸り声をあげる。どう見てもこの不自然な巨大化はかなり辛い痛みを伴ってるんだと思う。
「ねえ、ここで一旦止めない?」
黒猫君が小さめの柴犬くらいまで大きくなったところでもう一度魔力を止めて、再度聞いてみた。
だって黒猫君、身体を捩りながら痛みに耐えてるんだもん。足の肉球が滑るほど汗が滲んでるし。
「だめだ! 続けてくれ」
私は縋るようにキールさんとテリースさんを見上げた。
「ネロ、無理はするな。また試せばいいだけのことだぞ」
「大丈夫だから続けろ!」
頑なに続けろと繰り返す黒猫君に、私は仕方なく魔力の放出を再開した。
「がああぁ!」
叫び出した黒猫君に慌てて魔力を止める。
「なんかやだよ、もう出来ない」
こんな苦しんでるのに続けるのは無理。
私の拒絶を聞いた黒猫君が、苦しそうに喘ぎながら私を見上げた。小さくため息をついて、「分かった」と一言言って私の手から自分の前足を引き抜く。
「よ、よかったじゃないですかネロさん。少なくともネロさんの成長があゆみさんの魔法で起きていたのは証明されたんですから」
横で見ていたパット君が笑顔を貼りつけて声を掛けるけど。
「ああ、そうだな」
そう短く返事をした黒猫君は、すぐに治療院の中に一人で帰って行ってしまった。
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