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第4章 執務
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テリースさんが帰ってきた所で一旦話が切れて、パット君がお茶を煎れに行ってくれた。
「どうぞあゆみさん」
そう言ってパット君が私にもお茶を回してくれる。
あ、パット君偉い! 黒猫君用に深皿を持ってきてくれた。
お茶の入ったそれを黒猫君がとても微妙そうな顔で見つめてる。
「黒猫君、そろそろ君専用のお皿を決めるべきかな」
「絶対にやめてくれ」
うーん、どうしても猫扱いは嫌らしい。
テリースさんはテリースさんで、濃いめに入れられたそれをなんとも勿体なさそうに飲んでる。だけど、流石にもう煎れちゃったお茶に文句を付ける気はないみたい。
今、部屋の中では私が自分の執務机の椅子に座り、その横のもう一つの椅子を黒猫君が台のようにして座ってる。流石に私ほど座高がないから視線はちょっと下。
そして目の前の机をはさんでキールさんとテリースさんが腰かけてる。入ってきたパット君も黒猫君が手招きして座らせた。
アルディさんは隊の人たちと兵士のお仕事を確認しに門に行ったらしい。
「さて、今日はパットが加わったわけだが……」
キールさんの言葉に黒猫君がひょいと顔を上げて口を挟む。
「こいつにはもう逃げられちゃ困るんだよ。全部聞かせて逃げ道は塞いでおこう」
黒猫君の言葉にパット君の顔色がちょっと悪くなった。
「安心しろ。昨日の仕事っぷりからして、これからも充分役に立ってもらえると期待してるからな」
キールさんの言葉に今度はちょっとだけ嬉しそうに顔を輝かせたけど。パット君、それ言われてること全然変わらないから。
「さて、じゃあ会議を始める」
「なんで俺たちの部屋で会議なんだよ」
「俺の部屋だといつ兵士が入ってくるか分からんからな」
「俺の部屋だってあの三人がいつ来るか分からないぞ」
「心配ない。今日も結構列ができてたぞ」
それはあんまり嬉しくない……
「で、これはなんの会議なんだ?」
「まあ、俺の執政会議って所かな? なんせ、今の所正式な俺の執政官はお前らだけなんだし」
そこで私はバッと手を上げた。
「キールさん、私と黒猫君にランド・アンド・ハウス・スチュワードなんて無理だと思います。再考してください」
「却下だ。これ以上使える奴を減らしてどうする。出来れば君たちにはそれぞれ別の仕事をしてもらいたいくらいだからな」
至極当たり前と言う顔でバッサリ却下されて落ち込む私の横で、今こそはっと黒猫君が突っ込む。
「まて、因みに今まで俺たちの待遇については話がなかったよな」
「それは借金だな。俺たちが隣町まで行きつけたらそれなりの褒美を考えてやろう」
「やけにあんたに都合の良い話だな」
「そうは言うが、もとはと言えば全てお前の始めたことだからな。大体、早いところ隣町まで行き来が出来るようにならなければ、どうせここもやりくりできなくなる。褒美も待遇も生き残れてなんぼってとこだな」
言われてみればその通り。放っておけば狼人族に襲われるかこのまま干上がる未来しかない今、確かに生き残るほうが先決だよね。
「それじゃあ先に仕事の割り振りを再確認しよう。まずはテリースだが、こいつにはやっぱり戻ってきてもらいたい」
キールさんの言葉をテリースさんがなんとも複雑な顔で受けとめてた。
「俺は別に構わないが農村はどうするんだ? 人手は見つかったのか?」
「ああ、それでしたら昨日から貧民街で先に人を募ってから農村に一緒に向かっていたので、何人か働き手が付きました」
黒猫君の問いにテリースさんが直接答える。
「ただ、まだ彼らをまとめられるような人がいませんから、しばらくは隊のほうから代わりの人を出してもらわないと無理ですね」
「ああ、それならアルディがなんとかすると言ってた。大体麦の刈り入れには俺たちも巻き込まれるらしいしな」
そう言って黒猫君を軽くにらむ。
「それで、テリースを連れてきて何をさせるんだ?」
「さっき君たちの話を聞いてても思ったんだが、流石に土地と家、両方のスチュワードを君たち二人でこなすのは無理がありそうだ」
「そんなのは最初っから分かってただろう」
黒猫君がハーっとため息をついて返す。
「そうは言うが、俺だってここまで一気に全て動くとは思ってなかったんだ。人心など簡単に集まるものでもないしな」
そう言うキールさんは多分、自分への評価が低すぎるんだと思う。
「だからテリースをここに戻してせめてハウス・スチュワードをこいつに任せたい。この治療院自体も教会の管轄下から俺の管轄下に正式に移す。院長にはもう話してある。ただ、あの院長、どこまで分かっているのか良く分からん」
そう言って小首をかしげる。
「とにかくこの建物は正式に俺のこの地域のcountry houseとして扱う事にした」
「カントリー・ハウスですか」
「まあ、妥当な線だな」
テリースさんと黒猫君はなんとなく理解してるらしいけど、私的には何が変わるのか分からない。
「ごめんなさい、カントリー・ハウスって今までとどう違うんですか?」
「まあ俺の理解が正しければ、ここは今後キーロン皇太子のこの地域での正式な住居であるとともに権力の集約地となるってことだ。あってるか?」
「ああ、その通りだ。まあ、通常カントリー・ハウスは自分の見栄を満たす意味もあるからそう意味で言えば最低な物件だがな」
「お前らしくていいんじゃないのか? 質実剛健」
ニヤリと笑って黒猫君がキールさんを見上げた。キールさんもニヤリと笑って頷き返す。
「正式な形など整えている暇も物資もないが、少なくともこれでここでの執政も正式なものになる。この土地の税金の徴収もその後の使用も正式に俺の権限で全て行える」
「ああ、そう言う意味もあるんだな」
「だが、そうするからにはやはりせめてハウス・スチュワードを仕立てて、今後のこの屋敷としての生計を管理する必要があるだろう。これでもテリースはやりくりだけは任せられる。ちょっと締めすぎるきらいはあるが、今はそれも必要だろう」
黒猫君がコクリと頷いた。
「それは助かるな。正直、台帳と税金のやり取りだけで俺たちは今手いっぱいだ。厨房も指示は出してるがもう面倒見切れん」
「それじゃあこれは決定としてテリース、明日から2日で次の奴に引き継ぎをして来い」
「ちょ、ちょっと待ってくださいキーロン殿下。私が農場に行かなくなると途端にここの食事を作る食料が手に入らなくなるんですが?」
「安心しろ、それは今後徴税した物資から買い取るなりなんなりする。後ここの暖炉のチェックも今のうちに隊から人を出してやらせておこう」
忘れてなかったんですね、っとテリースさんが小さく安堵のため息をついた。
「これでもう話すことが全部なら、出来れば今日はテリースに魔術の使い方を教わりに行きたいんだが」
黒猫君がこれでお開きか、と持ち掛けたのに、キールさんの顔がちょっと曇った。
「いや、もう一つ今のうちに話し合っておきたいことがある。狼人族の件だ」
「ああ」
黒猫君が来たかっと言うように面倒くさそうな返事を返した。
「あいつらが本格的に攻めてくる前に今後の対策を少し詰めておきたい。ネロ、なんか案はないか?」
「なぜ俺に聞く?」
黒猫君がやけに真顔でキールさんに尋ねる。
ふっと小さな笑みを浮かべてキールさんが答えを返した。
「まあ。多分薄々お前も感づいているんだろう。俺たち王族は君たちのような漂流者について少なからず知識がある」
途端黒猫君の態度が非常に警戒したものに変わった。
「今まで隠していたのか?」
それをなだめるように砕けた雰囲気でキールさんが答える。
「いや、そんなことを話し合う時間がなかっただけだ。お前が腹を割って話そうと言い出した時に本当は話そうと思ってたんだが、あれよあれよという間にこんな立場に追いやられたからな」
そう笑いかけたキールさんは、でも目が今一つ笑ってない。
「知識がある、とは言ったが実はたいしたことは知らない。俺は確かに王族だが、今まで一度も現王に謁見したこともなければ王族の他の者と顔を合わせたこともない。成人と共に屋敷を出ちまったからな」
そう言ってキールさんは自虐的に笑った。それを見たテリースさんの顔が申し訳なさそうに少し歪んでいる。
「それでどんなことを知ってるんだ?」
黒猫君の突っ込んだ質問にキールさんがちょっと困った顔で答える。
「漂流者は……特別だ、とだけ知っている。あんたらは俺たちにはない知識があって、俺たちにはない力がある、と言われてた。まあ、これも屋敷にいた頃の王室お抱えの家庭教師に教えられた程度だけどな」
「それはまた至極曖昧な話だな」
黒猫君が呆れて返事をするけど私も同感だ。それじゃ私たちが一体何の役に立つのか全く分からない。
「まあ、これで俺も腹に残っているもんは何もないわけだが、ネロ、何か思い当たることはないのか?」
「あー? ん。こればっかりはなんともな。普通の俺たちの世界の人間がこっちに来たってそんなに大した役には立たないと思うんだが。まあ、なんかしらチートが合ってくれれば別だがな」
「cheatか?」
「そうだ。こんな変な転移って状況に良くあるらしいんだけどな。俺たちに他の人間にはない力があるとかって。ただそんなもんはまだ全然分かんねぇ。まあ確かに向こうの知識で少しは役に立つこともなくはないが……そっちはもう少し考えてからにしたい」
「なんだ、腹を割って話してくれるんじゃなかったのか?」
「いずれちゃんと話すが、なんせ影響がどう出るか全然予想が付かないしな。数日以内には必ずあんたには説明するよ、それまでちょっと考えさせてくれ」
どうやらキールさんは黒猫君の返事に満足したらしく、そこでこの話は打ち切りになった。
「じゃあ、そのチートとやらになるかもしれないしお前らの魔術の訓練でも見に行くか」
そう言って立ち上がったキールさんに連れられて、私たちは全員で庭に場所を移したのだった。
「どうぞあゆみさん」
そう言ってパット君が私にもお茶を回してくれる。
あ、パット君偉い! 黒猫君用に深皿を持ってきてくれた。
お茶の入ったそれを黒猫君がとても微妙そうな顔で見つめてる。
「黒猫君、そろそろ君専用のお皿を決めるべきかな」
「絶対にやめてくれ」
うーん、どうしても猫扱いは嫌らしい。
テリースさんはテリースさんで、濃いめに入れられたそれをなんとも勿体なさそうに飲んでる。だけど、流石にもう煎れちゃったお茶に文句を付ける気はないみたい。
今、部屋の中では私が自分の執務机の椅子に座り、その横のもう一つの椅子を黒猫君が台のようにして座ってる。流石に私ほど座高がないから視線はちょっと下。
そして目の前の机をはさんでキールさんとテリースさんが腰かけてる。入ってきたパット君も黒猫君が手招きして座らせた。
アルディさんは隊の人たちと兵士のお仕事を確認しに門に行ったらしい。
「さて、今日はパットが加わったわけだが……」
キールさんの言葉に黒猫君がひょいと顔を上げて口を挟む。
「こいつにはもう逃げられちゃ困るんだよ。全部聞かせて逃げ道は塞いでおこう」
黒猫君の言葉にパット君の顔色がちょっと悪くなった。
「安心しろ。昨日の仕事っぷりからして、これからも充分役に立ってもらえると期待してるからな」
キールさんの言葉に今度はちょっとだけ嬉しそうに顔を輝かせたけど。パット君、それ言われてること全然変わらないから。
「さて、じゃあ会議を始める」
「なんで俺たちの部屋で会議なんだよ」
「俺の部屋だといつ兵士が入ってくるか分からんからな」
「俺の部屋だってあの三人がいつ来るか分からないぞ」
「心配ない。今日も結構列ができてたぞ」
それはあんまり嬉しくない……
「で、これはなんの会議なんだ?」
「まあ、俺の執政会議って所かな? なんせ、今の所正式な俺の執政官はお前らだけなんだし」
そこで私はバッと手を上げた。
「キールさん、私と黒猫君にランド・アンド・ハウス・スチュワードなんて無理だと思います。再考してください」
「却下だ。これ以上使える奴を減らしてどうする。出来れば君たちにはそれぞれ別の仕事をしてもらいたいくらいだからな」
至極当たり前と言う顔でバッサリ却下されて落ち込む私の横で、今こそはっと黒猫君が突っ込む。
「まて、因みに今まで俺たちの待遇については話がなかったよな」
「それは借金だな。俺たちが隣町まで行きつけたらそれなりの褒美を考えてやろう」
「やけにあんたに都合の良い話だな」
「そうは言うが、もとはと言えば全てお前の始めたことだからな。大体、早いところ隣町まで行き来が出来るようにならなければ、どうせここもやりくりできなくなる。褒美も待遇も生き残れてなんぼってとこだな」
言われてみればその通り。放っておけば狼人族に襲われるかこのまま干上がる未来しかない今、確かに生き残るほうが先決だよね。
「それじゃあ先に仕事の割り振りを再確認しよう。まずはテリースだが、こいつにはやっぱり戻ってきてもらいたい」
キールさんの言葉をテリースさんがなんとも複雑な顔で受けとめてた。
「俺は別に構わないが農村はどうするんだ? 人手は見つかったのか?」
「ああ、それでしたら昨日から貧民街で先に人を募ってから農村に一緒に向かっていたので、何人か働き手が付きました」
黒猫君の問いにテリースさんが直接答える。
「ただ、まだ彼らをまとめられるような人がいませんから、しばらくは隊のほうから代わりの人を出してもらわないと無理ですね」
「ああ、それならアルディがなんとかすると言ってた。大体麦の刈り入れには俺たちも巻き込まれるらしいしな」
そう言って黒猫君を軽くにらむ。
「それで、テリースを連れてきて何をさせるんだ?」
「さっき君たちの話を聞いてても思ったんだが、流石に土地と家、両方のスチュワードを君たち二人でこなすのは無理がありそうだ」
「そんなのは最初っから分かってただろう」
黒猫君がハーっとため息をついて返す。
「そうは言うが、俺だってここまで一気に全て動くとは思ってなかったんだ。人心など簡単に集まるものでもないしな」
そう言うキールさんは多分、自分への評価が低すぎるんだと思う。
「だからテリースをここに戻してせめてハウス・スチュワードをこいつに任せたい。この治療院自体も教会の管轄下から俺の管轄下に正式に移す。院長にはもう話してある。ただ、あの院長、どこまで分かっているのか良く分からん」
そう言って小首をかしげる。
「とにかくこの建物は正式に俺のこの地域のcountry houseとして扱う事にした」
「カントリー・ハウスですか」
「まあ、妥当な線だな」
テリースさんと黒猫君はなんとなく理解してるらしいけど、私的には何が変わるのか分からない。
「ごめんなさい、カントリー・ハウスって今までとどう違うんですか?」
「まあ俺の理解が正しければ、ここは今後キーロン皇太子のこの地域での正式な住居であるとともに権力の集約地となるってことだ。あってるか?」
「ああ、その通りだ。まあ、通常カントリー・ハウスは自分の見栄を満たす意味もあるからそう意味で言えば最低な物件だがな」
「お前らしくていいんじゃないのか? 質実剛健」
ニヤリと笑って黒猫君がキールさんを見上げた。キールさんもニヤリと笑って頷き返す。
「正式な形など整えている暇も物資もないが、少なくともこれでここでの執政も正式なものになる。この土地の税金の徴収もその後の使用も正式に俺の権限で全て行える」
「ああ、そう言う意味もあるんだな」
「だが、そうするからにはやはりせめてハウス・スチュワードを仕立てて、今後のこの屋敷としての生計を管理する必要があるだろう。これでもテリースはやりくりだけは任せられる。ちょっと締めすぎるきらいはあるが、今はそれも必要だろう」
黒猫君がコクリと頷いた。
「それは助かるな。正直、台帳と税金のやり取りだけで俺たちは今手いっぱいだ。厨房も指示は出してるがもう面倒見切れん」
「それじゃあこれは決定としてテリース、明日から2日で次の奴に引き継ぎをして来い」
「ちょ、ちょっと待ってくださいキーロン殿下。私が農場に行かなくなると途端にここの食事を作る食料が手に入らなくなるんですが?」
「安心しろ、それは今後徴税した物資から買い取るなりなんなりする。後ここの暖炉のチェックも今のうちに隊から人を出してやらせておこう」
忘れてなかったんですね、っとテリースさんが小さく安堵のため息をついた。
「これでもう話すことが全部なら、出来れば今日はテリースに魔術の使い方を教わりに行きたいんだが」
黒猫君がこれでお開きか、と持ち掛けたのに、キールさんの顔がちょっと曇った。
「いや、もう一つ今のうちに話し合っておきたいことがある。狼人族の件だ」
「ああ」
黒猫君が来たかっと言うように面倒くさそうな返事を返した。
「あいつらが本格的に攻めてくる前に今後の対策を少し詰めておきたい。ネロ、なんか案はないか?」
「なぜ俺に聞く?」
黒猫君がやけに真顔でキールさんに尋ねる。
ふっと小さな笑みを浮かべてキールさんが答えを返した。
「まあ。多分薄々お前も感づいているんだろう。俺たち王族は君たちのような漂流者について少なからず知識がある」
途端黒猫君の態度が非常に警戒したものに変わった。
「今まで隠していたのか?」
それをなだめるように砕けた雰囲気でキールさんが答える。
「いや、そんなことを話し合う時間がなかっただけだ。お前が腹を割って話そうと言い出した時に本当は話そうと思ってたんだが、あれよあれよという間にこんな立場に追いやられたからな」
そう笑いかけたキールさんは、でも目が今一つ笑ってない。
「知識がある、とは言ったが実はたいしたことは知らない。俺は確かに王族だが、今まで一度も現王に謁見したこともなければ王族の他の者と顔を合わせたこともない。成人と共に屋敷を出ちまったからな」
そう言ってキールさんは自虐的に笑った。それを見たテリースさんの顔が申し訳なさそうに少し歪んでいる。
「それでどんなことを知ってるんだ?」
黒猫君の突っ込んだ質問にキールさんがちょっと困った顔で答える。
「漂流者は……特別だ、とだけ知っている。あんたらは俺たちにはない知識があって、俺たちにはない力がある、と言われてた。まあ、これも屋敷にいた頃の王室お抱えの家庭教師に教えられた程度だけどな」
「それはまた至極曖昧な話だな」
黒猫君が呆れて返事をするけど私も同感だ。それじゃ私たちが一体何の役に立つのか全く分からない。
「まあ、これで俺も腹に残っているもんは何もないわけだが、ネロ、何か思い当たることはないのか?」
「あー? ん。こればっかりはなんともな。普通の俺たちの世界の人間がこっちに来たってそんなに大した役には立たないと思うんだが。まあ、なんかしらチートが合ってくれれば別だがな」
「cheatか?」
「そうだ。こんな変な転移って状況に良くあるらしいんだけどな。俺たちに他の人間にはない力があるとかって。ただそんなもんはまだ全然分かんねぇ。まあ確かに向こうの知識で少しは役に立つこともなくはないが……そっちはもう少し考えてからにしたい」
「なんだ、腹を割って話してくれるんじゃなかったのか?」
「いずれちゃんと話すが、なんせ影響がどう出るか全然予想が付かないしな。数日以内には必ずあんたには説明するよ、それまでちょっと考えさせてくれ」
どうやらキールさんは黒猫君の返事に満足したらしく、そこでこの話は打ち切りになった。
「じゃあ、そのチートとやらになるかもしれないしお前らの魔術の訓練でも見に行くか」
そう言って立ち上がったキールさんに連れられて、私たちは全員で庭に場所を移したのだった。
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