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第11章 北の森
21 獣人の村1
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「ほら、ここを使え。水場はこっち、不浄はあっちだ。それから夜は自分の部屋から出るなよ、お前ら人間は目が悪いからよく落ちる」
結局、熊獣人さんが用意してくれたブランコみたいな物にのって私は獣人さんたちの村に入れてもらった。結構な高さがあるから引き上げられる時はかなり怖かったんだけど、一旦上にあがっちゃうとなんだかそこが地面みたいな気がするほど普通だった。
下で見てても巨大な木が多いとは思ってたけど、上に上がって来てもまだ太い。木の枝と葉に覆われて下からはあんまり見えてなかったけど、上に来てみたら実は幹にぺったり張り付いた家がいっぱい建ってるし、ちょっとした庭まである。
その大きな木の間には両脇に2本手すりの綱が張られた縄の橋が道代わりに張り巡らされてる。でもこの綱の道が実はすっごく細くて、その両脇に広がる芝生みたいなのが実は枝についた葉っぱだったりするから、一步間違えて踏み出すとそのままストーンと地面まで落ちちゃうらしい。
それさえなければ森の中のメルヘンチックな可愛い村、って感じ。
しかも歩いてるのが全部獣人さん!
私を捕まえた熊の獣人さんもモフモフで一見ぬいぐるみとは言わないまでも剥製みたいで、しかも表情が人間みたいに変わるしズボンが真っ青でなんだかちょっと可愛いと思ってたんだけど。
他のウサギや鹿、馬、それにお馴染みの猫や犬の獣人さん達がここではみんなすっごくオシャレに色んな色の服着てて。
まさにファンタジーなアミューズメントパークにでも迷い込んだみたい。キョロキョロしながら引っ張られるままついていくと、一軒の家の前まで来て熊獣人さんが私の鎖を家の中の杭に留めた。正に鎖に繋がれた犬の状態。
「後で餌持ってきてやるから待ってろ」
そう言って出ていこうとする熊獣人さんに慌てて声をかけた。
「あ、あの、待って。名前教えてください」
気がついたけど、この村には他にも熊の獣人さんがいるようだった。名前を聞いておかないと見分けがつくとは限らない。
「ああ? 人間が俺たちの名前を聞くなんて珍しいな」
「そうなんですか? それじゃ不便でしょうに」
私が尋ねるとなぜか熊獣人さんが不思議そうにこちらを見る。名前を聞くのがそんなに変なんだろうか?
「……まあいい。俺はベンだ」
「ベンさん。私はあゆみです。ベンさん、あのですね」
名乗った私は勢いに任せてここで思い切って黒猫君がいることを打ち明けちゃうことにした。こういうのって、あとでバレるほうが印象悪そうだし。
「い、今のうちに言っておきたいんですけど、実は私連れがいるんです」
「はあ? なんだ逃げ出すための嘘でもつこうって言うのか?」
疑いの目を向けられた私は慌てて先を続けた。
「いえ、本当なんです」
「そう言っても、嬢ちゃん以外あの辺りには誰もいなかったぞ」
「いえ、実は今一緒にいるんです」
私の言葉に今度こそ意味がわからない、と言う顔をしたベンさんを横目にどこかに黒猫君をおけないかと部屋の中を見回す。
部屋には熊さんでも寝れそうなサイズのベッドが一つ、テーブルが一つ、椅子が一つ。それに壁際に小さな棚が一つ。さっき言ってた水場とトイレは家の外。
これ、治療院の部屋と変わらないくらいいいお部屋だ。私はそのテーブルまで行って肩から下げていた袋を外して机にそっと乗せ中を開いてみせた。
「……猫?」
「え? あ、ええ、猫です、私の猫なんです」
私が慌てて同意してみせるとベンさんがちょっと不審そうに私を見て問いかける。
「それ、生きてるのか?」
「い、生きてますよちゃんと! 今はちょっと……その……疲れちゃってるんです」
私が勢い込んでそう答えると、ベンさんがはーっとため息をついた。
「ま、いいけどな。そこらじゅう傷だらけにさせたりするなよ。フンはちゃんと片付けろ。餌は一人分しかやらんから自分で勝手に分けてやれ」
そう言って立ち上がったベンさんはふと気づいて「落ちたら危ないから家からは出すなよ」と言いおいて出ていってしまった。
家から出すなってことは私は家を出れるってことかな?
まあさっきっから気づいてたけどこの首輪外し方も分からないしこの足じゃ逃げようもないんだけどね、普通なら。
そこでやっと落ち着いた私はテーブルに乗ってるズボンの上の黒猫君に目を戻す。ぺたりと横たわった黒猫君は、そうやってるとまるでちょっと寝てるだけみたいだった。
私はテーブルの横の椅子に腰掛けて、恐る恐る黒猫君の背中に触ってみる。
森の中を歩いてる間も黒猫君の体温が肩からさげてる袋の中から感じられてて、それが黒猫君が生きてるのをしっかり伝えてくれていた。それでもずっと心配で。いつ息が止まっちゃうんじゃないか、冷たくなっちゃうんじゃないかってビクビクしながら道中ずっと確かめてた。
今もこうやって動かない黒猫君を目の前にすると、今日の出来事が走馬灯のように頭を過ぎって涙が勝手に溢れてくる。
生きててくれて良かった……本当に良かった。
ゆっくりと黒猫君の背中を撫でながら、私は自分の嗚咽を抑えきれずそこで今度こそ声をあげて泣き始めた。
しばらくしてやっと涙も止まって少しだけ落ち着いた私は、今更ながら今日の出来事と今の自分の状況を整理してみることにした。
まず、本当は今日中にアルディさん達と合流するはずだったんだよね。でディアナさんたちとお話し合いしたところまでは良かった。
あの丘で休もうって言って、バッカスがちゃんと見回りに行ってくれて。
なのに私たちの所にバッカスが戻ってきてほんの一瞬皆で背中を向けた途端、後ろから矢が数本飛んできたんだと思う。
一本は音がしてどっか先まで飛んでってた。で、一本は黒猫君に刺さってた。残りは多分バッカスがはたき落としてくれたんだと思う。だから。多分黒猫君はよそ見したまんまだった私を庇って矢に刺さっちゃったんだ。
そこで黒猫君が私に逃げろって言って、でも私どうしても黒猫君をおいて逃げるとかできなくて。
だから黒猫君があの凄い固有魔法使っちゃったんだよね。私は自分と一緒だから大丈夫だって思ったんだろうな。バッカスは二回目だし、アントニーさんもちゃんと逃げていったみたいだったし。だけどあんなに崖が崩れるのは多分黒猫君だって予想してなかったんじゃないかな。バッカスやアントニーさん、それにケビンさんも、皆無事でいてくれるといいんだけど。
そしてあのオーク。
前に黒猫君がオークって豚みたいなもんだって言ってたし、私はもっと頭が悪い生き物なんだって勝手に思ってた。なのに、見た目は全然豚みたいじゃなかったし弓と矢を使って攻撃してきてたし、最後逃げてく時もなんかお互いに話をしてるみたいだった。
あれって、結構頭いいんだよねきっと。
それで最後に。これはあんまり考えたくなかった事だけど。
「もしかすると私、あそこを動かない方がよかったのかもしれないよね」
つい後悔の言葉が口をついてこぼれた。だってよく考えたら、バッカスたちが戻ってきてくれる可能性だってあったんだし。そしたらすぐに合流できたのかもしれないし。
少なくとも迷子になって獣人さんたちの奴隷になる事はなかったと思う。
「あーあ。黒猫君、ごめんなさい。私のせいでまた面倒なことになっちゃったみたいだよ」
寝てるのをいいことに今のうちに謝っておく。
ところが私がそうこぼした途端、それを聞きつけたように目の前で黒猫君の体がほんのちょっとだけ動いた。
尻尾がぴくっとして。手の先がピクピクってして。
それで、髭がピクピクピクっとしたその後、黒猫君の目がほんの少しだけ開いた。
「く、黒猫君、起きたの!?」
私が驚いて声をかけると、すぐに黒猫君の目がまた閉じちゃった。
え、待って、まだ寝ちゃわないで。そう思って慌てて声をかけまくる。
「黒猫君、ねえ、黒猫君、ね、ねえ、ねえ……りゅ、隆二君……」
涙が溢れてきちゃった。呼んでも黒猫君が起きてくれない。ううん、今一瞬起きたのかと思ったのが錯覚だったのかも。
「ん……んん……」
「黒猫君!?」
そう思ったのもつかの間、黒猫君が薄っすらと目をあけて───
「ニァ……ン」
鳴いた。
結局、熊獣人さんが用意してくれたブランコみたいな物にのって私は獣人さんたちの村に入れてもらった。結構な高さがあるから引き上げられる時はかなり怖かったんだけど、一旦上にあがっちゃうとなんだかそこが地面みたいな気がするほど普通だった。
下で見てても巨大な木が多いとは思ってたけど、上に上がって来てもまだ太い。木の枝と葉に覆われて下からはあんまり見えてなかったけど、上に来てみたら実は幹にぺったり張り付いた家がいっぱい建ってるし、ちょっとした庭まである。
その大きな木の間には両脇に2本手すりの綱が張られた縄の橋が道代わりに張り巡らされてる。でもこの綱の道が実はすっごく細くて、その両脇に広がる芝生みたいなのが実は枝についた葉っぱだったりするから、一步間違えて踏み出すとそのままストーンと地面まで落ちちゃうらしい。
それさえなければ森の中のメルヘンチックな可愛い村、って感じ。
しかも歩いてるのが全部獣人さん!
私を捕まえた熊の獣人さんもモフモフで一見ぬいぐるみとは言わないまでも剥製みたいで、しかも表情が人間みたいに変わるしズボンが真っ青でなんだかちょっと可愛いと思ってたんだけど。
他のウサギや鹿、馬、それにお馴染みの猫や犬の獣人さん達がここではみんなすっごくオシャレに色んな色の服着てて。
まさにファンタジーなアミューズメントパークにでも迷い込んだみたい。キョロキョロしながら引っ張られるままついていくと、一軒の家の前まで来て熊獣人さんが私の鎖を家の中の杭に留めた。正に鎖に繋がれた犬の状態。
「後で餌持ってきてやるから待ってろ」
そう言って出ていこうとする熊獣人さんに慌てて声をかけた。
「あ、あの、待って。名前教えてください」
気がついたけど、この村には他にも熊の獣人さんがいるようだった。名前を聞いておかないと見分けがつくとは限らない。
「ああ? 人間が俺たちの名前を聞くなんて珍しいな」
「そうなんですか? それじゃ不便でしょうに」
私が尋ねるとなぜか熊獣人さんが不思議そうにこちらを見る。名前を聞くのがそんなに変なんだろうか?
「……まあいい。俺はベンだ」
「ベンさん。私はあゆみです。ベンさん、あのですね」
名乗った私は勢いに任せてここで思い切って黒猫君がいることを打ち明けちゃうことにした。こういうのって、あとでバレるほうが印象悪そうだし。
「い、今のうちに言っておきたいんですけど、実は私連れがいるんです」
「はあ? なんだ逃げ出すための嘘でもつこうって言うのか?」
疑いの目を向けられた私は慌てて先を続けた。
「いえ、本当なんです」
「そう言っても、嬢ちゃん以外あの辺りには誰もいなかったぞ」
「いえ、実は今一緒にいるんです」
私の言葉に今度こそ意味がわからない、と言う顔をしたベンさんを横目にどこかに黒猫君をおけないかと部屋の中を見回す。
部屋には熊さんでも寝れそうなサイズのベッドが一つ、テーブルが一つ、椅子が一つ。それに壁際に小さな棚が一つ。さっき言ってた水場とトイレは家の外。
これ、治療院の部屋と変わらないくらいいいお部屋だ。私はそのテーブルまで行って肩から下げていた袋を外して机にそっと乗せ中を開いてみせた。
「……猫?」
「え? あ、ええ、猫です、私の猫なんです」
私が慌てて同意してみせるとベンさんがちょっと不審そうに私を見て問いかける。
「それ、生きてるのか?」
「い、生きてますよちゃんと! 今はちょっと……その……疲れちゃってるんです」
私が勢い込んでそう答えると、ベンさんがはーっとため息をついた。
「ま、いいけどな。そこらじゅう傷だらけにさせたりするなよ。フンはちゃんと片付けろ。餌は一人分しかやらんから自分で勝手に分けてやれ」
そう言って立ち上がったベンさんはふと気づいて「落ちたら危ないから家からは出すなよ」と言いおいて出ていってしまった。
家から出すなってことは私は家を出れるってことかな?
まあさっきっから気づいてたけどこの首輪外し方も分からないしこの足じゃ逃げようもないんだけどね、普通なら。
そこでやっと落ち着いた私はテーブルに乗ってるズボンの上の黒猫君に目を戻す。ぺたりと横たわった黒猫君は、そうやってるとまるでちょっと寝てるだけみたいだった。
私はテーブルの横の椅子に腰掛けて、恐る恐る黒猫君の背中に触ってみる。
森の中を歩いてる間も黒猫君の体温が肩からさげてる袋の中から感じられてて、それが黒猫君が生きてるのをしっかり伝えてくれていた。それでもずっと心配で。いつ息が止まっちゃうんじゃないか、冷たくなっちゃうんじゃないかってビクビクしながら道中ずっと確かめてた。
今もこうやって動かない黒猫君を目の前にすると、今日の出来事が走馬灯のように頭を過ぎって涙が勝手に溢れてくる。
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ゆっくりと黒猫君の背中を撫でながら、私は自分の嗚咽を抑えきれずそこで今度こそ声をあげて泣き始めた。
しばらくしてやっと涙も止まって少しだけ落ち着いた私は、今更ながら今日の出来事と今の自分の状況を整理してみることにした。
まず、本当は今日中にアルディさん達と合流するはずだったんだよね。でディアナさんたちとお話し合いしたところまでは良かった。
あの丘で休もうって言って、バッカスがちゃんと見回りに行ってくれて。
なのに私たちの所にバッカスが戻ってきてほんの一瞬皆で背中を向けた途端、後ろから矢が数本飛んできたんだと思う。
一本は音がしてどっか先まで飛んでってた。で、一本は黒猫君に刺さってた。残りは多分バッカスがはたき落としてくれたんだと思う。だから。多分黒猫君はよそ見したまんまだった私を庇って矢に刺さっちゃったんだ。
そこで黒猫君が私に逃げろって言って、でも私どうしても黒猫君をおいて逃げるとかできなくて。
だから黒猫君があの凄い固有魔法使っちゃったんだよね。私は自分と一緒だから大丈夫だって思ったんだろうな。バッカスは二回目だし、アントニーさんもちゃんと逃げていったみたいだったし。だけどあんなに崖が崩れるのは多分黒猫君だって予想してなかったんじゃないかな。バッカスやアントニーさん、それにケビンさんも、皆無事でいてくれるといいんだけど。
そしてあのオーク。
前に黒猫君がオークって豚みたいなもんだって言ってたし、私はもっと頭が悪い生き物なんだって勝手に思ってた。なのに、見た目は全然豚みたいじゃなかったし弓と矢を使って攻撃してきてたし、最後逃げてく時もなんかお互いに話をしてるみたいだった。
あれって、結構頭いいんだよねきっと。
それで最後に。これはあんまり考えたくなかった事だけど。
「もしかすると私、あそこを動かない方がよかったのかもしれないよね」
つい後悔の言葉が口をついてこぼれた。だってよく考えたら、バッカスたちが戻ってきてくれる可能性だってあったんだし。そしたらすぐに合流できたのかもしれないし。
少なくとも迷子になって獣人さんたちの奴隷になる事はなかったと思う。
「あーあ。黒猫君、ごめんなさい。私のせいでまた面倒なことになっちゃったみたいだよ」
寝てるのをいいことに今のうちに謝っておく。
ところが私がそうこぼした途端、それを聞きつけたように目の前で黒猫君の体がほんのちょっとだけ動いた。
尻尾がぴくっとして。手の先がピクピクってして。
それで、髭がピクピクピクっとしたその後、黒猫君の目がほんの少しだけ開いた。
「く、黒猫君、起きたの!?」
私が驚いて声をかけると、すぐに黒猫君の目がまた閉じちゃった。
え、待って、まだ寝ちゃわないで。そう思って慌てて声をかけまくる。
「黒猫君、ねえ、黒猫君、ね、ねえ、ねえ……りゅ、隆二君……」
涙が溢れてきちゃった。呼んでも黒猫君が起きてくれない。ううん、今一瞬起きたのかと思ったのが錯覚だったのかも。
「ん……んん……」
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