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第11章 北の森
15 新しい狼人族
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「ケインさん、本当に一緒に来ちゃってよかったんですか?」
私が心配でそう聞いても、ケインさんは答えられない。半分白目で身体を括ってる紐を握りしめるので精いっぱいらしい。
やっぱり最初は怖いよね。
今私たちはバッカスとアントニーさんの背に乗って森を走ってるところ。とはいえ私も怖いからかなりゆっくりと走ってもらってるんだけど。
初めて狼人族の背中に乗ったケインさんはさっきから無言だった。
私は黒猫君と一緒にバッカスの背に乗ってる。ケインさんはアントニーさんの背中の上、に紐で身体を括りつけてる。私は私で片足じゃ走るバッカスの上にしがみつくのは無理だけれど、後ろに乗ってる黒猫君が片腕でしっかりと抱え込んでくれてるから少しくらいのスピードなら大丈夫だった。
「言ってたろ、船が来るならそれでナンシーまで戻ってそれぞれ何とかするって」
黒猫君はそう言うけど。
今朝、私たちが支度してバッカスたちと一緒に集落を出ようとすると、ケインさんが慌てて出てきた。どうやらどうしても一度狼人族の人たちにお礼を言いに行きたいらしい。
「でも私たちそのまま北に向かっちゃうと思いますよ、食料も充分そうですし」
そう言って畑の方を見やる。昨日、夕食の時にでた野菜のゴミを埋めたところにも既に野菜が鈴なりになってて、3っつの畑は全部食べ物でいっぱいになってた。あれなら当分は困らないと思う。それどころか、乾燥させたお肉は十分すぎるって言って私たちの分まで渡してくれた。
「それは構わない。どうせその後あんたらに付いていこうと思ったんだ。礼と言っちゃなんだが、北の様子を知ってる人間がいた方が何かといいんじゃないか?」
「ああ、それは確かに助かるが、けが人や病人はいいのか?」
黒猫君も少し心配そうにそう言って朝食に出てきていた人たちを見た。
「ああ、近いうちに船がここにきてくれることは伝えた。それで一旦ナンシーまで出れば皆それぞれ帰郷の伝手はあるそうだ」
「それならいいが」
私はもう一度黒猫君を見上げたけど、黒猫君が私の視線に気づいて小さく首を横に振る。
実は今朝、ケインさんの寝床でバッカスたちの毛づくろいしながら黒猫君にここの怪我人を治したいって相談してたんだけど。黒猫君に止められてしまってた。
「奇跡ってのはあんまり沢山ないほうがいいんだ。あんまり助けすぎると皆お前に頼りっきりになっちまう。今日ここを出るのに頼られても困るだけだろ」
黒猫君の言ってることは分かったけど、やっぱり自分で治せそうな人がいるのに放っておくのは心苦しい。だけど確かにここに長くいられない以上、中途半端なことはしちゃいけないんだろうな。
「ちょっとだけ待ってくれ、今連中に挨拶してくる」
そう言ってケインさんが挨拶をしに戻ると、ぞろぞろと全員集まってきて私たちを一緒に見送ってくれた。皆の間から猫神様だの巫女様だのという呟きやら、手を振る代わりに拝んでる人がいたのは私も黒猫君ももう見なかったことにして出発した。
「やっぱりケインさんにはきついんだよ、もう少しスピード落とさない?」
「あゆみでも大丈夫なスピードなんだから我慢させとけ」
バッカスの背に揺られながら私が心配してそう言ってるのにバッカスは全然取り合わない。黒猫君も取り合わない。アントニーさんはいつも通り寡黙だし。
今のスピードはまあ、自転車で思いっきりスピード出した時くらいかな? だからそこまでひどくはないと思うんだけど。
ケインさんゴメンね。
「ああ、この辺だな」
集落を出て15分もしないうちに何を見つけたのかバッカスが突然立ち止まった。
「アントニー頼む」
立ち止まったバッカスがすぐ横に同じように立ち止まったアントニーさんにそう言うと、大きな狼の姿のアントニーさんが小さく頷いて頭をあげ──
「ウオオオオオオォォォォオオン!!!」
「うわ、なんだ!!??」
「ギャッ」
「!!」
アントニーさんの遠吠えはそれはそれは凛々しく大きく、そしてうるさかった。
ケインさんは驚いてアントニーさんの背中から転げ落ち、黒猫君と私は耳を手で塞いでる。
バッカスは器用に耳を折って音を防いでるみたい。
「っかげんにしろ! 先に言え!」
黒猫君がアントニーさんの声に負けず劣らずの大声で叫んでる。
黒猫君の耳は私たちより全然性能いいみたいだからそりゃ辛いよね。
「まあ、これであっちから出てくるだろ」
アントニーさんの遠吠えが治まったころ、バッカスがそう言うと私と黒猫君を背から下ろしてその場にお座りする。
アントニーさんもすぐに寄ってきて一緒にお座りすると、やっぱりバッカスの方がかなり大きいのがよく分かる。バッカスは濃いこげ茶の狼だけど、アントニーさんは灰色。普段から茶色系の狼人族の人たちの方が多いからちょっと珍しい。
「来たぞ」
私には全然何にも見えない時点でバッカスがそう言って、しばらくして黒猫君が耳をピクンと立てた。どうやら黒猫君にも見えたらしい。
「俺にはなんも見えないぞ」
私の横まで来たケインさんがそう呟くのに私が答えようとしたその時、私たちの前の森の奥からバサバサとい音と共に数個の黒い塊が近づいてきた。上下に跳ねるそれが直ぐに狼の姿に見え始めたと思ったら凄い勢いで私たちの目の前に躍り出て3体の狼は私たちを囲むように立ち止まった。
「誰かと思えばなんだ、バッカス何しに来た?」
「……なんでお前がここにいるんだよ」
3匹の内でも一番大きな狼が喋りながら人型に戻り出すと、他の2匹もそれに従って人型に戻り始めた。
バッカスに話しかけたのともう一人は、女の狼人族さんだ! そっか、こっちにはまだ一緒にいたんだ。
「それはこっちのセリフだ。人間嫌いのお前がなんで人間なんか連れて歩いてんだ? お前の奴隷か?」
「違う。それよりディアナ、まさかお前が掴まってるなんて思わなかったぞ」
「……私の一族が一番最初に襲われたんだ。仕方あるまい」
バッカスとアントニーさんも返事をしながら人型に戻ってる。
バッカスの返事に興味深そうに私たちを見た狼人族さんはディアナさんと言うらしい。見つめられてつい、会釈してしまう。それを見て私を抱える黒猫君がちょっとあきれ顔になってる。仕方ないよ、こういうのは習慣だもん。
「お前の一族は全員逃げ出せたのか?」
バッカスの問いに改めてディアナさんが私たちを見回して問い返す。
「そんなこと人間の前で話すことじゃないんじゃなかったのか?」
ディアナさんにそう言われて、バッカスがイライラしながら嫌そうに顔を歪めた。
「こいつらはいいんだよ。あゆみとネロは俺の家族みたいなもんだ。こっちのケインには借りもある。お前らに礼を言いたいって言うから連れてきた」
そこでケインさんが恐る恐るディアナさんに声をかけた。
「このバッカス……さんが俺たちの食料をあんたたちが助けてくれてたって言ってたんだが本当なのか?」
ディアナさんはジッとケインさんを見つめ、数秒考えてから返事をする。
「ああ。お前、あそこの奴か。それなら話が早い。お前ら一体いつまであそこにいる気なんだ?」
「そ、それは色々事情があって今まで動けなかったが、この人たちのお陰で多分もうすぐ帰れる」
「そうか。ならもういいな。私たちも旅立つぞ」
「旅立つってお前らどこに移る気だ?」
ディアナさんのきっぱりした答えにバッカスが少し驚いた様子で尋ねると、ディアナさんがニヤリと笑う。
「ナンシーに元凶のキーロン殿下がいるそうだ。せめてそいつだけでも一泡吹かせてやろうって思ってる」
うわあああ。凄い誤解ととんでもないお返事が返ってきちゃった。私はその場で頭を抱え、黒猫君が呻いてバッカスがため息を付いた。
私が心配でそう聞いても、ケインさんは答えられない。半分白目で身体を括ってる紐を握りしめるので精いっぱいらしい。
やっぱり最初は怖いよね。
今私たちはバッカスとアントニーさんの背に乗って森を走ってるところ。とはいえ私も怖いからかなりゆっくりと走ってもらってるんだけど。
初めて狼人族の背中に乗ったケインさんはさっきから無言だった。
私は黒猫君と一緒にバッカスの背に乗ってる。ケインさんはアントニーさんの背中の上、に紐で身体を括りつけてる。私は私で片足じゃ走るバッカスの上にしがみつくのは無理だけれど、後ろに乗ってる黒猫君が片腕でしっかりと抱え込んでくれてるから少しくらいのスピードなら大丈夫だった。
「言ってたろ、船が来るならそれでナンシーまで戻ってそれぞれ何とかするって」
黒猫君はそう言うけど。
今朝、私たちが支度してバッカスたちと一緒に集落を出ようとすると、ケインさんが慌てて出てきた。どうやらどうしても一度狼人族の人たちにお礼を言いに行きたいらしい。
「でも私たちそのまま北に向かっちゃうと思いますよ、食料も充分そうですし」
そう言って畑の方を見やる。昨日、夕食の時にでた野菜のゴミを埋めたところにも既に野菜が鈴なりになってて、3っつの畑は全部食べ物でいっぱいになってた。あれなら当分は困らないと思う。それどころか、乾燥させたお肉は十分すぎるって言って私たちの分まで渡してくれた。
「それは構わない。どうせその後あんたらに付いていこうと思ったんだ。礼と言っちゃなんだが、北の様子を知ってる人間がいた方が何かといいんじゃないか?」
「ああ、それは確かに助かるが、けが人や病人はいいのか?」
黒猫君も少し心配そうにそう言って朝食に出てきていた人たちを見た。
「ああ、近いうちに船がここにきてくれることは伝えた。それで一旦ナンシーまで出れば皆それぞれ帰郷の伝手はあるそうだ」
「それならいいが」
私はもう一度黒猫君を見上げたけど、黒猫君が私の視線に気づいて小さく首を横に振る。
実は今朝、ケインさんの寝床でバッカスたちの毛づくろいしながら黒猫君にここの怪我人を治したいって相談してたんだけど。黒猫君に止められてしまってた。
「奇跡ってのはあんまり沢山ないほうがいいんだ。あんまり助けすぎると皆お前に頼りっきりになっちまう。今日ここを出るのに頼られても困るだけだろ」
黒猫君の言ってることは分かったけど、やっぱり自分で治せそうな人がいるのに放っておくのは心苦しい。だけど確かにここに長くいられない以上、中途半端なことはしちゃいけないんだろうな。
「ちょっとだけ待ってくれ、今連中に挨拶してくる」
そう言ってケインさんが挨拶をしに戻ると、ぞろぞろと全員集まってきて私たちを一緒に見送ってくれた。皆の間から猫神様だの巫女様だのという呟きやら、手を振る代わりに拝んでる人がいたのは私も黒猫君ももう見なかったことにして出発した。
「やっぱりケインさんにはきついんだよ、もう少しスピード落とさない?」
「あゆみでも大丈夫なスピードなんだから我慢させとけ」
バッカスの背に揺られながら私が心配してそう言ってるのにバッカスは全然取り合わない。黒猫君も取り合わない。アントニーさんはいつも通り寡黙だし。
今のスピードはまあ、自転車で思いっきりスピード出した時くらいかな? だからそこまでひどくはないと思うんだけど。
ケインさんゴメンね。
「ああ、この辺だな」
集落を出て15分もしないうちに何を見つけたのかバッカスが突然立ち止まった。
「アントニー頼む」
立ち止まったバッカスがすぐ横に同じように立ち止まったアントニーさんにそう言うと、大きな狼の姿のアントニーさんが小さく頷いて頭をあげ──
「ウオオオオオオォォォォオオン!!!」
「うわ、なんだ!!??」
「ギャッ」
「!!」
アントニーさんの遠吠えはそれはそれは凛々しく大きく、そしてうるさかった。
ケインさんは驚いてアントニーさんの背中から転げ落ち、黒猫君と私は耳を手で塞いでる。
バッカスは器用に耳を折って音を防いでるみたい。
「っかげんにしろ! 先に言え!」
黒猫君がアントニーさんの声に負けず劣らずの大声で叫んでる。
黒猫君の耳は私たちより全然性能いいみたいだからそりゃ辛いよね。
「まあ、これであっちから出てくるだろ」
アントニーさんの遠吠えが治まったころ、バッカスがそう言うと私と黒猫君を背から下ろしてその場にお座りする。
アントニーさんもすぐに寄ってきて一緒にお座りすると、やっぱりバッカスの方がかなり大きいのがよく分かる。バッカスは濃いこげ茶の狼だけど、アントニーさんは灰色。普段から茶色系の狼人族の人たちの方が多いからちょっと珍しい。
「来たぞ」
私には全然何にも見えない時点でバッカスがそう言って、しばらくして黒猫君が耳をピクンと立てた。どうやら黒猫君にも見えたらしい。
「俺にはなんも見えないぞ」
私の横まで来たケインさんがそう呟くのに私が答えようとしたその時、私たちの前の森の奥からバサバサとい音と共に数個の黒い塊が近づいてきた。上下に跳ねるそれが直ぐに狼の姿に見え始めたと思ったら凄い勢いで私たちの目の前に躍り出て3体の狼は私たちを囲むように立ち止まった。
「誰かと思えばなんだ、バッカス何しに来た?」
「……なんでお前がここにいるんだよ」
3匹の内でも一番大きな狼が喋りながら人型に戻り出すと、他の2匹もそれに従って人型に戻り始めた。
バッカスに話しかけたのともう一人は、女の狼人族さんだ! そっか、こっちにはまだ一緒にいたんだ。
「それはこっちのセリフだ。人間嫌いのお前がなんで人間なんか連れて歩いてんだ? お前の奴隷か?」
「違う。それよりディアナ、まさかお前が掴まってるなんて思わなかったぞ」
「……私の一族が一番最初に襲われたんだ。仕方あるまい」
バッカスとアントニーさんも返事をしながら人型に戻ってる。
バッカスの返事に興味深そうに私たちを見た狼人族さんはディアナさんと言うらしい。見つめられてつい、会釈してしまう。それを見て私を抱える黒猫君がちょっとあきれ顔になってる。仕方ないよ、こういうのは習慣だもん。
「お前の一族は全員逃げ出せたのか?」
バッカスの問いに改めてディアナさんが私たちを見回して問い返す。
「そんなこと人間の前で話すことじゃないんじゃなかったのか?」
ディアナさんにそう言われて、バッカスがイライラしながら嫌そうに顔を歪めた。
「こいつらはいいんだよ。あゆみとネロは俺の家族みたいなもんだ。こっちのケインには借りもある。お前らに礼を言いたいって言うから連れてきた」
そこでケインさんが恐る恐るディアナさんに声をかけた。
「このバッカス……さんが俺たちの食料をあんたたちが助けてくれてたって言ってたんだが本当なのか?」
ディアナさんはジッとケインさんを見つめ、数秒考えてから返事をする。
「ああ。お前、あそこの奴か。それなら話が早い。お前ら一体いつまであそこにいる気なんだ?」
「そ、それは色々事情があって今まで動けなかったが、この人たちのお陰で多分もうすぐ帰れる」
「そうか。ならもういいな。私たちも旅立つぞ」
「旅立つってお前らどこに移る気だ?」
ディアナさんのきっぱりした答えにバッカスが少し驚いた様子で尋ねると、ディアナさんがニヤリと笑う。
「ナンシーに元凶のキーロン殿下がいるそうだ。せめてそいつだけでも一泡吹かせてやろうって思ってる」
うわあああ。凄い誤解ととんでもないお返事が返ってきちゃった。私はその場で頭を抱え、黒猫君が呻いてバッカスがため息を付いた。
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