斎藤先輩はSらしい

こみあ

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十一月は波乱の季節

56話 私は馬鹿だ

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「こんな時間に帰ってくるなんて珍しいわね塔子」

 自分の部屋に向かう途中、私に気づいたお母さんが声をかけてきた。

「うん、今日は図書委員の仕事がなかったから」

 それに曖昧に答えてとっとと部屋に引きこもる。
 制服を着替え、ベッドに潜り込んだ。
 勝手に涙が溢れてくる。
 枕に頭を押し付けて、力いっぱい泣き声を上げた。

 私は馬鹿だ。
 先輩は優しい。確かに優しい。
 優しいから、私のお付き合いの申込みも断れなかったのかな。

 私が先輩たちに呼び出されたあの日、先輩はこれを隠してたのかも。
 私がいじめられてるのを最初からずっと見てたのは、それで私が諦めるなら終わりにできると思ってたのかな。
 先輩の家族の話を聞いて、私はなんとなく自分が先輩に近い場所にいる気になってた。
 でもあれだって、もしかしたらそれで私が今度こそ諦めると思ってのことだったのかもしれない……

 ここ数日、ずっとこんなことばっかり考えてた。
 わかってる。先輩にそのまま尋ねればいい。
 そうしたら先輩はきっと正直に答えてくれる。
 そう思う。
 だけど。

 私は、先輩から、本当の真実を告げられるのが怖いのだ。

 先輩、図書室で驚いてるかな。
 私を待っているかも。
 それともすぐに帰っちゃったのかな。
 チラリと見てもレインに連絡もない。
 困ってるかな。
 怒ってるかな。

 そのどれであっても、私が会うよりひどいことにはならない気がする。

 このまま私は先輩の周囲から消えればいい。
 多分それが一番なんだ……

 布団にくるまって泣きながらまだグジグジとそんなことを考えるうちに、私はいつの間にか眠ってしまった。
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