25 / 85
後夜祭はマイムマイム?
24話 のぞいてごらん
しおりを挟む
もう土下座の勢いで、どこまでも頭を下げまくる。
これはあんまりだ。
失礼にも程がある。
どうやら皆様のアイドルらしい先輩相手に、私は一体なんてこと──
「でも嬉しかったよ」
「へ?」
怒涛の後悔の沼に沈みきってた私に、先輩の思いがけない言葉が降ってきた。
「ほら、冴えない『斎藤』に告白してくる子なんていなかったし」
「せ、先輩、」
「それに僕だって卒業前に『アオハル』してみたかったし」
「ううっ、もうそれ以上はどうかお許しを」
先輩の追撃でさらに深く沼に沈み込む。
もう穴があったら底を掘ってマントル付近まで深く潜りたい。
「こっちきて」
深く深く頭を下げて縮こまってる私の背を、先輩の手が軽く叩いた。
見上げると、困ったように苦笑いした先輩が、私を促して教室の奥へと進んでく。
昨日も来た教室は迷路部分が取り外され、喫茶エリアの机も片付けられてた。
入り口のカバーが取り外されてて、廊下から差し込む外の明かりで前回より中は薄明るい。
その奥、窓に貼り付けられたカーテンはそのままで、黒いカーテンの仕切りに囲まれた後ろ側には、まだ簡易の給湯セットが置きっぱなしになってた。
先輩が指差すその後ろの窓には、ちょうど私の目の位置辺りに、小さな仕切りが切られてる。
「のぞいてごらん」
そう言って先輩が片手で仕切りを塞いでた布をずらすと、まるで絵のように校庭の様子が切り取られて、目に飛び込んできた。
「うわ、すごい」
校庭にはキャンプファイヤーの薪みたいにゴミが積み上げられ、ちょうどそれに火がつけられて燃え上がるところだった。
炎の灯りがよく見えるよう、どうやら校庭の照明は全て消されたらしい。
炎の周りを囲う生徒たちが手に持つペンライトの明かりが、暗い校庭にチラチラ光ってまるで星みたい。
驚いて声をあげ、下の様子に見入ってた私のすぐ横に、ヌッと先輩の顔が突き出された。
「一緒に下に行くと、多分大変だからね」
そう言って、すぐ横から目だけでこちらを見ながらニッと口の端を上げて笑う。
「血、地、知、近いです、先輩」
焦ってドモリながら身体を引こうとしたら、背中がなにか柔らかいものにぶつかった。
気づけば、私の両脇を囲うように、先輩が両肘を窓についてる!
え、っと、これ、って、壁ドン?
壁じゃなくて窓だから、窓ドン?
いや、ドンって言ってないし窓──
「あ、あそこにいるの君の友人じゃない?」
「あ、ほんとだアッコちゃん。やっぱり目立つなぁ」
指差されて思わず窓の外に顔を戻した。
でも先輩の顔はまだすぐ横にある。
先輩、今私ぶつかったんですけど、どいてくれるつもりはないんですね。
先輩は全然普段通りだし、なんならいつもの無表情だし、きっとこれは意味あってしてる訳じゃないんだよね。
顔はすぐ横にあるけど、ボサボサの髪でよく見えない。
見えないから、気になんてならないはずなのに。
斎藤先輩の薄い目が、眼鏡越しにこちらを見てるのが、見える気がした。気になって、チラチラ見てしまう。でもやっぱりよく見えない。
触れてる訳でもないのに、先輩が温熱ランプみたいに発熱してる気がして、存在がやたら主張してきて落ち着かない。
そっと視線を窓の外に固定する。
私は深く考えるのをやめた。
下を見ると、アッコちゃんに数人の男子生徒が群がってる。
あれは間違いなく後夜祭の熱に浮かされた告白ラッシュだ。
先輩も下にいたらああなってたのかな?
「確かに下に行くよりは安全そうですね」
思わずそう言うと、先輩がまたクツクツと笑った。
先輩のクツクツ笑いは、中々収まらなかった。
これはあんまりだ。
失礼にも程がある。
どうやら皆様のアイドルらしい先輩相手に、私は一体なんてこと──
「でも嬉しかったよ」
「へ?」
怒涛の後悔の沼に沈みきってた私に、先輩の思いがけない言葉が降ってきた。
「ほら、冴えない『斎藤』に告白してくる子なんていなかったし」
「せ、先輩、」
「それに僕だって卒業前に『アオハル』してみたかったし」
「ううっ、もうそれ以上はどうかお許しを」
先輩の追撃でさらに深く沼に沈み込む。
もう穴があったら底を掘ってマントル付近まで深く潜りたい。
「こっちきて」
深く深く頭を下げて縮こまってる私の背を、先輩の手が軽く叩いた。
見上げると、困ったように苦笑いした先輩が、私を促して教室の奥へと進んでく。
昨日も来た教室は迷路部分が取り外され、喫茶エリアの机も片付けられてた。
入り口のカバーが取り外されてて、廊下から差し込む外の明かりで前回より中は薄明るい。
その奥、窓に貼り付けられたカーテンはそのままで、黒いカーテンの仕切りに囲まれた後ろ側には、まだ簡易の給湯セットが置きっぱなしになってた。
先輩が指差すその後ろの窓には、ちょうど私の目の位置辺りに、小さな仕切りが切られてる。
「のぞいてごらん」
そう言って先輩が片手で仕切りを塞いでた布をずらすと、まるで絵のように校庭の様子が切り取られて、目に飛び込んできた。
「うわ、すごい」
校庭にはキャンプファイヤーの薪みたいにゴミが積み上げられ、ちょうどそれに火がつけられて燃え上がるところだった。
炎の灯りがよく見えるよう、どうやら校庭の照明は全て消されたらしい。
炎の周りを囲う生徒たちが手に持つペンライトの明かりが、暗い校庭にチラチラ光ってまるで星みたい。
驚いて声をあげ、下の様子に見入ってた私のすぐ横に、ヌッと先輩の顔が突き出された。
「一緒に下に行くと、多分大変だからね」
そう言って、すぐ横から目だけでこちらを見ながらニッと口の端を上げて笑う。
「血、地、知、近いです、先輩」
焦ってドモリながら身体を引こうとしたら、背中がなにか柔らかいものにぶつかった。
気づけば、私の両脇を囲うように、先輩が両肘を窓についてる!
え、っと、これ、って、壁ドン?
壁じゃなくて窓だから、窓ドン?
いや、ドンって言ってないし窓──
「あ、あそこにいるの君の友人じゃない?」
「あ、ほんとだアッコちゃん。やっぱり目立つなぁ」
指差されて思わず窓の外に顔を戻した。
でも先輩の顔はまだすぐ横にある。
先輩、今私ぶつかったんですけど、どいてくれるつもりはないんですね。
先輩は全然普段通りだし、なんならいつもの無表情だし、きっとこれは意味あってしてる訳じゃないんだよね。
顔はすぐ横にあるけど、ボサボサの髪でよく見えない。
見えないから、気になんてならないはずなのに。
斎藤先輩の薄い目が、眼鏡越しにこちらを見てるのが、見える気がした。気になって、チラチラ見てしまう。でもやっぱりよく見えない。
触れてる訳でもないのに、先輩が温熱ランプみたいに発熱してる気がして、存在がやたら主張してきて落ち着かない。
そっと視線を窓の外に固定する。
私は深く考えるのをやめた。
下を見ると、アッコちゃんに数人の男子生徒が群がってる。
あれは間違いなく後夜祭の熱に浮かされた告白ラッシュだ。
先輩も下にいたらああなってたのかな?
「確かに下に行くよりは安全そうですね」
思わずそう言うと、先輩がまたクツクツと笑った。
先輩のクツクツ笑いは、中々収まらなかった。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです
珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。
それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。
ハッピークリスマス !
設樂理沙
青春
中学生の頃からずっと一緒だったよね。大切に思っていた人との楽しい日々が
この先もずっと続いていけぱいいのに……。
―――――――――――――――――――――――
|松村絢《まつむらあや》 ---大企業勤務 25歳
|堂本海(どうもとかい) ---商社勤務 25歳 (留年してしまい就職は一年遅れ)
中学の同級生
|渡部佳代子《わたなべかよこ》----絢と海との共通の友達 25歳
|石橋祐二《いしばしゆうじ》---絢の会社での先輩 30歳
|大隈可南子《おおくまかなこ》----海の同期 24歳 海LOVE?
――― 2024.12.1 再々公開 ――――
💍 イラストはOBAKERON様 有償画像
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる