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16話 野営とリアスの鼻歌

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「いやー思っていた以上に楽勝だったよなー」


パチパチと乾いた音をたてて小枝がはぜる焚き火の向こう側。
リアスがリーエを腕に抱いて、寝かしつけをしながら小声で言う。
その顔は、さっきエゾンの目を盗んで飲んでた酒で、少しばかり赤い。

最初の2件のゴブリン退治は、何事もなく無事終わった。
正直、二人が予想していた以上に楽勝だった。

どちらも20体程度の小さな群れで、出発が遅れた二人でも、その日のうちに殲滅し、焼き切ってしまえる程度だったのだ。

ゴブリンの魔石は持ち帰らない。
というか持ち帰る必要がない。

討伐の依頼の場合、依頼を出した村があとで確認できるよう、倒したゴブリンを全部巣穴の外で燃やして巣穴の入口を完全に埋めるのだ。
戦闘自体はあっという間に終わったため、正直、今日ふたりがやっていたのはただの土木作業のようなものだった。


「明日もう一ヵ所回ればおしまいだな」
「いいからリーエの汚れた服こっちによこせ」


とうとう鼻歌まで混じりだしたリアスにエゾンがぞんざいに命じる。
リアスは素直に従って、リーエの汚れ物を集めて持ってきた。

二人とも野営は慣れたものだ。
この辺の森は薪に出来る枝も豊富で、ダンジョン内よりも火を充分に使えるのでよっぽど楽だ。

普段ならダンジョンの中で乾燥肉と少量の水で喉を潤し、順番にごろ寝するだけだが、今回はリーエも一緒なので少しばかり話が違う。

先ず、リアスの背負子があるので、普段よりも沢山荷物を持ち込むことができた。

だが荷造りはエゾンが一人でやったので、リアスは何を持たされていたのか知らない。
だから一体どうやって・・・・・・・、エゾンが大きな洗濯樽やらテントやらをここまで持ってきたのか、知るよしもなかった。

エゾンは受け取ったリーエの服を樽に放り込んでから、やりかけの夕食の片づけを終わらせた。
その様子をチラリと見て、リアスが余計な一言を漏らす。


「エゾンだったらいつでも嫁に行けそうだよなー」
「リーエが寝付いたならテント張って先に寝ろ」


エゾンはそれを聞き流して、リアスに新しい作業を割り振る。
そして先に乾燥まで終わらせた服を畳みながら、リアスがこちらを見ていない隙に洗濯樽を片付けた。

リアスが馬鹿で本当に助かる。

ここまで大きなものを野営に持ち込んでいるにもかかわらず、リアスの反応は「俺、よくこんなに持ってこれたよねー」でおしまいだった。

エゾンの持つ空間魔法はあまりにも異質だ。
だから今までも、他の人間に見せたことはない。
だが今回は、妥協出来ない荷物が多すぎた。

まずハンターの自分たちとは違い、リーエの着替えやおむつがそれなりに必要になる。
エゾンたち自身も、血だらけのままでリーエの面倒を見るわけにもいかない。
リーエと順に休む為の簡易テントや、リーエの揺り籠も必要だった。

普通これだけの荷物を持ち込むには、馬車がいる。
だかそれでは出費が高すぎた。
かと言って、二回に分けて遠征してくるのも面倒だし、やはり費用が掛かりすぎる。

エゾンの分け前と費用、それと単純なリアスがここで疑問に思う可能性を天秤にかけたエゾンは、結果、リスクをとることにした。
リアスには最低限の荷物を持たせ、空間魔法で大物を隠し持ってきたのだ。

戦闘職の人間の動きを悪くしてどうする。

それが彼なりの最終的な言い訳だ。


「明日は最後の巣穴だからな。気を抜くなよ」


テントを張り終わり、リーエの揺り籠を抱えるようにして横になった リアスに注意する。だがリアスの鼻歌はまだ止まらない。
どうも今日の戦闘が楽勝すぎて、さっきからリアスの緊張感が足りない気がする。


「大丈夫ぅ、大丈夫ぅ。カーチャン強いから問題ない、ねー?」


揺り籠で眠るリーエに子守唄を歌うように、リアスが返す。

まあ今日の戦闘は、リアスにはあまりにも楽勝過ぎた。気が抜けても仕方ないか。
このまま明日もさっさと片付けばいいのだが。

エゾンのわずかな不安も、リアスの調子っぱずれな鼻歌とたまに混じる焚火の音に徐々に薄れていった。
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