CoSMoS ∞ MaCHiNa ≠ ReBiRTH

L0K1

文字の大きさ
上 下
29 / 97
―楽園編―

定番の朝食

しおりを挟む
「朝ご飯、買ってきましたよ」
 朝早くから、市場まで朝食の調達をしに行っていたと思われる藍里が、大きな紙袋を抱えて戻ってきたようだ。
 紙袋の中身は、パンとリンゴと、瓶詰めのジャムのようなもの、それと、大きめの瓶に入ったミルク。それらをサイドテーブルに並べる――が、ちょっと狭い。
「あ、ちょっと待ってくださいね」
 そう言って、藍里は部屋を出て行った。
 
 ――藍里はすぐに戻ってきて、サイドテーブルの上に木のジョッキを3つ並べる。テーブルの上はさらに狭くなった。
「酒場で借りてきました! でも、この世界、すごいですよね。ちゃんと、私たちの言葉が通じちゃうんですもん」
 藍里がこの世界について深く関心を示している。
「確かに……彼らは自らの意思で選択し、行動しているってことなのかな? どんな原理なんだろう」
 僕には、この世界の人々が“魂“のようなものを持っているとは到底思えなかった。そもそも、魂という概念すら、本来は曖昧なものだろう。

「ミコ的には、この世界、単なるコードの羅列に過ぎないのだと考えています。ユキネが言っていたのですけど、『命の欠片も存在しない、そんな無機質な世界と、私の脳は、不思議な能力によって繋がった。その脳内データベースを基に深層学習が行われて構築された世界。その過程で高度なAIシステムも一緒に導入されたんじゃないかな~?』だそうです。なので、ここの住人は、“ifイフ”と“elseエルス”のようなもので動いているだけ、なのかも――らしいです」
「ミコちゃん、全然、分かりません!」
 藍里はミィコに突っ込んだ。
「多分、ユキネが言いたいのは、この世界の住人は、とてもとても、ものすごい人工知能で、条件選択を繰り返して、時と場合によって最適な選択をしながら動いている――ということなのだと思います」
「なるほど」
 僕は納得した。
「なるほど~! 人間と同じように、たくさんの選択肢の中から、最適なものを自ら選んで行動しているわけですね!」
 藍里も納得した……が、残念ながら、理解はしていないのだろう。だが、条件選択を繰り返しているのは人間も同じ、なのかもしれない。逆に、藍里の解釈が正しければ、人間もこの世界の住人も、さほど変わりはなく、人間の選択は時として、ただ、非効率なだけ、ということになる。
 
 まあ、深く考えても仕方がない、この世界は雪音さんの脳内レベルに合わせて作られた仮想空間、いわば電脳世界なのだろう。
 そうだ、ミィコにも聞いてみよう。
「ということは、この世界の住人は皆、雪音さんみたいな思考をしているということ? ちょっと意地悪なところがあるとか? 理屈っぽくてめんどくさい、とか?」
 ――そんな僕の言葉に、二人はちょっと考える仕草をしている。
「ミコも、そんな気がします」
「うんうん、確かにそんな感じします」
 なるほど、まさに、雪音ワールド。
 それでも、雪音さんのイメージから作られる住人ということは、住人や獣、モンスター、それぞれが雪音さんの理想を具現化させたような存在となって動いているのだろう。雪音さんの思う、『こうあるべき』存在が形になっているような気がする――多分。

 二人と冗談交じりにそんな会話をしていたが、正直に言えば、この世界の住人は個性豊かで、雪音さんただ一人の人格で形成されているとは到底思えない。
 まさか雪音さん、現実世界に“hackハック“して、人格データを抜き取ってきている? もし、そうだとすれば、僕の人格を持った住人も、この世界のどこかに存在しているのかもしれない――

「さ、朝食を食べてからお買い物に行きましょう!」
 藍里の言うとおりだ。今日中にネームドモンスターとやらを倒さなければ。

 ――僕らは朝食を平らげた後、早速、街に繰り出した。
 市場は賑わい、街は活気にあふれている。場の雰囲気に圧倒されそうになりながらも、僕らは市場の中を進んだ。
 まずは武器屋。武器屋の隣には鍛冶屋もあり、そこで傷んだ武器の修理等をしてもらえるようだ。

 武器屋の品揃えは驚くほどに豊富で、用途不明の武器なども多数存在していた。
「ミコはこれがいいです」
「えっと、それは……」
 僕は驚きを隠せない……なぜなら、ミィコは鋼の刃が無数に埋め込まれた鞭を手に持っているからだ。
「ミコちゃん、ちょっとそれは危ないかな~……」
「サトリがサボっていたら、鞭打って働かせるのに丁度いい武器だと思ったのですが……」
「ミィコ、怖い」
 マジで怖い、と思う反面、まあ、そうなるだろうな、とも、僕は思った。
「ミコちゃん、これなんてどうかな!?」
 藍里が手に持っているのは、十字架の形をした大きな鈍器だ。手ごろな重さでミィコにはいいのかもしれない。
 しかも、無駄に装飾が付いている。
「鈍器、ですか――悪くはないですね。十字架に煌びやかな装飾、見た目もゴージャスですし……ミコ、これ、ちょっと気に入りました。これならば、予算的にも問題なさそうです。アイリ、さすがです」
「うん、うん! ミコちゃんにピッタリだよ!」

 二人が楽しそうに武器を選んでいる間に、僕は『ニンジャソード』とやらを探した。『ニンジャソード』にも種類がいくつかある。
 この刀、日本刀とは違い、共通して反りのない直刀のようだ。
 ――なるほど、だからこそ、『ソード』のスキルでも扱えるということだろう。『クモガクレ』、『オニキリ』、『ミズナギ』、『コガラシ』――どれも、それっぽい名前が付けられている。
 しかし、武器の性能や、特殊能力については、ミィコに聞いてみないと分からない。
「なあ、ミィコ、『ニンジャソード』って、どれがいいんだろう?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

MMS ~メタル・モンキー・サーガ~

千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』 洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。 その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。 突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。 その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!! 機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

月とガーネット[下]

雨音 礼韻
SF
 西暦2093年、東京──。  その70年前にオーストラリア全域を壊滅させる巨大隕石が落下、地球内部のスピネル層が化学変化を起こし、厖大な特殊鉱脈が発見された。  人類は採取した鉱石をシールド状に改良し、上空を全て覆い尽くす。  隕石衝突で乱れた気流は『ムーン・シールド』によって安定し、世界は急速に発展を遂げた。  一方何もかもが上手くいかず、クサクサとしながらふらつく繁華街で、小学生時代のクラスメイトと偶然再会したクウヤ。  「今夜は懐が温かいんだ」と誘われたナイトクラブで豪遊する中、隣の美女から贈られるブラッディ・メアリー。  飲んだ途端激しい衝撃にのたうちまわり、クウヤは彼女のウィスキーに手を出してしまう。  その透明な液体に纏われていた物とは・・・?  舞台は東京からアジア、そしてヨーロッパへ。  突如事件に巻き込まれ、不本意ながらも美女に連れ去られるクウヤと共に、ハードな空の旅をお楽しみください☆彡 ◆キャラクターのイメージ画がある各話には、サブタイトルにキャラのイニシャルが入った〈 〉がございます。 ◆サブタイトルに「*」のある回には、イメージ画像がございます。  ただ飽くまでも作者自身の生きる「現代」の画像を利用しておりますので、70年後である本作では多少変わっているかと思われますf^_^;<  何卒ご了承くださいませ <(_ _)> [上巻]を未読でお越しくださいました貴重な皆様♡  大変お手数ですが完結済の『月とガーネット』[上]を是非お目通しくださいませ(^人^)  第2~4話まで多少説明の多い回が続きますが、解説文は話半分くらいのご理解で十分ですのでご安心くださいm(_ _)m  関連のある展開に入りましたら、その都度説明させていただきます(=゚ω゚)ノ  クウヤと冷血顔面w美女のドタバタな空の旅に、是非ともお付き合いを☆  (^人^)どうぞ宜しくお願い申し上げます(^人^)

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

処理中です...