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―楽園編―
焔のミィコ
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ミィコが鞄から取り出したものは――石? ルーン文字のようなものが刻み込まれている……? ミィコは、それをいくつか鞄から取り出し、それを両手の掌に乗せ、何かを念じるような仕草をし始めた。
すると、石はミィコの掌で燃え上がり、獣めがけてものすごい勢いで飛んでいく!
燃える石は見事に命中し、獣は炎に包まれる。
――獣は丸焦げ。藍里とミィコの見事な連携技だ。
藍里とミィコは達成感に満ちた表情をしながら、一息ついていた。
『アイリ、焦げた臭いでモンスターが集まってきています! 急いでここを離れるのです!』
『はい!』
藍里とミィコは一目散にその場から離れ、森を抜け、草原を駆け抜け、夢中で首都の方角に向かって走り続けた。
――モンスターから逃げ切った二人は、疲れてヨロヨロになりながらも街道沿いを進み、やがてはゆっくりとした足取りのまま首都にたどり着いた。
『全力で走ったので疲れちゃいました』
藍里とミィコは、スタミナ切れでクタクタのようだ。
『サトリ、大収穫なのは褒めてあげますけど遠くまで行きすぎです! もうちょっと考えてください!』
『はい……』
僕は、ハァハァと息が荒くなっているミィコに怒られた。
『さてと、さとりくんを蘇生するためにはどうしたらよいのでしょう?』
一息ついた藍里は、僕のことを心配してくれている。
『教会にいる聖職者にお願いするのです。サトリ、こっちです』
僕はミィコの後をついて行く。
『サトリが採集している間に、この街の施設をある程度まで把握しておきました。さっきミコが使っていたルーン石も、この街の魔法店から調達したものです。この世界での魔法は、ルーン石というアイテムを組み合わせて発動するのです。でも、ルーン石はかさ張りますし、ちょっとお高いですし、いわゆる切り札というやつなのです!』
なるほど、ルーン魔法みたいなものがあるのか。
僕の知っているあのMMORPGの世界で魔法を使うために必要なものは、いわゆる『魔法のスクロール』のような紙媒体だった。
だが、この世界ではもっとリアルに、ルーン石の組み合わせによって魔法を発動させているらしい。この世界は、あのMMORPGと完全に一緒の世界というわけでもないみたいだ……実に奥が深い。
『ちなみに、ミィコ、どうやってルーン石の組み合わせを覚えたんだ?』
僕は気になって聞いてみた。
『ファーストフードのお店みたいに、店内のメニュー表に魔法の組み合わせが一通り載っていて、銀貨5枚で1セットでした。ちなみに、【スマイル】は無料でした!』
ミィコは、スマイル無料なところを強調していた。
『な、なるほど。ところで、その銀貨はどうやって稼いだの』
『サトリの採集した材料をアイリが錬金して、ポーションを作り、そのポーションをミコが街で売って、結果として銀貨を10枚ほど手に入れたのです!』
『ミコちゃん、随分と価格交渉で粘っていたものね……』
ミィコは商魂たくましい。
しかし、そんなミィコが味方にいるとなんとなく頼もしい。
――そうこうしているうちに、僕たちは目的の教会にたどり着いていた。
その頃には、夜の帳が下りていて周辺は真っ暗闇だ。
僕は教会に入り、聖職者らしき人物に近寄り。
そして、『蘇生してください!』という、心の声を何度も送り続けてみた……が、何も起こらなかった。
『あの、ミィコさん……蘇生してもらえないんですけど?』
『それはおかしいですね……こうなったら、サトリ、祭壇に置かれた燭台を倒して、聖職者の気を引くのです!』
『マジですか……』
『マジです!』
僕はミィコに言われた通り、祭壇の上に置かれた燭台を倒した。
――運悪く、燭台は敷かれたカーペットの上に落下し、そのまま火が燃え移った。
『大変です! 火事になっちゃいますよ!』
藍里は慌てながらも鞄から革袋の水筒を取り出し、その中に入っていた水をかけて消火していた。素晴らしい。
『飲み水ですけど、こういう使い方もできちゃうのですね。念のために購入しておいて大正解でした!』
藍里は少し誇らしげな表情を見せた。僕も藍里のことを誇らしいと思った。
「おお、神の子よ、そなたを穢れた肉体から解放いたしましょう。神はそなたの清らかなる魂に新たなる肉体を授けてくださることでしょう――おお、神よ……」
聖職者は僕にそう告げて神に祈りを捧げた。
こうして、僕は聖職者から無事に蘇生してもらうことができた。
霊体は元の肉体に戻るとばかり考えていた僕の予想に反してその場で受肉した。神の子というのはいわゆる『プレイヤー』のことだろうか。僕や藍里、ミィコは万が一この世界で命を落としたとしても、こうして蘇生してもらえるのだろう。
よくよく考えてみれば、藍里かミィコが僕の存在を聖職者に伝えてあげるだけでよかったのではないだろうか? わざわざ燃やさなくても……ま、いいか。
――蘇生直後だからなのだろうか、なんとなくだるい。肉体的というよりも、精神的に。
それにしても、蘇った際に身に纏っていたこの薄汚い衣はいったい何なのだろう……裸で蘇るよりは全然マシなのだけど。
僕はそんなことを考えながら、ミィコから手渡された服に無心で着替え、薄汚い衣を聖職者に手渡した。
薄汚い衣を手渡してから思ったが、あの薄汚い衣の方がまだマシだった。
「ミィコ、この服、ハデすぎじゃないか?」
原色系のボロ布を何枚も縫い付けて作られているツギハギだらけの服だ。
「余ったボロ布で作られた服みたいですね。教会の入り口脇に寄付箱があったので、その中からいただきました。サトリも、こんな素敵な衣服を寄付してくださった方に感謝してください」
「さとりくん、よかったですね! ハイカラですね!」
ハイカラなんですか、これ? 藍里さん? 藍里さんの言うそれは、”high color”であって、本来の高襟(high collar)とは全く別の意味になるんじゃないですか!?
僕は、藍里にツッコミを入れたい気持ちを最大限に抑えた。
――教会を出た僕らは、近くにいた衛兵に呼び止められた。
「教会を燃やした罪により、銀貨1枚の罰金が科せられます。直ちにお支払いください」
「マジか……」
僕はそう呟いて二人の方を見た。
「サトリを見捨てて逃げるという手もあります!」
「ミコちゃん、それはさすがに……」
「アイリ、安心してください。軽いジョークです」
そう言いながら、ミィコは銀貨1枚を衛兵に手渡していた。ミィコの冗談は、いつも本気に聞こえるから恐ろしい。
ミィコは、鞄からランタンとオイルの入っている瓶を取り出し、ランタンのオイルタンクにオイルを少量注ぎ込んだ。
僕はミィコがどうやって火をつけるのか気になってみていた。
すると、ミィコは、先ほどの衛兵に『火をもらえますか?』と尋ねている。
衛兵は手に持っている松明から小さな棒のようなものに火を取り、それを使ってランタンに火を灯してくれた。
この世界の住人も、僕らと同じように意思を持って行動しているように見える。なんだか、不思議な世界だ。
ミィコはランタンの光を頼りに、薄暗い街中をゆっくりと進み始めた。
僕と藍里もその後をついて行く。
すると、石はミィコの掌で燃え上がり、獣めがけてものすごい勢いで飛んでいく!
燃える石は見事に命中し、獣は炎に包まれる。
――獣は丸焦げ。藍里とミィコの見事な連携技だ。
藍里とミィコは達成感に満ちた表情をしながら、一息ついていた。
『アイリ、焦げた臭いでモンスターが集まってきています! 急いでここを離れるのです!』
『はい!』
藍里とミィコは一目散にその場から離れ、森を抜け、草原を駆け抜け、夢中で首都の方角に向かって走り続けた。
――モンスターから逃げ切った二人は、疲れてヨロヨロになりながらも街道沿いを進み、やがてはゆっくりとした足取りのまま首都にたどり着いた。
『全力で走ったので疲れちゃいました』
藍里とミィコは、スタミナ切れでクタクタのようだ。
『サトリ、大収穫なのは褒めてあげますけど遠くまで行きすぎです! もうちょっと考えてください!』
『はい……』
僕は、ハァハァと息が荒くなっているミィコに怒られた。
『さてと、さとりくんを蘇生するためにはどうしたらよいのでしょう?』
一息ついた藍里は、僕のことを心配してくれている。
『教会にいる聖職者にお願いするのです。サトリ、こっちです』
僕はミィコの後をついて行く。
『サトリが採集している間に、この街の施設をある程度まで把握しておきました。さっきミコが使っていたルーン石も、この街の魔法店から調達したものです。この世界での魔法は、ルーン石というアイテムを組み合わせて発動するのです。でも、ルーン石はかさ張りますし、ちょっとお高いですし、いわゆる切り札というやつなのです!』
なるほど、ルーン魔法みたいなものがあるのか。
僕の知っているあのMMORPGの世界で魔法を使うために必要なものは、いわゆる『魔法のスクロール』のような紙媒体だった。
だが、この世界ではもっとリアルに、ルーン石の組み合わせによって魔法を発動させているらしい。この世界は、あのMMORPGと完全に一緒の世界というわけでもないみたいだ……実に奥が深い。
『ちなみに、ミィコ、どうやってルーン石の組み合わせを覚えたんだ?』
僕は気になって聞いてみた。
『ファーストフードのお店みたいに、店内のメニュー表に魔法の組み合わせが一通り載っていて、銀貨5枚で1セットでした。ちなみに、【スマイル】は無料でした!』
ミィコは、スマイル無料なところを強調していた。
『な、なるほど。ところで、その銀貨はどうやって稼いだの』
『サトリの採集した材料をアイリが錬金して、ポーションを作り、そのポーションをミコが街で売って、結果として銀貨を10枚ほど手に入れたのです!』
『ミコちゃん、随分と価格交渉で粘っていたものね……』
ミィコは商魂たくましい。
しかし、そんなミィコが味方にいるとなんとなく頼もしい。
――そうこうしているうちに、僕たちは目的の教会にたどり着いていた。
その頃には、夜の帳が下りていて周辺は真っ暗闇だ。
僕は教会に入り、聖職者らしき人物に近寄り。
そして、『蘇生してください!』という、心の声を何度も送り続けてみた……が、何も起こらなかった。
『あの、ミィコさん……蘇生してもらえないんですけど?』
『それはおかしいですね……こうなったら、サトリ、祭壇に置かれた燭台を倒して、聖職者の気を引くのです!』
『マジですか……』
『マジです!』
僕はミィコに言われた通り、祭壇の上に置かれた燭台を倒した。
――運悪く、燭台は敷かれたカーペットの上に落下し、そのまま火が燃え移った。
『大変です! 火事になっちゃいますよ!』
藍里は慌てながらも鞄から革袋の水筒を取り出し、その中に入っていた水をかけて消火していた。素晴らしい。
『飲み水ですけど、こういう使い方もできちゃうのですね。念のために購入しておいて大正解でした!』
藍里は少し誇らしげな表情を見せた。僕も藍里のことを誇らしいと思った。
「おお、神の子よ、そなたを穢れた肉体から解放いたしましょう。神はそなたの清らかなる魂に新たなる肉体を授けてくださることでしょう――おお、神よ……」
聖職者は僕にそう告げて神に祈りを捧げた。
こうして、僕は聖職者から無事に蘇生してもらうことができた。
霊体は元の肉体に戻るとばかり考えていた僕の予想に反してその場で受肉した。神の子というのはいわゆる『プレイヤー』のことだろうか。僕や藍里、ミィコは万が一この世界で命を落としたとしても、こうして蘇生してもらえるのだろう。
よくよく考えてみれば、藍里かミィコが僕の存在を聖職者に伝えてあげるだけでよかったのではないだろうか? わざわざ燃やさなくても……ま、いいか。
――蘇生直後だからなのだろうか、なんとなくだるい。肉体的というよりも、精神的に。
それにしても、蘇った際に身に纏っていたこの薄汚い衣はいったい何なのだろう……裸で蘇るよりは全然マシなのだけど。
僕はそんなことを考えながら、ミィコから手渡された服に無心で着替え、薄汚い衣を聖職者に手渡した。
薄汚い衣を手渡してから思ったが、あの薄汚い衣の方がまだマシだった。
「ミィコ、この服、ハデすぎじゃないか?」
原色系のボロ布を何枚も縫い付けて作られているツギハギだらけの服だ。
「余ったボロ布で作られた服みたいですね。教会の入り口脇に寄付箱があったので、その中からいただきました。サトリも、こんな素敵な衣服を寄付してくださった方に感謝してください」
「さとりくん、よかったですね! ハイカラですね!」
ハイカラなんですか、これ? 藍里さん? 藍里さんの言うそれは、”high color”であって、本来の高襟(high collar)とは全く別の意味になるんじゃないですか!?
僕は、藍里にツッコミを入れたい気持ちを最大限に抑えた。
――教会を出た僕らは、近くにいた衛兵に呼び止められた。
「教会を燃やした罪により、銀貨1枚の罰金が科せられます。直ちにお支払いください」
「マジか……」
僕はそう呟いて二人の方を見た。
「サトリを見捨てて逃げるという手もあります!」
「ミコちゃん、それはさすがに……」
「アイリ、安心してください。軽いジョークです」
そう言いながら、ミィコは銀貨1枚を衛兵に手渡していた。ミィコの冗談は、いつも本気に聞こえるから恐ろしい。
ミィコは、鞄からランタンとオイルの入っている瓶を取り出し、ランタンのオイルタンクにオイルを少量注ぎ込んだ。
僕はミィコがどうやって火をつけるのか気になってみていた。
すると、ミィコは、先ほどの衛兵に『火をもらえますか?』と尋ねている。
衛兵は手に持っている松明から小さな棒のようなものに火を取り、それを使ってランタンに火を灯してくれた。
この世界の住人も、僕らと同じように意思を持って行動しているように見える。なんだか、不思議な世界だ。
ミィコはランタンの光を頼りに、薄暗い街中をゆっくりと進み始めた。
僕と藍里もその後をついて行く。
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