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―邂逅編―
アユミの受難
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「さとりくん! だ、大丈夫ですか!? 燃えるお菓子が飛んできましたね! 背中、服に少しだけ焦げ跡ついちゃってますけど!」
藍里は、そう言って心配そうにしている。
「う、うん、大丈夫、だと思う。それより、左手を思いっきり擦りむいてしまった」
僕は藍里に状況を伝えた。
できれば、藍里だけそのまま逃げてほしかったのだが、本音を言えば、戻ってきてくれたことがなんだか嬉しかった。
「血が出ているじゃないですか……後でちゃんとした手当てを――」
そう言って藍里はハンカチを取り出し、怪我の止血をするため、それを僕の左手に巻いてくれた。
ありがたい気持ちとともに、藍里のハンカチをダメにしてしまうという罪悪感が。
そんなやりとりをしている僕らの後ろで、アンリさんとアユミは、なにやらもめている様子だ。
「アユミ! なんてことをするのよ」
アンリさんは、もっと平和的に事を運びたかったのだろうか? いや、拘束して、仲間たちのもとに連れて行くのかもしれない……。
「でも、アンリさんが危険だって――」
「アユミ、アタシは警戒しなさいって言ったの!」
二人がなんだか言い争っているようだ。その隙に逃げようとすると――僕の左手が、ハンカチに薄っすらと血のにじむ僕の左手が――淡い光を放ち始めた。
そして、その掌から光り輝くオーラのようなものが立ち昇る。
なんだこれは!? 僕は焦ってその光を振り払おうと咄嗟に手をかざした。
「キャァァァァ!!」
僕の左手を見て、それが攻撃モーションだと勘違いしたのか、パニックに陥ったアユミと呼ばれている魔法少女(?)が杖を構えた。
「イヤァァァァ!! glacies-rice!!」
彼女は奇妙な魔法を唱えた。
――僕に氷の礫が降り注ぐ。謎の物体ではあるものの、雹のようにも見える。
「来ないでぇぇ!! tonitrum-ianua!!」
さらに魔法を唱える。
――雷鳴轟く謎のドアが現れた。そのドアをくぐればただでは済まないだろう。だが、あえてそこを通る必要はない。
「なんでぇぇぇ!!」
彼女は叫びながら構えている杖を振り回して僕に突撃してきた――僕は彼女の隙を見つけ、懐に潜り込み、その右腕を、僕の輝く左手で掴んだ。
「やめてください! 貴女は何がしたいんですか!?」
僕は、彼女の腕を掴みながら問いただした。
――その瞬間、僕は彼女の腕を掴んだことを本当に、本当に後悔した。
「え、なに? え、なに!? え、殺される? え、なにこれ、なにこれ!! いや、やめて! やめてよ!! いやよ!!」
彼女は完全なパニック状態に陥っている。その光景を見たアンリさんは僕たちに駆け寄ってきた。
「いけない、アンタたち、隠れなさい! そこの路地裏まで走るわよ」
――僕らが必死で逃げようとする後ろで、叫び声に混じった魔法が唱えられた。
「――aeternus――fortis――absoluta-null――」
轟音が鳴り響く中、空に大きな雲が渦巻き、周りの空気が凍てつき始める。
立ち込める冷気が肌に刺さる。チリチリする。これは、本気でヤバいのではないだろうか……?
アンリさんがこちらを見た。
「これ、無理ね。逃げるのは無理! アンタ、その光る翼で防げないの!?」
アンリさんは僕に叫ぶ。
僕は背中を見る――確かに、背中の左側に光の翼が片翼だけ生えている。
――わりと思い通りに動かせるようだ。
とりあえず、翼を目いっぱいに広げ、藍里とアンリさんを包み込んでみた。
「あの、これ、本当に大丈夫なんですか?」
僕は、自分の能力に自信がなかった。
「アンタ、自分の能力について何も知らないわけ!?」
アンリさんの言うとおり僕の能力は僕にも分からず、この翼が役に立つのかどうか、それすらも不明だった。
そして、僕の体が寒さで動かなくなってきているところを見ると、この翼に大した効果はなかったようだ。
藍里も、アンリさんも、僕も、みんな、その寒さに震えている。
緩やかにだが、確実に周囲の温度が低くなっていくのを感じられる。まさにこの場所は、極寒の地へと変貌しつつあるのだ。
アユミの本気は、この街が絶対零度の凍土と化してしまうほどに恐ろしいものだったのだ。
その時だった――
「CREPITUS!!」
詠唱にものすごい溜めを付けていたのか、アユミがついに魔法の詠唱を完了させたのだ。
とてつもなく大きな爆発音とともに、空に渦巻く雲が一瞬にして消え去り、雲間が開け、キラキラと輝く雪の結晶のようなものが降り注いだ。
なぜだか、助かったようだ――体温が戻っていくのを感じる。
暖かい日差し――雲間が開けた影響なのだろうか、昼頃より少しだけ暖かくなったようにも感じられる。
――本当に、わけがわからない。
「そ、そんな、私の全身全霊の魔力を受け止めて何ともないなんて、嘘よ……! 魔法少女は、決して、諦めない……! 愛と、希望と、世界平和のため、私は、絶対に負けないの……! 負けてはいけないの……決して……」
そう言い残し、アユミは力を使い果たしたのか、その場にパタリと倒れこんだ。
「し、死ぬかと思った!」
僕は本音がこぼれた。
「アタシも、死ぬかと思ったわ……それに、人通りの少ない路地で本当に助かったわ。こんな場面を大勢に目撃されたりなんかしたら大変」
アンリさんもこの展開は予想外だったみたいだ。
「でも、数名の目撃者はいるみたいですけど……」
「いいのよ、そんなの放っておけば。能力で誰かを傷つけたり、巻き込んだりしていなければ、それでいいの」
なるほど……でも、僕らは十分巻き込まれていますが――という気持ちはそっと心の奥にしまい込んだ。
藍里は事態が呑み込めずに硬直している。本日、二度目の恐怖体験で、藍里が心の傷を負わないか心配になってきた。
「でも、私たち、無傷で助かってよかったです。それに、さとりくんの翼、なんだか幻想的で……すごくカッコいいです!」
僕の不安とは裏腹に、藍里は安堵した様子で僕をみていた。一応、僕、背中と手を負傷しております。無傷とは言い難いのです。
藍里は、そう言って心配そうにしている。
「う、うん、大丈夫、だと思う。それより、左手を思いっきり擦りむいてしまった」
僕は藍里に状況を伝えた。
できれば、藍里だけそのまま逃げてほしかったのだが、本音を言えば、戻ってきてくれたことがなんだか嬉しかった。
「血が出ているじゃないですか……後でちゃんとした手当てを――」
そう言って藍里はハンカチを取り出し、怪我の止血をするため、それを僕の左手に巻いてくれた。
ありがたい気持ちとともに、藍里のハンカチをダメにしてしまうという罪悪感が。
そんなやりとりをしている僕らの後ろで、アンリさんとアユミは、なにやらもめている様子だ。
「アユミ! なんてことをするのよ」
アンリさんは、もっと平和的に事を運びたかったのだろうか? いや、拘束して、仲間たちのもとに連れて行くのかもしれない……。
「でも、アンリさんが危険だって――」
「アユミ、アタシは警戒しなさいって言ったの!」
二人がなんだか言い争っているようだ。その隙に逃げようとすると――僕の左手が、ハンカチに薄っすらと血のにじむ僕の左手が――淡い光を放ち始めた。
そして、その掌から光り輝くオーラのようなものが立ち昇る。
なんだこれは!? 僕は焦ってその光を振り払おうと咄嗟に手をかざした。
「キャァァァァ!!」
僕の左手を見て、それが攻撃モーションだと勘違いしたのか、パニックに陥ったアユミと呼ばれている魔法少女(?)が杖を構えた。
「イヤァァァァ!! glacies-rice!!」
彼女は奇妙な魔法を唱えた。
――僕に氷の礫が降り注ぐ。謎の物体ではあるものの、雹のようにも見える。
「来ないでぇぇ!! tonitrum-ianua!!」
さらに魔法を唱える。
――雷鳴轟く謎のドアが現れた。そのドアをくぐればただでは済まないだろう。だが、あえてそこを通る必要はない。
「なんでぇぇぇ!!」
彼女は叫びながら構えている杖を振り回して僕に突撃してきた――僕は彼女の隙を見つけ、懐に潜り込み、その右腕を、僕の輝く左手で掴んだ。
「やめてください! 貴女は何がしたいんですか!?」
僕は、彼女の腕を掴みながら問いただした。
――その瞬間、僕は彼女の腕を掴んだことを本当に、本当に後悔した。
「え、なに? え、なに!? え、殺される? え、なにこれ、なにこれ!! いや、やめて! やめてよ!! いやよ!!」
彼女は完全なパニック状態に陥っている。その光景を見たアンリさんは僕たちに駆け寄ってきた。
「いけない、アンタたち、隠れなさい! そこの路地裏まで走るわよ」
――僕らが必死で逃げようとする後ろで、叫び声に混じった魔法が唱えられた。
「――aeternus――fortis――absoluta-null――」
轟音が鳴り響く中、空に大きな雲が渦巻き、周りの空気が凍てつき始める。
立ち込める冷気が肌に刺さる。チリチリする。これは、本気でヤバいのではないだろうか……?
アンリさんがこちらを見た。
「これ、無理ね。逃げるのは無理! アンタ、その光る翼で防げないの!?」
アンリさんは僕に叫ぶ。
僕は背中を見る――確かに、背中の左側に光の翼が片翼だけ生えている。
――わりと思い通りに動かせるようだ。
とりあえず、翼を目いっぱいに広げ、藍里とアンリさんを包み込んでみた。
「あの、これ、本当に大丈夫なんですか?」
僕は、自分の能力に自信がなかった。
「アンタ、自分の能力について何も知らないわけ!?」
アンリさんの言うとおり僕の能力は僕にも分からず、この翼が役に立つのかどうか、それすらも不明だった。
そして、僕の体が寒さで動かなくなってきているところを見ると、この翼に大した効果はなかったようだ。
藍里も、アンリさんも、僕も、みんな、その寒さに震えている。
緩やかにだが、確実に周囲の温度が低くなっていくのを感じられる。まさにこの場所は、極寒の地へと変貌しつつあるのだ。
アユミの本気は、この街が絶対零度の凍土と化してしまうほどに恐ろしいものだったのだ。
その時だった――
「CREPITUS!!」
詠唱にものすごい溜めを付けていたのか、アユミがついに魔法の詠唱を完了させたのだ。
とてつもなく大きな爆発音とともに、空に渦巻く雲が一瞬にして消え去り、雲間が開け、キラキラと輝く雪の結晶のようなものが降り注いだ。
なぜだか、助かったようだ――体温が戻っていくのを感じる。
暖かい日差し――雲間が開けた影響なのだろうか、昼頃より少しだけ暖かくなったようにも感じられる。
――本当に、わけがわからない。
「そ、そんな、私の全身全霊の魔力を受け止めて何ともないなんて、嘘よ……! 魔法少女は、決して、諦めない……! 愛と、希望と、世界平和のため、私は、絶対に負けないの……! 負けてはいけないの……決して……」
そう言い残し、アユミは力を使い果たしたのか、その場にパタリと倒れこんだ。
「し、死ぬかと思った!」
僕は本音がこぼれた。
「アタシも、死ぬかと思ったわ……それに、人通りの少ない路地で本当に助かったわ。こんな場面を大勢に目撃されたりなんかしたら大変」
アンリさんもこの展開は予想外だったみたいだ。
「でも、数名の目撃者はいるみたいですけど……」
「いいのよ、そんなの放っておけば。能力で誰かを傷つけたり、巻き込んだりしていなければ、それでいいの」
なるほど……でも、僕らは十分巻き込まれていますが――という気持ちはそっと心の奥にしまい込んだ。
藍里は事態が呑み込めずに硬直している。本日、二度目の恐怖体験で、藍里が心の傷を負わないか心配になってきた。
「でも、私たち、無傷で助かってよかったです。それに、さとりくんの翼、なんだか幻想的で……すごくカッコいいです!」
僕の不安とは裏腹に、藍里は安堵した様子で僕をみていた。一応、僕、背中と手を負傷しております。無傷とは言い難いのです。
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