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―邂逅編―
始まりは終わりから
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――そこに、存在のだろう? 世界の理<Deus ex machina>――
西暦2000年1月6日、午後9時――
――電気街。
僕は地面に横たわっていた。とてもとても冷たい地面に。いや、僕自身も冷たくなっていくのが感じられる。
手をかざすと赤黒い色をした液体がべったりとその手に付着していた。これは――僕の血液だ。
自らの血で息ができない感覚、これは肺の損傷なのだろうか。胸が大きく切り裂かれて出血しているようにも感じる。僕は、事故にでもあったのだろうか。
薄れゆく意識の中で、僕は考える。神経伝達物質のエンドルフィンによって、死の恐怖と痛みが緩和されていくのを感じる。同時に直前の記憶が鮮明によみがえる。
そうして、僕は残酷な現実を知ることとなった。僕を手にかけたのは――僕の愛すべき人、その人だった。
必死にその重い首を左へ傾け、うつろな眼差しでその先を見ると――
僕の大切な女性の姿。そう、異能超人となって人格が大きく歪んだ彼女の手によって僕は屠られたのだ。彼女は笑っていた。その喜びに満ちた笑みはいまだかつて見たことがないほどに……。
「愛唯――」
僕は、声にならない声で彼女の名前を呟いた。
すると、僕の右手側から薄っすらと声が聞こえる気がする。
最後の力を振り絞り、首を右側に傾けようとした、が――僕の視線が真上を向いたところで動かなくなってしまった。ここまでか。
最期に、薄れゆく意識の中で、僕が目にしたものは、僕の右手を握りしめ、ただ、ただ、泣きながら僕の名前を呼びかけてくる女の子の姿――だった。
その女の子の名は――
西暦2000年1月1日、午前7時――
――ベッドの上で目が覚める。
やけにリアルでおぞましい初夢をみた、気がしたのだが、どんな夢だったのか思い出せない。そもそも、夢を見ていたのかどうかも思い出せない。それでも、過去に何度も、何度も、繰り返し見てきた気がする。そんな、とってもアンニュイな気分から今日が始まるのだ。
僕の名前は『鳳城 さとり』。年齢は17歳。もうすぐ高校3年生。
僕の高校生活は至って順調であり、親友と呼べる友人だって、好きな女の子だっている。自分で言うのもなんだけど、中性的な顔立ちだし、見た目も悪くない、と思う。平均的な身長と標準的な体型、髪型はミディアムで今時風だ。多分。
そして、今日は記念すべき21世紀始まりの日。西暦2000年1月1日。世間で騒がれていたのは2000年問題――通称Y2K問題だ。古いコンピューターやソフトウェアでは、日付を処理する場合にデータのリソースを少しでも減らすため、西暦の下2桁をだけを用いて処理されていた。そのため2000年になった瞬間に、コンピューターの日付の認識が狂い、さまざまな影響を引き起こすだろうと言われていた。
特に古いコンピューターになればなるほどその影響は顕著だという。実際、システム統一の観点から、コンピューター等は古いものをわざと用いている企業も多いのだとか。自社開発のプログラムは、要望に次ぐ要望を迅速に対応するため、互換性を無視した突貫工事になりやすく、スパゲッティコードと呼ばれる難解なものが出来上がる。
そうした社内システムを新しい機器に移行させる、もしくは新たに開発しなおす、といった労力を考えた場合、古いものをそのまま使い続けるという流れになる。
――という話をどこかで耳にしたことがある。
早速、情報を確認してみようと思い、僕はリモコンで部屋のテレビの電源つけてみた。ブラウン管の20インチテレビだ。なんと、ビデオデッキまで内蔵されている優れもの。友人はかなり羨ましがっていた。
部屋にはそのテレビとゲーム機、僕が今、座っているベッド、タンスと本棚、勉強机、それから収納用の棚がある。ドアは西側、窓が東側と北側。そんな感じだ。
勉強机の上にはパソコン情報誌。今は自作パソコンが熱いらしく、失敗しないパーツ選びのために専門誌で情報収集をしている――と、言っても、パーツの購入に貯金のほとんどを使い切ることを考えると、どうしても購入を躊躇してしまう。
そんなどうでもいいことを思い浮かべながらチャンネルをいくつか回していると、Y2K問題についてのニュースをやっている。街中を映している生中継のようだ。元旦の朝ということで、人は疎らだ。
そして、特に目立った影響はないようなのだが――中継の森田アナウンサーが突如、叫び始めたかと思えばそのまま逃げ出していく。カメラマンもカメラを投げ捨て、アナウンサーに続いて逃げていく。スタジオの司会が呼びかけている。
「森田さん? 森田アナウンサー? どうかされましたか? いったんスタジオに戻しますね? 大丈夫ですか?」
その時、転がったカメラから映像が――
そこには逃げ惑う人々、それに恐ろしい獣のような姿をした生物が跋扈する。そんな光景が映し出されている。
「で、では、いったんスタジオに戻します!」
驚いたスタジオの司会は叫ぶようにそう言った。
その後は通常進行に戻り、何事もなかったかのように番組は続いていた。おそらく、悪ふざけの類だと認識されたのだろう。
西暦2000年1月6日、午後9時――
――電気街。
僕は地面に横たわっていた。とてもとても冷たい地面に。いや、僕自身も冷たくなっていくのが感じられる。
手をかざすと赤黒い色をした液体がべったりとその手に付着していた。これは――僕の血液だ。
自らの血で息ができない感覚、これは肺の損傷なのだろうか。胸が大きく切り裂かれて出血しているようにも感じる。僕は、事故にでもあったのだろうか。
薄れゆく意識の中で、僕は考える。神経伝達物質のエンドルフィンによって、死の恐怖と痛みが緩和されていくのを感じる。同時に直前の記憶が鮮明によみがえる。
そうして、僕は残酷な現実を知ることとなった。僕を手にかけたのは――僕の愛すべき人、その人だった。
必死にその重い首を左へ傾け、うつろな眼差しでその先を見ると――
僕の大切な女性の姿。そう、異能超人となって人格が大きく歪んだ彼女の手によって僕は屠られたのだ。彼女は笑っていた。その喜びに満ちた笑みはいまだかつて見たことがないほどに……。
「愛唯――」
僕は、声にならない声で彼女の名前を呟いた。
すると、僕の右手側から薄っすらと声が聞こえる気がする。
最後の力を振り絞り、首を右側に傾けようとした、が――僕の視線が真上を向いたところで動かなくなってしまった。ここまでか。
最期に、薄れゆく意識の中で、僕が目にしたものは、僕の右手を握りしめ、ただ、ただ、泣きながら僕の名前を呼びかけてくる女の子の姿――だった。
その女の子の名は――
西暦2000年1月1日、午前7時――
――ベッドの上で目が覚める。
やけにリアルでおぞましい初夢をみた、気がしたのだが、どんな夢だったのか思い出せない。そもそも、夢を見ていたのかどうかも思い出せない。それでも、過去に何度も、何度も、繰り返し見てきた気がする。そんな、とってもアンニュイな気分から今日が始まるのだ。
僕の名前は『鳳城 さとり』。年齢は17歳。もうすぐ高校3年生。
僕の高校生活は至って順調であり、親友と呼べる友人だって、好きな女の子だっている。自分で言うのもなんだけど、中性的な顔立ちだし、見た目も悪くない、と思う。平均的な身長と標準的な体型、髪型はミディアムで今時風だ。多分。
そして、今日は記念すべき21世紀始まりの日。西暦2000年1月1日。世間で騒がれていたのは2000年問題――通称Y2K問題だ。古いコンピューターやソフトウェアでは、日付を処理する場合にデータのリソースを少しでも減らすため、西暦の下2桁をだけを用いて処理されていた。そのため2000年になった瞬間に、コンピューターの日付の認識が狂い、さまざまな影響を引き起こすだろうと言われていた。
特に古いコンピューターになればなるほどその影響は顕著だという。実際、システム統一の観点から、コンピューター等は古いものをわざと用いている企業も多いのだとか。自社開発のプログラムは、要望に次ぐ要望を迅速に対応するため、互換性を無視した突貫工事になりやすく、スパゲッティコードと呼ばれる難解なものが出来上がる。
そうした社内システムを新しい機器に移行させる、もしくは新たに開発しなおす、といった労力を考えた場合、古いものをそのまま使い続けるという流れになる。
――という話をどこかで耳にしたことがある。
早速、情報を確認してみようと思い、僕はリモコンで部屋のテレビの電源つけてみた。ブラウン管の20インチテレビだ。なんと、ビデオデッキまで内蔵されている優れもの。友人はかなり羨ましがっていた。
部屋にはそのテレビとゲーム機、僕が今、座っているベッド、タンスと本棚、勉強机、それから収納用の棚がある。ドアは西側、窓が東側と北側。そんな感じだ。
勉強机の上にはパソコン情報誌。今は自作パソコンが熱いらしく、失敗しないパーツ選びのために専門誌で情報収集をしている――と、言っても、パーツの購入に貯金のほとんどを使い切ることを考えると、どうしても購入を躊躇してしまう。
そんなどうでもいいことを思い浮かべながらチャンネルをいくつか回していると、Y2K問題についてのニュースをやっている。街中を映している生中継のようだ。元旦の朝ということで、人は疎らだ。
そして、特に目立った影響はないようなのだが――中継の森田アナウンサーが突如、叫び始めたかと思えばそのまま逃げ出していく。カメラマンもカメラを投げ捨て、アナウンサーに続いて逃げていく。スタジオの司会が呼びかけている。
「森田さん? 森田アナウンサー? どうかされましたか? いったんスタジオに戻しますね? 大丈夫ですか?」
その時、転がったカメラから映像が――
そこには逃げ惑う人々、それに恐ろしい獣のような姿をした生物が跋扈する。そんな光景が映し出されている。
「で、では、いったんスタジオに戻します!」
驚いたスタジオの司会は叫ぶようにそう言った。
その後は通常進行に戻り、何事もなかったかのように番組は続いていた。おそらく、悪ふざけの類だと認識されたのだろう。
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