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第二章 集う凡人達

第13話 聖剣の守り手、シノン

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「貴様、なんだそれは!?聖剣じゃなくて、斧!?」

アッパレーの手には大斧が握られている。

どうやら聖剣を引っこ抜いたのではなく、聖剣が突き刺さっている床ごと抉り取ったようだ。

「でもこれで良い!きっと勇者様ならこの剣を引き抜けるべ」

アッパレーは聖剣の剣先に岩のようなものがくっついている大斧を担いだ。

「ガォオオオオオオオ!!」

その時、何処からともなく獣の咆哮が響き渡った。

「もしかして聖剣を手にしたことで巨獣達が怒っているのでしょうか?」

「どうなんだ!?アッパレー!」

怯えるハッカイと焦るバツフォイ、そしてアッパレーは冷静に答える。

「遠ざかっていた獣達が、一斉にこっちに向かってきている」

その時、一体の巨獣がアッパレー達に襲いかかる。

巨大なライオンのような風貌の巨獣は、そのままハッカイに噛みつこうと口を開けた。
その牙一本一本が人間よりも大きく、もし人間が食べられてしまえば豆を砕くかのように簡単に粉砕されてしまうだろう。

「はひ!?、、、」

ハッカイは恐怖で動けなくなってしまった。

その時

「ボンバンバン!」

バツフォイの魔法が巨獣の顔面に直撃した。
左頬で大爆発を起こし、巨獣は横たわった。

「バツフォイさん!!ありがとうございます!」

バツフォイは自分の魔法が強くなっていることに驚いた。

「魔法を発動する速度、魔法の威力!!全てが少し前とは桁違いだ!」

バツフォイは勢いづき、更に魔法を連打する。

巨獣はよろめき、後ずさっていく。

「ハッハッハ!!俺様の魔法の前にひれ伏すが良い!」

「バツフォイさん!後ろです!」

ハッカイが声を上げたが時すでに遅し、アッパレー達は巨獣に囲まれていた。
バツフォイの後ろに巨獣が迫る。

アッパレーは飛び上がり、バツフォイに襲いかかる巨獣の脳天に聖剣の斧を振り下ろした。

そのとてつもないパワーに巨獣は動かなくなった。

「貴様、なんだその力は!?まさに巨人の一振りだな」

「おらも驚いた!この斧も凄い力だ」

巨獣は更に三体姿を現した。

シュンシュン!!

三体にどこからか飛んできた矢が刺さり、三体の巨獣は眠ってしまった。

「まさか、本当に聖剣を引き抜いちまうとはな」

やってきたのは聖剣の守り手であるシノンだった。
シノンは巨木の上から三人を見下ろしている。

アッパレーはハッとしたようにシノンに問いかける。

「おめぇ、おら達から巨獣達を引き剥がしてくれたな?」

シノンはとぼけるように答えた。

「さ~て、何のことやら」

そしてシノンは腕を組みながら続ける。

「聖剣を引き抜いたお前達は、、、いや、待て待て!聖剣を床ごと抉り取ったのか!?」

シノンは聖剣の先に床の石材がくっついている様を見て驚いた。

「すまん!思いっきり引き抜いたら、床ごと引っこ抜けた!」

アッパレーはシノンが怒るのではないかと心配して、精一杯謝っている。

「聖剣が突き刺さっていたあの床は絶対に傷つくことのない鉱石で出来ている。それを、、、床ごと引っこ抜いただと?ははははは!!お前は只者じゃないな、良いだろう!聖剣は確かにお前の手にあるんだ、これから正式にこの俺様が聖剣の守り手としてお前についていく」

シノンは弓矢をクルクルと回転させ、カッコつけながら決め台詞を言った。

アッパレーは両手を広げてシノンを歓迎する。

「おめぇも一緒に来てくれるのか!?ありがとう!」

バツフォイはシノンを指差して注意する。

「貴様、よく聞け。俺様達の仲間になるのであればテキスト的にも一人称は被らない方が良い、誰の台詞か分からなくなるからな!自分のことを俺様と呼ぶのは俺様だけで良い」

それを聞いたハッカイがクスクスと笑いながら呟く。

「バツフォイさん、、、テキスト的にとか誰の台詞かとか、何を言っているの」

シノンは鼻で笑い、巨木から飛び降りた。

「俺様になんか言ったか?俺様くん」

シノンは試すようにバツフォイを睨んだ。

「女みたいな髪型しやがって、その髪型で俺様はないだろう?」

バツフォイも負けじと言い返す。

二人の睨み合いの間に入ったのはハッカイだった。

「すみません、正直一人称の呼び方なんてどうでもいいと思います!」

「それもそうだな、まぁ良い。俺についてこい、この森を抜けるぜ」

シノンは先頭を走り出し、アッパレーはそれに続いた。

「聖剣の守り手だかなんだか知らないが、気に食わない野郎だ」

バツフォイはため息をつきながら走り出す。

「似た者同士なんですね」

ボソッと呟いたハッカイの言葉を聞き、バツフォイの足が止まった。

「誰が、誰に似てるって?」

「え、シノンさんとバツフォイさんですよ」

「、、、、、二度と言うな」

「あら、私何か良くないことを言ってしまいましたか?」

「はぁ~、、、もういい、行くぞ」

ハッカイは頭にハテナをつけたまま、バツフォイの後ろをついていくのだった。
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