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第二章 集う凡人達

第11話 巨獣の森

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岩山を抜けると、巨木が連なる森が見えてきた。

軽やかな足取りのアッパレーとは違い、魔法使いの二人はヘトヘトになりながら歩いている。

「おめぇ達、遅いぞ!見てくれ!この木!巨人でも住んでるのか!?」

アッパレーは巨木を見上げている。
巨獣の森の木は、天辺が見えないほど巨大である。

「気をつけろよ、アッパレー。その森には巨獣が住んでいると言われている」

「ああ、強者の匂いがする!」

アッパレーは鼻をクンクンとさせながら気配を感じとっている。

ハッカイは匂いを嗅ぎながら首を傾げていた。

アッパレーが森の中へと踏み入ろうとした時、一本の弓矢が足元に放たれた。

「最近はやけに客が多いなぁ、お前達もこの森を荒らしに来たのか?」

木の上から何者かの声が聞こえる。

「何すんだ!危ないだろ!」

アッパレーは木の上の誰かに声を発した。
よく見ると、巨木の枝に男がもたれかかっている。

バツフォイとハッカイはすぐにアッパレーの元へと駆け寄り、杖を構えた。

男は立ち上がった。
一本に結んだ長い髪が風に揺れている。

「さて、お前達は何の用でここへとやってきた?返答次第では次の一矢が貫くのは地面じゃないぜ」

只者ではないオーラを醸し出す男に、一同は足がすくんでしまう。

「勇者様がここに来なかったか?おら達は勇者様を追いかけているだけだ!」

アッパレーの言葉を聞き、男は笑い出した。

「あぁ、あの腰抜け共か。確かにここへやってきたなぁ」

「腰抜けだと!?」

怒り出すアッパレーをバツフォイが止めた。

「一旦話を聞こうか。勇者様はここにシノンという名前の者を仲間にする為にやってきたはずだが、その後の行方は分かるか?」

男は更に笑い出した。

「だとしたら目的は達成してねぇよな、俺がそのシノンだからだ。勇者様とやらはお仲間の魔法で空に逃げたぜ」

「きっとその魔法はサンゾウホウシ様の浮雲です。私も浮雲が使えれば、、、」

悔やむハッカイをよそに、アッパレーは質問を投げかける。

「おめぇがシノンだとしたら、どうして勇者様と一緒に行かなかったんだ?」

「勇者様はどうやら俺のことが気に入らないらしく、攻撃を仕掛けてきやがったんだ」

二人の会話を聞いていたバツフォイが腕を組みながら割って入る。

「それで貴様は勇者様のパーティと戦ったのか?」

シノンはバツフォイの言葉を鼻で笑い、答えた。

「まさか、天才様達の集まりだぜ?流石の俺でも勝ち目はねぇよ。ということで俺は庭へと逃げ込んだわけだ」

シノンは両手を広げ、視線を巨獣の森へと移した。

「奴等は俺を追いかけてこの森へと入って来た。そこを巨獣達に襲われて、、、空へと逃げたってわけだ。空からこの森を抜けたに違いねぇ」

ハッカイは頷き、口を開いた。

「流石はサンゾウホウシ様、懸命な判断ですね」

シノンはニヤリと笑った。

「果たしてそうかな?この天才アーチャーの俺様を仲間に出来ず、この森に聖剣エクスカリバーが眠っているとも知らずにスルーしたことはかなりの痛手だろ」

バツフォイは咳払いをした。

「一人称俺様呼びは俺様だけで十分だ。それよりもあの伝説の聖剣エクスカリバーがこの森にあるってのは本当か?」

「ああ、本当だぜ」

シノンの言葉にハッカイは目を輝かせた。

「なんと!是非ともお目にかかりたいものです!」

「お前らごときじゃ巨獣の餌になって終わりだろうから通してやっても良いが、一応こう見えても聖剣の守り手なんて立場があるもんで、聖剣を抜く資格があるか見定めなきゃならん」

シノンは懐から葉巻を取り出し、マッチで火をつけた。

「んで、お前らは聖剣を抜くつもりか?」

シノンの問いにアッパレーが口を開く。

「勇者様に届ける必要があるべ!だからおらは聖剣を引っこ抜く!」

シノンは首を傾げた。

「お前は勇者様の家来か何かなのか?忠告しておくが、この森の巨獣達に勝てる見込みはない。運良く聖剣のもとに辿り着けたとしても、お前程度の人間が聖剣を引き抜く力と精神を持ち合わせているとは思えねぇな」

ふぅ~と煙を吐くシノンはどこか物悲しげだった。

「おらは家来でも何でもない、ただの村人だ。魔王を倒すってんなら人手は多い方が良いと思って村を飛び出したんだ。勇者様が聖剣を忘れていったってんなら、それを届けるのがおらの役目だ。どれだけ難しくても、おらは聖剣を引っこ抜いて勇者様に届ける!」

アッパレーの想いを聞いて、シノンは呟く。

「ふん、何者でもなくても出来ることはあるってか、、、良いだろう、今から聖剣の試練を始める。この巨獣の森の中央にある聖剣の台座から見事聖剣を引き抜いた暁には、聖剣の守り手としてこのシノンがお前達の旅に同行してやる。まぁ、無理だと思うがな」

そう言ってシノンは森の中へと消えた。



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