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世界の終わり編

第222話 言葉がなくても伝わる想い

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ムーは中央庭園にやってきた。

そこにはカナメル、マツ、ナミチュ、ドラ、大将サチヨがいた。
しかし、ドラと大将サチヨは眠っているようだった。

セリアの歌声によって全員の傷は癒えている。

ムー「なんだ、揃って元気そうだな。僕が来るまでもなかったか」

マツ「ムー様!!不穏な空気を感じたので、カナメルさんと合流していました。傷が癒えたのはセリアさんの力ですよね?」

ムー「ああ、そんなことより戦闘態勢に入りやがれ、敵が来るぞ」

カナメル「どういうこと?」

ムーはカナメルの赤のオーラを見て、目を丸くした。

ムー「てめぇ、なんだそのオーラは」

カナメル「さぁ?赤のオーラとやららしい。無限の魔力だとか何とか、でも発動は運任せでね、正直頼りにはしてないよ」

ムー「無限の魔力だと?違うね、僕には分かる。てめぇどこから魔力を持ってきてやがる」

カナメル「どこから?魔力が体内から湧き出てる感じがするけど」

ムーには見えていた、カナメルの周囲の空間が歪み、その隙間から魔力が供給されている様を。

ナミチュ「来ますわ!!カナメルさん!!」

ナミチュの声と同時に辺りに大量の魔物が出現した。

ムー「くそ、、流石に多すぎるな。魔力の貯蔵は十分か!?」

ムーの問いかけにマツはハッキリと答えた。

マツ「私はもうスッカラカンです!!」

ナミチュ「、、、、やるしかありませんわ」

ギリギリの様子の二人を見て、ムーはカナメルに託す。

ムー「てめぇが全てを焼き尽くせ」

ムーが戦えない状況なのを察してか、カナメルはニヤリと笑って答えた。

カナメル「皆魔力切れでもさ、俺が無限だから関係ないんだよね」

そうは言うものの数が多すぎる。

それに空からは見覚えのある骨だけのドラゴンが数十匹飛来してきた。

ムー「、、、、くそ、、、流石のてめぇでもこの数は無理だ」

ムーは思考を巡らせる。

カナメル「舐めんなってハナシ」

「うわぁ!!!びっくりした!!」

その声に一同は振り返る。

突然声を上げたのは眠っていたサチヨだった。

カナメル「寝起きで悪いけど、手伝ってくれるんだよね?」

サチヨ「え?、、、あれ、ゼウスは?」

そう言いながらも手にはラッパ銃と太陽属性の鞭が握られていた。

カナメル「さぁね、この百人組手を突破出来たら教えてあげるよ」

サチヨ「よし、再度共闘といこうか!」

その時、一匹の魔物がカナメルへと襲いかかった。

迎撃しようとするカナメルの前に光りが集まり、人の姿へと変化する。

松葉杖を振り、魔物を退治しようとする女性を見て、カナメルの身体が勝手に動いた。
カナメルは速攻で魔物を焼き殺す。

カナメル「リナ?、、、いや、そんなはずはない」

ムーの目の前にもキラキラと光りが集まり、やがてそれは一人の女性の姿に変わった。

その女性は両手を広げて、ムー達を包み込むようにドーム状の魔法を展開した。

半透明なドームの外にいる魔物達は標的を見失ったかのようにキョロキョロと索敵を開始した。

その女性はムーを見てニッコリと笑った。

ムー「ふん、一応マイカ姉さんの魔力を宿しているようだが、所詮幻影の類だろ」

そしてサチヨの目の前にもう一人、一人の男が現れた。

その男を見て、ムーの顔が険しくなった。

ムー「くそ、タイミングが悪過ぎる。今てめぇの相手を出来る奴はいねぇぞ」

その男はかつてムーの大陸で太陽属性が発現し、人々を溶かし尽くした悪魔、サイラスだった。

現状太陽属性に勝るのは月属性魔法のみであ。月魔法を使えるムーは今魔力が安定せず、戦える状態ではない。

身構えるムーだったが、サイラスの行動を見て警戒を解いた。

悪しき想いは魔物となる、じゃあ人形を維持しているサイラスの想いは?

その答えは一目瞭然だった。

サイラスはマイカのカメレオンドームから飛び出して、太陽熱線で魔物を溶かしていく。

サチヨ「お!!あの人、私と似たような魔法を使うね~って、あれ、、、なんか見覚えがあるような、ないような」

サチヨはふむふむと感心している。

サイラスはサチヨを守るように戦っているようにも見える。

よく視るとサチヨの身体にも僅かに太陽属性が宿っている。

かつてサイラスには一人娘がいた、妻を殺され、力を欲することに囚われたサイラスだったが、娘のことを愛していた。
その証拠として、人々を殺戮したサイラスだったが娘だけは生かした。
眠らせてカメレオンドームを張った小さな小舟で海へと放ったのだった。

もし仮に娘がそのままこの大陸に流れ着いていたとしたら?

ムーの頭にあらゆる仮説が浮かぶ。

だとしたらこれは好都合だ。

カナメル「なんかあの人、一人で魔物を一掃出来そうだけど、加勢した方が良い?」

マイカのカメレオンドームの中にいる一同は魔物に狙われていない。

ムー「いや、必要ねぇ。あいつが味方で僕がいれば、こんな雑魚共一瞬で終わる」

雑魚とは言ったものの、この状況で普通に戦っていたら確実に死者が出るほどの脅威である。

しかし、サイラスがいれば状況は変わる。

ムーはマイカのカメレオンドームに月属性を流し込んだ。

ムー「魔法を扱うことは出来ないが、魔力を流すだけなら出来る」

マイカはムーを見てニヤリと笑った。

ムー「サイラス!!遠慮はいらねぇ!!!全てを溶かし尽くしやがれ!!!Show me your moves!!」

ムーの掛け声に合わせて、サイラスの身体が赤く光り出した。

そして数秒後、眩い紅光が辺りを包み、一定範囲の魔物と建物を全て一瞬で溶かした。

月属性が宿ったカメレオンドームはその紅光を反射し、ドームの中の者達は無傷である。

ムー「ふん、てめぇとの共闘はこれきりだ、消えろ」

ムーの言葉を聞いてか聞かずか、サイラスはサチヨの前までやってきた。
そしてサチヨの頭を優しく撫でた。

サチヨ「お、、、、、な、何をするんですか」

そう言ったサチヨだったが、サイラスの顔をまじまじと見て、小さく呟いた。

サチヨ「お父さん?、、、」

サイラスはニッコリ笑った。
そしてゆっくりとカナメルの元へと歩いた。

カナメル「何か用かい?今取り込み中なんだけど」

カナメルはリナと話がしたいと言わんばかりに言い放った。

それでもサイラスはお構いなく、カナメルへと握手を求めた。

カナメル「、、、、まぁ、あんたの強さを認めて握手してやっても良いけど」

そう言ってカナメルはサイラスの手を握った。

実際にはそこに握力は無く、手がじんわりと暖かさに包まれるだけである。

しかし突然、手を伝って強烈な熱さがカナメルを襲った。

カナメル「熱っっつ!!!!」

身体中を謎の熱さが駆け巡る。

サイラスは何も言わずに光となって霧散した。

カナメル「おい、何なんだあいつ」

サチヨ「多分私のお父さん、、かも?私を助けに来てくれたの、、かも?だとしたら、ゼウスから私を守ってくれた君に感謝をしたかったの、、かも?」

カナメル「全部推測でしかないということは、今の行動は俺からしたら嫌がらせでしかないんだけど」

身体が何か変だ、そう思いながらもカナメルはリナへと向き直る。

カナメル「死人が生き返るわけがないけど、また会えて良かったよ」

リナは松葉杖でカナメルを突いたが、カナメルはそれをひょいと避けた。

怒ったフリをしているリナにカナメルは語りかける。

カナメル「今の俺なら、君を死なせずに済んだ。未来なんて予測出来ない、だから俺は常に必要な能力を揃えておくことを誓う。そして、君のような理不尽な死が訪れない世界を実現してみせる」

リナは試すような目でカナメルを見てから、カツカツと松葉杖を使って近付いた。
そしてカナメルの頬に控えめにキスをした。

カナメル「、、、、さようなら」

リナは照れ笑いをしながら光となって消えた。

ムー「もう帰る時間だろ、マイカ姉さん」

マイカ「、、、、、、」

ムーはマイカの元へとユラユラと近づいた。

ムー「姉さんのために記憶を取り戻す術を開発していた、この幻影の姿にかけて効果があるか分からねぇが、、、」

かつてマイカは骨竜にやられ、瀕死状態だったムーを癒すために闇魔法を行使した。
その代償として弟の存在を忘れてしまったのだ。
そのことをムーはずっと罪として背負ってきた。

ムーは紫のオーラを発動した。

しかしマイカがそれを制止するように肩に手を置いた。

「ありがとう」

音として鼓膜に届いてはいない、でもその想いは確かにムーに届いていた。
ありがとうと呟いた口を閉じ、マイカは消えていった。

ムー「こっちの台詞だ、、、、馬鹿野郎」





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