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決戦のグレイス城編
第191話 魔造生物研究所
しおりを挟む十五年前、フォールドーン帝国領ルーサー
この地域には多数の研究所が存在し、一時も休むことなく人体実験が行われていた。
研究対象はヘイスレイブ王国の辺境の地に住む魔力を宿した子供達である。
辺境の村々に住む大人達は子供の目の前で射殺され、子供達は拐われた。
子供達は研究所の強化ガラスで覆われた無機質な部屋に各々閉じ込められている。
オダルジョーやホーリーもその子供達の一人だった。
タマキ「う、、お母さん、、、お父さん、、」
何もないガラス張りの部屋に自分の悲しみだけが反響している。
頭や身体には機械が取り付けられ、装着部分には痛みを感じる。
父と母の無惨な姿が頭から離れない。
タマキ「ここはどこなの?、、誰か、、助けて」
震える肩を自分でおさえながら、タマキはか細い声で助けを求めた。
手首にタグが付けられていて、そのタグにはコードネーム[オダルジョー]と印字されている。
「聞こえるかい?オダルジョー」
部屋に機械を通して女性の声が聞こえた。
タマキ「誰?」
ユメゾウ「私はユメゾウ、今日から君と定期的にコミュニケーションをとりたいと思っているんだ。ちなみに私は君の敵じゃない、話す気があれば頷いてくれるかい?」
タマキは静かに頷いた。
ユメゾウ「ありがとう、じゃあ私も姿を見せるとしようか」
何もなかったガラスの向こう側に髪の長い一人の女性が現れた。
ユメゾウ「よ!私がユメゾウだ。初めまして、オダルジョー」
タマキ「オダルジョー?」
ユメゾウ「そう君の名前だ。今日から君はオダルジョーという名で生きてもらう。大丈夫だ、元の名前はすぐに忘れる」
タマキ「ここはどこなの?あなたは誰?」
ユメゾウ「ここは魔造生物研究所、ヘイスレイブの子供達が研究対象である。そして私は精神学者のユメゾウだ。私の役目は君の精神の安定を維持すること、だから毎日こうしてお話しに来る。他に質問はあるかい?」
タマキ「あなたは悪い人なの?」
ユメゾウ「ん~分からない、仕事でやってるだけだからなぁ。でも私の立場は君にとって唯一の友とも言えるだろう。そういう意味では良い人と言っておこうか」
タマキ「ここから出して!!」
ユメゾウ「ここは電線と機械兵器に囲まれた山岳地帯に位置している。出たら撃たれて死ぬぞ?」
タマキ「、、、そんな、、」
涙ぐむタマキを見て、ユメゾウは何やらノートに記入している。
ユメゾウ「まぁ安心してくれ、私もここで仕事をしてもはや五十年になる。更に言えばここに閉じ込められて十二年になる」
そう言うユメゾウだが、見た目はまだ二十代の女性である。
タマキ「ユメゾウ、、は何歳なの?」
ユメゾウ「何を隠そう私も魔造生物なのだ。私は不死ではないが不老でな、簡単に言えば歳を取らない。帝国では身体の研究は進んでいるが精神の研究は進んでいない。長く精神に携わることが出来るということで私は精神学者として教育されて来た。かつては家に帰れたのだがなぁ、、、」
ユメゾウはため息をついた。
ユメゾウ「十二年前に一人の女魔造生物が逃げ出してしまって、精神的な安定を維持出来なかった罪として私はここに永久に閉じ込められて仕事をすることになってしまったのだ。だから言ってしまえば君と私は立場は同じなのかもしれないなぁ」
タマキ「お家に帰りたくないの?」
ユメゾウ「別に帰りたいとは思わないな、会いたい人も大切な物も何もない、私の唯一の楽しみは君達とお話することだ」
ユメゾウの笑顔を見て少しだけ安心するタマキだった。
ユメゾウ「おっと時間だ、また明日私が来ることを楽しみにこの夜を乗り越えてくれ」
そう言うとガラスの向こう側にユメゾウの姿が見えなくなった。
「第一段階、開始します」
男性の声によるアナウンスの後、全身の器具に電気が流し込まれ強烈な痛みが身体中を駆け巡る。
タマキ「がぁ、、、あ、あ、、ああァァァァ!!!!」
長い夜が始まった。
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