神殺しの怪物と六人の約束

決戦のグレイス城編

第178話 燃ゆる大庭園

ゼウスはパキパキと首を鳴らし、戦闘体制に入った。

ツグル「一度戦った相手だ、俺がメインで戦う」

ツグルの身体中を闇の魔力が巡る。

その背中には黒い翼が生え、皮膚は鱗へと変わっていく。

ツグル「モード、、、黒竜！！あの時の鎧は無いみたいだが、大丈夫か？」

ゼウス「武具など必要ない。戦闘民族の力を手に入れた俺こそが兵器、どんな鋼鉄よりも硬いこの身体にはあの時のような爪痕は残せまい。いや、当てることすら不可能か」

ゼウスは深呼吸をし、一歩踏み出した。

すると、遠くにいたはずのゼウスが一瞬で距離を詰めてきた。

カナメル「なんて速さだ、、！！」

カナメルは咄嗟にツグルを押し出した、しかしそこにツグルはいなかった。

カナメル「エンハツ！！！」

カナメルはエンハツを繰り返し、ゼウスと距離をとった。

ゼウスの渾身のストレートは地面を抉り、空気が揺れていた。

ゼウスの足元に赤い魔法陣が光る。

カナメル「この部屋に入った瞬間から準備していた！！最大火力の炎系魔法陣だ！！くらえ！！！」

巨大な魔法陣がゼウスを包み込み、大爆発を引き起こした。

煙の中でゼウスは片手で蝿でも払うかのように手を払った。
すると強風が煙を吹き飛ばし、無傷のゼウスが姿を現した。

カナメル「少なくとも鋼鉄を砕くほどの威力はあった魔法だが、それが無傷。魔法を使用せずに肉弾戦のみでワンパン、即死級か、、、、」

分かってはいたが敵う相手じゃない、カナメルはそう思った。

撤退せざるを得ない、そう思ったカナメルは姿を消したツグルを探していた。

ゼウス「悪くない威力だ、だがまだ足りん」

ゼウスはその場でカナメルめがけて拳を振り上げた。

距離がある、しかしさっきの光景を見る限り、そのパンチは距離など関係ないのだろう。

逃げ道はない、防ぐほどの防御力を誇る魔法は持ち合わせていない。

ストレートを振るうタイミングで転移魔法を起動するしかない。

しかしそんな神技を成功させることが出来るだろうか？

少しでも遅ければ間に合わなくて死ぬ。
少しでも早ければ狙いを定められて死ぬ。

カナメルは転移魔法の発動準備をした。

間に合うか？間に合わないなら炎術最終魔法・朱雀で相殺するか。

相殺出来るのだろうか、、、奴の破壊的な一撃を！！

迷っている時間はない。

カナメルは大量の魔力を掌に集めた。

ツグル「待て！！カナメル！！この戦いは俺がメインだ」

空から黒竜化したツグルが降ってきた。

ゼウス「俺に力で勝つつもりか？」

ツグル「前回は俺の勝ちに見えたけど？」

ゼウス「あの瞬間は確かに驚いた。だが結果的にお前は負けた」

ツグル「あの時の俺と同じだと思うなよ」

ゼウス「ハッハッハッハッハ！！！！それはこっちの台詞だ！！」

ツグル「黒竜拳！！！！！」

ゼウス「ウラァアアア！！！」

ゼウスとツグルの拳がぶつかった。

ツグルの黒い魔力が溢れ出し、空間を黒く染めた。

強烈な風圧でカナメルの足が浮く。

ブゥブォォオオオオオオ！！！！！！！

黒い風が吹き荒れ、大庭園の花々が舞い上がる。

次第に花々が舞い落ち、ゼウスが姿を現した。

ゼウス「確かにあの時よりも格段に腕を上げたようだが、俺には届かなかった」

ゼウスはツグルの頭を掴んでいた。

ツグルはゼウスの腕を掴み、顔を歪めている。

ツグル「くそ、、、、」

カナメル「選択の余地はない」

カナメルは掌を地面へとつけた。

すると大庭園にある全ての植物が燃え盛り、すぐに空間丸ごと炎の海と化した。

カナメルの後ろには巨大な炎で創られた鳥が揺らめいている。

カナメル「炎術最終魔法・朱雀！！展開」

ゼウス「これは、試し甲斐がある」

ゼウスはツグルを軽々と放り投げた。

ツグルは重力が存在しないかのように天井へとぶち当たった。

ツグルは方向感覚を失い、フラフラと落ちてくる。

ゼウス「来い！！！」

ゼウスはツグルに目もくれず、カナメルへ向けて拳を引き絞る。

カナメルは地面についていない方の手で指を鳴らした。

カナメル「転移魔法派生、スイッチ！！」

するとカナメルがいた場所にツグルは横たわっていた。

ツグル「カナメル！？何をした」

ツグルとカナメルの位置が入れ替わっていた。
カナメルは空中で炎剣カーマインを構えている。

カナメル「全ての炎を吸収！！」

炎剣カーマインが朱雀の壮大な炎を一瞬で剣の中に閉じ込めた。
その刀身には赤い魔文章が光り輝いている。

カナメルは回転をしながらエンハツを繰り返し、軌道をずらしている。
ゼウスは標準を合わせるように引き絞った腕を微調整していた。

その途端カナメルは急加速し、一瞬でゼウスの目の前へと辿り着いた。

ゼウス「ほう、やるな」

カナメル「朱雀でさえお前を焼き尽くすことは出来ないだろう。だが一点突破、、、これならどうだ？炎帝ディアナ！！！」

カナメルの赤いレイピアがゼウスの胸を狙って突き刺す。

ゼウス「良いアイディアだな。炎のマント」

そう一言呟くと、ゼウスの身体に雷が走った。

凄まじい量の魔力に空間がバチバチと音をたてている。

ゼウス「引き際のタイミング、その判断力と実行力、大したもんだ」

カナメルは咄嗟にエンハツで距離をとっていた。

ツグル「もう一度やろう、カナメル」

そう言ったツグルの黒竜化は切れている。

カナメル「いや、この戦いは流石にリスキーだ。勝利の方程式にお前は必須なんだよ、お前がいなきゃ勝率は0になる」

ツグル「そんなこと分かってるよ」

カナメル「ツグル、行け。ゼウスは俺が食い止める」

ツグル「ゼウスは危険過ぎる。いくらカナメルでも」

カナメル「邪魔だと言ってるんだよ！！！」

ツグル「！！！、、、」

ツグルは言葉を失った。

カナメル「今の攻撃が俺の全てだと思ったか？俺にはまだ秘策がある。ツグル、お前は邪魔だ」

ツグル「、、、分かった」

ツグルはたった一つの扉へと駆け出した。

ゼウス「行かせると思うか？」

ゼウスはツグルを追いかけようとした。

カナメル「待て、ゼウス。俺にはまだ秘策がある。全力の俺と勝負をしないか？一対一で」

ゼウス「そのために奴を見逃せと？そういうことか」

カナメル「どうせこの先にも俺達に立ち塞がる者がいるんでしょ？じゃあ一人通すくらい大した問題じゃないんじゃない？」

ゼウスは腕を組んで唸った。

ゼウス「確かにな」

ゼウスはカナメルへと構え直した。

ゼウス「あの黒い小僧の拳は相当なもんだが無の神を倒すのは難しいだろう」

カナメル「難しいってことは可能性はあるんだね」

ゼウス「さぁな」

カナメル「ちなみに突然魔法を使ったのは俺の攻撃が危険だと判断したから？」

カナメルは生意気に笑っている。

ゼウス「ふん、まぁ良い。せいぜい楽しませてくれよ、俺に魔法を使わせてくれ」

カナメル「遠慮なく使って良いよ」

ゼウス「それじゃ一瞬で決着がついちまう。面白くねぇ」

カナメル「じゃあ俺も手加減しとくよ」

ゼウス「死ぬなよ？」

ゼウスは楽しそうに笑った。