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決戦のグレイス城編

第168話 コヘとの再会

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トゥール「あー、、、夢か」

随分と長く眠っていた気がする。

トゥール「なーんだ、夢か、、、夢か」

心地良い風が頬を撫で、目の前を桜の花弁が通り抜ける。

トゥール「あ、桜だ~、、、桜!?」

トゥールは勢いよく起き上がった。

寝転んでいたのは間違いなくトゥールの故郷である風の国だった。

トゥールは頬つねった。

しっかりと痛みを感じる。

トゥール「夢じゃない、、、夢じゃない!!願いが叶ったんだ、サクラ!!コヘ!!!コケシ!!ようやく、、、ようやく皆に会える!!」

トゥールは都の中を駆け回った。

しかしそこには人影はなく、物音もしない。

トゥール「皆、、、助かったんじゃないのか?俺が助けたんじゃ、、、、」

「皆死んだよ、ちなみにここは夢か現実かで言ったら夢みたいなもんだな」

後ろからかけられた声にトゥールは驚いて振り返った。

トゥール「、、、ああ、、、ああ!!!」

そこにいたのは相棒であるコヘだった。

トゥール「コヘ!!!!!やっぱりお前は生きていたんだな!!心のどこかで思ってたんだ、コヘが負けるわけがないって」

駆け寄るトゥールにコヘは弓を向けた。

トゥール「え?、、、どうしたんだ?」

コヘ「俺は負けたよ、無の神に。そして皆死んだよ、一人残らずね」

トゥール「でもコヘはこうして俺の目の前にいるじゃないか!!」

コヘ「だから言っただろ?ここは夢みたいなもんだって」

トゥール「どういうことだよ」

コヘ「俺達、過去の人間のことを想い過ぎて忘れてるようだけど。感じないかい?神経を研ぎ澄ませてみなよ」

トゥールは言われた通りにこの空間に向けて神経を集中した。

僅かだがムーの魔力を感じる。

トゥール「ムー?やっぱりムーは生きていた!この空間はムーが作り出したのか?」

コヘ「そうらしいね、トゥールの新たな仲間なんだろ?」

トゥール「ああ、そうだ。大切な仲間だ」

コヘ「そうか、ならここで俺を殺す必要があるな」

トゥール「何を言ってるんだ?」

コヘ「俺達過去の人間を殺すことで、現実世界の化け物を弱体化させることが出来るらしい」

トゥール「リキッドの中にいたあの化け物か。だとしても俺はコヘを殺すことなんて出来ない。夢でも何でも良い!一緒に現実世界に行こう!」

シュン!!

コヘの風の矢がトゥールの顔の横を通り抜けた。

コヘ「それは出来ない。残念ながら俺を含め、ここに現れる者達はトゥールを殺すように身体が動くようになっているみたいだ」

トゥール「そんな、、、、、」

コヘ「だから現実世界の仲間のために、過去を断ち切れ。俺を殺せ。そうしなきゃ今ここで俺はトゥールを殺してしまう」

トゥール「良いよ、それで」

トゥールはその場に跪いた。

トゥール「北風としての責務を全う出来なかった俺に、コヘや皆に刃を向ける資格はない。俺は皆を生き返らせるために生きていたんだ、それが出来ないなら死んだも同然。俺も皆の元に連れて行ってくれよ」

コヘ「そうなるよなぁ~トゥールだもん。現実世界のお仲間の努力も無駄になってしまうよ」

トゥール「それは悪いと思う。でも俺がいなくたって大丈夫さ、皆俺なんかより強いからきっと無の神を倒して世界を救ってくれるはず。俺はここで一休みするよ」

コヘ「戦う理由がないってかい?」

トゥールは静かに頷き、目を閉じた。

「トゥール様」

聞き覚えのある後ろからの声にトゥールはハッとして振り返る。

そこには許嫁であるコケシがいた。

トゥール「コケシ、、、、すまん、すまなかった。俺は、、、北風としてではなく、一人のくだらない男として都を救おうとしてしまった。そして結局誰も救えなかったんだ」

コケシは深いため息をついた。

コケシ「慰める気はありませんよ。刀を構えてください」

トゥール「コケシになら殺されても良いさ。仕方ない」

トゥール刀を地面に置いた。

トゥール「あの世でも、俺の妻になってくれるかい?」

コケシ「、、、、、」

コケシの目から一粒の涙が流れた。

そして次の瞬間。

風の矢がコケシの胸を貫いた。

トゥール「!!!!」

コケシは白目を剥きながらその場に倒れ、霧となって消えた。

矢を放ったのはコヘだった。

トゥールは咄嗟に刀に手をかけた。

コヘ「お、やる気になったかい?」

トゥール「何のつもりだよ」

コヘ「どちみち全員を殺さなきゃダメなんだから、手伝ってあげようと思っただけだよ」

トゥール「やめろ。俺は誰も殺さない!!殺さなきゃダメなら今ここで死んでやる」

トゥールは刀を抜き、自らの脇腹へと向けた。

「トゥール!!何してるの!」

何者かがトゥールの手に触れた。

そこにはサクラがいた。

トゥール「サクラ、、、、」

サクラ「何してるの!ダメだよ、そんなことしたら」

トゥール「ああ、、、ごめんよ。。。サクラ、間に合わなくてごめん。助けるって約束したのに」

サクラは微笑んだ。

サクラ「そんなことはいいよ。それよりも、トゥールにはやることがあるんじゃないの?世界を救ってる最中なんでしょ?」

トゥール「風の国すら救えなかった俺に、何が救えるってんだよ」

サクラ「私の知ってるトゥールはそんな弱音は吐かないよ。全部俺に任せろ、約束するって言ってくれる。その言葉にどれだけの人が救われたと思ってるの?」

トゥール「俺は誰も救えやしないよ。今までも、これからも」

サクラは首を振った。

サクラ「そんなことないよ、トゥールは私の憧れ、、」

シュパン!!!

風の矢がサクラの四肢を貫き、サクラの身体は風船のように弾けた。

サクラの大量の血を浴び、気付けばトゥールは刀を抜いてコヘの背後にいた。
血はすぐに蒸発し、何事もなかったかのように消えた。

コヘ「ようやく戦う理由が出来たね」

コヘは眠たげに言い放った。

トゥール「これ以上俺の大切な人達を傷つけるな。いくらコヘでも許せないぞ」

コヘ「許されなくたって良いよ。さぁ、始めようか」

コヘは風迅速でトゥールと距離をとり、弓を構えた。

トゥール「やるしかないようだな」

冷たい風と暖かい風がぶつかり合い、風が大きなうねりを上げて空へと消えていく。

果たしてその風は向かい風となるか、追い風となるか。

巫女様はこれも視えていたのだろうか。
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