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マイケルの自空間編

第157話 南風のコヘ

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北とは違って南には自然が広がっている。

深い竹林の上を風迅速で超える、開けた場所へと出たトゥールは愕然とした。

遠くに見える小さな村と、それをひと踏みで潰してしまえるほどの巨大な蟲の妖魔がいたからだ。

トゥール「あれが大型、、、、、あんなにも大きいのか」

その村へと辿り着いた時、一人の風の刃らしき者が弓を構えていた。

矢はなく、風を手に集めて放とうとしているようだ。

周囲の風がとてつもない勢いで彼の手の中へと引き込まれていく。

こんなに多量の風を扱えるということは、彼が南風のコヘなのだろう。

トゥール「待て!!お前がそれを放てば、村人達はどうなる!?」

トゥールは彼の風を集める手首を掴んだ。

コヘ「君は誰で、何故そんなことを気にする?」

目鼻立ちのクッキリとした端正な顔をこちらへと向けた。

トゥール「俺は風の刃の一人。お前は南風のコヘだろう?相手は大型だ、ここを戦場にしてはいけない!人が死んでしまう」

コヘ「戦場?」

トゥール「そうだ、あの巨大な妖魔と戦うのだから村は荒れてしまうだろう」

コヘ「戦場にはならないよ、何もなくなるだけ」

トゥール「どういうことだ?」

コヘ「一撃で仕留めるから」

トゥール「あの巨体を一撃で!?」

コヘ「うん、まぁそこで見とき」

トゥールは改めてその手を掴んだ。

トゥール「待て待て待て!!だとしたらもっとダメだ、場所を変えてくれ!!」

コヘ「何しよる」

トゥール「罪のない村人達が死んでしまう!!」

コヘ「はぁ、、、面倒くさいな」

コヘは大きくため息をついて、矢を引き絞った。

トゥール「どうして風の刃は皆そうなんだ!!どうして人の命を軽視する!!」

コヘ「強射、、爆風、、、雲海」

コヘは風で構築した矢を放った。

矢は巨大な蟲の腹の下へと飛び、爆発した。

風が竜巻のようになり、上昇気流を作り出す。

蟲は腹の下から押し上げられるのを拒み、羽を広げて空へと飛び出した。

トゥール「仕留め損ねたのか。俺がやる!」

トゥールが風迅速で空へと向かおうとしたその時。

コヘ「強射、、、旋風、、、魔王」

時が止まったかのように全ての風が一瞬にしてコヘの手中へと消えていった。

そこから放たれた一撃は真っ直ぐに空中の蟲へと伸びていく。

そして蟲の胴体を貫くのと同時に、蟲は爆散した。

その矢の直線状の雲は大きく穴が開き、ドーナツ状に変形している。

コヘ「これで良いんでしょ」

トゥール「お、、、おおお!!!、、、お前、良い奴だな!!!」

トゥールは感動した様子でコヘの肩を叩いた。

コヘ「面倒なことが嫌いなだけさ。妖魔はいなくなったし、俺は帰るよ」

コヘはあくびをしながら帰ろうとしている。

その時、村から悲鳴が聞こえた。

よく見ると、爆散した蟲は人と同じサイズになり、村を襲っていた。

トゥール「あの妖魔、まだ生きている。コヘ!!二人で村を救うぞ!」

コヘは気乗りしない様子である。

コヘ「次は魔王で村ごと消すよ。流石に面倒だ」

トゥール「いやダメだ!!だったらもう帰ってくれ、俺が一人で何とかする」

トゥールは高速で動き、蟲を一匹ずつ撃退していく。

コヘ「お~随分速い風迅速だ」

コヘはトゥールのスピードに感心していた。

トゥールは全力を出し、一人でも多くの村人を救おうと奮闘している。
小さくなった蟲を倒すのは難しいことではなかった。

だが数が多すぎる。

斬っても斬っても周りには蟲がいる。

トゥールはタケルの技を思い出していた。

あの技を使えば、一掃できるかもしれない。

しかし、家屋ごとぶった斬ってしまうだろう。

トゥール「居合、、、、旋風、、、」

トゥールは意を決して刀を握った。
風が鞘の中へと吸い込まれていく。

トゥール「獺祭!!!」

刀を抜くと蟲たちが真っ二つになり、緑色の液体が飛び散った。

生憎、道は真っ直ぐに続いていて家屋はない。

タケルは周り全てのモノを斬った。

でもこの技はコントロール出来る。

範囲を絞れば敵のみを斬ることが出来る。

そう確信した。

しかしまだ蟲達は蠢いている。

家屋がある方へ獺祭は使えない。

一匹ずつ倒すしかない、そう思った時。

コヘが歩いてやってきた。

トゥール「帰ってなかったのか?」

コヘ「村外へと逃げた蟲を片付けてきた。あとはここにいる妖魔を倒せば俺の仕事は終わる」

トゥール「そうか、ありがとう。じゃあもう少しだけ待っていてくれ」

コヘ「曲射、、、暴風、、、霧島」

コヘは空へと矢を放った。

すると矢は風の杭となり落ちてきた。
家屋を傷付けることなく、正確な位置に正確な数の矢が降り注ぎ、蟲達を一掃した。
蟲達は霧となって消えた。

トゥール「、、、すげぇ、、、、、コヘ、あんた凄いよ。天才かよ!!!」

コヘ「こうでもしないと、きっと君は俺を怒る。面倒事が嫌いなんだよ」

一瞬にして静けさを取り戻し、村人達が外へと出てきた。

「ありがとうございます、、、ありがとうございます!!」

無傷とはいかないものの、死者はいなかった。

村人達は地に額をつけて礼をしている。
所謂土下座というものである。

トゥール「いやいや、風の刃として当然のことをしたまでです。皆さん顔を上げてください」

村人達はそれでも顔を上げることはなかった。

グ~~~~

その時、コヘのお腹が鳴った。

コヘ「さて、ご飯の時間だ。帰ろう」

「もしよろしければ、、、、」

村人の一人が声をかけた。

「採れたての山菜があるんです。お礼に食べていってください」

コヘ「俺は遠慮し」

トゥール「いいんですか!?頂きます!!!」

トゥールは半ば強制的にコヘを村人の家へと連れ込んだ。

お礼にと村人達は各々の家から食料を持ち出し、最終的に大人数での食卓となった。

トゥール「せっかくなら皆で食べましょう!!流石に二人じゃ食べきれないもんで」

結局大勢で宴会のようにな形になった。
昼間から酒を飲み、採れたての山菜や米を食し、満腹になったトゥールとコヘは村を出た。

「ありがとうございました!!また楽しいお話を聞かせてください!!何もないところですが、また来てください!!」

村人達は笑顔でトゥールとコヘを見送った。

トゥール「ご馳走様でした!!また来ます!!」

トゥールも笑顔で手を振った。

コヘ「はぁ~」

コヘは食べ過ぎて苦しそうである。

トゥール「いやぁ、食ったなぁ」

腹をさすりながら歩くトゥールに、コヘが立ち止まって話し始めた。

コヘ「俺は風の刃の名家に生まれ、生まれた頃から花の城で過ごしている。城の外の飯なんて食べたことがなかった」

トゥール「そうなのか」

コヘ「色とりどりに飾られた豪勢な食事が当たり前だった。あんな質素な料理は民衆の食う物で、俺の口には合わないと思っていた」

トゥール「んで、今日実際に食ってみてどうだった?」

コヘはニッコリと笑って答えた。

コヘ「あんな美味いもん、食ったことないや」

トゥール「はっはっは!!だろ?俺も城の飯よりも街で食べるものの方が好きなんだ」

コヘ「違いない、それに村人達との会話。あんな温かみが城の外にあるなんて思いもしなかったよ」

トゥール「そうだろ?妖魔を倒すのも大切だけど、俺はあの笑顔を守らなきゃいけないと思うんだ」

コヘ「風の刃にそんなことを考える奴がいるなんてね。君名前なんだっけ?」

トゥール「トゥールだよ、覚えてくれよ」

コヘ「トゥールだな、覚えた」

トゥール「お前はコヘだな。言いにくいが、コヘは風の刃では酷評だぞ?」

コヘ「だろうね。でも巫女様からも大型の討伐のみで良いって言われてるし、ミドリが南を取り仕切ってくれてるし、文句を言われる筋合いはないと思うんだけどなぁ」

トゥール「話を聞く限り、クソ野郎だなと思っていたけど、実際会ってみて思ったよ。南風のコヘは変わってるけど、良い奴だって」

トゥールは心からそう思った。

コヘ「俺を良い奴呼ばわりするのは、トゥールくらいなもんだ。ふあぁ~俺は眠い。帰って寝るとするよ」

トゥール「よし、じゃあ都まで競争しようぜ」

コヘ「俺が見る限り、トゥールの風迅速は風の刃の中で最も速い。俺に勝ち目はないだろうからやめておくよ」

二人は笑いながら花の都へと帰った。





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